テラーノベル
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ジェニはずっと爪先まで震えが走っていたが・・・なんとか冷静を保って自分のオフィスに戻った
三浦はそこにはいなかった、ジェニはすぐに社員と藤子に今あった事を説明し、三浦を探させた、頭の中はものすごい勢いで空まわりしていた
竜馬の力強い後ろ姿と・・・三浦を相手にしてた時の静かだが威厳のある声が脳裏から離れられない・・・存在感だけで相手を引き下がらせる・・・竜馬はそういうタイプの男だった
あの時の彼は、自信と人間力の強さが滲み出ていた、ジェニには無い所だ、何年も心の隅に鍵をかけて閉まっていた願望があふれだす
―苦しい時にずっと傍にいて守ってくれる人がいたなら・・・―
ジェニは自分に言い聞かせた、彼は仕事の話をしているのよ、個人的な話をしているのではないのよ、しかし手首を掴む竜馬の手は、仕事以上の何かを感じさせた
ジェニ自身・・・個人的な話であってほしいと思っているのかもしれない・・・心の中に生まれた熱っぽい感情を封印し、なんとか仕事に取り組もうと午後はそれに集中した
それから数日間・・・三浦は職場に姿を見せなかった
.:・.。. .。.:・
ある午後・・・汗だくになってジェニが外回りから帰り、乾いた喉を潤そうと、スタバに駆け込み、アイスカフェラテを注文した、カップには「ジェニちゃんお疲れ様」とマジックで書かれていた
カウンターの店員にカップを掲げてウィンクすると、すかさず緑のエプロンの男の子の店員が手を振った、三浦や人員削減される人の事を考えると心が沈む
仕事を失えば・・・彼らはどうなるのだろう、どんな家族を抱えているのだろうと一人一人の将来が頭に浮かんで、竜馬にいくら言われても・・・どうすることが出来なくても、何を考えても自分に責任があるように思えてしまう・・・その時、藤子がジェニを見つけて駆け寄って来た
「ああ!ジェニ!帰って来てくれてよかったわ!今三浦君がオフィスに来てるの!あなたに会いたがっているわ」
「本当?」
藤子は眉を潜めてジェニに言った
「彼、退職するって言ってるわ」
「そんな!」
ジェニはアイスカフェラテを藤子に渡して、オフィスに向かうエレベーターにあわてて駆け乗った
.:・.。. .。.:・
「三浦君!」
ジェ二がオフィスに入って行くと、三浦以外は誰もおらず、彼は自分のデスクの私物を段ボールに入れている最中だった
「よぉ!ジェニ!」
三浦はジェニを見るなりニッコリ微笑んだ、今の彼は酒は飲んでいなく、スッキリした表情で、いつもの高圧的な態度も和らいでいた
「いったい今までどうしていたの?心配したのよ!」
「まぁ、そう焦るなよ」
三浦は次々と自分の郵便物をシュレッターにかけている
「藤子からあなたは自主退職をするつもりだと聞いたわ!ねぇ・・・もう一度考えなおさない?一緒に頑張れば―」
三浦はかぶりを振った
「ジェニもういいんだ・・・お前も分かっているだろう?俺には営業は向いていないよ、クライアントの機嫌も取れない、他社との競争も苦手だ・・・でも子供が生まれるから仕方なしにこの仕事にしがみ付こうとしていたんだ・・・」
三浦はそっと自分のデスクを撫で・・・懐かしそうに目を細めて、オフィスを見渡した
「正直・・・辛かった・・・」
「三浦君・・・」
「実はさ、あの時、あの社長に言われてから、すぐにメビウスの資格講座プログラムを受けに行ったんだ、そしたらさ!小さい頃から夢だった、一級建築士の通信講座があったんだ」
「建築士?三浦君・・・小さな頃、建築士になりたかったの?初めて聞いたわ」
ジェニは目を丸くして言った三浦が笑った
「そりゃぁ、誰にも言ってなかったからな、そうだよ、今でもよく家の模型を作っているんだ、俺に合っているんだよ、建物が好きなんだ、でも建築の大学なんか出てないし、自分には無理だと決めつけていた、とにかく生活していけるぐらい稼げたら仕事は何でもいいと思っていたんだ」
ジェニはポカンと口をあけて三浦を見つめた
「でも・・・一級建築士なんて・・・」
「ああ・・・もの凄く大変だ!しかも働きながら講座を受けるんだからな、でも、それでなんか勢いついちゃってさ、なんとなく職業安定所を覗いてみたんだ、そしたらさ!良い建築事務所の求人募集があったんだ!そこは未経験でもよくてさ、思わず飛びついたよ、それであれよあれよという間に・・・面接まで行っちまって、メビウスで一級建築士の資格講座をこれから受けるって話したらさっ、なんと、採用されちまったんだ!」
「すごいわっっ!」
ハハッ「だろ?」
二人は手を組んでピョンピョン飛んで回って喜んだ、ジェニは純粋に三浦の再就職を喜んだ、でもすぐにその嬉しい気持ちはしぼんだ
「でも・・・今自主退職したら、退職金が・・・」
ジェニがうつ向いて言った
「そんな目先の金より、ピンチをチャンスに変えたいんだ!」
三浦がキラキラした瞳でジェニを見る、こんな生き生きとした、彼を見るのは初めてだ
「ジェニ・・・俺・・・やってみるよ! 小さい頃の夢を叶えるチャンスなんだ、嫁さんも応援するって言ってくれている、今は見習いのまったくのド素人だけど・・・」
彼は心から嬉しそうだ、期待に胸を躍らせている
「俺・・・・ メビウスの一級建築士の通信講座を習得して、必ず良い建築士になる!」
「三浦君・・・・ 」
そっと三浦がジェニの頭を撫でた
「世話になったな・・・・ジェニ、それとごめんな・・・色々と君には感謝している 」
ジェニの目にみるみる涙が溢れた
うわぁ~ん「三浦くぅ~~ん~~~~」
ブハハハッ「泣くなよぉ~~ 」
ジェニは嬉しい気持ちと、昔から一緒に働いて来た仲間がいなくなるので、なんだか寂しい気持ちとごっちゃになった、でも彼の心はもう決まっているのだ、それならば彼の新しい門出を、全力で応援してあげたい
グス・・・「送別会は・・・・派手にやるわね」
「みんな忙しいのに、そんなのいいよぉ~」
三浦はジェニを見つめて笑った
「さぁ!もう行かなくちゃな!やらなきゃいけない事が沢山あるんだ、明日少しの営業の引継ぎにまた来るよ、このデスクは誰かに使ってもらってくれ」
「わかった・・・ 」
三浦が段ボールの私物を抱えて、ドアに向かった、ジェニはうなずいて真っ赤な鼻を啜った、泣いたのと彼の事で安堵したので疲れがドッと出た、ジェニが三浦を入り口まで見送る時、クルリと向きを変えてジェニを見た
「それと・・・・ 松下竜馬! アイツ・・・良いヤツだぞ! 頑張れよ!ジェニ! 」
ジェニは意味が分からないと言う風に、 三浦を見つめた
「どうして、ここに松下社長の話が 出てくるのよ!」
不機嫌になるジェニを見て、三浦は気づいてないのか? と言う風にジェニをマジマジと見た
「ふ~ん・・・・ まぁ・・・お前がそれでいいなら 俺が口を出す事じゃないけどな・・・・ 」
目が面白そうに輝いている、三浦は笑って話は終わったと前を向いて 、入り口に向かった、そして最後に手をヒラヒラさせて言った
「俺は「ハイヒール」より「首切り社長」推しだ!」
驚いたジェニは、三浦が出て行った入り口をじっと見つめていたが、しばらくして唇を尖らせた
「なによ・・・みんなして勝手なこと言っちゃってさ・・・」
そしてポツリと呟いた
「いいヤツなんて・・・そんなの知ってるわよ・・・」
コメント
1件
わあ、三浦君の新しい門出、すごく良かったですね…!最初はただのトラブルメーカーかと思ってたのに、小さな頃から建築士に憧れてたなんて。彼が「ピンチをチャンスに変えたい」って言ったときのキラキラした表情、ジェニと一緒に飛び跳ねて喜ぶシーン、もう胸が熱くなりました。最後の「首切り社長推し」には思わずニヤリ。ジェニの「そんなの知ってるわよ」もツボです。このエピソード、三浦の成長物語としても、ジェニの恋の進展としても、本当に味わい深かったです!
#溺愛
桜咲かな
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