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五木友人
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「……エリマキ……トカゲ……?」
壊れたキーボードを買い換え、自室のデスクの前で僕は頭を抱えていた。
前回の「埼玉県民のパリピクマ(熊田ベアー)」を初配信で号泣させて以降、なぜか僕(天使ミラ)のポジションは「生意気な後輩を地声イケボで分からせる教育係」みたいなカオスな扱いになりつつあった。
そして今回、マネージャーの坂田さんから送り込まれてきた二人目の後輩。
事前資料のモニター画面に映し出されていたのは——
頭に小さなエリマキトカゲを乗せ、だぼだぼのパーカーのフードを深々とかぶった、ジト目の少女アバター。
**【トカゲ(17歳・設定上は天界の監視者)】**
・ルミナスプロ期待の新人第2弾。
・自称「クーデレ博多弁ライバー」。
・超絶ローテンションで、誰に対しても舐め腐ったタメ口と煽りスタイル。
・語尾は「〜と?」「〜やし」「知らんけど」。
「……天界の監視者……?」
どこかで聞いたような頭の痛くなる設定だ。
案の定、スマホが狂ったように震え出す。
『三日月茜:トカゲは天使ミラの「天界でのライバル」という裏設定を勝手に追加しました。彼女の冷酷な博多弁煽りに対し、未来は「包み込むような慈愛の博多弁(?)か聖母の笑み」で対応してください。失敗したら天界追放です』
『金城空斗:今度の後輩、お前の天敵みたいなクーデレ煽り系だぞ。完全に舐められてる未来の顔、楽しみにしてるわw』
相変わらずの無茶振りと煽り。
だが、僕だって成長している。前回の埼玉クマの反省を生かし、今回は何があっても感情的にならず、絶対にフットスイッチを踏み外さないと固く心に誓っていたのだ。
【コラボ配信開始】
[リスナーA]きたあ! クーデレトカゲと事故天使!
[リスナーB]トカゲちゃん初コラボだ!
[リスナーC]絶対ミラちゃん舐められてて草
「み、みなさんこんミラ〜……♪ 今日は後輩のトカゲちゃんと一緒に、まったりお話ししていくのです……♪(必死の裏声)」
画面内の天使ミラちゃんが、可憐に瞬きをする。よし、滑り出しは順調だ。
すると、スピーカーから「スーーー……ハァーーー……」と、ストローでジュースを吸うだるそうな音が響いた。
『……あー。初めましてー……トカゲやし。……てか、ミラ先輩?』
氷のカラランという音とともに、低めでだるそうな、しかし透明感のある少女の声が響く。
「は、はいっ!? 何でしょうかトカゲちゃん……っ!?」
『裏声、キツいと……。聞いてるこっちが肩こる感じ。普通に喋ればいいのに……知らんけど』
**ズドン。**
開始3秒で、クーデレ特有の「真顔の直線パンチ」が飛んできた。
[リスナーA]初手から切れ味ヤバすぎて草wwww
[リスナーB]トカゲちゃん通常運転www
[リスナーC]ミラちゃんの裏声全否定されたwww
「う、ううんっ……! ミラは本当の天使だから、これが地声なのです……♪(冷や汗ダラダラ)」
『ふーん……まあ、そういう設定ならいいけど……。あ、そういえばミラ先輩、前回の配信で後輩のベアーちゃんのこと本気で脅して泣かせたって聞いたと。……陰キャのくせに、後輩には強気とか、ちょっとダサいと思うとよね……』
「〜〜〜〜〜〜っっっ!??!?」
だ、ダサい……!?
クーデレ特有の無表情な博多弁で、ズバズバと僕のトラウマとメンタルを抉ってくる!!
[リスナーA]陰キャ煽り刺さりすぎてて草wwww
[リスナーB]ミラちゃんのHPがゴリゴリ削られていくww
[リスナーC]トカゲちゃん煽り性能高すぎんだろwww
「そ、それは違くて……! 埼玉の……ううん、悪魔の仕業で……っ!」
『言い訳も苦しいし……。あ、うち今日、ミラ先輩とゲーム対戦するって聞いとるけど? 【テトリス対決】。負けた方が相手の言うこと一個聞く罰ゲーム付きで』
「えっ!? ゲーム!? テトリス……!?」
テトリス。
引きこもり時代、自室の暗闇で幾夜もやり込み、世界ランキングの上位に食い込んだことすらある、僕の数少ない**「ガチ得意ジャンル」**だ。
(勝てる……! これなら、ボイチェンを維持したまま、ゲームの圧倒的実力で後輩をギャフンと言わせられる……!)
「いいですよトカゲちゃん……! ミラは天使ですから、ゲームでも手加減はしないのです……♪」
『へー……まあ、口だけじゃないといいけど。……じゃ、スタートやし』
【テトリス対戦開始】
「えいっ……♪ ここに置いて……連鎖なのです……♪」
画面の中では、僕の天使アバターが可愛くテトリスブロックを積み上げていく。
最初の1分は、平和だった。僕が順調にラインを消し、リードを広げていく。
だが、トカゲは全く動じる様子もなく、ストローでジュースを吸いながら淡々と煽りを重ねてきた。
『へー、意外と上手いとね……。でも、ブロック置くときのアバターの動き、カチカチしててキモいと……』
「キっ……!? キモっ……!?」
『てか、そんなに画面に集中して、コメント一切読めてないやん。配信者としてどうなんそれ……? 視聴者置き去りにして楽しいと? 知らんけど』
「うっ……! そ、それは……っ!」
正論!! コミュ障の弱点を突いた鋭い正論!!
『あ、また積み方ミスった。……ねぇミラ先輩、もしかしてメンタル弱すぎて、煽られると指震えると? ……かわいそう。引きこもり特有の豆腐メンタルやね……』
ジワジワと、だが確実に、僕のメンタルが削られていく。
パニックになり、指が滑ってブロックを積み間違えた。
「あ、あわわっ!? 違うところに置いちゃったのですぅうう!!」
『あは、ミスったー。……ねぇ、どんな気持ち? 煽られてパニックになって負けそうになる気分、どんな気持ちなん? ……ねぇ?』
画面の向こうのトカゲのアバターが、ジト目で薄く笑った気がした。
その瞬間。
僕の脳内で、何かが**「プチッ」**と音を立てて切れ飛んだ。
(……僕が……引きこもりだからって……豆腐メンタルだからって……!!)
怒りとパニックと積み重なるストレスで脳みそが限界突破した僕は、マウスを握りしめたまま——**フットスイッチを踏み抜いた。**
ガチャンッ!!
「……おい」
『……え?』
[リスナーA]出たあああああああああああ!!
[リスナーB]スイッチ入ったwwwwwww
[リスナーC]低音殺意モード突入!!
ボイチェンが切れ、静まり返った部屋に、地獄の底から響くような僕の超絶低音ハスキーボイスがドスを効かせた。
**「……さっきから聞いてりゃ……『キモい』だの『豆腐メンタル』だの……調子乗ってんじゃねぇぞクソトカゲが……(極上の殺意を込めた低音ハスキー)」**
『っ……!?!?』
スピーカーの向こうで、トカゲのジュースを吸う音がピタリと止まった。
**「博多弁なら何言っても許されると思ってんのかお前……。『〜と?』『〜やし』で可愛くコーティングしてりゃ煽っても怒られないとでも思ったか……あ?」**
『あ……いや、あの……これは配信のプロレスで……っ』
今まで生意気だったトカゲの声が、一瞬でガタガタと震え始めた。
**「プロレスぇ……? 10年早ぇんだよ……。おい、画面見ろ。お前が舐め腐った口叩いてる間に、こっちは『T-Spin Double』から『DT砲』組み終わってんだよ……」**
『え……!? あ、ちょっと待っ——』
**「消し飛べ(極上のイケボ吐息)」**
カタカタカタカタッ! バンッ!!
一瞬で連鎖の砲撃がトカゲの画面へ叩きつけられ、トカゲのブロックが一瞬で天井まで跳ね上がった。
**【K.O.】**
『〜〜〜〜〜〜ッッッ!?!?(ガチで言葉を失うトカゲ)』
[リスナーA]ギャアアアアアアアアアアッッッ!!!
[リスナーB]DT砲をイケボで放つ天使wwwwwwww
[リスナーC]トカゲちゃんがガチで引いてて草wwwww
[リスナーD]「消し飛べ」いただきましたーーーー!!
[スパチャ¥100,000](アーク):神の鉄槌……!! 生意気な蜥蜴(トカゲ)を圧倒的武力で粛清される天使様、美しすぎます!!
ゲーム終了後。
静まり返る通話の中、マイク越しに「う……ぅ……」という小さな鼻すすり音が聞こえてきた。
『うう……っ……ミラ先輩……ガチで怒ると思わんかったやん……っ……ごめんなさい……っ(泣き出すクーデレトカゲ)』
「えっ!?」
ボイチェンを戻すのも忘れ、僕は素の低音で素でテンパった。
**「あ、いや……ごめん! 泣かないで!? 僕もつい熱くなっちゃって……! ほら、罰ゲームとか無しでいいから! ね!?」**
『う、嘘やし……っ(涙声)』
「え……?」
『……「消し飛べ」のイケボ……めちゃくちゃかっこよかったやし……また怒ってほしい……(照れ混じりのボソボソ声)』
「えぇええええええええッッ!??!?」
[リスナーA]クーデレ落ちたああああああああ!!
[リスナーB]まさかのM開眼wwwwwwww
[リスナーC]【朗報】天使ミラちゃん、また後輩を分からせて手下にする
配信終了後。
僕はデスクに突っ伏し、今日何度目かわからない溜息をついていた。
スマホを開くと、案の定通知の嵐。
『トカゲ:ミラ先輩、今日はすみませんでした……。あと、今度個人的にゲーム教えてください……(トカゲが照れてるスタンプ)』
『三日月茜:天使がDT砲で後輩を泣かせるなど前代未聞です。反省文3000字提出してください』
『坂田:未来さん! 「低音DT砲でクーデレを落とすイケボ天使」として切り抜きがTikTokで200万再生突破です! 次回はトカゲちゃんとの「甘々師弟コラボ」で決定ですね!』
「なんで僕の周りには……まともな後輩が一人もいないのぉおおおおお(泣)」
こうして、僕の「清楚な先輩天使」への儚い夢は、またしてもカオスな大バズりの渦の中に消えていったのだった。
コメント
1件
いやもう笑った笑った😂 トカゲちゃんの博多弁煽りがめちゃくちゃ刺さってて、開始3秒で裏声全否定される展開に吹きました。でもそこからの「消し飛べ」DT砲…あの低音イケボで決めるカタルシスがたまらないですね。最後にトカゲちゃんがM開眼して「また怒ってほしい」って照れるのも可愛くて、また一人後輩を分からせてしまった未来くんの明日が心配です(笑)次回の甘々師弟コラボも楽しみにしてます!