テラーノベル
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「あーあ、昨日のつかさは酷かったなぁ」
屋上で1人、そう言う。
今は本当ならば3限目が始まる時間。
しかし教室から抜け出してきた普には知る由もない。
「…そろそろ授業始まってるかなぁ、」
そういえば、今日は先生に会っていないな、と思ったが、もしかしたらどこかで会ったのだろうか。
いつも同じような事を言われるし、別に俺の記憶力はそこまでいい方じゃない。
大好きな双子の弟、つかさの事なら大体の事は手に取るように分かるのに。
そう思いながら空を眺める。
「今日は星がきれーに見えそうだなー」
「あ、でもつかさと遊んだら星見るヒマなんてないや」
そう、俺はつかさとの”遊び”が始まってから大好きな天体観測をあまり出来ていない。
もちろんつかさの事は大好きだし、天体観測よりも何よりも大切だけれど、それとこれとはまた別の話だ。
今日はちょっと学校に残ろうかな、などと考えていると屋上の扉が開いた。
つかさがするような乱暴な開け方ではない、ゆっくりとした普通の開け方だ。
誰だろう、と思っているとクラスの委員長の女子が出てきた。
「あ、柚木くん!こんな所で何してるの?もう3限目終わっちゃったよ、? 」
目の前にいる彼女はそう告げた。
普段気弱であまり喋らないような子だから、少し驚いた。
まあ、自分が言えるようなことでも無いのだが。
「…伊藤さん、なんでここに?」
俺にはよく分からなかったのだ。
別に場所なんて教えていないし、いつもは彼女は屋上になど居ない。
「へっ、?いや、柚木くん、いつも授業中どこか行っちゃうから…何処にいるのか探しに来たの、」
「探しに?なんで?俺せんせーに呼び出しとかされてた?」
ますます疑問が募る。
すると彼女は、
「えっと、確かに土籠先生にも言われたけど…」
少し顔を赤くした彼女は言葉を詰まらせる。
「けど」?どういう事だ?
まさか俺の事をわざわざ知りたくて来た…なんてことは無いよな。
普段関わりなど無いし、ゼロに等しいと言ってもいいほどだ。
いや、1度だけあっただろうか。
そういえば、彼女の仕事を手伝ったことがある。
けどそれっきりなはずだ。
「ゆ、柚木くんのこと、もっと知りたくて…」
驚いた。
まさか俺の考えていた事が当たっていたなんて。
でも、本当に心当たりがない。
「…?どういうこと、?」
「あ、えっと…その」
「柚木くんが、す、好きだから…」
そう言って彼女は更に顔を赤らめた。
「…っ、へ?」
つい間抜けた声が出てしまった。
だって、今までの人生で告白された回数などほぼゼロに等しいようなものだったから。
「な、なんで俺の事スキなの?」
「あの、この前委員長の仕事手伝ってくれたでしょ、?」
「それで、私が転びそうになったの助けてくれたよね、」
そう言われて思い出した。
確かそんなことがあったような気がする。
しかし、それだけでそう簡単に人を好きになるものなのか?
「優しいって思ったのもあるんだけど…支えてもらった時、その、細いのに意外と男の子の身体だな、って」
「イガイ…まあそーだね」
意外という言葉に少しムッとなったが別に間違ってはいないので肯定しておく。
「あ、っ…それで、!」
“あまね?”
「っ、?!つ、つかさ…?」
「ねー、何してんの?俺抜きで二人であそんでたの?」
「ち、違…」
「あ、弟くん、だよね?すごい似てる…!」
嫌な予感がすると思ったら、つかさが手を振りあげていた。
「つかさ!!」
俺は咄嗟に彼女を庇った。
かなり重い衝撃が頬に響く。
ああ、やっぱり。
「つかさ、だめ。俺以外にはしないって、約束したよね」
「…ふーん、あまねもあの子のことスキなの?」
「っな、違う!別に好きなんかじゃ…」
またもや嫌な予感がした。
双子だということに関係があるのかは知らないが、こういう時の俺のつかさに対しての”悪い予感”は結構当たる。
そう思った瞬間、俺の身体は勢いよく地面に叩き付けられた。
彼女はつかさに対しての恐怖で逃げ出してしまったらしい。
もうこの場には俺とつかさしかいない。
まあ、居なくなったならそちらの方が好都合だ。
…これから始まる事は、人に見せられるようなモノじゃない。
「っ…はぁ、っ゛、う」
あれから何分経ったのか。
俺の身体には新しい傷が次々と出来ていく。
「あまね、わるい子にはオシオキしないとね?」
そう言って、つかさはどこからか取り出したカッターを俺の腕に突きつけた。
「ひ、っ、やめ、つかさ、!」
別にいくらでも殴っていい。
蹴ったって、首を絞めたって、刃物で切ったってなんだっていい。
でも、俺の身体が、口がそうさせなかった。
まあ、つかさの興奮を煽る材料になるだけなのだが。
「あは、怖い?」
「っ…ちが」
「違う」と言おうとした瞬間、俺の手首にはカッターが突き刺さっていた。
「っあ゛ぅ、!」
つかさはつけた傷を刺したままのカッターで広げ始めた。
「いッ゛、ぁ…っ」
やばい、意識が朦朧としてきた。
先程から殴られ続けているせいだろうか。
多分、腕の傷からの出血による貧血もあったのだろう。
目を閉じかけていると、つかさが俺の前髪を掴んでそれを阻止した。
「あまね、ダメだよ?まだオシオキ終わってないでしょ?」
「っ、、ぁ゛、」
俺の声は段々とか細くなっていき、腕や殴られた場所、掴まれた前髪の痛みも忘れ意識を失おうとしていた。
「もうムリかぁ…ま、帰ったらまたオシオキだね!」
「…ぅ…」
「んー、運ぶのも大変だし、置いてっていいかな?」
「ひとりで帰れるよね!」
意識のない普につかさはそう告げ、自身の教室に戻って行った。
「…ん…?」
目が覚めると、俺は屋上の端で倒れていた。
記憶が朦朧としていてよく分からない。
だが、腕の痛みで直ぐに記憶を取り戻した。
「はぁ…今何時だろ」
屋上には時計がなく、今が何時かも分からない。
しかし、つかさからの”オシオキ”を受けていた時より空が赤く感じる。
今はおそらく6限目くらいだろう。
「いッ゛…うで、血止まんないな…」
俺は持っていたハンカチで腕の傷を押さえるが、段々とハンカチに血が染みてきた。
このままでは教室にも帰れない、そう思っていると、
「…柚木?」
そう声がした。
すぐさま振り返ると屋上の扉付近に担任の土籠先生が立っていた。
「っせ、せんせ?」
突然のことに驚きながらも俺は咄嗟に腕の傷を隠す。
しかし、先生はその動きを見逃さなかった。
「お前、どうしたんだ?右腕を庇ってるが…」
「っ、なんでもないよ、俺もう行かなきゃ!」
バレる前に急いで帰りたかったが、ロクにご飯も食べていない俺はすぐ先生に捕まった。
「待て!なにか隠してるだろ、見せろ」
「か、隠してないってば! 」
まずい、と思った頃にはもう遅かった。
先生が俺の右腕を掴んで細い目を見開いている。
「な、お前…」
「…も、いーでしょ、離して」
先生がここに居るということはもう帰りのHRは終わったのだろう。
早く帰らないとつかさの機嫌がさらに悪くなる。
本当に早く帰りたいのに、
「駄目だ、来い。手当するぞ」
「いいってば!せんせーシツコイ、!」
俺の胸が高鳴っていくのが分かる。
まあ、当たり前だがいい意味ではもちろん無い。
帰りたい理由は機嫌が悪くなるというだけではない。
単に弟を寂しがらせたくないのだ。
俺の大好きな弟。
いくら先生が引き留めたって譲れない。
いっその事強行突破でもしてみようか。
「いつもそんな痛くしてないだろ…そんなに嫌なのか?」
もう俺は先生の言葉などほとんど聞いていなかった。
どう逃げるかに必死だった。
別にご飯を食べていなくたって、身体能力には自信がある。
体力もないし、体育も上手く出来ないけれど。
逃げる能力なら幼い頃から磨き上げてきた。
もちろんつかさから逃げるわけではない。
“両親”からだ。
コメント
2件
両親関係し始めたかー!
凄い面白かったです! あなたは神ですか?