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その日、地球上では何処からともなく不思議な音が聞こえていた。その音は低音のような体の芯から震わせる深みがあり、また高音のような突き抜ける鋭さも持っていた。その音を聞いた人間は口を揃えてこう話した。まるでラッパのような音だったと。
T市複合災害から約一カ月が経過し、その間に世界は様変わりしていた。日本のT市複合災害が発生した後に世界各地で発生し始めた異常気象。発生初期は誰もが、他の国は大変なんだなと、すぐに終わるだろうと思っていた。それはいつものテレビの中の出来事だと。だが彼らの予想と反して、被害は少しずつ身近にそして規模も大きくなっていった。
あるところでは観測史上最大の暴風雨が連続して発生、それにより起きた大規模な水害で農作物は腐り暴風で建物は倒壊が相次いだ。あるところでは温暖な土地にもかかわらず突如夜間に気温が-60℃を下回る。その結果翌日その土地に配達に向かった男性によって村人全員が寝ながら死んでいるのを発見。死因は全て凍死だった。これらは世界各地で発生する異常気象のほんの一例でしかない。それらは止まることなく世界各地で発生を続け、破滅的な被害を起こしている。その結果これまでの文明レベルを維持できない国々が多発。国家の崩壊は世界経済に多大な影響を与える。世界ではドミノ倒しに国家が消滅していき、被害に遭っていない国でも失業者や浮浪者が増加、犯罪件数も上昇の一途を辿っていた。
世界の国々をまとめていた世界政府も、異常気象についての研究などを行うが明確な対策は見いだせなかった。その本拠地であるアメリカでも異常気象の被害で国民は飢え、苦しみ、怯えていた。その恐怖はさらなる恐怖を呼び寄せ共鳴させる。その結果国内で暴動や略奪などの犯罪行為が横行、一部の富裕層はシェルターや国外避難を行うがもはや地球上に逃げる場所など存在しなかった。世界各地で発生する超巨大地震はどれだけ地盤が堅固であろうと、どれだけそこで地震が発生する確率がなかろうと関係なしに大地を震わす。そして地下に存在する全てのモノを圧壊させ、地上に現わせる。それを見た人々はそのシェルターに救いを求めて集まるが最後は略奪と殺し合いである。富裕層は武力でそれらを制圧しようとするが恐怖に囚われた人の前にそれは無力だった。
日本も同じく破滅的な暴風雨や超巨大地震などの異常気象が多発しており、経済は完全に麻痺し国家の崩壊は寸前だった。しかしそのような状況でも略奪や暴動の件数は他国と比べて少なかった。なぜなら彼らには信じるモノがあったからだ。それは「救世主」である。あの日、日本国内でのみ流れたあのニュースに人々の関心はあまり向くことは無かった。しかし、この破滅的な状況に自らが立ち会った時、彼らの中に恐怖の心が生まれた。そしてそれは崩壊していく社会の中で人伝いに伝播し大きな混乱を生む。その中で一人が話す。救世主様が何とかしてくれると。救世主ハルト様が世界を救うんだとニュースで話していたと。そのためには福永幸太を捕まえないといけないんだと。彼を殺せば世界は救われるんだと。その情報は崩壊した社会の中にもかかわらず瞬く間に全土に伝わる。
国民はその同じ志の元に互いを励まして、日々の苦難を乗り越えた。
福永幸太を殺そう。そうすればハルト様が私たちを救ってくれると。
そしてある夜の日、人々は不思議な音を聞く。低音のようであり高音のような何処からともなく聞こえてくる不思議な音。彼らはその音が何処からするのかを暗闇の中見渡した。しかしどこにも見当たらない。すると遠くで光る何かが落ちて爆発するような様子が見えた。その周囲に向かい何が落ちたのかを見る。それは小さな石だった。
この小さな石がこの大きな被害をもたらしたのだ。人々はこの石が落ちてきた夜空を見上げる。しかしそこにあるはずの物がない。
そこには真っ暗な夜空に浮かんだ微かに光る砕けた石ころと、夜空を照らす放射状に散らばる幾千もの光の軌跡が見えた。
それはとてもきれいな光景だった。
光の軌跡は次々に地球に飛来して、大地に向かったものはその土地を鮮やかに照らし人々を燃え上がらせた。
海洋に向かったものは1つの生物のような大きなうねりを作り人々を包み込んだ。それは母の抱擁のようだった。
夜空に現れた光の軌跡に子供たちは皆そろって手を合わせて願い事をしている。みんなが笑顔になれますようにと。
その願いに応えたのか、一際大きな光が彼らの近くにやって来た。
大きな衝撃音と共に激しく炎が上がる。よく見るとそれは人工物のようだった。人々は他とは違うその落下物に引き寄せられるように近づいていく。
そしてその人工物の扉が開いた。どうやら中に人が大勢乗っていたようで、次々に人工物から飛び出してきた。
彼らの様子を見ているとどうやら同じ日本語を話しているみたいだ。
その様子を見ていた1人が叫ぶ。
「あいつ、福永幸太だ」
世界の滅亡まで残り1日。
これにて第27話、おしまい。