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[角名編]
文化祭の廊下は人でごった返していて、角名倫太郎はいつものようにスマホを片手に、のそのそと歩いていた。
目当てはもちろん——🌸が参加しているメイド喫茶。
「……あー、混んでる。だる。」
ぼそっと呟きながらも、足取りはしっかり店へ向かっているあたり、彼はもう完全にやる気だった。
のれんの前まで来ると、
「おかえりなさいませ、ご主人さま〜♡」
元気な声が何度も響いてくる。
その中に、ひときわ聞き慣れた声が混ざった瞬間——
角名の指がぴたりと止まった。
メイド服の🌸が、満面の笑みでお客を迎えている。
一瞬で、角名の表情筋が反抗をやめた。
「……は?」
ぽそっと呟きながらも、目元は完全に溶けている。
スマホ起動。
カメラ。
無言で連写。
周りの客にぶつかりながらも、彼はぶれずにシャッターを切る。
その顔は普段の無気力さゼロ、恋する男100%。
じーっと彼女のことを見ていると🌸が角名に気づいた。
「りんちゃん!? 来てたの?」
「……当たり前でしょ。てかお前、それは反則。」
🌸が「ご主人さま」なんて呼ぶから、角名の眉がぴくりと跳ねた。
「……他のやつにもそれ言ってんの?」
「そりゃ、メイド喫茶だからね?」
「へぇ……」
一歩。
また一歩。
角名が無表情のまま距離を詰めてくる。
「じゃ、俺にもちゃんと言ってよ。特別っぽいやつ。」
低い声で、さらっと言ってくる。
「え、い、今?」
「今。逃げんな。」
頬を赤くした🌸が、仕方なく小さく手を添え——
「……お、おかえりなさいませ、りんちゃん……♡」
その瞬間。
角名の口元が、ゆっくり持ち上がった。
完全に“獲物見つけた”顔。
「……は? かわいすぎ。
帰らんけど、ずっとここいよっかな。」
席に案内されると、角名は椅子に埋まりながらもスマホを構えて離さない。
「動くな。
今の顔……保存しとく。」
ぱしゃ。
「こっち向け。」
ぱしゃ。
「笑って。」
ぱしゃ。
若干引きつつも笑う🌸に、角名は満足そうに細い目を向けた。
「……俺の彼女、こんな可愛いの普通にやば。
あとでちゃんと埋め合わせして?」
「な、なにを……」
「なにって……教えよっか?」
目線だけで煽るように近づいてくる。
周りに客がいるのに、角名は平然としたまま小声で囁く。
「終わったらすぐ脱いで。
その格好、俺だけのもんでしょ。」
顔を真っ赤にした🌸を見て、
角名はまたスマホを向ける。
「はい、今のも。最高。」
そして、ひらひらと手を振りながら呟いた。
「……こりゃ今日、帰せねぇな。」
コメント
1件
な、なんだと角名、お前イケメソすぎるだろ