そこら辺にいるごく普通の学生。
勉学、部活、バイトに励みながら生活している。
友達との他愛ない会話
先輩とのじゃれあい
家族との平和な日々
そう…ごくごく普通のね。
だから俺は自分が見える人間だとは思わなかった。
だって、その条件が……
―――――――――――――――――――――
いつものように風呂をあがり、歯磨きをしながら鏡に向かった。
ふと、自分の背後に黒い影があるのに気づいた。
ぼやけているため、鏡の汚れなのか分からない。
擦ってみるが、落ちないようだ。
……
それなら自分の後ろに、いる…のか?、
バッ…と振り向くと自分の背丈よりだいぶ高い人が俺の後ろに立っていた。
……
いや、人じゃない。
地に足がついてない。
足があるはずのところにはフヨフヨと、モヤがかかっている。
影は俺に何を言うでもなくただ見つめてくる。
少し恐怖と焦りが出てきた。
表情が読み取れないため、はっきり見ようと眼鏡に手を伸ばした。
すると、影が急に動き出した。
ビックリして手を引っこめると、首辺りをフルフルと振っているような仕草が感じ取れた。
だが、どうやら俺には触れないようだ。
何を伝えたいのか分からなかったが、結局眼鏡をかけた。
おかしい…さっきまでそこに居たのにもう姿がない。
眼鏡をかけるだけのただ一瞬に過ぎなかったのに、既に影は消えていた。
……疲れていただけか、
そういえば最近は休めてないな。
冷や汗をかいている。
ただの幻覚だったと自分に言い聞かせて、その日はそれで終わった。
―――――――――――――――――――――
それから数日、特にあの影と会うことも無くやはりただの幻覚だったのだと思っていた。
影を見た日と同じように鏡の前で歯を磨いていた。
……
あれ、影がいる?
後ろを向くと、この前の影が変わらぬ姿でたっていた。
…話しかけたら反応するだろうか。
ふと、そんな疑問を抱いて声をかけてみた。
「…俺になんの用だよ」
すると影はびっくりしたのか少し後ずさった。
加えて人でいう、口あたりがパクパクと動いている。
俺の声は聞こえるのか。
「…この前何を伝えようとしてたんだ?、」
影の口はパクパクしているだけで何を言いたいのかわからない。
いや、声は出ているけど俺には聞こえないのか…?
とりあえず、まだ姿を見ていなかったので眼鏡をかけようとする。
途端、影が俺に向かって手をあげた。
ビックリして手を引っこめる。
前と同じ状況だ…。
眼鏡をかけようと手を伸ばすと影は動き出す。
……
まさかだけど、眼鏡かけたら影が見えなくなるとかないよな…?
そんな訳ないと思いながらも早速試してみることにした。
……
緊張しながら眼鏡をかける。
案の定、影の姿はない。
問題はここからだ…。
眼鏡を外す。
…と、影がいる。
これはもう確定か。
……
たしかに、よく考えれば眼鏡を外している洗面所にいるときだけ姿があった。
他には寝室も外すけどすぐ寝るから気づかなかっただけか。
にしても、いつ頃から影は居るのだろう。
怖いながらも声をかけ続ける。
「…声出せるか?、」
と、またさっきと同じようにパクパクと口あたりが動くだけ。
「…俺、お前の声聞こえない……」
すると驚いたみたいに反応してから考えるポーズをとってきた。
…薄々勘づいてたけど、コイツ良い霊なのでは?
そういえば俺に敵意を出してこないし、なんなら会話したそうにも見える。
「あ、」
ふと閃いた。
―――――――――――――――――――――
紙を用意してその紙に五十音を書いた。
コインを置いて影に言う。
「…敵意がないなら俺の質問に、コイン動かして応えて」
影は
「わかった」
と、言うように頷いている。
え、ほんとに敵意ないんだ。
と少し驚きながらも質問にうつる。
「お前、いつからここに居る?」
カタカタとコインが動き始めた。
触ってないのに動かせるんだと感心しながら、コインの動きを辿る。
――わかんない――
と、読めた。
続けて、
――め さめる ここいた きおくない――
ふむ…時系列的な情報は皆無と……
それなら俺が見えるようになった原因も掴めないな。
と、言うか…
「今幽霊になってるってことは、人間のお前は死んでるってことになるのか…?、」
影は、ハッと気づいたようにしおれ頷いた。
さすがに言葉が悪かったとすぐ謝る。
「あ、いや悪い…まだ生霊の可能性もあるよな、」
反省し、言葉に気をつけながらも次の質問へ。
「…名前、覚えてる?」
さっきと同じようにコインが動く。
――ふるうく――
と、謎の言葉を作った。
「これ名前…?」
首を傾げ、コクコクと頷くが納得がいかないようだ。
あれ、もしかして…
「打点とか伸ばし棒とかついたりするか?」
そう影に聞くと
「そう!」
と、でも言いたげに激しく頷いた。
そういう事かと、紙を追加して打点やらを書いた。
「…はい、じゃあもう1回頼む」
またコインを辿って今度こそ名前が見えた。
――ぶるーく――
「ぶるーく…が、名前?」
嬉しそうにコクコクと頷く影……
じゃなくて、ぶるーくね。
「…悪くない名前だな」
何故か上から目線でものを言ってしまった。
だが、そう言ったにも関わらず照れたように頭をかいている仕草をする。
次の質問に移ろうとしたところ、ぶるーくがコインを動かした。
何を伝えたいんだろうと思い、また辿っていくと、
――きみ なまえ なに――
あー、たしかに言ってないな…
そう思ったが、まだ警戒心はある。
「悪いけどまだお前のこと信用した訳じゃないから、そういうのは言わない…」
あからさまにしょんぼりし、口を開いた。
すると、
…ク、オ……ジャ…!
と、ぶるーくから何かが聞こえた。
「え、今の…お前の声?、」
驚いてそう言うと、ぶるーくも聞こえるとは思ってなかったらしく共にびっくりした。
「…なんで急に聞こえるようになった?」
するとぶるーくがまたコインを動かし始める。
――ゆうれい かかわる れいかん つよくなる こと ある――
片言ながら、説明してくれた。
「そんな事あるのか…」
信じられないと思いながらも、実際に自分は聞こえるようになっている。
「あながち間違いじゃないな」
そこで1つの疑問が浮かんだ。
「つまりさ、お前と一緒にいればいずれ話せるようになるって事だよな…?」
見慣れたコクコクで頷くぶるーく。
「でも、問題は…」
はぁ…、とため息を吐きながらぶるーくを見る。
コテと首を傾げた。
なんだよ。かわいいかよ。
……
は、今可愛いって思った??
有り得ない。
幽霊に対してそう思うとか。どうしたんだよ、俺…
……
「いや、やっぱなんでもない。今日はこれで終わりな」
そう言うとぶるーくは手を振ってその場から姿を消した。
さすが幽霊って感じだな。
そんな事を思いながらベッドについた。
―――――――――――――――――――――
そう、問題があるのだ。
……
未だにぶるーくの姿を見れていない。
眼鏡をかけないせいで、はっきりと見えないのである。
しかも、初めてぶるーくに会った日より確実にモヤが薄くなってきている。
今ならはっきりと見ることができるかもしれないのに。
自分の目の悪さに嫌気が差してくる。
だが、今では…
br「ねね、今日どっか出かけたりする〜?」
と、ぶるーくの声だけは眼鏡をかけなくてもはっきり聞こえるようになった。
kr「いや、特に予定ないけど…」
br「やった!今日ずっと一緒だね!」
そして、何故だか知らないがぶるーくにだいぶ懐かれている。
ぶるーくを視認できる条件を知って以来、俺から離れない。
俺の周りをニッコニコで浮いているのだ。
本当に懐かれる理由がわからない。
kr「なぁ…」
そうぶるーくに言うと、
「ん?」コテ
と、お得意の首傾げをする。
kr「なんで…俺に話しかけるんだ?、」
br「仲良くなりたいからかなぁ」
一瞬の躊躇いもせずにそう答えた。
きっと本心から思っているんだと今の言葉を聞いてわかる。
kr「…どうして仲良くなりたいんだよ、」
br「えぇ〜?仲良くなりたい理由なんかなくない?直感なんだよねぇw」
そう明るい声色で言うぶるーく。
kr「…!」
知ってみたくなった。
こいつの事を。
どんな風に笑うのかな。
大口を開けて?手を添えて?目を細めて?
どんな目をしてるのかな。
まる目?たれ目?つり目?
本来の身長はどのくらい?
俺より高い?低い?同じくらい?
好きな物はあるのかな。
趣味はどんなかな。
得意なことはあるかな。
どこから来たのかな。
仲良い友達はいたのかな。
――好きな人はいたのかな。
……!、
まって、今の…なしね……、
…とにかく俺はこいつに興味が沸いた。
これからどんな生活になっていくのだろう。
急に気分が高揚して、ワクワクが止まらなくなった。
br「ねぇ、これから楽しみだね!」
あぁこれからどんな暮らしになっていくのかな。
ある程度充実していた俺の生活は、1人の影……幽霊によって変わっていくだろう。
kr「うん、楽しみだな…」
一言そう言うと満面の笑みで俺を見る。
少しは信用してみるもんか…
と、少し微笑む。
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