1.実力は如何程に
目的地に到着し、ガラガラと扉を開けた。
3階建ての吹き抜けの廃墟。その吹き抜けの周りには建物の形に沿って廊下がついていて、所々に部屋があるようだ。人混みのある東京とは思えないほど、暗く人気のない、まさに悪魔が出るにはうってつけの場所だった。
「ほら、行きな」
院瀬見がリヅと、それにくっつくイサナをシッシと払い除けた。
「え、院瀬見先輩行かのーてええんすか?」
「この任務はイサナの実力を見るためのものだ。私が行く必要ねぇだろ」
「…」
リヅは納得し、そのままイサナの手を引っ張って中へと入っていった─。
2.リヅとイサナ
コツ…コツ…と足音が大きく響く。いくつか部屋らしきものを回ったが、悪魔はいない。
「なぁ海?なんで喋らんくなったん…?」
リヅが手を引いたまま聞く。返事はない。ふと、リヅは思っていたことを言う。
「…海…お前なんか幼くなった?」
最初にイサナと会ったときから少し感じていた。姿こそ変わっていないが、前よりなんとなく行動が子供っぽい。リヅより少し低い身長は前と変わらないし、性格もがらりとは変わってない。だが、リヅにぴったりくっついて歩いたり、腕をピーンと伸ばしたままぱたぱたと振ったり、たまに蛙の如く飛び跳ねたり…
「海はどこ行った…」
リヅはまた、大きなため息をついた。
─しばらく探したが、この廃墟には悪魔どころかアリ一匹もいなかった。
「海どないする?悪魔倒さへんとお前の実力見られへんねやけど…」
イサナが周りをキョロキョロと見渡す。やはり何もいない。
「一旦戻るか…」
リヅが1階に降りようとしたその時。
「ハナちゃん、先に降りてて」
「は?」
突然、イサナが大人びた口調で喋った。
「…来るよ」
矢先、とてつもない衝撃波が2人を飲み込んだ。
3.見慣れた顔
「ぐ…ッ…」
リヅは風圧に負けて階段を転がり落ち、イサナは手すりに背中を強打した。
「海!大丈夫か!?」
リヅが2階へ上ってイサナを助けようとした、時。
「ッ…!?」
体が硬直した。今すぐにでも海の元へ向かいたいのに、全身石のように固くなって動けない。
「クッソ…なんやこれ…!」
リヅがもがいたその時だった。
「残念だがお前が干渉していいのはそこまでだ」
「!?」
聞きなれた声がして顔だけで振り向く。
そこには入口で逆光に照らされる院瀬見が腕を組んで立っていた。
「…何のつもりや」
リヅは院瀬見を思いっきり睨みつけた。
「マキマからの命令だ。今回の任務は全てイサナ1人にやらせる。お前が動いて加勢したら意味ねぇから筋肉を硬直させた」
恐らく、病の悪魔の力だ。気づかない間に技を仕掛けられたのだろう。
「ふざけんなや…海が死んだら責任取れんのか?」
「ハッ、記憶がないのによく友達面してられんな。とにかくこれは命令なんだ。事が済むまでそこでじっとしてな」
院瀬見はまた、外へ出ていった。
4.悪魔×悪魔
その頃、イサナは2階の廊下で悪魔を探していた。下からはリヅがじっとこちらを見つめている。
…音が聞こえた。ガタ…ガタ…という音。誰かの暗い声。
イサナが部屋を突き止め、扉の前で構えた。
「海!」
「!」
イサナが名前を呼ばれて下を見る。
「…死ぬなよ」
リヅにそう言われ、イサナはこくりと頷いて扉を見た。
そして、扉を足で蹴り飛ばしてこじ開けた。
そこには、頭がひしゃげ、手から包丁が生えた悪魔がいた。
「君…」
イサナが話しかけようとした瞬間、悪魔が片手を振った。
イサナが風圧で向かいの廊下に吹っ飛んだ。
「海!!」
リヅが下から叫ぶ。
「まだ自己紹介してないのに…」
イサナはワイシャツのホコリを払った。
「海!なんの悪魔や!?」
リヅが再び叫んだ。悪魔の姿が目に映る。
「…!!」
リヅと、外から覗いていた院瀬見は目を見張った。
「恨みの悪魔…」
そう、そこにいたのは前に院瀬見とリヅが倒した恨みの悪魔だった。
「めんどくせぇ奴が…戻ってきやがった…」
5.恨み再び
悪魔が包丁を振りかざして向かってきた。イサナが片手をスっと上げる。
「ウツボ」
バキィ!!という音と共に、悪魔の両手がちぎれ飛んだ。
「あのウツボまだいたのか!」
院瀬見が呟く。リヅは黙ってイサナを見る。
「ごめんね、これがあなたの武器なんだろうけど」
2匹のウツボはその悪魔の手をバリバリと喰った。
「いつまでもやられっぱなしな訳にもいかないから」
イサナが再び片手を上げた。
すると、悪魔の体が瞬く間に暗い闇に包まれ、姿が見えなくなった。
「サメ」
再び肉が裂ける音がする。イサナの表情は何一つとして変わっていない。
「知ってる?サメってね、実は深海にもたくさんいるんだよ」
イサナが呟く。闇が晴れると、既に悪魔の体は大きく欠けていた。
悪魔が再び立ち上がった。すると─
「Фестиваль обид」
悪魔の片手が、包丁とともにまた生えた。
「あーもう…変に再生するのやめてくれないかな」
イサナがため息をついた。
片手が再び生えた悪魔は、イサナにまっすぐ突進してきた。イサナの右肩が裂ける。
「海!!」
リヅが叫ぶ。院瀬見はじっと見つめる。
「わぁ…スゴい」
イサナが肩を押えて振り返る。
「じゃあ…いいこと教えてあげるね」
そう言った途端、悪魔の包丁が割れた。
「いつまでも私が弱いままでいると思ったら大間違いだよ」
イサナが悪魔を睨む。
次に振り返った時、悪魔は既に体中穴だらけで死んでいた。
6.決着
「…ただいま」
「海…大丈夫か…!?」
院瀬見の技から逃れたリヅが駆け寄ってきた。
「ちょっと肩怪我しちゃった。華ちゃんは?」
「大丈夫や。後でアイツシメたる」
リヅは院瀬見を睨みつけた。
「そうや海…さっきから聞きたかったんやけど、お前なんで姿もなんも変わってへんの?」
「ん…?んー…」
イサナがリヅを見て少し考える。院瀬見も話を聞いて寄ってきた。
「私が転生したとき…この死体が傍に捨ててあったから可愛いなって思って」
「「…は?」」
院瀬見とリヅは目が点になった。
「それはどういう…」
「そのままの意味だよ。可愛いと思ったから今の姿で憑依したの」
院瀬見とリヅが顔を見合わせた。
「そんな偶然あるかよ…」
「自分の顔を可愛いって…」
「?」
イサナが首を傾げ、そして2人を置いて廃墟を出ていった─。
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