1.任務は練馬にて
「リヅー!イサナー!何してんだ行くぞ!」
今日もまた、特異4課隊員である院瀬見、リヅ、イサナは任務へと向かう。
「今日はどこに?」
「また練馬だとよ。ったく何回行かせんだ…」
横から顔を出したリヅに対して院瀬見が嫌そうに呟いた。
「また…って…前にもあったの…?」
そのまた横からイサナが消え入りそうな程の小さな声で聞いた。
「ここんとこ最近そーなんだよ。なんでいつも私たちばっかりなんだっての。電ノコだのコベニだの他にもいるじゃねぇか」
院瀬見がチッと舌打ちをした。3人がエレベーターに乗り込む。
「今挙げた方、全員他の任務行っとりますね」
「うるっせぇな…例えばの話だよ」
お互い顔を合わせずに会話をする。院瀬見が大きくため息をついた。
「今度有給取ってどっか行きてぇな…」
2.集団行動
「さむ…」
今日は曇りで一段と寒い。行き交う人々は皆長袖だ。
くしゅん、とイサナが小さくクシャミをした。
「寒そうだなお前。そりゃワイシャツにタオル一枚じゃ寒いだろうな」
院瀬見が周りの建物を見ながら呟いた。タオルというか薄いポンチョなのだが…
その後、少し強い向かい風が吹いた。
「風向きが変わったな。ますます寒くなるぜ。どうしてもの時はリヅのマフラー借りな」
「分かった…」
「え?」
当の本人は一切話に参加していなかったのに、勝手に色々決められたリヅは目が点になった。
すると。
「あれ…」
リヅがふいに足を止める。
「あ?どうした?」
「ここ…さっきも通りましたよね?」
院瀬見とイサナが顔を見合わせる。車通りのない道路。いくつも道が入り組んでいてどこを通ったかもよく分からない。
「気のせいじゃねーの?」
院瀬見がうんざりしたように言う。だがリヅの表情は変わらない。
「永遠の悪魔…ですかね」
「それはねーな。ソイツは姫野たちが倒したって聞いたから」
「せやけど、また戻ってきたってことも…」
「いくらなんでも早すぎんだろ。気のせいだ気のせい!」
院瀬見がその場を離れようとしたその時。
フッと、院瀬見が消えた。
3.永遠
「え、院瀬見先輩…?」
リヅとイサナが周りを見渡す。誰もいない。
「海!院瀬見先輩は!?」
「…わかんない…気づいたら…いなかった…」
悪魔2人が訳が分からず混乱していた時。
「やっと見つけたわ…!!」
変に音が反響する、気持ち悪い声が響いた。
「私の…!」
「!? ハナちゃん!!」
イサナの声と、何かの衝撃に気づいて間一髪で避けた。
「私の恨みを殺したのはアンタたちねぇ!?」
その声の主─悪魔が姿を現した。
「お前誰や。キッショイ奴やな」
リヅが悪魔を見上げて吐き捨てるように言った。
「私の…私の…!」
悪魔はブツブツと呟いて嘆き、自分の顔に爪を立てた。
その時、イサナが片手を振り上げ、ウツボを出した。出されたウツボは一直線に悪魔へと向かった。
「きゃっ!!」
悪魔がいかにも人間らしい悲鳴をあげてウツボを避けた。行き場のなくなったウツボはイサナの元へと戻っていく。
「海!早とちりするな!落ち着け!」
傍らのリヅが呼びかける。イサナは聞いていない。
「ねぇ、戦うならまずは自己紹介するのが礼儀でしょ?あなたのつまらない独り言なんて聞いてられないの」
どうして深海の悪魔はこんなにも自己紹介にこだわるのだろうか。それは親友であるリヅにも分からない。
(そしてなんで海はいつも喋らんクセに戦うとなると喋り出すんや…)
リヅは悪魔とイサナを交互に見ながら思った。
4.喪失
「あ”ぁぁ…!憎い!憎い!!許さない…!!」
「なんのことか全く分からないんだけど。あなたと恨みになんの関係があるの?」
イサナが淡々と告げた。掻きむしった顔をさらけ出して悪魔が言う。
「恨みは…この私、喪失の悪魔の彼氏なのよ…!」
「彼氏だァ?」
リヅが聞き返した。悪魔は再び泣き叫ぶ。
「私の大事な彼氏を奪っておいて…当の本人がのうのうと生きてるなんて許せないのよォ!!死んでよォ!!」
イサナがこれみよがしに大きなため息を吐いた。
「そっか。じゃあその彼氏に会えるように今すぐ地獄に送り込んであげるね」
イサナが片手を振り上げた。
5.恨みと喪失
イサナの背後からサメが飛び出した。悪魔がギリギリと歯ぎしりをする。
「クソっ!クソっ!!なんで私ばっかり痛い目に合うのよォ…!!!」
悪魔が大きな両手で顔を覆ったあと、片手でサメを弾き飛ばした。
「うるさい」
イサナが一言、低い声で言う。長い前髪からは左右色が違う鋭い目が覗いている。
「だって…!だって…!!あなたたちが私をいじめるからァ!!」
悪魔が再度片手を振った。攻撃の流れ弾がサメに当たった途端、瞬く間にサメがその場から消え去った。
「なっ…!!」
リヅが目を見張る。イサナは何も言わない。
「私の攻撃に触れた者はみんなみーんな消しちゃうんだから!!」
悪魔が喚いた。イサナが顔を上げる。
「…私のサメさん殺したの?」
「あなたが殺そうとするからでしょォ!?やめてよ…やめてよォ…!私はなんにも悪くないのに…!!」
煩い。とても癪に障る。リヅは悪魔の喋り方に苛立ちを覚えていた。ふと、イサナの方を見る。
表情にさえ表れないが、リヅには分かる。イサナは怒っている。たった今目の前で、自分の大切な”家族”であるサメを殺されたからだ。
「うわぁぁぁん!!どいつもこいつも!!いじわる!!いじわる!!」
「誰だ!!うるせぇぞ!静かにしろ!!」
悪魔が幼子のように地団駄を踏んだとき、近くを通ったであろう男が叫んだ。
「来んとってください!!」
リヅが振り返って必死に呼びかける。
だが、遅かった。
「あなたも私をいじめるのね…!!」
悪魔が男を睨みつけ、空中で大きな握りこぶしをつくった。
悪魔が拳に力を入れた途端、その先にいた男は全身の骨が折れ曲がり、瞬く間に消えた。
「クソッ…!!」
リヅがギリ、と歯を噛み締めた。
「何も失ったことのない奴が…!私の悲しみを冒涜するんじゃないわよ…!!」
「その言葉、そっくりそのままテメェに返してやるよ」
何処からか、聞きなれた声がした。
続
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