コメント
0件
そんなある日のことだった。
王都から少し離れた位置にある栄えた都市。
その街の外れにある特に大きな屋敷。
ガ―レットの屋敷にて。
日も落ち、夕食も食べ終えたある日のこと。
食事の後片付けをメイドにさせながら、ガ―レットは女たちに話しかける。
「よし、全員揃ったな」
ガ―レットはそう言ってから話を始めた。
メリーラン、バッシュ、ミドリ。
キョウナ、ルイサ。
五人が揃っているが…
「今日は重大な発表がある」
ガ―レットの言葉に、キョウナとルイサは顔を見合わせた。
何かあっただろうか? 思い当たる節は無かった。
一方、キョウナは興味深そうにガ―レットの顔を見る。
「なになに?もしかして結婚とか?」
キョウナは冗談交じりに言った。
だが、ガ―レットはそれを否定する。
「いや、違う」
それからガ―レットは真剣な表情になる。
そして、衝撃的な事実を口にした。
メリーランは、ガ―レットの口から放たれた言葉に驚愕する。
隣にいるバッシュも、目を閉じながら頷く。
「お前たち、王都での『武術大会』に出ろ!」
ガ―レットは、声高らかに宣言した。
「王都で…ですか?」
メリーランは戸惑いながらも質問をする。
ガ―レットはうなずいた。
それから、説明を始める。
まずは大会の趣旨についてだ。
毎年春から夏の間に開催される大会で、王国中の腕自慢が集まる大規模なもの。
そこでの優勝賞品は、豪華絢爛なものばかり。
優勝者には賞金も与えられる。
「なに、単なる余興だ。お前ら腕も立つだろう?」
「まあ私たちはそうだけど…」
「他は…ねぇ…」
ルイサとキョウナが言う。
その視線の先にいるのは他の三人。
メリーランとバッシュ、ミドリ。
メリーランは魔法主体で戦うため、武術大会になどとても出ることは出来ない。
バッシュとミドリに至ってはそもそも戦えるのかすらわからない…
「わ、私は…」
「わかってるよ!お前になんか期待してねぇよ」
「…すみません」
ガ―レットから怒鳴られ、うつむくメリーラン。
ミドリには最初から期待はしていない。
そもそも彼女は『おもしろいから』という理由だけでここにいるだけだ。
そしてバッシュにも、もちろんガ―レットは期待していない。
「バッシュ、お前は別に…」
「いや、出場させてもらう」
「え?」
「その武術大会、あたしも出させてもらう」
そう言うバッシュ。
意外な反応だった。
「ほぉ~意外だな。お前がそんなことを言うとは」
「ああ。あんたがどういうつもりか知らないが、あたしも力を見せつけるいい機会だと思っている」
「なるほどなぁ」
バッシュの返事を聞き、ニヤリと笑うガ―レット。
とはいえ、ガ―レットはたいして期待していない。
彼女は元旅人、一人で旅をしていたのである程度腕は立つのかもしれないが。
どうせこいつは使えないだろうな、心の中でそう思った。
そして、最後の一人。
「一応聞くがミドリ、お前はどうするんだ?出たいなら出てもいいぞ。まあ、お前が出るなんてあり得ないと思うがな」
「止めておく」
「ま、そうだろうな…」
こうして武術大会に参加するメンバーが決まった。
ガ―レット、キョウナ、ルイサ、そしてバッシュ。
だが、この話はこれだけではなかったのだ。
ガ―レットの話はまだ終わっていない。
彼は再び口を開く。
今度は大会の日程についてだ。
大会の日程は一週間後から始まる。
会場は王都にある闘技場で行われるらしい。
宿泊先などはこちらで手配するとガ―レットは言った。
そして、最後に重要なことを伝える。
「一番順位の高かった奴はしばらくの間、俺の女にしてやる!」
その言葉を聞いた瞬間、キョウナとルイサは目を見開いた。
そして互いに顔を見合わせると、ニッコリと笑った。
バッシュは黙り込んでいる。
「へぇー本当?」
「私たち、出ればご褒美もらえるんですね」
二人は嬉しそうだ。
さすがに優勝は無理でも、高い順位をとれさえすればいい。
そう考えていた。
だが、メリーランは違った。
魔法主体で戦う彼女は参加すらできないのだから。
無理矢理参加したとしても、武術で勝てるわけも無い。
「…」
「おい、メリー!」
「はい!?」
「お前、何をボーっとしてんだよ」
「いえ、そういう訳では…」
「フンッ。まあいいさ」
ガ―レットは不機嫌そうに鼻息を出す。
そして改めて話を始めた。
メリーランは、その話を上の空で聞いていた。
「(私には何も出来ない…)」
彼女にとって、それが悔しかった。
何も出来ない自分が情けない。
そして、キョウナやルイサに対して嫉妬していた。
彼女たちはガ―レットのお気に入りだ。
自分よりも遥かに魅力的に見える。
メリーランは、無言のまま自分の部屋へと戻った。
「…」
部屋の中に入った彼女は、ベッドの上に倒れ込んだ。
そして枕に顔を埋めると、静かに泣き始めた。
武術大会まであと5日となった。
その間も、メリーランは憂鬱な日々を送っていた。
彼女が落ち込んでいた理由はただ一つ。
それは武術大会のことだ。
武術大会に出るメンバーが決まってからというもの、ガ―レットはあの二人を特にかわいがり始めた。
ルイサとキョウナだ。ガ―レットは夜になるといつも二人の相手をしている。
それを見て、ますますメリーランは落ち込んだ。
自分も同じことをして欲しい。
そう思ってしまったからだ。
しかし、自分にはそんな資格は無いと理解もしている。
それでも、彼女の心は沈んでいた。
「…はぁ」
メリーランはため息をつく。
今日も、一日が過ぎていく。
このままずっとこんな毎日が続くのだろうか?
武術大会が終わったら、自分は捨てられてしまうのではないだろうか? 不安で仕方がない。
そんなことを考えながら、メリーランは窓から外を見た。
「あれは…?」
窓の外を見ると、そこにはガ―レットの姿があった。
誰かと話しているようだ。
ここからだとよく見えない。
気になった彼女は、すぐに下へと向かった。
「…」
メリーランは、階段の途中で立ち止まる。
ガ―レットと話をしている人物…
それは、以前ガ―レットが家に招いた女騎士スリューだった。
彼女はガ―レットと何かを話している。
そして、ガ―レットの顔は真剣そのもの。
どこか緊張した面持ちにも見える。
しばらくすると、二人は別れた。
ガ―レットは家の中に入り、スリューはそのまま帰っていった。
「…」
二人が一体どんな会話をしていたのか、メリーランにはわからない。
ただ、なんとなく嫌な予感がする。
そんな気がしてならなかった。
それから数日後、大会前夜。
明日からいよいよ武術大会が始まった。
まずは予選が行われる。
参加者たちは闘技場で試合を行うことになる。
なのだが、当然ながら人数が多いため、一日に全ての試合を消化することはできない。
試合間の休憩時間も必要だ。
そのため、数日間に分けて行われるのだ。
「さてと、そろそろ行くか」
「ええ」
「頑張ってくるわ」
「…」
武術大会の一週間前。
ガ―レットたちは会場となる王都『レッドパルサード』へやってきた。
用意した馬車に乗って移動してきた。
王都の街並みはとても賑やかだ。
あちこちに出店があり、大勢の人々が集まっている。
屋台で売られている食べ物はどれも美味しそうだ。
だが、今は食べ歩きをしている暇はない。
宿泊のために手配した宿へと向かう。
「到着っと」
到着した場所は、かなり豪華な宿だった。
しかも高級感が漂っている。
この辺りで一番大きな宿らしい。
「なかなかいい場所じゃねぇか。なあ、キョウナ?」
「うん!とっても素敵よ!」
キョウナは上機嫌で答えた。
「ここならゆっくりできそうね」
ルイサも笑顔で言った。
部屋は大きな部屋を一つ借りた。六人全員が泊まれる部屋だ。
荷物を置き、それぞれ思い思いに過ごす。
少し時間が経ち、ガ―レットが食事を食べに行こうといいだした。
気分転換に、宿の食事では無く街の酒場で
食べることにしたのだ。
他のメンバーも賛成し、全員で街へ繰り出す。
「おーい、メリー!」
「はい?」
「お前も来い!」
「はい…」
気分が落ち込んでいるメリーラン。
とてもそんな気分では無かったが、一緒についていくことにした。
ガ―レットたちとメリーランは、王都の街を歩く。
道中、ガ―レットはメリーランに話しかけてきた。
いつものように振る舞おうとするが、どうしてもメリーランは空回りしてしまう。
とはいえ、ガ―レットは気づいてもいないが…
「一週間後から始まる武術大会だが、俺は絶対に優勝するつもりだぜ?」
「そうですか…頑張ってください」
メリーランの返事はそっけないものだった。
彼女は今、何も考えたくない。
そう思っていた。
だから、早く部屋に帰りたいと思っていた。
しかし、そんなことを口に出せるわけも無く、黙ってついて行った。
やがて、目的地である酒場に到着した。