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そんなある日のことだった。
王都から少し離れた位置にある栄えた都市。
その街の外れにある特に大きな屋敷。
ガ―レットの屋敷にて。
日も落ち、夕食も食べ終えたある日のこと。
食事の後片付けをメイドにさせながら、ガ―レットは女たちに話しかける。
「よし、全員揃ったな」
ガ―レットはそう言ってから話を始めた。
メリーラン、バッシュ、ミドリ。
キョウナ、ルイサ。
五人が揃っているが…
「今日は重大な発表がある」
ガ―レットの言葉に、キョウナとルイサは顔を見合わせた。
何かあっただろうか? 思い当たる節は無かった。
一方、キョウナは興味深そうにガ―レットの顔を見る。
「なになに?もしかして結婚とか?」
キョウナは冗談交じりに言った。
だが、ガ―レットはそれを否定する。
「いや、違う」
それからガ―レットは真剣な表情になる。
そして、衝撃的な事実を口にした。
メリーランは、ガ―レットの口から放たれた言葉に驚愕する。
隣にいるバッシュも、目を閉じながら頷く。
「お前たち、王都での『武術大会』に出ろ!」
ガ―レットは、声高らかに宣言した。
「王都で…ですか?」
メリーランは戸惑いながらも質問をする。
ガ―レットはうなずいた。
それから、説明を始める。
まずは大会の趣旨についてだ。
毎年春から夏の間に開催される大会で、王国中の腕自慢が集まる大規模なもの。
そこでの優勝賞品は、豪華絢爛なものばかり。
優勝者には賞金も与えられる。
「なに、単なる余興だ。お前ら腕も立つだろう?」
「まあ私たちはそうだけど…」
「他は…ねぇ…」
ルイサとキョウナが言う。
その視線の先にいるのは他の三人。
メリーランとバッシュ、ミドリ。
メリーランは魔法主体で戦うため、武術大会になどとても出ることは出来ない。
バッシュとミドリに至ってはそもそも戦えるのかすらわからない…
「わ、私は…」
「わかってるよ!お前になんか期待してねぇよ」
「…すみません」
ガ―レットから怒鳴られ、うつむくメリーラン。
ミドリには最初から期待はしていない。
そもそも彼女は『おもしろいから』という理由だけでここにいるだけだ。
そしてバッシュにも、もちろんガ―レットは期待していない。
「バッシュ、お前は別に…」
「いや、出場させてもらう」
「え?」
「その武術大会、あたしも出させてもらう」
そう言うバッシュ。
意外な反応だった。
「ほぉ~意外だな。お前がそんなことを言うとは」
「ああ。あんたがどういうつもりか知らないが、あたしも力を見せつけるいい機会だと思っている」
「なるほどなぁ」
バッシュの返事を聞き、ニヤリと笑うガ―レット。
とはいえ、ガ―レットはたいして期待していない。
彼女は元旅人、一人で旅をしていたのである程度腕は立つのかもしれないが。
どうせこいつは使えないだろうな、心の中でそう思った。
そして、最後の一人。
「一応聞くがミドリ、お前はどうするんだ?出たいなら出てもいいぞ。まあ、お前が出るなんてあり得ないと思うがな」
「止めておく」
「ま、そうだろうな…」
こうして武術大会に参加するメンバーが決まった。
ガ―レット、キョウナ、ルイサ、そしてバッシュ。
だが、この話はこれだけではなかったのだ。
ガ―レットの話はまだ終わっていない。
彼は再び口を開く。
今度は大会の日程についてだ。
大会の日程は一週間後から始まる。
会場は王都にある闘技場で行われるらしい。
宿泊先などはこちらで手配するとガ―レットは言った。
そして、最後に重要なことを伝える。
「一番順位の高かった奴はしばらくの間、俺の女にしてやる!」
その言葉を聞いた瞬間、キョウナとルイサは目を見開いた。
そして互いに顔を見合わせると、ニッコリと笑った。
バッシュは黙り込んでいる。
「へぇー本当?」
「私たち、出ればご褒美もらえるんですね」
二人は嬉しそうだ。
さすがに優勝は無理でも、高い順位をとれさえすればいい。
そう考えていた。
だが、メリーランは違った。
魔法主体で戦う彼女は参加すらできないのだから。
無理矢理参加したとしても、武術で勝てるわけも無い。
「…」
「おい、メリー!」
「はい!?」
「お前、何をボーっとしてんだよ」
「いえ、そういう訳では…」
「フンッ。まあいいさ」
ガ―レットは不機嫌そうに鼻息を出す。
そして改めて話を始めた。
メリーランは、その話を上の空で聞いていた。
「(私には何も出来ない…)」
彼女にとって、それが悔しかった。
何も出来ない自分が情けない。
そして、キョウナやルイサに対して嫉妬していた。
彼女たちはガ―レットのお気に入りだ。
自分よりも遥かに魅力的に見える。
メリーランは、無言のまま自分の部屋へと戻った。
「…」
部屋の中に入った彼女は、ベッドの上に倒れ込んだ。
そして枕に顔を埋めると、静かに泣き始めた。
武術大会まであと5日となった。
その間も、メリーランは憂鬱な日々を送っていた。
彼女が落ち込んでいた理由はただ一つ。
それは武術大会のことだ。
武術大会に出るメンバーが決まってからというもの、ガ―レットはあの二人を特にかわいがり始めた。
ルイサとキョウナだ。ガ―レットは夜になるといつも二人の相手をしている。
それを見て、ますますメリーランは落ち込んだ。
自分も同じことをして欲しい。
そう思ってしまったからだ。
しかし、自分にはそんな資格は無いと理解もしている。
それでも、彼女の心は沈んでいた。
「…はぁ」
メリーランはため息をつく。
今日も、一日が過ぎていく。
このままずっとこんな毎日が続くのだろうか?
武術大会が終わったら、自分は捨てられてしまうのではないだろうか? 不安で仕方がない。
そんなことを考えながら、メリーランは窓から外を見た。
「あれは…?」
窓の外を見ると、そこにはガ―レットの姿があった。
誰かと話しているようだ。
ここからだとよく見えない。
気になった彼女は、すぐに下へと向かった。
「…」
メリーランは、階段の途中で立ち止まる。
ガ―レットと話をしている人物…
それは、以前ガ―レットが家に招いた女騎士スリューだった。
彼女はガ―レットと何かを話している。
そして、ガ―レットの顔は真剣そのもの。
どこか緊張した面持ちにも見える。
しばらくすると、二人は別れた。
ガ―レットは家の中に入り、スリューはそのまま帰っていった。
「…」
二人が一体どんな会話をしていたのか、メリーランにはわからない。
ただ、なんとなく嫌な予感がする。
そんな気がしてならなかった。
それから数日後、大会前夜。
明日からいよいよ武術大会が始まった。
まずは予選が行われる。
参加者たちは闘技場で試合を行うことになる。
なのだが、当然ながら人数が多いため、一日に全ての試合を消化することはできない。
試合間の休憩時間も必要だ。
そのため、数日間に分けて行われるのだ。
「さてと、そろそろ行くか」
「ええ」
「頑張ってくるわ」
「…」
武術大会の一週間前。
ガ―レットたちは会場となる王都『レッドパルサード』へやってきた。
用意した馬車に乗って移動してきた。
王都の街並みはとても賑やかだ。
あちこちに出店があり、大勢の人々が集まっている。
屋台で売られている食べ物はどれも美味しそうだ。
だが、今は食べ歩きをしている暇はない。
宿泊のために手配した宿へと向かう。
「到着っと」
到着した場所は、かなり豪華な宿だった。
しかも高級感が漂っている。
この辺りで一番大きな宿らしい。
「なかなかいい場所じゃねぇか。なあ、キョウナ?」
「うん!とっても素敵よ!」
キョウナは上機嫌で答えた。
「ここならゆっくりできそうね」
ルイサも笑顔で言った。
部屋は大きな部屋を一つ借りた。六人全員が泊まれる部屋だ。
荷物を置き、それぞれ思い思いに過ごす。
少し時間が経ち、ガ―レットが食事を食べに行こうといいだした。
気分転換に、宿の食事では無く街の酒場で
食べることにしたのだ。
他のメンバーも賛成し、全員で街へ繰り出す。
「おーい、メリー!」
「はい?」
「お前も来い!」
「はい…」
気分が落ち込んでいるメリーラン。
とてもそんな気分では無かったが、一緒についていくことにした。
ガ―レットたちとメリーランは、王都の街を歩く。
道中、ガ―レットはメリーランに話しかけてきた。
いつものように振る舞おうとするが、どうしてもメリーランは空回りしてしまう。
とはいえ、ガ―レットは気づいてもいないが…
「一週間後から始まる武術大会だが、俺は絶対に優勝するつもりだぜ?」
「そうですか…頑張ってください」
メリーランの返事はそっけないものだった。
彼女は今、何も考えたくない。
そう思っていた。
だから、早く部屋に帰りたいと思っていた。
しかし、そんなことを口に出せるわけも無く、黙ってついて行った。
やがて、目的地である酒場に到着した。