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ガ―レットたちは、酒場へとやってきた。
店内に入ると、客たちの賑やかな声が聞こえてくる。
店員に案内されたテーブルにつき、メニュー表を開く。
何を頼むのか、相談しながら決める。
と、その時だった。
「なんか聞き覚えのする声がするな…」
ガ―レットは言った。
確かに、どこかで聞いたことのあるような声だ。
と、その時…
「お前は…!リオン!生きていたのか」
「ガ―レット!」
たまたま同じ店に来ていた二人。
ガ―レットとリオンは、思わぬ再会を果たしたのだった。
リオンを殺そうとした相手であるガ―レット。
そんな相手とのまさかの再開に困惑するリオン。
だが、すぐに冷静さを取り戻して話を始めた。
「久しぶりだな」
「ああ」
二人は互いに挨拶を交わす。
だが、それは一瞬のこと。すぐに空気が張り詰めていく。
そんな中、会話を切り出したのはガ―レットの方だった。
彼は、なぜここに来たのかを問うた。
それに対して、リオンは答える。
今日は仲間たちと一緒に、ここで食事に来たのだと答えた。
そして武術大会に出るために、と。
「お前も出るのか?」
「もちろん」
リオンはそう言いながら、拳を構える。
改めてガ―レットはリオンの姿を見る。
彼の身に付けている防具、それは以前にリオンが倒した『ロックリザード』の外殻を加工した物。
それにガ―レットは気づいた。
「なかなかいい防具じゃないか。金持ちでもバックに付けたか?」
ガ―レットは、そのロックリザードをリオンが倒したものだと知らない。
金で買ったものだと思ったのだろう。
ガ―レットの知るリオンは、ロックリザードほどの魔物を倒せない。
彼の中のリオンは半年以上前で止まっているからだ。
「俺はお前を倒す」
「ほう、大きく出たじゃねぇか。だが、お前にそれができるかな?」
「やってみせるさ」
そう言うリオンを軽く鼻で笑う。
彼の実力はよく知っている。
かつて戦った時に知った。
ガ―レットの圧勝であった。
あれから半年経っているが、果たしてどれだけ強くなったのか。
まあ、それほど大きくは変わってないだろう。
ガ―レットはそう考えていた。
「あいつらがお前の仲間か?」
奥の席を見ながらガ―レットがそう言った。
アリス、シルヴィ。
リオンの新たな友だ。
「ああ」
「そうか…ならいいことを思いついたぜ」
「なんだ?」
「今すぐその仲間を連れて、さっさと帰れ」
そうすれば、負けて恥をさらすことも無い。
そう続けるガ―レット。
しかし、そんな提案に従うわけにはいかない。
「断る」
「だろうなぁ。まあ、予想通りの反応だよ。だが、俺は容赦しないぜ」
「望むところだ」
「ならせいぜい頑張ることだ。負けて死んでも文句を言うんじゃねえぞ」
リオンの言葉びに、ガ―レットは高笑いをして答えた。
そこで彼はとあることを思いついた。
それは…
「そうだ、あの二人も一緒に来てるんだ。呼んでやるよ」
「あの二人…」
「ああ、『ルイサ』と『キョウナ』だ」
ガ―レットが呼んだ名前を聞いて、思わず息を飲む。
ルイサが彼と一緒にいるということは知っている。
しかしキョウナも一緒にいるということは知らなかった。
一体どういうことなのか。
そしてその姿を見た瞬間、リオンは驚く。
なぜなら、そこにいたのは紛れもなくかつての自分の仲間たちだったからだ。
「ルイサ、キョウナ…!」
ルイサとキョウナの姿を見て驚くリオン。
それもそのはず。
二人はそれぞれ、身体の目立つとところにガ―レットへの愛を誓う刺青をいれていたからだ。
ルイサは右腕に、キョウナは左頬に。
淫らな紋様をその身体に刻み込んでいた。
「久しぶりね、リオン」
「どうしてここに…」
ルイサの言葉、その突然のことに動揺するリオン。
そんな彼に、さらに追い打ちをかけるように、
もう一人の少女、キョウナが話しかけてきた。
「やあ、リオン」
「キョウナ…!」
キョウナはリオンの顔を見てニヤリと笑った。
それはかつての彼女の笑みとはまるで違うものだった。
彼女の目は濁っていた。
そんな彼女に対し、リオンは恐る恐る問うた。
すると彼女は答える。
自分はガ―レットの女になった、と。
ガ―レットは、彼女に自分と行動を共にするように言った。
「嘘だろ…」
「残念だけど本当よ」
「なんで、お前が…」
信じられない様子のリオンだったが、どうやら本当のようだ。
なぜ二人がガ―レットに従っているのか。
その理由を問いただす。
すると、キョウナが答えた。
自分たちはもう以前の弱いままの自分ではない、と。
ガ―レットの圧倒的な強さに憧れたのだという。
そして彼のためならば何でもする、と。
それを聞いたガ―レットは満足そうな表情を浮かべている。
「…お前らはそれでいいのか?」
「ええ」
「もちろん」
二人は即答した。
もはや、何を言っても無駄のようだった。
ガ―レットもそれを察したのか、話を締めくくる。
「これで分かっただろ?だからさっさと帰れってんだよ!」
そう言うと、リオンに向かって軽い蹴りを放った。
当たっても痛くない程度の蹴り。
しかしそれよりも、彼の心の方がずっと痛かった。
リオンは悔しそうに歯を食いしばる。
「ち、白けたぜ。おい、店変えるぞ!」
ガ―レットが他の客たちに言った。
メリーランたちはそれに付いて行くことにした。
唯一、ミドリだけは心配そうに彼らを見ていたが、誰もそれに気付くことは無かった。
店を出て、夜の街へと消えていく彼ら。
その後姿をリオンは黙って見つめていた。
「…」
「リオンさん」
「大丈夫か?」
アリスとシルヴィが心配そうに声をかける。
だが、リオンは彼女たちに笑顔を向けた。
「ああ、問題無いさ」
そう言いながらも、その顔はどこか悲しげだった。
アリスたちはリオンの過去を殆ど知らない。
彼がどんな辛い思いをしてきたのか、想像するしかないのだ。
だが、その悲しみだけは分かっていた。
だからこそ、二人は優しく微笑む。
そして、二人はリオンの手を握った。
シルヴィは思う。
リオンは強い人間だ。
誰よりも優しい心を持ち合わせながら、それでも前を向いて歩いていける。
それは、並大抵のことじゃないはずだ。
そして、シルヴィは知っていた。
彼は自分のことをいつも気にかけてくれていることを。
だから、今度は自分が支えてあげる番なのだ。
そう心に決め、彼女はリオンの隣に立った。
そして、アリスはというと…
「…よしっ!」
小さく声を出して、気合いを入れた。
それから、ロゼッタの方へ駆け寄っていく。
「ロゼッタさん」
「話は聞いていたよ。向こうに気付かれないように状況も見ていた」
ロゼッタが言った。
「じゃあ…」
「私も協力しよう」
「ありがとうございます!」
アリスは嬉しさのあまり思わず抱き着いてしまった。
突然の行動に驚くロゼッタだったが、すぐに冷静になる。
「ふふ、これは役得かな?」
「あっ!ごめんなさいっ!!」
「お礼はいらないよ。これは私がやりたいことだからね」
「ふぇ!?」
慌てて離れようとするアリスだったが、それはできなかった。
なぜなら、彼女の体はしっかりと抱きしめられていたからだ。
そう言って、さらに強く彼女を抱きしめた。
「ん~…柔らかい」
「ちょ、ちょっと…」
顔を赤くして慌てるアリス。
しかし、決して嫌ではなかった。むしろ心地良い気分だ。
しばらくそのままの状態でいると、やがて彼女は解放された。
「うー…」
恥ずかしくて何も言えない。
そんな彼女に対し、ロゼッタは言った。
「とりあえず席に戻ろう」
一旦仕切り直し。
改めて酒場の奥の席に座りなおす。
食べ終えた食器などを下げてもらった。
「あの男が連れていた女の子たちは…リオン君のかつての仲間か」
「はい」
「彼女たちを見て感じたことがある」
ロゼッタは彼女たちを見てある特殊な魔力を感じ取った。
それは『魅了』だ。
それもかなり強力な。
それが何を意味するのか、分からないわけではないだろう。
彼女は言う。
おそらく、あの男の能力だ、と。
「『魅了』…」
「おそらく間違いないだろう」
ロゼッタの言葉に、一同は驚く。
他人の心を支配する能力。
それを聞いた瞬間、全員が言葉を失った。
同時にリオンは思った。
ガ―レットがそんな能力を使えるなら、なぜ最初から使わなかったのか、と。
確かにその方が簡単だったはずなのに。
「理由は分からないが、ヤツは過程を楽しむタイプなのかもな」
「過程…」
「ああ。何でもかんでも魅了で手に入れては面白くない。単純に、そう言う性格なんだろう」
魔力の消費も激しいしな、そう付け加えるロゼッタ。
リオンは納得した。
やはり、ガ―レットは油断ならない相手だと再認識する。
「じゃあ『魅了』を解くことができれば…」
「元に戻すことができるかもしれないな」
ロゼッタはそう言った。
しかし、それと同時に彼女はある事を考えていた。
あそこにいる『全員』が、『魅了』を受けているわけでは無いということを。
そして、ガ―レットとは全く違う『別の魔力』を持つ者も…
「(だが、『魅了』を受けているのは…?)」