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「……嘘でしょ?」
私は布団の中で、さっき聞いた言葉を何度も思い返していた。
『美希と湊は、本当の兄妹じゃないんだから』
お母さんの声が、頭から離れない。
私と湊は、本当の兄妹じゃない。
じゃあ、どういうこと?
湊は私のお兄ちゃんじゃないの?
それとも……。
「……っ」
考えれば考えるほど、頭が混乱していく。
でも、一つだけ確かなことがあった。
私は、真実を知りたい。
どんなことがあっても。
*****
翌朝。
「美希ー! 起きろー!」
いつものように、湊が私を起こしにきた。
「んん……あと5分……」
「昨日もそれ言って遅刻しかけただろ」
「うぅ……」
いつもと変わらない朝。
でも、今日は違った。
昨日聞いてしまった両親の会話が、頭から離れない。
『美希と湊は、本当の兄妹じゃないんだから』
……私たちは、本当はどういう関係なの?
「……美希?」
「えっ!?」
気づくと、湊が不思議そうに私を見ていた。
「今日、なんか変じゃね?」
「そ、そんなことないよ!」
「……ならいいけど」
湊は少し心配そうな顔をしたあと、部屋を出ていった。
*****
学校から帰ると、珍しく母がリビングにいた。
「おかえり、美希」
「……ただいま」
私は鞄を置き、母の前に座った。
「……お母さん、聞きたいことがあるの」
「ん? どうしたの?」
私は一度深呼吸した。
「……私と湊って、本当の兄妹じゃないの?」
母の表情が、一瞬で変わった。
「……どうして、それを?」
「昨日、お父さんとお母さんが話してるのを聞いちゃったの」
母はしばらく黙っていた。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「……そうね。もう、隠しておくのは難しいわね」
「……え?」
「美希。湊はね、お父さんの前の結婚で生まれた子なの」
「…………っ!」
「お父さんは、湊のお母さんと離婚したあと、私と出会って結婚したの。そして、そのあとに美希が生まれたのよ」
私は言葉を失った。
つまり……。
「……私と湊は、血が繋がってないってこと?」
母は静かに頷いた。
「そうよ。あなたたちは、義理の兄妹なの」
義理の兄妹。
その言葉を聞いた瞬間、心臓が大きく跳ねた。
だって……。
もしかしたら。
もしかしたら、私のこの気持ちは……。
「……でもね、美希」
母の声で我に返った。
「血が繋がっていなくても、湊はあなたのお兄ちゃんよ。家族であることに変わりはないわ」
「……うん」
私は小さく頷いた。
嬉しかった。
でも、同時に不安だった。
血が繋がっていないとわかっても、湊が私を好きになってくれるとは限らない。
湊にとって、私はただの妹なのかもしれない。
それでも。
ほんの少しだけ、希望が生まれた。
*****
その夜。
私はリビングで一人、テレビを見ていた。
すると、湊が隣に座ってきた。
「……美希」
「ん?」
「今日、母さんと何話してたんだ?」
「……え?」
「なんか、いつもと違うから」
湊は心配そうに私を見つめた。
「……何でもないよ」
「……そっか」
湊はそれ以上、何も聞かなかった。
でも、立ち上がる前に、私の頭をそっと撫でた。
「……一人で抱え込むなよ」
「……うん」
優しい。
本当に優しい。
だからこそ、好きになってしまった。
「……湊」
「ん?」
「……私が、もしお兄ちゃんじゃない人を好きになったら、どう思う?」
自分でも、何を聞いているんだろうと思った。
湊は少し驚いた顔をした。
「……そりゃ、応援するだろ」
「……そっか」
胸がチクリと痛んだ。
やっぱり、湊は私のことを妹としか思っていない。
そう思った瞬間。
「……でも」
湊が小さく呟いた。
「……そいつが美希を泣かせたら、絶対許さないけどな」
「……っ!」
私は思わず顔を上げた。
湊はいつもどおりの顔で笑っていた。
「当たり前だろ。大事な妹なんだから」
……また、それだ。
妹。
その言葉が、嬉しくて、苦しかった。
*****
その頃、湊の部屋。
湊はベッドに腰掛け、スマホの画面を見つめていた。
そこには、楽しそうに笑う美希の写真が映っていた。
「……はぁ」
小さく息を吐く。
本当は、さっきの質問に別の答えを返したかった。
美希がほかの誰かを好きになるなんて、考えたくもない。
誰よりも近くにいたい。
誰よりも自分を見てほしい。
でも、そんなことを言えるはずがなかった。
だって、自分は美希の兄だから。
血が繋がっていなくても、ずっと家族として一緒に過ごしてきた。
この気持ちを伝えたら、今の関係が壊れてしまうかもしれない。
それが、怖かった。
「……美希」
湊はスマホを胸元に置き、小さく呟いた。
「……好きだよ」
その声は、誰にも届かなかった。