テラーノベル
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「そこまでじゃ!」
ティアシャが試合終了の合図を送る。
ひゅるるる
カエデに巻き付いていた水蛇が拘束を解き、そのまま水へ戻っていく。
「流石に……相手にもならなかったですね」
そう言って手に持っていた羽根を胸元にしまうカエデ。スズも少しだけしょんぼりしながらカエデの方に歩いてきた。
「もう少しくらいやれると思ったんスけどね……」
試合を見ていた観衆達がざわつき始める。
「なんか煙みたいなので良く見えなかったけど……何だあの魔法……見たことないぞ?」
「あのカエデちゃんも全く歯が立たなかった……」
「あの人たち本当に……」
ざわざわ……
城の入り口付近にいたアルテアが杖をかざし、結界を解く。その瞬間、見ていた観衆達がゾロゾロとフィニスやニティア、カエデやスズの元へとやってくると……
「兄ちゃんすげーな!あのスズちゃんの攻撃を全部かわしちまうなんて!!」
「え、ちょっとかっこよすぎなんですけど……」
「ねぇ!さっきの魔法何?!見たことないんだけど、何系なの?」
「嬢ちゃん小さいのにすげーな!」
「カエデさんかっこよかったですよ!って言うかサインください」
「負けて涙目スズちゃんかわよ!」
試合を見ていた人たち全員が、フィニスとニティア2人の実力を認め、先ほどとは異なり賑やかな雰囲気に変わっていた。
その様子を見ていたルシオが、隣でニコニコしているティアシャに呟く。
「なるほど……これを見通してたって訳か」
「その方が、お主達もここで過ごしやすくなるじゃろ?それに、そんな英雄達に貸しを作っておくのは、妾の国にとっても有益じゃからの♪」
「なるほどね……無邪気に見えて結構やり手だな(笑)」
「Win-Winの関係じゃ♪」
そう言って笑って見せるティアシャ。そうしてこの賑やかな宴は、集まった食料が底を尽きるまで……日が登る直前まで続いていた。
⸻
翌朝、身支度をして玉座に集まる5人。
「昨日は楽しめたかの?」
到着するや否や、相変わらず無邪気な笑顔のティアシャがいた。
「試合の後みんなにすごく絡まれて大変だったけどね……でも楽しかったわ」
笑って答えるニティア。皆もそれぞれ楽しめたのだろう。各自が頷き合い、お礼の言葉を口々にしていた。
……1人を除いて。
「うっぷ……」
青白い顔をしているルシオが、口を手で覆い、胃から込み上げる苦いものを何とか押し込めていた。
スズは飲まなかったようだが、ルシオは御前試合の後、カエデとスズに酒を持って絡みに行き……そのままカエデと飲み比べをし、見事に返り討ちにあっていたのだ。
その様子の一部始終を見て、なんならぶっ倒れたルシオを担いで客間に戻ったフィニスが、苦笑いをしながらティアシャの隣に立つカエデを見る。
「あれだけ飲んで……カエデは全然平気なんだな……」
「飲んで翌日の侍女の仕事に支障をきたす訳にはいきませんからね」
淡々と答えるカエデ。しかし、その声を聞いたスズが笑いながら口を開く。
「あっはっはー!でもこうあの後帰ってからは大変だったんスよ?試合で負けるわその後にあれだけ飲むわで……久しぶりにあんなむぐっ!!」
突如現れた1枚の紙切れが、スズの口に張り付く。
「んー!!んぐーーー!!」
カエデの方を見ながら紙を剥がそうと踠くスズ。そんなカエデの手には、スズの口に貼られている紙と、羽根。
「何もありません」
王位を継いでから、色々と尽力を尽くしてくれた2人。ティアシャ自身ももちろん大変であったが、それでも……その自分を支えてくれた2人のくだらないやり取り。その懐かしい光景を見てついつい笑ってしまうティアシャ。ひとしきりその様子を見た後、再びフィニス達へ視線を移し、話を始めていった。
「すまぬ、こんな話を聞きたかったのではなかったな」
「ヴォルガムとしての話は……おそらく手紙に書いてあると思う……うぷっ。停戦と戦争を仕掛けた側としての賠償……それから復興協力だったか……」
エラリスに背中をさすられながらゆっくりと話すルシオ。
「うむ。その件については問題ない。賠償についても、今はお互いが大変な時期。アクリムへ賠償するよりも、各々の国の復興が先であろう。そちが早く復興した際に、ワシらを援助してくれればよい。逆もまた然りじゃがな」
「……感謝する」
小さく頭を下げるルシオ。
「返事は追って向こうに届けよう」
「あとは国としてではなく、俺たちがいくつか聞きたいことがあるんだ」
「うぬ。そっちが本命であろう?」
「えぇ。まずはこの国の被害……と言いますか、先日の魔族が襲来した件について詳しくお聞かせいただければと……もちろんお聞きしたければ、私たちの国での出来事もお話しいたします」
ルシオを見てため息をついたあと、アルテアがティアシャへ頭を下げる。
「うむ……カエデ」
「はい。私たちの国に現れた魔族は、観測された情報だと白い魔族が2体」
「ヴォルガムと同じだな」
「しかし、主に襲撃したのは一体のみであり、もう一体は……」
「ん?」
「……直接見たわけではないのでよくわかりません。私もティアシャ様を守る事で精一杯でしたので……もしかしたら、強化とか支援型の魔族だった可能性もありますが、ただただ空中に浮かび、何か祈るような仕草をしていたと」
「祈るような仕草……」
「そしてもう一体は、かなりの重装甲で大きな槍を武器とした魔族。先代王を守る魔法団や騎士団の攻撃を全て大きな盾で跳ね除け、槍から放たれる光により急所を貫かれておりました」
「……」
「その魔族は私たちの前にも現れたっス。でも……」
いつのまにか紙が剥がされていたスズがカエデを不安そうな顔で見つめ、カエデは頷く。
「その魔族が放った光が、その場にいた私たちだけを避けて周りの貴族達に……意図的に生かされたって感じだったっス……」
「都合のいい人間だけが生きている……か……」
フィニスが小さく呟いた。
「被害は昨日の宴の通りです」
「みんな楽しそうにしてたね。身内が亡くなったとか、そう言う悲しそうな雰囲気の人はいなかったと思うよ」
ルシオの背中を摩りながらエラリスが答える。
「建物などの崩壊等による怪我人はおったが……それ以外の人的被害は0。妾も何が何だか分からぬ状況じゃ」
「ヴォルガムと似たような感じですね……」
一瞬の沈黙が流れた後、再びフィニスが口を開く。
「あ、後この国に魔女に関する資料はあるか?」
「ん?資料?」
「歴代魔女の情報。なんでもいいの。いつ現れたのか……どんな魔法を使っていたのかとか……誰がどうやって倒したとか……噂でも伝承でも何でもいいわ」
「ふむ。その辺は妾も詳しくはないが……もしかしたら地下の資料室に行けばあるかもしれんが……」
チラッとカエデを見るティアシャ。
「……私も知りませんよ?」
「それなら多分あると思うっスよ!」
まさかの反対側からの聞こえる声。
「書記が記録した議事録やら、遺跡とかで見つけた古い書物なんかは地下に運ばれてたっスからね」
「お主……何でそんなこと知っとるのじゃ」
「へ?暇な時に天井に張り付いてた時に見てただけっスよ?流石に地下までは行けなかったっスけど」
「……そうか………」
暇な時に天井に張り付くと言う謎の言葉を完全に無視することにしたティアシャ。
「あ、それなら精霊についての情報も何かあるかな?」
エラリスがポツリと言葉を漏らす。
「さぁ……そこまでは分からないっスね……」
「そう……」
視線を少しだけ落とすエラリス。
「エラリスは精霊を探してるんだもんな」
フィニスの言葉にコクリと頷くエラリス。
「おばあちゃんは4体の精霊と契約をしてたってゼフィリアが言ってたから。とりあえずは私もそれを目指したい」
「ゼフィリア様に他の精霊の居場所を聞くことは出来ないんですか?」
アルテアの言葉に首を左右に振るエラリス。
「ある条件を除いて、精霊同士が干渉することはダメらしく、教えてくれなかった」
「ある条件?」
「それも分からない。どうせ関係ないからって」
「まぁ……とりあえずティアシャ様の許可が頂けるのであれば、地下の資料室を調べてみてもいいかもしれませんね。魔女や精霊について何かわかるかもしれませんから」
チラッとティアシャの方を見るアルテア。
「ん?もちろん好きに使って良いぞ。カエデとスズ。案内してやってくれ」
ひでお
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コメント
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第67話、読み終えました!御前試合の後の温かい雰囲気から一転、魔族襲撃の詳細な報告と、魔女や精霊を巡る新たな謎が提示される流れがとても引き込まれました。特に、スズの「天井に張り付いてた」発言には笑いましたが(笑)、その観察眼が後々キーになりそうでワクワクします。エラリスが精霊を探す理由も切実で、地下資料室での新発見がどう物語に繋がるのか、続きが気になる回でした!