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「なあ、君の名前は?」
僕は、目の前にいる彼女に訊いた。
「えっ?私の名前ですか?私の名は……」
彼女は、少し考え込むような仕草をして言った。
「……すみません。どうしても思い出せないんです」
「そうなんだ……」
僕も、彼女と同じように頭を悩ませる。
一体どうして記憶を失ってしまったのだろうか? あの時の事故で、頭を強く打ってしまった影響なのか? それとも、もっと別の理由があるのだろうか?
「あっ!そうだ!」
ふと思い出したことがあったので、急いで調べてみると、やはり間違いないようだった。
あの少女の名前は「アネモネ」。あの子はまだ生きているらしい。
今すぐに会いに行きたいところだったが、さすがにそれは無理そうだ。
それに、今の自分は死んだことになっているはずだ。
まぁ、それでも構わない。
何度でも言うが、彼女が生きているだけで十分だ。
また会える日が来るまでは、静かに待っていることにしよう。
私は……ただの人形。
主人の命令通りに動き続けるだけの……道具。
感情など不要だと思っていたはずの彼が、なぜか突然、その少女のことを思い出してしまったのだ。
これは彼にとって予想外の出来事であり、彼自身にとっても予想外であった。
なぜ自分は今になって彼女を思い出してしまったのだろうか。その理由がわからず、彼は困惑するしかなかった。
彼女が自分を蘇らせてくれたあの瞬間の記憶は今でも鮮明に残っている。だが、それ以外の記憶は曖昧になっていたはずだった。
しかし、どういうわけか今の今まで忘れてしまっていたことが不思議に思えるくらいに、彼女と過ごした日々のことはしっかりと覚えているようだった。
「あぁ、また会いたい」
ふとした時に自然と口からこぼれ出たこの言葉を聞いて、彼は自分自身のことながら驚いてしまった。なぜなら、これまで一度たりとも口にしたことがなかった言葉だからだ。
もしかしたら、これも偽物の影響かもしれないと思いつつ、彼は再び彼女に会える日が来ると信じて疑わなかった。
それからというもの、彼は毎日のように街へ出かけるようになった。
といっても、以前と同じように人の多いところへ行くわけではなく、人気のない路地裏や廃墟の街中といった人が滅多に来ないような場所に足を運んでいた。
特に理由があったわけではないが、ただ単に人のいない静かな場所でゆっくりと休みたかっただけなのだ。
しかし、どれだけ探しても彼女は見つからなかった。
もしかすると、すでにこの世を去っているのかもしれない。だが、それでも構わないと思った。たとえ死んだとしても、彼女を想う気持ちに変わりはなかったからだ。
それに、仮に生きていたとしてもすぐに見つかるとは限らない。むしろ見つからない可能性の方が高いだろう。
ならばいっそ、見つけるまで探し続ければいいだけの話だ。
幸いにも時間はたっぷりある。
何年経っても見つからず、老いて寿命が尽きる前に彼女が見つかってくれればそれで良いと思っている。
こうして彼は今日もまた、彼女の姿を求めて彷徨い続けるのだった―――