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長い間、苦しめ続けてごめんなさい。あなたをこんな目に遭わせた私を許してください。それでも私は、あなたのことが大好きです。
私は、あなたのお陰で救われました。
私があの日、死んだのは運命じゃなかったんですね。
きっとこれは、神様が与えてくれたチャンスなんだと思います。
今度は、私があなたを助ける番です! 私の分まで、どうか幸せになってください!! さようなら。ありがとう。……ああ、やっとこれで自由になれた。
……そう言って彼女は笑った。
どうして、彼女があんな行動をとったのか、 今でもわからない……。……だが、あれ以来、私は彼女以外の誰からも信頼されなくなってしまった。
彼女を救えなかった私が悪いのかもしれないが、それでもこれはあんまりではないか?……私は、いつの間にか彼女に囚われてしまったのだろう。
今も、ふとした瞬間に彼女のことを思い出してしまうことがある。
今さら後悔しても遅いのだが、あの時にもっと他に方法があったのではないかと思わず考え込んでしまうこともある。
そんな時は決まって、胸の奥にあるこの感情を押し殺すことに必死になるのだ。
今日もいつものように、 彼は自分自身に嘘をつく。
「僕は君を救いたい」
突然の来訪者により、偽りの仮面が剥がれ落ちた。
目の前にいる相手は、誰よりも愛しいあの人だった。
私は何一つ言葉を発することが出来ずにいた。
そんな私を見て、彼は優しく微笑みながら言った。
「君は僕を愛してくれているかい?」
私が無言のままうなずくと、彼は満足げに目を細めた。
「良かったよ。君だけは僕の味方でいてくれないとね」
「どういう意味ですか?」
恐るおそる尋ねると、彼は私の手を握りしめながらこう告げた。
「僕は今までたくさんの人達を騙し続けてきた。そして、今度は君のことも騙してしまうところだったんだよ。だけど、君のおかげで助かった。ありがとう」
彼の手を振りほどきたい衝動に駆られたけれど、どうしてもできなかった。
私は黙ったままうつむいているしかなかった。
どうして? どうして、あなたはいつもそうなんですか? 私を裏切っておいて、今さら何を言っているんですか!? 喉元まで出かかった言葉を必死に抑え込んだ。
ここで声を荒げたところで何も解決しないばかりか、かえって事態を悪化させるだけだ。
それに、これは彼なりの演技なのだということはわかっている。
なぜなら、彼の目は涙で潤んでいたからだ。
きっと辛いに違いない。
でも、それでも耐えなければならないのだ。
そうしなければ、また同じ過ちを繰り返すことになる。
そうならないためにも、今は感情を抑え込むしかないのだ。
それから間もなく、彼は帰っていった。
玄関先まで見送った後、一人きりになってから呟いた。
「……馬鹿ですね。本当に」
こんなにも簡単に騙されてしまって……。
さっきまでの葛藤は何だったのかと思うくらいに呆気なく終わってしまった。
これじゃあ、どっちが被害者なのかわからないじゃないですか……。
まぁ、別に構わないですけど……。
こんな結末になるってことは、最初から薄々わかっていたさ。
けど、それでも僕は、君が好きなんだ! 君は僕にとって特別な人だったんだ!! だけど……もう遅いんだよ……。
僕の魂はすでに冥界へ送られてしまった後だし、肉体の方も腐ってしまった。
それに何より、君の目の前にいる僕は偽者に過ぎない。
君の愛する男は死んだ。
もう二度と帰って来ないんだ。
そう言っても、彼女は信じようとしなかった。
私の愛する人は生きているわ。
あなたじゃない! じゃあ誰のことだい? と訊ねれば、きっと彼女ならこう答えるはずだ。
それはもちろん―――。……ああ、ごめんなさい。
あなたの言う通りよ。
私はまだ、あの人のことが忘れられないの。
たとえ、それが偽りの関係であったとしても、私はあの人と結ばれたかった。
けれど、それもすべて無駄になってしまったみたいね。
今さら未練がましいことを言うつもりはないわ。
今まで楽しかった。ありがとう。……これで良かったのよね? ねえ、教えて。
私はこれから先、どうやって生きていけば良いの? 私があなたを愛したことさえ、間違いだったというの? 違う、違うよ。
君は間違ってなんかいない。
何もかも失った今となっては、もう二度と彼女に会うことは叶わない。
だけど、それでよかったと思う気持ちもある。
彼女に会ったが最後、きっと自分は自分を抑えられなくなる。
今の自分に出来ることは、彼女を悲しませないよう、そっと姿を消すことだけなのだ。