テラーノベル
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学校は、私を 少しずつ削る場所だ。
一気には壊さない 毎日、少しずつ——
昼休みは、一番息が しづらい。
教室にいる意味も ないし、
かといって 行く場所なんてない。
トイレに入って
一番奥の個室に 入る。
鍵を 閉める音が やけに大きく聞こえた。
便座に座って、カバンを 膝に置く。
弁当の包みを開ける前に
隣の個室の気配に 気づいた。
…誰か、いる。
その瞬間だった
上から、重たい影——
次の瞬間、
冷たい水が 一気に落ちてきた。
頭、肩、背中
制服が濡れて、
布が肌に張りつく感覚が 気持ち悪い。
息が詰まる。
「古西さーん」
笑い混じりの声。
「あんたそんなとこで弁当食べて美味しい?笑」
別の声が被さる。
「便所飯かよ、マジウケる 笑」
笑い声
複数
楽しそう
私は声を 出さなかった。
喉は 動かないし、
動かしたら負けな気がした。
隣の個室
さっきから、音がしない。
人がいるのは 分かっていた。
助けてほしいとは思わない。
叫びたいとも。
ただ、
見られているのに、何も 起きない時間が
一番 長く感じる。
水が 床に落ちる音だけが、
やけに響いてた。
どれくらい 経ったか分からない。
足音が遠ざかって、
笑い声が 遠くに消えた。
私は しばらく動かなかった。
鏡を 見る勇気も なくて
ただ、時間が 過ぎるのを待った。
ようやく個室を 出る。
鏡の中の私は、
髪も制服も 濡れてるけど
何事もなかったような顔を 保った。
それが
ここで生きるための顔。
教室に戻っても、 誰も 何も言わない。
それが 正解なのか。
放課後
委員会の仕事で 教室に残った
私と、木村花。
机を拭いて、
黒板を消して——
提出物を揃える。
木村花は、相変わらず笑ってる。
「古西さん、これ職員室に持ってく?」
「…うん。」
声は、普通。ちゃんと出る。
木村花は
誰に対しても 同じだった。
優しくて、
気が利いて——
間違えない。
だからこそ、
あのトイレの沈黙が 頭から離れなかった。
作業が一段落した頃、
花が こっちを見た。
「…今日、大丈夫だった?」
心配そうな顔。
それが正しいつもりなのか。
その瞬間、
胸の奥に 溜まっていたものが
そのまま口に 出た。
「正しいこと してないくせに。」
木村花の手が止まる。
「え…?」
私は、花を 見て言った。
「良い人ぶんないでよ。」
声は 低かった
震えてもなかった。
責めたいわけじゃない。
泣かせたいわけでもない。
ただ
何もしなかった人が
そのあとも優しさを 配れるのが、
どうしても 無理だった。
木村花は、すぐには 何も言わなかった。
いつもの笑顔も、なかった
それでいい。
私は木村花だけを 嫌っているわけじゃない
笑ってた奴らも
黙ってた周りの奴らも
全員、同じ。
誰も 助けない
誰も 守らない
それが、この 学校。
カバンを持って、教室を 出る。
夕方の光が やけに 眩しかった。
私は 今日も
冷たいまま、生きてる。
「世間は冷たい。」
コメント
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この子のような子がこの世界にいると思うと心が痛みますが、本当にありそうだからこそこの話がすごく好きです。