テラーノベル
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朝、教室に入ると
もう何人か 来ていた。
ざわざわした空気の中で、
僕は 自分の席に向かう。
「おはよー」
先に声を かけてきたのは、村上颯太だった。
机に座ったまま 眠そうな顔で 手を上げてる。
「おはよ」
それだけの やり取り
誰にも気を遣わなくていい感じが、ちょうどいい。
授業が始まる
ノートを開いて、板書を 書く。
真面目にやってるようで
本当は 頭の半分はぼーっとしている。
颯太は途中で 欠伸して
僕の方に 肘を軽くぶつけてきた。
「なあ、今日の英語 絶対だるい。」
「知らんわ笑 寝るなよ?」
「努力はする笑」
小さく笑う
こういう どうでもいい会話が続く時間は、
一番好きだ。
昼休み
購買に 行くために、颯太と廊下を歩いてた。
途中で、空気が 変わった。
前の方で 立ち止まってる人だかり。
笑い声が、やけに 大きい。
「最近調子乗ってるよね笑 喧嘩売ってんの?」
「真面目ちゃんは大人しくしときな?笑」
聞き覚えのある声 嫌な種類の明るさ。
人の隙間から 見えたのは、古西雛子だった。
下を向いて、
制服の裾を ぎゅっと掴んでる。
必死に涙を堪えているようだった——
「…雛子さん、虐められてる。」
僕も 止まった
喉の奥が、ぎゅっと 縮む。
何か言わないと…
そんな事は 分かっている。
「先生呼ぶ?」
その言葉に、心臓が 跳ねた
一瞬、頭の中で 色んな結果が 浮かぶ。
騒ぎに なるかもしれない
矛先が こっちに来るかもしれん
何も 変わらないかもしれない——
「…今は、無理だよ。」
自分でも 情けない声だと思った。
颯太は 僕を見た
責める目じゃなかったけど、
納得もしてない顔。
「…くそやな。」
そう言って、視線を 逸らした。
僕らは そのまま横を通った
雛子さんと 目が合いそうで、
僕は思わず下を 向いてしまった。
背中が、ずっと 重かった。
教室に戻ると
さっきの空気が嘘みたいに いつも通りだった。
颯太が、僕の机に消しゴムを 投げてくる。
「パン余ってる。食う?」
「大丈夫。」
「遠慮すんなってー」
無理やり 半分押し付けられる。
こういうところが、コイツらしいけど。
放課後、一緒に 帰る
沈黙が 少し続いたあと、
颯太が 口を開いた。
「昼休みのさ」
「…うん」
「見てるだけって、しんどいな。」
「しんどい。」
「でもさ、」
「一人で抱えなくてもいいのにな。」
それだけ。答えは出ない。
でも、並んで歩く距離が
少しだけ 近く感じた。
家に帰る
「ただいま」
「おかえりー」
おばあちゃんが 台所から顔を出す。
「学校どうだった?」
「まあまあかな。」
それで終わり
深く聞かれないのが、ありがたい。
自分の部屋に入って ドアを閉める。
ベッドに座って、制服のまま動かない。
廊下の光景が、頭から 離れない。
雛子さんの顔
自分や颯太の声——
何故、止まれなかったんだろう。
颯太は 動こうとしてた。
僕は… 止めた。
怖かったんだ。
結果だけを考えてしまったんだ。
布団に顔を 埋めると
自然と 涙が出る。
泣く理由を、誰にも 説明できないから。
僕は
何かをした人より
何もできない、しない自分を 一番責めてる。
スマホが震える
…颯太から。
「明日体育ある。雨雨降れ降れ母さん 」
「草」
短い返信——
それだけで
今日を 終わらせていい気がした。
僕は一人じゃない。
でも、強くもないんだ。
その 中途半端な場所で、
今日も 生きてる。
「僕のせいで。」
コメント
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毎回出る話それぞれ読み深く、今の世界でもありそうだからこそ惹き込まれます‼️