「麗、行ってらっしゃい」
「送ってくれてありがとうー」
麗は明彦の車を降り、手を振った。
明彦は店舗に応援に来てくれるつもりだったようだが麗が拒否した。
ただでさえ、最終日の今日のピークタイムは入場制限をしようかと話しているほどなのに、明彦の集客効果で、客の数が店のキャパシティを越えたら困る。
閉店セールはそれはそれは大盛りあがりだ。
結局、昨日一昨日と朝から晩まで働き通しで、勿論、今日も朝から出勤である。
当然、家事など出来るはずもなく、夜遅くに帰ってきて朝一から出勤する麗のため、明彦がお弁当を買ってきてくれる始末である。
というのも、SNSだけでなく、複数の地元情報誌に広告を打っていたのが功を奏したらしい。
普段は別の駅の近くに住んでいる人たちが続々と来たのだ。
一日目の途中で店舗から商品が七割なくなたため、急遽、倉庫から季節の違う在庫や売れ残り品を出してきたほどだ。
それもまた次々と売れていき、品薄になっていく。
それでも廉価品のぷちシリーズは置かなかった。
確かに麗も思ったのだ。これは駄目だと。
この閉店セールはお客様に佐橋の服の良さを知ってもらうきっかけになり次につなげなければならないのだから。
疲れているので、よぼよぼと丸山ビルの従業員入り口からは入り、バックヤードに入ってすぐ、声を掛けられ麗は振り向いた。
「麗ちゃん」
「おはようございます、石田さん。いよいよ今日で最後ですね」
「……そのことやねんけどさぁ」
「はい」
なんだか言い出しにくそうな様子に、麗は意識してゆっくりと返事した。
「私、もうこれで仕事辞めてええわって思ってたんよ。元々、定年後再雇用やったし。体も辛くて、長時間働くのはやっぱり厳しいし」
うんうん、と頷くと石田は言葉を続けた。
「でもやっぱりこの仕事好きでさぁ。麗ちゃんが前言ってくれた、別の店舗とかでピンチヒッターとして働く話、まだ生きてる? 短時間しか働けへんけど」
「勿論です!」
麗は飛び上がりたくなった。疲れが一気に消える。
確かにこの店の接客は悪いと明彦が雇った覆面調査員は言っていた。
だが、それは古い価値観からアップデートできていなかったためで、本人たちがやる気にさえなってくれれば改善できる問題だったのだ。
実際、麗の目には今、彼女たちの接客は洗練されて見えている。
だから、人事部長に掛け合って本人達が望めば、ピンチヒッターとして残れないか人事部長に相談していたのだ。
喜んでいる麗に石田はホッとした表情をした。
「私だけやのうて、ほかの何人か麗ちゃんにおんなじ話しに来ると思うわ」
「わかりました。人事部長に話しておきますね」
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