コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
レジ、品出し、レジ、接客、品出し、接客と最終日は目が回るほど忙しかったが、いよいよ閉店時間が近づき、客足も引き始めた。
「いらっしゃいませ! あ、丸山社長」
この丸山ビルの持ち主である丸山社長自ら視察に来たのだろう。
孫が居るのか手に商品を持ってくれている。
「おお、佐橋のとこの社長ちゃんやないの。自ら店舗立ってたんやね。偉いなぁ」
前回と同じ子供扱いをされたが、麗は深々と頭を下げた。
「丸山ビルには大変お世話になりました。わざわざ足を運んでくださったんですか? ありがとうございます」
丸山は目を細め、店を見渡した。
「全盛期はこの店は偉い繁盛しててな。懐かしくなって足が向いたんや」
「パートさんたちから聞きました。祖母自ら接客をしていたと」
「そうそう、昔、視察に来たら麗華さんが接客しててびっくりした覚えがあるわ」
丸山がはははと笑った。
そうして麗を見つめてきた。
「ええ顔つきになったやないの、お嬢ちゃん。この仕事にプライドは見つかったか?」
「はい、お陰様で」
イヤイヤ座らされた社長の椅子だった。今も、自分があまり引っかき回してはいけないと思っている。
でも、この会社で働く人たちに会社への愛着を持ってもらうために働きたいと今は思えていた。
「そりゃよかった。引き続き、別の丸山ビルに入ってる店舗はよろしくな。須藤社長」
それだけ言って丸山は会計をし、頭を下げる麗の頭に軽くポンと手を置いて、去っていった。
そうしていよいよ、蛍の光が流れ、閉店のときがきた。
結局、パートさんたちは半分は退職。高齢の三名はピンチヒッターとして籍を残し、二名は他の店舗で働いてくれることになった。
全員退職よりはましな結果であるはずだ。
「ささ、社長、真ん中にどうぞ」
店長の言葉に、いやいや店長がと、言おうとして、やめた。
「お気遣いありがとうございます」
社長は麗だ。だから、この店を閉めるのは麗の責任なのだ。
麗はシャッター手前、ちょうど中心に立った。
閉店を惜しむ客がまばらに店の前に立っている。
写真を撮っている人までいる。
シャッターが閉まり始め、外の客から拍手を送られる中、麗の横に皆が並んだ。
地方局だがテレビも来ている。
麗は精一杯笑顔を作った。
「今日まで当店をご愛顧くださり、誠にありがとうございました」
麗が深々と頭を下げると周囲も続いた。
そうして店は閉店したのだった。