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魚が美味しくなると、私の中で秋が来る。夏まで息を潜めていた食欲が、むくむくと湧き上がる。そして秋になると、私は太る。
夏の私は不健康で、朝も昼も夜もろくに食べない。私を生かしているのは間食で食べるスイカと葡萄。BMIは15を切り、動くたびにたちくらむ。体温調節も苦手な為に、常に38度を上回る体温。頭痛眩暈はいつものことで、もう瀕死状態である。作るのも食べるのも片付けるのも全てが面倒で、そもそも食欲もない。食べる元気はないし、私にご飯を食べる価値はないし。風呂キャンセル界隈ならぬ、食事キャンセル界隈である。
夏に殺されかけながらもなんとか生きのびれば、少し涼しくなった頃、 家出していた食欲が戻ってくる。美味しそうな魚の匂いにぐぎゅるるるるると腹がなる。その魚は鮭だったり、鯖だったり、いろいろである。今年は秋刀魚だった。網で焼いた少し焦げた秋刀魚の匂い。それだけで心が躍る。一向に値段が下がらないことに、痺れを切らしたおばあちゃんが買ってきたお高い秋刀魚。 1人一尾もないので弟とおばあちゃんとさんぶんこ(弟は三分の一もいらないとぶーたれていたが)。直売所で買った大量の大根はすりおろして、秋刀魚の隣に山盛りのせる。醤油をこれでもかとかけたら、もう箸はとまらない。美味しい、美味しい、美味しい。いくらでも食える。おかえり、食欲! 加えて、米は夏まで食べていた古古古古米ではない。 祖父の友人が持ってきてくれた新米である。酸化した油の匂いもしない、みずみずしいおこめ! 美味しい、美味しい、美味しい。いくらでも食える。
秋刀魚をペロッとたいらげ、お茶碗を片手にコンロへと 向かう。沸かした湯の中に顆粒だしと醤油、塩を少々。残った大根おろしも入れてしまう。だし茶漬けの用意である。炊飯器を開けたとき、弟と目が合う。「ごめん」。 察した私は冷凍庫からご飯を出す。ついでに弟にも聞く。「いる?」「いる」。熱々の茶漬けをすすりながらも食欲はとどまることを知らない。こうして私は太っていく。