コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
師匠……つまりミューゼは魔法の教育を受けるという事になる。
ネフテリアは喜びを露わにし、両手を挙げて喜んでいる。
一方ミューゼの方はというと……
「なんかすっごいイヤそうなカオしてるな?」
「総長酷いです。あたし……あたし何か悪い事しました!?」
「いやミューゼの言い分が酷すぎない!?」
隠す事無く拒絶の反応を示している。まぁ半分は冗談だが。
そもそも激怒してネフテリアをボコボコにしに来たので、このタイミングで教えてもらえと言われても、素直に喜ぶ事など出来はしない。教えてもらう事自体は賛成なので、とりあえず嫌味な行動に出たのだった。
「はいはい、よろしくおねがいしまーす」
「うぅ……ミューゼが冷たい……」
だいたいネフテリアのせいなので、強く出る事はしない。しかし、久しぶりにミューゼに会ったせいか、立ち直りが妙に早い。
「それで、師匠っていきなりどうしたの?」
「それがな……」
ピアーニャはクリエルテスでの事で、魔法に関する部分だけをかいつまんで話した。
全体的な報告に関しては、ミューゼが怒って飛び出した時に、一応ロンデルに頼んである。物的な成果はアリエッタの絵のみ。要点の方は伝えてあるので、ピアーニャ達の主観以外は問題なく報告書を書く事が出来るのだ。
ミューゼが魔力を上手く操作出来ないでいる事を聞いたネフテリアは、納得したように頷いた。
「ミューゼの魔法はエインデル王国に限らず、かなり特殊だからね。何か違う所で不得意な事はあると思ってたけど、想像以上だったわ」
「えっ、あたし普通ですよ?」
『いやいや』
「……えぇ」
ミューゼの普通発言は、ピアーニャとネフテリアに揃って否定された。
「まず植物の魔法というのが、使い手が滅多にいないの。しかも操るなんて、私はミューゼしか知らないわ」
「わちも、みたことはないな。キリフダをもつモノはけっこういるから、キショウなジンザイとはおもっていた」
魔法以外にも、様々な世界の人種や能力が集まっている世の中である。変わった能力を持っていたからといって、変に目立つ事は無い。絵の文化の無い中でのアリエッタですら、シーカーや王族に保護こそされてはいるが、アリエッタの事を知っているその他の人々には、『綺麗で不思議な絵を描く薄幸の美幼女』くらいにしか見られていないのだ。
原理がファナリアでの魔法でしかないミューゼの能力は、周りからは『すごい便利だねー』程度にしか思われていなかったりする。
そこそこの付き合いになったピアーニャやネフテリアは、その能力の難しさと価値にはしっかり気づき、可能な限り手元に置いておきたいと思っているが。
「んーでも、おばあちゃんやお父さんも普通に使ってましたよ?」
「そうなのか? イッシソウデンなのか?」
「さぁ? 畑とかに必要だっただけですし」
「ふ~ん? まぁいい。まえにもテリアにマホウおそわってただろ? こんどからミッチリきたえてもらってくれ」
「はーい」
ミューゼは当たり前の魔法として使っていたので、その辺りは無自覚である。
魔法を教えているうちに、植物魔法がどういうモノなのか判明するだろうと考え、一旦ミューゼから植物魔法について聞くのは止めた。
「そんなわけだから、フレアみたいにセクハラとかしないで、ちゃんとマリョクのつかいかたとか、おしえてやれよ?」
「……困る事もありますけど、魔法については頼りにしてますから」
「心配しないで。絶対にわたくしがミューゼを幸せにしてあげるから」
『ちがう、そうじゃない』
今度はミューゼとピアーニャの意見が被った。
信用こそ落としまくっているが、あらゆる面で信頼はしている。現在のミューゼからのネフテリアに対する評価は、『有能過ぎる迷惑変態王女』。自分のいない間に、きちんと戸締りをした家に侵入し、欲望全開でベッドに向かわれてはこんなものである。
この後、ラッチの事を交えながら雑談していると、簡潔に資料をまとめたロンデルがやってきた。
資料を見せ、ピアーニャが補足しつつ、フレアとネフテリアに報告する。この時はフレアも真面目な顔で、補足をメモし、気になる箇所を質問、内容をしっかり把握していく。
パフィに対する変態行為のせいで印象は薄くなってしまっているが、王妃としての能力は本来申し分無いのである。
その間、パフィが真面目なフレアの事を奇妙なモノを見る目で見ていたり、ネフテリアがじわじわとミューゼの方に近づき、間にアリエッタを置かれて悔しそうな顔をしたりという事があったが、クリエルテスに関する報告は全て終了した。
「今日はこれからどうするの? 泊まっ──」
「もちろん帰ります」
言い終える前に、お誘いを笑顔で拒否。ミューゼは固まったネフテリアを放っておいて、アリエッタの手を取り、しれっとピアーニャの手を握らせた。
「ぅおい!?」
「それじゃ、帰りましょ」
(うん?)「かえるー?」
よく聞く単語に反応し、空いている手でピアーニャを立つように促している。
「ぴあーにゃ、かえる」
「お、おう?」
「あら、いつのまに」
アリエッタは「かえる」を覚えていた。
毎日会話を聞いていれば、言葉は使い方から習得する。なまじ前世の言葉を記憶している影響もあって時間はかかっているが、ミューゼ達と早く会話したいアリエッタは、きちんと聴いて学習しているのだ。
しかし、学ぶ子供がいれば、学ばない大人もいる。
「仕方ないわね。今日は帰ってゆっくり休みましょう」
ミューゼ達と一緒に動きだし、当たり前のように一緒に部屋を出ようとしているのは、ネフテリアとフレア。
ミューゼの家に帰る気満々である。
ゴチン!ゴチン!
「あだっ!」
「んきゃっ!」
容赦なく雲の拳が頭に落とされた。ネフテリアは頭を抱えて蹲り、フレアの方は完全に撃沈。2人とも、オスルェンシスとメイド達に箱詰めにされ、兵士達によって運ばれていった。
「いやあのちょっ…開けて!? ごめんなさいせめて見送りくらぃゎぁぁぁ~……」
王女の叫びは、廊下の奥へと消えていった。
ピアーニャはため息をついて、申し訳なさそうにミューゼを見る。
「ミューゼオラ。スマンがあした、ニーニルしぶにきてくれ」
「はーい」
家に帰って、数日ぶりに会ったクリムに、これでもかと言うほど甘やかされたアリエッタが、ミューゼからのおやすみのキスで限界を迎えて眠った、次の日の昼前。
「やっほーミューゼ。よく眠れた?」
リージョンシーカーのニーニル支部、リリによって案内された一室で、ネフテリアが寛ぎながら振り向いた。
昨日の出来事などなんのその。暗くした部屋の中に魔法の灯りを浮かべ、自分の場所だけを照らし、頬杖をついてグラスを傾けている。ちなみに中身はお茶である。
さらに、アリエッタ原案の着物姿で、ミューゼに見せびらかすように脚を組んで、妖艶な笑みを浮かべている。
「……すみません、お店を間違えました」
リリはそのままドアを閉めた。
「こらこらこらこら! 何で閉めちゃうんですかっ!」
が、すぐに中からネフテリアがドアを開け、抗議する。
「教育に悪い変人がいたからですよ。アリエッタちゃんが変な事覚えちゃったら、どうするんですか」
「うっ……」
チラリとアリエッタを見ると、ポカンと口を開けて、ネフテリアを見上げている。
(今の光ってたのも魔法かな? 凄い…あんなに簡単にアダルトな雰囲気を作るなんて。なるほどそうか! 僕がダンディズムをミューゼに見せれば、きっと!)
きっと…何だと言うのか。
アダルトさに魅せられてしまったアリエッタから、今の自分が女の子である事が抜け落ちてしまっていた。記憶と思考がそれぞれ異なる方向に退行してしまい、おかしな結論にたどり着いている。
(それに、大人らしさを見せれば、ぱひーの事を甘やかせるんじゃないか? いつも世話してくれてるし、それに……)
「アリエッタが私とミューゼをチラチラ見はじめたのよ……」
「変な事考えてなきゃいいけど。それともお母さんのエルさんみたいな、大人な女に甘えたいのかな?」
「それなら結構自信あるのよ」
「パフィはそうでしょうね。いや寄せて上げなくていいから」
「ん? オマエたち、ヘヤのまえでさわいで、どうした?」
いつの間にか、別の場所にいたピアーニャがやってきた。その後ろにはニーニル支部の組合長であるバルドルもいる。
「……テリアがバカやってて、部屋に入れなかっただけなのよ。ほら入るのよ」
「ほーい」
寄せていた自分の胸に注がれていたバルドルの視線を振り払うように、パフィは全員を部屋に押し込み、座らせていった。
「神聖組合長も来たんですか?」
「神聖言うなっ! ぐぬぅ……」
最後に入室してきたバルドルを見て、ミューゼが首を傾げていた。
以前アリエッタがバルドルの名前を間違えて覚えてから、たまにこうやって揶揄われるようになっていたのである。
「まぁおちつけ。シゴトのハナシもあるから、こうやってきてぇええ!? おいおいアリエッタちょっとまてええええ!」
「ぴあーにゃ、めっ」(お仕事の邪魔しちゃダメだよ)
大事な会議が始まると察したアリエッタの手によって、この中で最も偉い総長が、一番離れた席へと隔離されてしまった。
ミューゼとパフィは優しく見守り、リリは悶え、ネフテリアは大笑い。バルドルは顔を背け、必死に笑いを堪えている。
「おまえら、むぐ…アヒョえおもえへおよ……」
アリエッタにクッキーを食べさせられながら、サメ姿の幼女が睨んでいるが、迫力はもちろん皆無。部屋の中は、さらに和やかな雰囲気になっていった。
しばらくして、一通り悶え終えたリリが資料を手に、その場を仕切り始める。
「さて、本日お集まりいただいたのは、まず1つはミューゼさんの弟子入り。暇な時などに、ここの訓練場を使って、テリアに指導してもらえます。ついでに植物魔法についても何か分かれば良いですね」
「そういやお前の能力って魔法だったんだな。そうだよな、出身はファナリアって書いてあったもんな」
「はぁ……」(忘れてたのね、この筋肉)
ミューゼの訓練をする事に関しては問題は無く、必要があればネフテリアの要望で設備を整える事が決定した。珍しい魔法の使い手が、その能力をさらに高める事は、組織としても喜ばしいのである。
「続いてお仕事の話です。最近いくつかのリージョンで、体の一部が半透明で、触れる事の出来ない生物の目撃情報がありました」
『!!』
つい先日、同じ条件の生物に出会っていたミューゼ達。新たなトラブルの予感を感じて、チラリとアリエッタを見るのだった。