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── シャダルデルク ──


光と影だけが存在するこの世界、今立っている場所は分かるかい?

人も大地も表裏一体。反転すれば全てが逆転。

有は無へ、無は有へ。そして影は光へ、光は影へ。

色持ちの人には色無き世界はどう映る? 2つの世界か、それとも平面か……───




「ようこそ皆様、ここが私の故郷であるシャダルデルクのメアという町です」


オスルェンシスの案内で、影のリージョン『シャダルデルク』へとやってきたアリエッタ達。その中でも転移の塔が建てられているメアの町は、沢山の人々が行き交っていた。


「うぅ…目がチカチカする……」

「メがなれるまで、すこしガマンしろ」


空は白く、地面は黒い。建物も黒い。風景は基本的に白黒だけで構成されているモノクロームなリージョン。それが影の『シャダルデルク』である。

もちろん他リージョンと交流がある為、所々に別の色をした建造物や、色のついた服を着た人々も歩いている。


「はー……」(すごいなぁ、影絵の世界みたいだ)

《この世界を作った神って、きっと色彩感覚が無かったのねぇ》


色を司る女神であるエルツァーレマイアやその娘のアリエッタとは、完全に正反対の世界。

アリエッタは面白そうに周りを見回しているが、中にいるエルツァーレマイアはちょっと憂鬱そうにしている。彩の女神としては、気分的に相容れない世界なのかもしれない。


「それじゃあ、シスの実家に行って、そこで全部説明するわね。ずっと言いそびれてた事もあるし」

「はーい」


ネフテリアに言われ、全員でオスルェンシスの家へと向かう。

シャダルデルクにやってきたのは、アリエッタ、ミューゼ、パフィの他には、ミューゼの師匠となったネフテリアと、シャダルデルク出身の護衛オスルェンシス。

ピアーニャは指揮をネフテリアに任せ、リージョンシーカーに残った。複数のリージョンに、謎の生物が現れた事で、全体の情報整理と指揮という、総長らしい仕事をしているのだ。

やがて真っ黒な建物の前にやってきた一同は、オスルェンシスに促されて建物の表面にある白い枠の中へと通された。ドアというよりはすり抜ける壁だが、れっきとした家の入口だったりする。


「どういう仕組みなのよ……」


パフィは仕組みを気にしたが、影のアーチなので…という、シャダルデルク人にしか理解できない常識を語られるだけだった。

白い枠アーチをくぐった先は、これまでとは真逆の風景となっていた。

白い床に黒い壁と天井。急に色が逆転したせいで、ミューゼとアリエッタが小さく悲鳴をあげたが、すぐにそれが地面だと理解する。部屋の大部分には客人用かオシャレの為か、違う色の絨毯が敷かれていた。


「いらっしゃい。貴女方がエインデルの王女様と娘のお友達ね」

「はい。この町に滞在中はお世話になります」


そこに待ち構えていたのは、シャダルデルク人の女性だった。しかし……


「えっ、白い?」


外でも見た黒い人型……ではなく、全てを反転させた白い人型。その目と声からは、なんとなく優しさを感じ、驚きはしたものの不安などは感じない。

ミューゼは驚いてオスルェンシスを見た。


「えっ、白い!?」


思わず同じ事を叫んでいた。

輪郭や服は同じだが、影だと分かりやすかったオスルェンシスの黒い体が、今は真っ白になっている。

釣られて振り返ったアリエッタも、その姿を見てビクゥッと跳ね上がった。


「この反応は久しぶりですねー」

「とりあえず落ち着いて話しましょ。シス」

「はい。母さん、部屋にいくから」

「はいはい。失礼の無いようにね」

「大丈夫だってば……もう」


親子の会話を済ませたオスルェンシスは、恥ずかしそうに速足でネフテリア達を奥へと案内した。奥の黒いアーチをくぐると、同じく白い床の部屋に入り、明らかに他リージョンから仕入れたと思われるテーブルセットが置いてあった。

ネフテリアがミューゼをいやらしい手つきでエスコートして、3人を座らせた後に頬を叩かれるという事もあったが、飲み物を用意するとようやく少しだけ話が出来るようになった。


「えーっと、まだキョロキョロしてるけど、シャダルデルクについて説明するね」


まずはシャダルデルクの常識を教えて、気を落ち着けてもらおうという思惑である。


「シャダルデルクにはね、影の領域と光の領域の2つしか存在しないの。簡単に言うと、野外が光の領域で、屋内が影の領域って事ね」


地面が黒い…つまり影が物質化すると、そこは光の中に存在する世界となる。

アーチをくぐる事で反転した世界へと踏み入れると、白い地面…物質化した光に触れることが出来る影の中の世界へと変わるのだ。


「あれ? 反転したのに家は黒いまま?」

「さっすがミューゼ♪ 良い所に気が付いたわね。家はもともと影で作られて、そのまま固定化してるらしいから、表も裏も無いみたいよ」

「はぁ……」


言われても、いまいちピンとこない。実はネフテリアも聞いた事をそのまま教えているだけなので、完全に理解しているわけではないのだ。

そもそもファナリアの物理法則が通じていないリージョンなので、シャダルデルク人以外が納得する事は、ほぼ無いだろう。


「で、シスが白くなったのは、屋内である影の領域に入ったから。影に入るとシャダルデルク人は白くなるのよ」

「へぇ~」

「シスの影に一緒に入ったら見た事ある……と思ったけど、ミューゼ達は入った事無かったのね」

「そういえばそうですね」


光と影の中で色が変わる人種ということは、家の中は影の世界ということになる。地面の上に影が建つとは……などと考えたパフィだったが、リージョンが違えば常識も違うという事で納得するしかなかった。

大まかなシャダルデルクの説明を終え、なんとなく気持ちが落ち着いたミューゼとパフィ。流石にまだアリエッタは落ち着かないが、それもミューゼが抱っこして撫でてしまえばすぐに収まる。


「それにしても、やっぱりシャダルデルクは殺風景ですよね。今度壁紙でも買ってくるのもいいかも」

「それ、シスさんが言うのよ?」

「もちろんですよ。伊達にファナリア生活長くないですから」


すっかりファナリアでの暮らしに慣れてしまったオスルェンシスにとって、既に2色の世界は物足りないと思えるまでに価値観が変わっている。王城勤務なので給料も良く、実家の改装程度なら問題無く出来るので、ファナリアに戻ったら何か良い家具を探そうと固く決意するのだった。


「さて、実は大事な話があるの」


続いて、ネフテリアが真剣な顔で、次の話を切り出した。


「なんです? テリア様とは結婚しませんよ?」

「くっ……それはそれでイヤだけど……そうじゃないの」


しれっとネフテリアを拒否してみせたが、流されること無く踏みとどまった。ミューゼは心底悔しそうにしている。


「ミューゼの家に泊まっている間に伝えれば良かったんだけど、わたくし一度ハウドラントに行ったことあるでしょ?」

「そんな事もあったのよ」

「そのまま帰ればよかったのにって、心底思った時の事ですね」

「いやあの……そんな風にね、邪険にしてほしくないなーってね…思ったりするんですけどね……」

「ああ、あの事まだ伝えてなかったんですね」


ミューゼの冷たい言葉に、いきなり落ち込むネフテリア。だいたい自業自得である事は理解しているので、強く言う事が出来ない。

しかしそれでも悪い意味で止まらないのがネフテリア……というより、母方であるフレアの血筋なのかもしれない。

今はそれよりも教える事があると、気にしない事にした。反省するつもりは無い様子。


「えーっとね。じつはハウドラントで何をしてきたかと言うと、ドルネフィラーに会ってきたの」

「そーなんですか。ポリポリ」

「アリエッタ、お菓子なのよー」

「大事な事だから少しは興味持って!?」


態度はともかく話は聞いているので、ネフテリアはこのまま話を続ける事にした。




──その日、ミューゼの家から外出したネフテリアは、ピアーニャと共にハウドラントにあるピアーニャの実家に訪れていた。

先日のヨークスフィルンでの事で、何か少しでも手がかりが無いか、情報を集めに来たのだ。ピアーニャの祖父もリージョンシーカーの総長をやっていた事もあって、屋敷には本部にも無い歴史的な資料もあったりする。

しかし……


「とーさまも、じーさまも、カラダのいちぶがすけているイキモノに、こころあたりはないようだ」

「そっかー。でもスラッタルよねぇ……」

「スラッタルだったな」


リージョンシーカーで大暴れした巨大スラッタル。尾が切れて現れたのは、まぎれもなくグラウレスタに生息する小動物のスラッタルだった。

グラウレスタにそういう生き物がいるのか、それとも違うリージョンにスラッタルに似た生き物がいるのか、それを調べる為にやってきたが、手がかりは見つからない。

資料の山を眺めながら悩む2人の元に、1人のメイドがやってきた。


「お嬢様、ネフテリア様」

「ん?」

「奥様が庭でお呼びです」

「かーさまが?」

「しかも庭で?」


気分転換も兼ねて、2人は庭に向かう事にした。

そこで待っていたのは、ピアーニャの母であるルミルテと木。


「ん? もしかして……」

「ドルネフィラーか?」

「やぁ久しぶり」


木の根元から伸びている生き物の首が振り向き、言葉を発した。


「お疲れ様ピアーニャ。ネフテリア様もご苦労様です」

「ええ、ありがとう。ところで……」


挨拶もそこそこに、ネフテリアは木の根元を見る。そこには首以外にも、4本の足が生えており、上の木ごと、のそのそと動いている。見た目は木をまるごと甲羅とする亀である。

その正体は、夢のリージョン『ドルネフィラー』の中から出てきてしまった夢の生物。そして今は、神であり世界そのものでもあるドルネフィラーがその生物を媒体にし、話をしているのだ。


「まさかキミ達に会えるとは思わなかったけど、丁度良い。ちょっと困った事が発覚してね……」

「また!?」

「……またとか言わないでくれるかい? ちょっとヘコむんだが」


ドルネフィラーのテンションが、ちょっとだけ下がってしまった。


「まぁいいや。実はこの前キミに、グラウレスタに行って夢を一部捨ててきたのを調べてくれと言ったろう? その時にいくらか夢を回収してあったんだけど……」

「その1つがロンデルの夢でしたね」


ヨークスフィルンで会った時は、ドルネフィラーはロンデルの夢を使ってネフテリアと話していた。つまり、グラウレスタでその場にいた生物の夢を回収していたという事になる。


「その動物の1匹が、ヨークスフィルンでうっかり零れ落ちちゃってね」

「えっ……」

「まさかそれって……」

「スラッタルって呼ば──」

『おまえのせいかああああああ!!』


ドルネフィラーの言葉を途中で遮って、ネフテリアとピアーニャの絶叫が、雲の上に響き渡った。

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