コメント
1件
1.身近な死
その日は昼休憩のためか、姫野がデンジとパワー、そして自身のバディである早川アキを連れて出かけようとしていた。
「ハァ〜〜〜!?ラーメン屋ァ!?」
「そうだけど?」
私はコベニに押さえつけられた。
「なァんで私も連れて行かねぇんだよ!!普通私の事誘うだろ!?」
「だ〜って院瀬見ちゃんこれから任務でしょ?しかも方向真逆だし…」
「クッソ〜〜!!次は私も連れてけよ!?」
「お!いいよぉ〜!」
姫野はにっと笑い、私に軽く手を振って本部から出ていった。
そしてそのまま、姫野が帰ってくることはなかった。
姫野たちが出かけて何時間か経った。もう日も暮れかけている頃、本部に一本の電話が入った。誰も出なかったから私が出た。
私は受話器を下に落とした。
姫野が、死んだ。
2.同期
話によると、ラーメン屋で銃を持った男に胸部を撃たれたらしい。だが直接の死因はそれではなく、早川を助けるためにゴーストに全てを捧げたから死んだんだそうだ。
…不思議と涙が出てこない。
行ったら助けられたのか?行っていたら姫野は助かったのか?
いや、それよりも。
「私はついに同期が死んでも泣けないようなクズになっちまったのか…?」
姫野の笑顔が頭に浮かび、そして消えた。
次の日、休憩時間のタイミングで入院している早川に会いに行った。コンコン、と軽く扉を叩く。
「早川」
扉を開けると、当の早川はただ無言で俯いていた。長い黒髪の間から、泣き腫らして赤くなった目が覗く。私はぶっ倒れた椅子を起こして座った。
「なぁ」
早川が静かに顔を上げた。
「姫野…死んだんだってな」
「あぁ」
「私よ…同期が死んだってのに全く泣けねぇんだ」
「あぁ」
「全然…涙が出ねぇんだ…」
院瀬見は顔を伏せた。
「私もついに、人の心がなくなったんだな…クズだよ…マジで…」
早川は何も言わなかった。
「…邪魔したな。早く治れよ」
院瀬見は椅子から立ち上がり、静かに部屋を出ていった。その様子を、早川はじっと見つめていた。
3.天童ミチコ
夜。本部のエレベーターがチン、と間抜けな音を立てる。その目の前には。
「天童!?」
京都公安の天童ミチコが立っていた。
「ちょっとええか?」
誘われるがまま、近くの居酒屋へ来た。
「お前…何しに来たんだ?」
「同期…死んだんやってな」
「あぁ」
院瀬見は逸らした話にもしっかり反応した。
「マキマさんに頼まれて特異課のキャリア相談に来てん。明日新しい悪魔と契約させる奴んとこ行くわ」
「悪いが私は狼と契約破棄するつもりはねぇぞ。もちろんゴーストとも」
院瀬見が片手で頬杖をついた。
「死ぬかもしれへん言うても、か?」
天童は正座したまま院瀬見を見た。
「あぁ。最初からそのつもりで入ってんだ」
院瀬見の目は真っ直ぐ天童を見た。
「…さよか。院瀬見がそこまで言うんやったら止めへんけど。嫌われても対処せーへんからな」
「嫌われねぇから大丈夫」
自信満々な院瀬見を尻目に、天童が立ち上がって振り向いた。
「あ、奢ってな」
「ゔぇ〜〜〜!?」
院瀬見は頭を搔いた。
4.呼び出しの相手
その日、院瀬見は数年前の夢を見ていた。
任務に行ったら、既に悪魔は倒されていて。
(院瀬見ちゃん)
自分より年下の奴が倒していて。
(院瀬見ちゃん)
女の子だった。
(院瀬見ちゃん?)
中学生くらいだったか…?
あとは…なんだっけ…
「院瀬見ちゃん」
「は!?」
目の前にマキマの顔があった。突然過ぎて変な声が出る。
「大丈夫?さっきから呼んでるんだけど、ずっとヨダレ垂らして寝てたから…」
「ヨダレ…」
「嘘だよ」
マキマが真顔で言い、一歩離れた。
「その報告書が終わり次第私の部屋に来てね。大事な話があるから」
「はい」
院瀬見はマキマに内心キバを向けながら大人しく返事をした─。
コンコン、と扉をノックする。
「どうぞ」
「失礼します」
院瀬見がマキマの部屋へと入った。ここだけの話、院瀬見が誰かに敬語を使うのは結構珍しい。
「3年前の任務覚えてる?機械の悪魔の」
「あー…はい。何となく」
院瀬見が思い出すフリをした。(フリだけ)
「その時の子なんだけどね。おいで」
後ろの扉から誰かが入ってきた。足音がして隣で止まる。
院瀬見はその顔に見覚えがあった。
「…!お前は…!」
続