1.教育係
「お前は…!」
「そう、今日から特異4課に入った水無月リヅちゃんです」
「よろしくお願いします」
院瀬見は空いた口がふさがらなかった。
「院瀬見ちゃんにはこれから彼女の”教育係”をしてもらいます」
「…それってバディとは違うのか?」
院瀬見がマキマに聞いた。
「バディとは違うかな。リヅちゃんは4課に来て日が浅いからね。色々教えてあげて」
「…なるほど…」
「早速だけど、2人にはこれから任務に行ってもらうね」
─院瀬見とリヅは部屋を出た。少しの間沈黙ができる。
「お前リヅって名前だったんか」
「そこですか…」
明らかにツッコむところが違う。院瀬見はこういうところがある。
「でも意外でしたわ」
「あん?」
リヅが流暢な関西弁で話す。
「院瀬見先輩のことやからもう私の事なんて忘れてはると思いましたけど」
「それはお前嫌味か?」
2人は任務地へと向かっていった。
2.共同作戦
たどり着いた先は人里離れた廃墟だった。禍々しい雰囲気を醸し出してはいるが、悪魔の姿はどこにも見えない。
「お前嘘ついたんじゃねぇだろうな」
「ついてへんわ」
院瀬見がキッと睨み、リヅが睨み返す。
「大体マキマさんに頼まれて来てるんやから嘘もクソもあれへんやろ」
「シッ!…」
院瀬見が歩き続けるリヅを片手で制し、動きを止めた。
「なんか来るぞ…」
どこかから音がする。地鳴りのような音。壊れかけた機械のような癇に障る音。ボソボソと暗く喋る人の声。
「どこだ…前か?いや…」
院瀬見がハッとした。
「下だ!リヅ避けろ!!」
ドゴォ!!と2人が立っていた地面が割れた。間一髪で避けたところから何かが出てきたが、薄暗い上に土煙が舞ってよく見えない。
「ッ…リヅ大丈夫か!」
「大丈夫です!院瀬見先輩は!?」
「何ともねぇ!来るぞ!構えろ!!」
リヅは抜刀し、院瀬見は右手を構えた。
土煙が晴れ、悪魔の姿があらわになった。その姿からただの雑魚悪魔ではないことが容易に分かる。血を被ったような模様、2本の手からは包丁が生えていて、頭が恐ろしい程ひしゃげている。
「コイツ何の悪魔だ…?リヅ、知ってるか?」
「コイツ…ただの悪魔やないですわ」
リヅはまっすぐ前を見ながら言った。
「知ってるのか?」
「コイツは…恨みの悪魔」
「恨み…?」
院瀬見が聞き返した。
「人間が誰かに恨まれることの恐怖から生まれた悪魔です。僕でも勝てるかどうか…」
すると、さっきまで目の前にいた悪魔がフッと消えた。
「ゔァァ!!こいつ姿消しやがる!!リヅ!気をつけ…」
院瀬見が目線を戻したその時、悪魔は院瀬見の目の前に迫っていた。
「ゴースト!!」
院瀬見は右手を振りかざし、悪魔へと向けた。
しかし、ゴーストは出てこない。
「おいおい嘘だろ!?」
悪魔の突きつける拳を間一髪で避ける。と同時に、リヅが前へと出た。
「リヅ!?」
「邪魔になるので避けててください!」
リヅが持ち前の刀で悪魔を横一文字に切り裂いた。すると─
「ッグ…ヴァァ…!!」
悪魔の体がみるみるうちに膨れ上がった。リヅが勝利を確信してニヤついたその時。
「なっ…!?」
悪魔の体の膨れが止まり、元に戻り始めた。
「おい!どういうことだテメェ!!テメェの刀には毒があるんじゃねぇのかよ!!」
院瀬見が地面に伏せながら叫んだ。
「やかましい!僕もそのつもりやってん!!楽して見てるだけの奴は黙っとけ!!」
「んあ”ぁ!?テメェが避けろって言ったんだろうが!!」
ここで喧嘩になったら意味がない。院瀬見がすっと立ち上がった。
「…共同作戦で行こう」
「共同作戦!?」
リヅが悪魔の攻撃を刀で受け止めながら聞き返した。
「お前はその毒でそいつをなんとかしろ!その後は私がやる!!」
「なんとかってどうすれば!?」
「そいつ動きが速ぇ!その毒で動きを止めろ!!そしたら確実にトドメを刺せる!」
リヅは少し黙った。悔しいが、今は院瀬見の言うことに聞くべきだと判断した。
2人は同時に駆け出していった─。
3.彼岸花
そこから先は早かった。
通常よりも濃度を上げた彼岸花の毒で悪魔の動きを止める。だが耐性をつけ始めているようで、なかなか死なず、フラフラと廃墟の外へ出ようとした。
「院瀬見先輩!!」
リヅが合図をする。
「オオカミ!!」
院瀬見が叫ぶ。
何かが通り過ぎたような素早い風と、狼の遠吠えのようなものが薄く聞こえた。リヅは突風に目を細める。
次に目を開けたとき、既に悪魔は死んでいた。
4.オオカミ様
「ありがとなオオカミ。助かったぜ」
「もっと早く呼んでくれれば良かったのに…怪我はないかい?」
院瀬見がオオカミの大きな頭を撫でる。
「それより…あのお嬢ちゃんは大丈夫なのかい?」
オオカミがリヅを見る。さっきからぺったり座り込んで微動だにしない。
「おーいリヅ!大丈夫かー?」
院瀬見が駆け寄っても反応しない。
「大丈夫か?どっか怪我したか?」
「なんです…?」
「は?」
「なんですあれ!?めっちゃカッコいい!!」
リヅの目はキラキラと輝きながらオオカミを見る。
「先輩の悪魔ですよね!?狼の悪魔…ですか?」
「お前華の悪魔だろ?そんな珍しい悪魔のくせにオオカミは知らねぇんだな」
「知っとるわ!」
「知ってるんかい」
リヅが院瀬見にぐんっと近づく。
「実在しないと思てたんです…まさかホンマにいらっしゃるとは…!!握手してもろてええすか!?」
オオカミがちょんと前足を出した。
「あぁぁ…ありがとうございます…!」
こんな姿見たことがない。多分顔文字で表したら( ᵒ̴̶̷᷄꒳ᵒ̴̶̷᷅ )←こんな顔であろう。オオカミに馬乗りになって(狼だが…)オオカミ様〜と連呼している。
「オオカミ、お前触ったら相手死ぬんじゃなかったのか?」
院瀬見が腕を組みながら聞いた。
「あぁ、その話だがね。どうやら君と契約をしたおかげで呪いが解けたみたいなんだ。改めて礼を言うよ、ありがとう」
「いやそれこんな流れで言う話じゃねぇだろ…。そしてリヅ!テメェ人の悪魔に馴れ馴れしくくっつくんじゃねぇ!帰るぞ!」
「ハハハ。私は別に構わないよ」
「私が構うんだよ」
上に乗られたオオカミが優しく言い、院瀬見はそれを聞かなかった。
5.新たなる契約
2人が帰ってきたのはその日の夜だった。腹が減ったとリヅが言うので、近くのラーメン屋に寄ってきたのだ。そのせいでマキマに怒られ(任務時間にラーメン屋に行ったため)、知り合い全員に心配されたが、その間もリヅはオオカミから離れなかった。
次の日、朝早くて誰もいない部屋で院瀬見は何かを決し、受話器を手に取った。
トゥルルル…というコール音がやけに大きく聞こえる。5回ほど鳴って電話が繋がった。
「あ、悪い。私だ。ちょっとお願いしたいことがあるんだが…」
誰かに電話をする院瀬見を、遠くからリヅがじっと見ていた─。
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