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1.教育係
「お前は…!」
「そう、今日から特異4課に入った水無月リヅちゃんです」
「よろしくお願いします」
空いた口がふさがらなかった。
3年前、院瀬見はとある工場跡地に悪魔を倒しに行ったことがあった。
だが到着した頃には既に悪魔は死んでおり、代わりに小さな女の子が立っていた。
素性を聞く前に去ってしまったのでどこの誰かは分からずにいたが、頭に赤い小さなツノが生えた珍しい見た目をしていたので院瀬見は3年経った現在まで覚えていたのだ。
金髪のポニーテールに赤いツノ。見た目は当時とあまり変わっていない。動向が細く猫のような目をしているのでもしかすると人間ではないかもしれない。
「院瀬見ちゃんにはこれから彼女の教育係をしてもらいます」
「それってバディとは違う…んですか?」
気になった院瀬見は慣れない敬語でマキマに聞く。
「今は違うかな。リヅちゃんは4課に来て日が浅いからね。でも院瀬見ちゃんには今バディがいないから、そのうちそうする予定だよ。だから色々教えてあげて」
「…なるほど…」
「早速だけど、2人にはこれから相性を見るためにお仕事に行ってもらうね」
─院瀬見とリヅは部屋を出た。少しの間沈黙ができる。
「…お前リヅって名前だったんか」
「そこですか…」
明らかに聞くところが違う。もっと他にあるはずだ。
「でも意外でしたわ」
「あん?」
リヅが流暢な関西弁で話す。
「院瀬見先輩のことやからもう私の事なんて忘れてはると思いましたけど」
「それは…私のことバカにしてんのか?」
2人は任務地へと向かっていった。
2.共同作戦
たどり着いた先は人里離れた廃墟だった。禍々しい雰囲気を醸し出してはいるが、悪魔の姿はどこにも見えない。
「お前…嘘ついたんじゃねぇだろうな」
「ついてへんわ」
院瀬見がキッと睨み、リヅが睨み返す。
「大体マキマさんに頼まれて来てるんやから嘘もクソもあらへんやろ」
「シッ!…」
院瀬見が歩き続けるリヅを片手で制し、動きを止めた。
「なんか来るぞ…」
どこかから音がする。地鳴りのような音。壊れかけた機械のような癇に障る音。ボソボソと暗く喋る人の声。
「どこだ…前か?いや…」
院瀬見がハッとした。
「下だ!リヅ避けろ!!」
ドゴォ!!と2人が立っていた地面が割れた。間一髪で避けたところから何かが出てきたが、薄暗い上に土煙が舞ってよく見えない。
「っ…リヅ大丈夫か!」
「大丈夫です!院瀬見先輩は!?」
「何ともねぇ!来るぞ!構えろ!!」
リヅは抜刀し、院瀬見は右手を構えた。
土煙が晴れ、悪魔の姿があらわになった。その姿からただの雑魚ではないことが容易に分かる。血を被ったような模様、2本の手からは包丁が生えていて、頭が恐ろしい程ひしゃげている。
「コイツ何の悪魔だ…?リヅ、知ってるか?」
「コイツ…ただの悪魔やないですわ」
リヅはまっすぐ前を見ながら言った。
「知ってるのか?」
「コイツは…恨みの悪魔」
「恨み…?」
聞き慣れない名前につい聞き返す。
「人間が誰かに恨まれることの恐怖から生まれた悪魔です。僕でも勝てるかどうか…」
こいつボクっ娘なのか…と思った次の瞬間、 さっきまで目の前にいた悪魔がフッと消えた。
「ゔァァ!!こいつ姿消しやがる!!リヅ!気をつけ─」
院瀬見が目線を戻したその時、悪魔は院瀬見の目の前に迫っていた。
「ゴースト!!」
院瀬見は咄嗟に右手を振りかざし、悪魔へと向けた。
しかし、ゴーストは出てこない。
「おい嘘だろ!?」
悪魔の突きつける拳を間一髪で避ける。と同時に、リヅが前へと出た。
「リヅ!?」
「邪魔なので避けててください!」
リヅが持ち前の刀で悪魔を横一文字に切り裂いた。すると─
「ッグ…ヴァァ…!!」
悪魔の体がみるみるうちに膨れ上がった。リヅが勝利を確信してニヤついたその時。
「なっ…!?」
悪魔の体の膨れが止まり、元に戻り始めた。
「おいどういうことだ!!テメェの刀には毒があるんじゃねぇのかよ!!」
院瀬見が地面に伏せながら叫んだ。
「やかましい!僕もそのつもりやった!!見てるだけの奴は黙っとけ!!」
「んあ”ぁ!?テメェが避けろって言ったんだろうが─」
ハッと気づいた。ここで喧嘩になったら意味がない。大人な院瀬見は怒りを抑え、すっと立ち上がった。
「…共同作戦で行こう」
「共同作戦?」
リヅが悪魔の攻撃を刀で受け止めながら聞き返した。
「お前はその毒でそいつをなんとかしろ!その後は私がやる!」
「なんとかってどうすれば!?」
「こいつ動きが速ぇ!その毒で動きを止めろ!!そしたら確実にトドメを刺せる!」
リヅは少し黙った。悔しいが、今は院瀬見の言うことに聞くべきだと判断した。
2人は同時に駆け出していった─。
3.彼岸花
そこから先は早かった。
通常よりも濃度を上げた彼岸花の毒で悪魔の動きを止める。だが耐性をつけ始めているようで、なかなか死なず、フラフラと廃墟の外へ出ようとした。
「院瀬見先輩!!」
リヅが合図をする。
「狼!!」
院瀬見が叫ぶ。
何かが通り過ぎたような素早い風と、狼の遠吠えのようなものが薄く聞こえた。リヅは突風に目を細める。
次に目を開けたとき、既に悪魔は死んでいた。
4.狼様
「ありがとなオオカミ。助かったぜ」
「もっと早く呼んでくれれば良かったのに…怪我はないかい?」
院瀬見がオオカミの大きな頭を撫でる。
「それより…あのお嬢ちゃんは大丈夫なのかい?」
オオカミがリヅを見る。さっきからぺったり座り込んで微動だにしない。
「おーいリヅ!大丈夫か?」
院瀬見が駆け寄っても反応しない。
「大丈夫か?どっか怪我したか?」
「なんです…?」
「は?」
「なんですあれ!?めっちゃカッコええ!!」
リヅの目はキラキラと輝きながらオオカミを見る。
「先輩の悪魔ですよね!?狼の悪魔ですか?」
「お前華の悪魔だろ?そんな珍しい悪魔のくせに狼は知らねぇんだな」
「知っとるわ!」
「知ってるんかい」
リヅが院瀬見にぐんっと近づく。
「実在しないと思てたんです…まさかほんまにいらっしゃるとは…!!握手してもろてええですか!?」
オオカミがちょんと前足を出した。
「あぁぁ…ありがとうございます…!」
まるで推しと対面したオタクのようなリアクションだ。狼の前で手を合わせてはオオカミ様〜と連呼している。狼はされるがままだ。
「おいリヅ!テメェ人の悪魔に馴れ馴れしくくっつくんじゃねぇ!帰るぞ!」
「私は別に構わないよ」
「私が嫌なんだよ」
自分の契約している悪魔にベタベタと触られるのはあまりいい気がしない。
院瀬見は無理やりリヅの首根っこを掴んで帰った。
5.新たなる契約
2人が戻ってきたのはその日の夜だった。腹が減ったとリヅが言うので、近くのラーメン屋に寄ってから帰ってきたのだ。討伐完了報告を怠ったことに気づかずにいたため、そのせいでマキマからお叱りを受けたが、その間もリヅは狼から離れなかった。
次の日。朝早くて誰もいない部屋で院瀬見は何かを決し、受話器を手に取った。
コール音がやけに大きく聞こえる。5回ほど鳴って電話が繋がった。
「あ、悪い。私だ。ちょっと頼みたいことがある」
誰かに電話をする院瀬見を、遠くからリヅがじっと見ていた。
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