テラーノベル
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「…まじ?」
「まじだね。」
ぼく、大森元貴の隣で目の前の光景を唖然と眺めているのは、若井滉斗。
若井は、人と関わるのがあまり得意ではないぼくの唯一の友達だ。
中学2年の時に、クラスが一緒になった若井に話し掛けられた時は、ぼくとは真逆の騒がしいタイプで苦手なタイプだと思っていたのに、気が付いたら高校も同じで、今年の春に入学した大学も同じと、世間で言う幼なじみのような関係に。
そして、ぼく達が仲良くなるにつれ、いつの間にかお互いの親同士も仲良くなっており、大学入学を機に、社会勉強だと言う事で、お互い実家から通う事も出来る距離にも関わらず、強制的にルームシェアという形で実家を追い出され、4月から若井と一緒に大学近くのアパートに住むことになった。
まあ、強制的にとはいえ、最初は慣れない事も多くて大変だったけど、気が合う同士、なんやかんや楽しくやっていた。
やっていたのだけど…
「燃えてるね。」
「燃えてるわ。」
まだ5月だと言うのに、蒸し暑かったこの日の夜。
ぼく達は電気代節約の為、自室で窓を開けて寝ていたのだけど、真夜中に息苦しさを感じて目を覚ますと、目の前が灰色の煙に覆われていて、ぼくは慌てて自分の部屋から飛び出した。
すると、タイミング同じく、若井も隣の自分の部屋から咳き込みながら飛び出してきて、 お互い何事かと目を合わすと、とりあえず携帯とリュックを引っ掴み、一緒に煙が充満しつつある家から避難し、アパート前の道路に出た。
すると、同じく他の住民と思わしき人も何人か出てきていて、みんな唖然と同じ方向を眺めていた。
その異様な光景にドキッとしながらも、ぼく達も同じ方向を見ると、ぼく達の左斜め下の部屋の中で赤い炎が揺らめき、黒い煙が窓からもくもくと出ているのが目に飛び込んできた。
余りにも非現実的な出来事に、他の住民と共に何も出来ずただ眺めていると、この中の誰かが通報したのだろう。
しばらくすると、消防車と救急車がけたたましいサイレンと共に到着した。
「プロだね。」
「すごいね。」
それからはあっという間の出来事だった。
燃えている火は消防隊の人達の手によって直ぐに鎮火され、幸いな事に他の部屋に燃え移ることも無く、怪我人も特に出ず、消防車と救急車は安全を確認すると、撤退していった。
後で聞いた話によると、出火の原因はタバコの火の不始末との事だった。
「…これ、戻ってもいいのかな?」
「戻るしかなくない?」
家から脱出してから約二時間。
未だにこの出来事を現実のものと捉えられていないぼく達は、どこかふわふわした会話をしつつ、ちらほら戻りつつある他の住民に混ざりながら家に戻ったのだが、玄関を開けて驚愕した。
窓を開けたまま、そして自室の部屋を開けたままにしていたのが悪かったのだろう。
玄関からでも分かる程、自分達の部屋はもちろん、その手間に位置するダイニングキッチンも窓から入り込んでいた煙のせいで、壁や置いていた家具が自分達の部屋のドアがある方の半分程が、煤で真っ黒に染まってしまっていた。
「どうすんの…これ。」
「分かんない…。」
つい最近高校を卒業したばかりの世間知らずのぼく達にはあまりにもハードな状況に、一旦思考を停止させ、明日も講義あるしと言う事で、ダイニングキッチンの煤に染まっていない部分に、何もないよりかはマシだろうと、脱衣所に置いてあったバスタオルを敷いて横になった。
と、言っても部屋の中は煙臭くてとてもじゃないけど眠れる状況ではなかったのだけど…。
コメント
2件
やばい‼️めちゃくちゃ楽しみです(*´艸`)