テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
次の朝、結局一睡も出来なかったぼく達は、一限から講義がある為、部屋をそのままに大学に向かった。ぼくも若井もいつも使っているリュックを持って避難していた為、ダメになってしまった教科書もあるが、とりあえず今日の分の講義はなんとかなりそうだった。
後で思うと、講義なんて出てる場合じゃなかったのに、この時のぼく達はずっと動揺していた状態で、正常な判断が出来なかったのだと思う。
それでも、この時のぼく達の行動のおかげで今があるのだと思うと、人生って面白い。
とりあえず、1限を終えたぼくと若井は、次の講義が3限の為、ブラブラと校内で時間を潰していた。
特にあてもなく歩いている時、若井がぼくの腕を引っ張り、声をあげた。
「元貴、あれ!」
そう言って若井が指を差している方を見ると、校内に設定されている掲示板に貼られていた張り紙の【ルームメイト募集!】の文字が目に入った。
「これいいじゃん!」
おれ達、帰るとこないし!と名案だと言わんばかりにはしゃぐ若井に、寝不足で正常な判断が出来なかったぼくは、最初こそ乗り気ではなかったが、
【一軒家!大学から徒歩5分!家具付家賃無料!(光熱費は折半)※定員2名まで】
の謳い文句に、若井が言うように名案な気がしてきて、3限まで暇を持て余してたのも相まり、張り紙の1番下に名前と共に書いてあった『藤澤』と言う人の電話番号に電話を掛けてみる事にした。
pururururuーーー
『はい、もしもし〜?』
何コール目かにコール音が消え、喋り方に少し特徴のある男の人の声が聞こえた。
「あの…藤澤さんのお電話ですか?あの…その、掲示板の張り紙を見たんですけど…。」
『あっ!ルームシェアのやつかなぁ?』
そうですと答えると、今、大学に居るのかと訪ねられ、居ますと答えると、じゃあ直接会って話した方が早いと言うことになり、藤沢さんが居る大学内のカフェテリアに行く事になった。
カフェテリアへと少し緊張しながら移動している時、藤澤さんとの電話の内容を若井も聞けるようにとスピーカーフォンでしていた為、話してはいないが藤澤さんの声を聞いていた若井が、何かのんびりした感じの人の声だったよねと言ってきた。
確かに、若井の言う通り、声の感じからすると、のんびりした柔らかい雰囲気の人っぽいなとぼくも思った。
そして、カフェテリアに到着したところで、その予想はすぐに核心へと変わった。
まだお昼前の為、あまり利用している人も居らず、事前に聞いていた〝金髪〟という見た目の情報を頼りに若井と二人でキョロキョロしていると、カフェテリアの真ん中辺りの席に座っていた金髪の細身の男の人がぼく達に気が付いて笑顔で大きく手を振ってきた。
その笑顔が、ぼくが想像していた通りの人と言う感じで、人と関わるのがあまり得意ではない自分では珍しく、なんだか一瞬にして緊張が解れたのを感じた。
不思議だけど、直感でこの人とは仲良くなれる気がしたんだ。
「元貴君だよね〜?」
「はい、そうです。あ、こっちは若井です。」
「初めまして、若井です。」
「2人とも初めまして。僕は藤澤涼架って言います。」
涼ちゃんって呼んでね、と笑顔で自己紹介をする藤澤さんは、若井とはまた違う、ぼくと正反対の人だなと思ったけど、ぼくにはないそのふわふわとしたオーラがとても素敵だと思った。
藤澤さんが、元貴だから、もっきーだね!なんて変なあだ名を付けようとしたので、笑ってる若井を軽く小突き、ぼくは慌てて止めるように言って、元貴と呼んで欲しいとお願いした。
〝元貴〟〝若井〟〝涼ちゃん〟と呼び名が安定した頃には、着々と話が進んでいて、ぼく達の事情を聞いた涼ちゃんは今日にでも引っ越して来なよと提案してくれて、ぼくと若井は今日から涼ちゃん家でルームシェアをする事が決定した。
とりあえず、今日、ぼくと若井は四現まで講義がある為、お互い連絡先を交換し、終わったら家に荷物を取りに戻り(と、言っても家にあるものはほとんど真っ黒で使えそうな物はないのだけど)、連絡アプリに送って貰った住所に行く事になった。
ちなみに、涼ちゃんは、この大学の3年生で、3つ歳上。
3つ上なのに3年生なんだと、思っていたら、それが顔に出てたのか、3年生の年に休学して1年間アメリカに留学していたと言う事だった。
色々話がまとまった後に、ようやく親に連絡をしければいけない事に気付いたぼく達はそれぞれ自分の母親に電話を掛けた。
予想は付いていたけど、ぼくも若井もなぜもっと早く連絡しないのかと、くどくどと怒られ、それでも無事でよかったと心配され、ルームシェアに関しては決まってしまったものは仕方ないと、渋々ではあるが、それも社会勉強かと言う事で了承を得る事が出来た。
ぼくも若井も自分の母親ながら、放任主義すぎないか?と思いつつも、これから始まる新しい生活に心を踊らせた。
・・・
ピンポーーン
ぼくと若井は、昼間に涼ちゃんと約束した通りに、荷物を持って…と言っても、やはり使えそうな物はさほど無く、ぼくも若井も、昼間も持っていた常用しているリュックと、2泊3日の旅行に行く時に使うくらいのサイズのキャリーケースを転がしながら送られてきていた住所に向かった。
そして、辿り着いたお家は、事前に聞いていた通りの一軒家。
作りは平屋で外観は少し古く見えるけど、お庭に植えている植物はアメリカの西海岸を思わせるような感じで、木と木の間から少しだけ見えているリビングと思われるお部屋も白と青を基調としてお庭の雰囲気とよく合っていて、とてもお洒落な感じがした。
チャイムを鳴らして暫くすると、玄関からガタガタと言う音がして、少しだけ寝癖が付いてる涼ちゃんが顔を出した。
「ごめん〜、待ってる間にいつの間にか寝ちゃってたぁ。」
涼ちゃんは寝癖が付いてる箇所を手で直しながらそう言うと、荷物を持ったぼく達が入って行きやすいように、外に出てドアを抑えてくれた。
お邪魔します、と言いながらぼく達がお家に入ると、涼ちゃんが笑顔で、お邪魔しますじゃなくて、〝ただいま〟だよ、と言ったので、ぼくと若井はなんだか少しだけ照れながら、ただいまと言い直した。
「わあー、素敵。」
玄関に入っただけでも分かる。
ところ所置かれた小物や絵から、きっとここの元の持ち主はとても趣味がいい人だったに違いない。
東京のはずなのに、なんだか海外のお家にお邪魔してる感覚になり、胸が高なるのを感じた。
隣を見ると若井も既にこの家を気に入ったのか、目をキラキラさせながら辺りを見回していた。
荷解きの前に、疲れたでしょ?と涼ちゃんが気を使ってくれて、先ずはリビングに通してもらい、適当に座ってと言われたので、これまた趣味のいい白地に青い模様が入ったカバーが掛けられたソファーに若井と一緒に腰を下ろした。
涼ちゃんが飲み物を用意してくれている間、リビングをぐるりと見回しみる。
やはり、玄関前の木の隙間から見たお部屋はリビングだったようで、全体的に白と青で統一されていて、古く見えがちな木柱の木目の部分も逆にいい味を出しており、それが更にお洒落な雰囲気を醸し出していた。
お待たせ〜、と氷が入った冷たいお茶を持ってきてくれた涼ちゃんに、素敵なお家だね、と伝えると、嬉しそうに目を細めて、元の持ち主である、数ヶ月前に病気で亡くなったおじいちゃんの趣味で、ロサンゼルスの雰囲気が好きだったらしく、それをイメージして内装やお庭をコーディネートしていたらしいと教えてくれた。
そして、病院に入院する前は、何回かロサンゼルスにも旅行に行っていたそうで、そのロサンゼルス好きのおじいちゃんの影響で、海外留学も決めて行ったんだと言う事も教えてくれた。
涼ちゃんの思い出話に花を咲かせつつ、これからの事を確認も含め軽く話しながら少しくつろぎ、用意してもらったお茶を飲み終えた頃、まずはルームツアーをしよう!と言う事になり、案内してくれる涼ちゃんの後ろを若井と着いて回った。
…と言っても、間取りは3LDKSなので、すぐに見終わったのだけど、お風呂やトイレ、キッチンなどの水周りは新しいものに替えられており、外観からは想像出来ないくらい綺麗なもので、聞くと、この留学から戻ってきた際に、将来の事を考えたらこのままここに住み続ける事になるだろうしと言う事で、リフォームしたんだと教えてくれた。
後は、物置として使っていて、物が少しごちゃごちゃと置かれている小さい3畳ほどの部屋と、最後にぼくと若井に与えられる寝室に案内された。
ちなみに、全体の間取りは、玄関を入ると左に曲がっているL時型の廊下があり、玄関から直ぐの左側が広いLDK。
廊下を挟んで右側にトイレと洗濯機や洗面台が置かれている脱衣所とお風呂があり、廊下を曲がると、廊下の右側に物置部屋、ぼくと若井の部屋、廊下の突き当たりに涼ちゃんの部屋と言う感じになっている。
ついでに言うと、最初に通されたLDKからは、玄関側とぼく達の部屋側、それぞれの廊下に出れるように2つ扉がある仕様だ。
「ここの2つを元貴と若井で使ってねぇ。あと、この1番奥が僕の部屋だよ。」
手前の2つは収納スペース付きの6畳ほどの広さで、張り紙に家具付きと書いていた通り、ベッドと机、小さい1人がけのソファーが置かれていた。
涼ちゃんの部屋も少し見せてもらったけど、床に服が脱ぎ捨てられていたり、物がごちゃごちゃしていたりで、涼ちゃんは掃除が苦手な人なんだと察しがついた。
全部の部屋を案内してもらった後は、ぼくと若井はそれぞれの部屋(部屋割りはじゃんけんをして勝った若井が手前の部屋、ぼくが真ん中の部屋になった)で大した量のない荷物を荷解きしリビングに戻った。
「夕飯、適当にピザ頼んじゃったけどいいかなぁ?」
「うん!」
「今日は初日なので、僕の奢りですっ。」
リビングに入ると、まだ若井の姿はなく、涼ちゃんの問いかけにぼくは返事をしながら最初に座ったソファーに腰を下ろした。
頼んでくれたピザは奢りだと言う涼ちゃんに、悪いよ!と返すと、お兄さんに任せなさい!と涼ちゃんはピースをしてニコッと笑った。
しばらくすると、若井もリビングに入ってきたので、夕飯はピザだよ、と教えると、やったー!と声をあげて若井は喜び、そんな若井を見て涼ちゃんは楽しそうに笑っていて、そんな目の前の光景が理由はないけどなんかいいなーと思い、ぼくも目を細めた。
数分後、涼ちゃんが頼んでくれたピザが到着し、ダイニングテーブルに移動して、ルームシェア記念日と称して、軽くお祝いムードで、初めましてとは思えないほど、楽しい夕食となった。
食事が終わり、3人で片付けをしている最中、若井がキッチンで洗い物をしている涼ちゃんに話し掛けた。
「てかさ、本当に家賃タダでいいの?」
若井のその問いかけは、ぼくもずっと気になっていた事で、ここに来る前は、家賃がタダと言う事は実は家賃を取れないほどのボロ屋なんじゃないかとか、よく考えたら家賃タダなんてそんな上手い話あるか?!と若井と話していたので、お洒落で綺麗な内装に、まだ数時間しか知らないけど、涼ちゃんもいい人過ぎるほどいい人で裏があるようには思えないし、なぜ家賃がタダなのか聞きたいと思っていたところだった。
「うん!もちろんっ。」
若井の問いかけになんの迷いもなく、笑顔でそう答える涼ちゃん。
しかし、若井はその笑顔の裏に何かあると思ったらしく、こんないい家がタダなんておかしい、と食い下がると、涼ちゃんは、やっぱそう思うよねぇ〜と言って困ったような笑顔を見せた。
涼ちゃん曰く、張り紙を出したのは一ヶ月前らしく、張り紙を出してからぼく達の電話以外、一回も連絡が来る事はなかったと言う。
そんな悪い条件ではないはずなのにと、友達に相談したところ、一軒家で家賃無料は怪しすぎるだろと笑われてしまったそう。
それで、一瞬、家賃有りにするか悩んだそうだが、お金が欲しい訳じゃないから、家賃有りはやっぱり違う気がして、そのままの条件で募集していたとの事。
「…涼ちゃんはなんでルームシェアしようと思ったの?」
それじゃあ、そもそもなぜルームシェアをしたいと思ったのか気になったぼくは、若井と涼ちゃんの会話に割って入った。
「うーん。簡単に言ったら寂しかったからかなぁ。ほら、僕、一年間海外に留学してたでしょ?留学中は、ホストファミリーにお世話になってたんだけど、そこが7人家族とわんちゃん二匹居る大家族だったの。」
それから涼ちゃんはルームシェアをしようと思った経緯を詳しく話してくれた。
実家は長野で、大学在学中はこの家から通っていたのだけど、おじいちゃんが亡くなって1人になり、海外での人が居る生活が恋しくなった事。
大学に復学したのはいいけど、大学の友達は皆4年生に進級し、既に就活の準備で忙しかったり、一年のブランクでせいで、以前のようにあまり仲良く出来なくなってしまった事。
新しい友達を作ろうにも、そんなにレベルの高い大学ではないので、浪人してまで入学する人は居らず、周りは年下の人達ばかりで、涼ちゃんとしては年齢なんて気にしていないが、周りは急に現れた年上に警戒して中々友達も出来ずに居たという事…
「だから、ルームシェアをしたら友達が出来るんじゃないかと思ったんだよね。」
涼ちゃんは最後にそう言うと、照れくさそうにへへっと笑った。
「そっか。そういう事なら。」
涼ちゃんの話を聞いて、納得したのか若井はそう言うと、なんか疑っちゃってごめんと謝った。
そもそも、誰とでも仲良くなれるタイプの若井なのに、涼ちゃんに対しては最初からあまり好意的な態度をとって居なかったのが実は気になっていたのだけど、嫌な態度を取ってしまった事をちゃんと謝っていたし、昨日大変な事が起きたし若井も疲れてるのかなと思い、気にしない事にした。
「全然だよ!怪しまれちゃうのも当たり前だと思うし!てか、2人共昨日もあまり寝れてないって言ってたし疲れてるよね?僕の話に付き合わせちゃってごめんね。お風呂先に入っていいし、片付けはいいから早く休んでっ。」
涼ちゃんは色々聞いてしまったぼく達に嫌な顔をせず、逆に謝り、更には気まで使ってくれた。
正直言って、お腹もいっぱいで疲れと眠気がピークにきていたぼく達は、涼ちゃんのお言葉に甘えて、お礼を言うと、先にお風呂に入り、その日は早めに休む事にした…
コメント
2件
ええめちゃくちゃほわほわな感じでラブです…💘激しいのも最高ですが…笑笑笑笑