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第十八話・続「声にできない」
夜景の光が、滲んで見えた。
それが街の光なのか——
自分の涙なのか、もう分からない。
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高橋佳は、少し先に立っている。
背中だけが見える距離。
肩が、かすかに震えている。
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(……泣いてる)
分かってしまう。
あの人が、声も出さずに泣く時の癖。
昔から、知っているから。
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「……っ」
山本美憂の喉が、ひくりと動く。
声が出そうになる。
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(ダメ)
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両手で口を押さえる。
強く。
震えを止めるみたいに。
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でも。
涙は、止まらない。
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(なんで……)
(なんで一人で……)
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さっき見た光景が、何度も浮かぶ。
遊園地。
ゲームセンター。
喫茶店。
全部、一人で。
全部、静かに見つめて。
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(……そんなの)
(寂しすぎるよ)
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「……っ、ん……」
漏れそうになる声を、必死に押し殺す。
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隣。
小太郎も、同じだった。
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目元が赤い。
歯を食いしばっている。
拳を握りしめている。
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それでも——
声だけは、出さない。
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「……っ」
小さく息を吸う音。
それすら抑えようとしている。
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(……きつい)
小太郎の中にも、確かに感情があった。
悔しさ。
やるせなさ。
そして——
どうしようもない現実。
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でも。
それ以上に分かっている。
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(今、声かけたら)
(全部壊れる)
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だから、何も言えない。
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美憂の肩が、大きく震える。
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小太郎は、そっとその肩に手を置いた。
強くじゃない。
ただ、そこにいると伝えるように。
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「……っ」
美憂は、さらに強く口を押さえる。
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(……ごめん)
(ごめん、佳)
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心の中で、何度も繰り返す。
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(行きたい)
(抱きしめたい)
(名前呼びたい)
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でも——
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(できない)
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それが、佳の選んだ形だから。
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佳は、夜景を見たまま動かない。
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何かを呟いている。
でも、聞こえない。
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ただ一つ分かるのは——
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その言葉は、きっと。
美憂に向けたものだということ。
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「……っ……」
涙が、地面に落ちる。
音はしない。
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静かな夜。
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三人とも、そこにいるのに。
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誰一人、言葉を交わせない。
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泣いているのに。
声を出せない。
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その時間は、あまりにも静かで。
あまりにも残酷だった。
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