あー、しくったな。いつもより早足で廊下を歩きながら、寝不足のせいで重い目を瞬かせる。…昨日は、本当に色々あったから。
「…んじゃ、これから恋人としてよろしくな、ショッピくん」
そう言って微笑んだ先輩の顔が脳裏に浮かんで、思わず舌打ちをした。
…あの後先輩は、予定があるだのなんだの言って、早々に屋上から去ってしまった。俺は彼がいなくなってからもしばらく呆然としていて、最終下校のチャイムがなるまで屋上にいたままだった。階段を降りて、校門を出て、家に帰ってもまだ現実味を帯びていなかった言葉が、その日の夜にベッドに入った途端にじんわりと脳を侵食してきて。
Q.え、俺、コネシマ先輩と付き合ったってこと?なんで?
A.俺が告白したからです。
いやいやいや!でもさあ、まさか受け入れられるなんて思わへんやんか!というか、そもそも嘘やってバレたら、爆笑されるかちょっと怒られるかして、それで終わりやって思ってたのに。
「…嘘?」
「…それで、俺にしたん」
あんなに冷えた先輩の顔を見たことがなくて、怖い、と思ってしまった。……正直、悪ふざけが過ぎたって、自分でも思う。動画を撮るまでしたのが先輩の癪に障ったのだろうか。…今からでも、もう一度謝れば許してもらえたりしないかな。このまま訳もわからずに、恋人関係?を続けていくのなんて嫌だし。
あー、というか、もう忘れてくれてへんかな。なんで先輩が俺と付き合うだの言い出したのか、その真意は分からないが、恐らくお灸をすえるつもりだったのだろう。それで俺が動揺してるのを見て楽しむつもりやったんやろな。…うわ、なんか腹立ってきた。なんやねんあの人。乙女(笑)の純情を弄びやがって!
そこまで考えたところで、やっと教室に付いた。1年の教室は一番上にあるから、毎回階段を上がらなければならないのが面倒だ。誰かエスカレーターとかつけてくれへんかなー。
若干建付けの悪い教室のドアを、いつものように音をたてて開けると、途端に教室中の視線が集まる。
「…?」
なんか今日めっちゃ見られるんやけど、俺なんかしたか?
静まり返った教室に居心地の悪さを感じながらも、俺はそそくさと自席につく。同じ中学だったチーノは別のクラスやし、休み時間はほぼ睡眠に費やしているので、同じクラスに仲のいい友達などいるわけが無い。そもそも作ろうともしてない、人間関係増やすんとかめんどいもん。俺にはあの人らがおれば十分や。
1限は英語なので、一応聞いておくかと思い、教科書を机に広げる。あーでも眠いわ。やっぱ寝てええか?
「ねえねえ」
今日も1限から7限まであると思うと憂鬱な気持ちになる。勉強は得意な方だが、退屈な授業を1時間近く受けなければならないのが嫌だ。テストで点取れさえすればええんやし、今回もゆっくり寝させて頂くとするか。
「ねえ、塩戸くんってば!」
「…何すか」
うるさいな、何やねん。スカートの短い女子2人が、いつの間にか俺の机の前を陣取っていた。もちろん話したことなどない。
「あのさー、ちょっと噂?で聞いたんだけど」
「えー、ユイそんな急にいくの!?」
「ちょっと黙っててよ、いいでしょ別に」
俺は掛け時計をちらりと見やる。もう少しでSHRが始まるのだから早くしてほしい。…ところで、さっきから教室中の視線がこちらへ集まっている気がするのは気のせいだろうか。若干の苛立ちと疑問を懐きつつ、欠伸を噛み殺して話を聞いていたのだが。
「塩戸くん、捏島先輩と付き合ってるってホント?」
「ッ…………、は?」
その言葉を聞いた途端、眠気がどこかへ吹き飛んで、俺は思わず立ち上がる。椅子がガタリと音を立てた。
「な、………や、ち、違う、けど」
「えー、隠さなくてもいいのに!」
「そうそう!今どき同性だからって気にすることないよ!いいと思う!」
「ミユは黙ってて」
「ええー?」
嘘やろ、なんでこいつらが知っとるんや。昨日の今日やぞ?あのとき少なくとも屋上には誰もいなかったはずだし、俺とコネシマ先輩が二人で一緒にいたのも、高校に入ってからそう多くはない。なのに、なんで。
「…あ、ほんとに聞かれるのやだったカンジ?」
「ねーほら!ユイってほんとに無神経!」
というか、コネシマさんと大して接点のなさそうなこの二人が知っているなら、もしかしてすでに、学校中が知っているのでは。先程からやけに視線を浴びると感じていたのも、きっとそのせいだったのだろう。
「…あの、それって、…何で」
「ん?ほら、捏島先輩のインスタのストーリー!」
「ストーリー…?」
ほらこれ、と言って彼女が差し出した画面をまじまじと見る。そこに写し出されていたのは、コネシマ先輩が俺の肩に腕を回している写真…に、白い文字で書かれた、『恋人できた』との言葉。
「な、…っ」
「先輩の隣の子、やっぱ塩戸くんだよね!?見覚えあったし、かっこいいからすぐ分かっちゃった〜」
なんだこの写真、いつの間に。微妙な画質の悪さからして、恐らく動画のスクリーンショット。動画、動画…。
「撮っとるやろ」
…ああ、絶対にあのときだ。俺のスマホを奪い取ってなにやら操作していたのは、動画を自分の端末へ送ってたからやったんか。クッソ、ほんまにあのクソ先輩は…!
食い入るように画面を見つめていると、不意にチャイムが鳴った。
「あー鳴っちゃった!じゃまたねー、てか今度普通に話そ!」
「ユイが塩戸くんみたいなイケメンと仲良くなりたいってー」
「あんたはほんとに黙って」
二人が席へ戻っていくのを横目に、俺はふらふらと席につく。せっかく寝ようとしていたのに、完璧に目が冴えてしまった。これじゃ柄にもなく優等生になってまうやん。自分の端末で開いたインスタグラムで、せめてもの抵抗にと、先輩のストーリーにバッドボタンを送った。
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次はknsm視点やと思います^_^閲覧ありがとうございました!
コメント
8件
乙女(笑)が好きすぎてしばらく進めんかった𐤔𐤔𐤔𐤔
長文失礼します!! なんかもうknさんみたいな感じの愛(?) めっちゃ好きなんですが? shaさんとロロロはなんか ロロロがちょっと気まずそう...(最高 shaさん気づいたらどんな 反応するんだろ...気になりますね(悪) knsyp最高に好きな感じの進み方してて 尊いですウヘԅ( ¯ิ∀ ¯ิԅ) 続き待ってます!!