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セドリックさんが用意してくれた紅茶とシフォンケーキを頂きながら、私とリズは会話に花を咲かせた。紅茶は昨日私が飲ませて貰ったのと同じ物だそうだ。渋みが少なくあっさりとしていて、シフォンケーキにもよく合う。レオンのせいで味も香りも全く楽しめなかったからなぁ。詳しく思い出すとまた羞恥に襲われるので、その記憶は無理やり頭の隅っこに追いやった。穏やかで優しい時間が過ぎていく……


「クレハ様がお召しになっているドレス……とてもお似合いですよ。王妃様のお見立てだそうですね」


「ありがとう。うん、でも……ちょっと量が多過ぎてね。王妃様のお気遣いはとても嬉しいのだけど」


「ベルナデット様はクレハ様を着飾るのが楽しくて仕方がないのでしょうね。大変だとは思いますが、どうか王妃殿下のお好きなようにさせてあげて下さい」


「王妃様のお気持ち分かります。クレハ様はもうちょっとお洒落をなさっても良いと思いますから」


「ドレスが嫌いなわけじゃないのよ。だってこんなヒラヒラした服じゃ動きづらいし、汚れるのが気になって思いっきり走れないじゃない」


「またそんな事おっしゃって……私はクレハ様のそういう活発なところ好きですけど、服装に関しては考えを改めて頂きたいですよ。前にお屋敷のお庭で継ぎの当たったズボンで走り回ってるのを見た時は目を疑いましたから。どこであんなの手に入れたんですか」


「ウチに働きに来てるマルクっていう男の子がいるでしょ? その子がサイズも合わなくなったし、破れたから捨てるって言ってた物を貰ったの。穴を塞げばまだ穿けるし、これなら汚しても大丈夫だと思って」


「クレハ様……流石にそれは、私もどうかと……」


セドリックさんもリズもカミルみたいなこと言ってる。屋敷の敷地内だし、お客様に見せるわけでもないんだから良いじゃないか。ここから更に波及して他にも色々とお小言を頂きそうな気がするので、別の話題を振ろう。


「そっ、そういえば……リズは最近カミルに会った?」



カシャンッ!



「申し訳ありません。手を滑らせてしまいました」


室内に食器同士が触れ合う音が響いた。セドリックさんが手にしていたティースプーンをお皿の上に落としてしまったのだ。彼がこんなミスをするなんて……どうしたのだろう。


「えーと、カミル様ですか……私はひと月以上お会いしていないですね」


「そっかぁ……この前来た時に顔色が悪かったから。ルクトの旅行も予定より早く帰って来たみたいだし、ちょっと気になっていたの」


「カ、カミル様がこちらに……王宮にいらしたんですか!?」


「うん、フランツおじ様と一緒にね。レオンがリズに会いに行っていた日よ」


カミルの話を聞いたリズは目に見えて落ち着かない様子になり、物言いたげにセドリックさんの方へ何度も振り返る。カミルが王宮に来たのがそんなに意外だったのかな。セドリックさんは、そんなリズに向かって一言『承知しております』と言った。何をだろう……カミルが王宮に来たという事かな。私と彼がどんなやり取りをしたのかも知っているのだろうか。あの場にいなかったセドリックさんが、一体どこまで把握しているのだろう。


「あの……大丈夫でしたか?」


「大丈夫って?」


「えっと……その、クレハ様の今のお立場を……つまり、レオン殿下とのご婚約について、何か言われたりは……?」


彼女にしては珍しく歯切れが悪く、言葉を濁したような物言いだ。けれど、流石リズ……。カミルが私に会いに来た理由を察している。リズも私と一緒でカミルとは幼馴染なのだ。だから、彼の考えそうなことが何となく分かったのだろうか。


「私がどう思っているか……とても気にかけてくれたよ。婚約が嫌なら無理して受けることはない、断っても大丈夫だって言ってくれて」


「ひえっ……」


リズが小さく悲鳴を上げた。カミルの言葉に驚いたんだろうな。セドリックさんも眉を顰めている。私自身も政略結婚なんて珍しくないと割り切っていた。しかも、お相手は王太子殿下だ。こちらから断るなんて想像もしていなかった。


「クレハ様、それに何てお答えになったんですか?」


「無理なんてしてないし、レオンとの婚約嫌じゃないよって、ちゃんと言ったよ」


その後、カミルと口論になって喧嘩をしてしまった事も伝える。私なりにカミルを安心させようとしたけれど、それは上手くいかず、彼を酷く怒らせてしまったのだ。


「レオンには秘密にしておいてね。フランツおじ様と約束したし……それに、喧嘩して泣いちゃったの知られると恥ずかしいから」


「……言われずとも怖くて無理ですよ。それにしても随分はっきりと断言なさったのですね。カミル様ショックで泣いてないといいけど……」


「違うよ。泣いたのは私の方だって」


「あっ、いえ……そういう事では……。クレハ様、やっぱりカミル様のお気持ちに気づいておられなかったのですか」


「カミルの? 私のことをとても心配してくれているのは分かっているよ」


「……意外と鈍かったんですね、クレハ様」


「レオン様に直球ストレートでいけと言った……俺の助言は間違っていなかったんだなぁ」


ふたりはそれぞれ何かに納得したように頷いている。私に対して呆れているような反応を見ると、やはりカミルを怒らせてしまった原因は私の方にあるということなんだろうな。


「ねぇ、リズ。私どうしたらいいと思う? おじ様は気にするなって言って下さったけれど……やっぱりもう一度会って、カミルと話すべきよね」


カミルといつまでもぎこちないままでいるのは嫌だ。私のせいで彼があそこまで怒ったのなら、謝りにいかないと……。でも、何て言って謝ればいいのだろう。私のせいだと分かってはいても、その理由が思い至らない。


「カミル様のお父様がおっしゃるように、クレハ様が気に病む事ではありませんよ」


「でも……」


「今はまだカミル様も頭に血が上っていて、冷静にお話しできないかもしれません。喧嘩が更に悪化してしまう可能性もありますから……しばらく時間を置いた方がよろしいでしょう」


「そうですよ! 落ち着いたらきっと、カミル様の方からクレハ様に会いに来て下さるはずです。それまで待ちましょう」


つまり、私の方から余計な事はするべきではないと……。リズとセドリックさん……示し合わせたかのように息ぴったりだな。


「うん……カミルが来てくれたら、今まで通りに仲良くすれば良いよね。大事な友達だもの」


「クライヴ隊長はこれに立ち合ったのか……なかなかにしんどいな」


「セドリックさん、何かおっしゃいましたか?」


「いいえ」


セドリックさんはご婦人方がうっとりしてしまうような、素敵な笑顔で返事を返した。これはひょっとして、はぐらかされたかな……これ以上聞いても、おそらく教えてはくれないだろう。

ふたりにカミルの事を相談できて良かったと思う。レオンには言えないし、私ひとりで突っ走っていたら、いよいよカミルとの仲が修復不可能なものになっていたかもしれない。大人なセドリックさんと、しっかり者のリズ……このふたりが口を揃えて様子を見ろと言っているのだから、きっとそれが正解なんだろう。

リトライさせていただきます!〜死に戻り令嬢はイケメン神様とタッグを組んで人生をやり直す事にした〜

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