コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「素敵な会社だもん。たくさんの人が幸せになれる商品をこんなにも作り出してる」
そして今、どういう巡り合わせか、透子とこの会社で出会えた。
「透子もそういうのに憧れてこの会社に入ったの?」
「うん。だってさ、自分の手掛けた商品を手にしてたくさんの人が幸せになったり笑顔になってくれるって素敵なことじゃない?」
「透子らしいね」
「学生時代からさ、ここの会社の商品が好きで、お金貯まったら少しずつ集めていってたんだよね。だからこの会社で働けた時も、今度は自分がその商品を手掛けていけるってなった時もホント嬉しかった」
透子は少女のようにキラキラとした瞳で嬉しそうに話す。
そんな姿が、その学生時代の透子を思い浮かべられて、そんな風に親父は夢を与えている商品を作る為に、ここまで大きくしたんだなと嬉しくなった。
透子に出会うまでは、オレと母親だけが悲しい思いをして犠牲になったのだと思っていた。
だけど、もしかしたら、親父もここまでの会社にする為に、オレの知らないところで、いろんなことを犠牲にして我慢して、ツラい思いをしてきたのかもしれない。
今までのオレは、そんな風に一度も考えたりしなかった。
自分を守ることだけ考えて、親父の立場になって考えようともしなかった。
だけど、ある時、昔の親父と過ごした想い出が蘇ったことがあった。
きっと多分、あれは会社をまだ立ち上げ始めた頃。
会社で作った商品を家に持って帰って来て、オレと母親に嬉しそうに見せてくれたことがあった。
その時の母親は、すごく嬉しそうで、幸せそうで。
あぁ、親父は母親を笑顔に出来る幸せなプレゼントをたくさん作っているサンタさんみたいな人なんだと、小さいながら思っていたのを思い出した。
だからこそ、オレは二人の別れが悲しかったのかもしれない。
あんなに母親を幸せそうに笑顔に出来るのに、なんでその笑顔を手放すんだろうって。
どうしてもっと幸せにしてあげないんだろうって。
小さいながらも、その時は確かにオレが憧れていた幸せな愛がそこにはあって。
本当はそんな二人の幸せそうな姿を見ていることが、オレにとっても幸せなことだったから。
オレもいつかそんな相手に巡り合いたい、二人みたいになりたいって、そう思っていたこともあった。
なのにそんな二人が離れることで、オレは永遠の愛なんて存在しないのだと知った。
あんなにも幸せそうにしていても、その幸せも愛情も続かないのだと。
信じた愛がいつか無くなるかもしれないことを、いつからか小さいながらオレの胸に刻み付けられて、誰かを愛することが、きっといつの間にか怖くなった。
だけど、オレは透子と出会った。
そこまで愛することにも幸せになることにも、後ろ向きだったオレを、たった一人、そんなオレを救ってくれた人。
研修の時に出会った時は、きっとほんのささいなきっかけ。
そこで透子はがんじがらめになっていたオレの考えを、光を与えて優しくほどいてくれた。
透子に出会って、透子の言葉を聞いて、ずっと重かったオレの心がスッと軽くなった気がした。
だけど、それから修さんの店で出会うことが増えて、オレの心を軽くして救ってくれた透子が悲しんでいる姿を見ることが、どうしても耐えられなくなった。
誰かに光を与えられる人なのに、自分はどうしてそんなに光を感じず悲しんでいるのか、そしてそれからもずっと一人で強がっているのか。
そんな透子をいつからかオレは助けたいと思った。
笑顔になってほしいと思った。
幸せになってほしいと思った。
そして、いつからか、オレがそうさせたいと思うようになった。
だけど、そんな風に出会った透子は、何の運命か、オレと出会う前から親父の作った商品で幸せになっていて、そしてそれがきっかけでこの会社に入ってくれた。
「そっか・・。そんな前から透子もこの会社の商品に関わってたんだ」
「ホントだね」
「じゃあ、オレ達はそんな前から繋がってて出会う運命だったってことか・・」
「そうだね」
「そっか・・。じゃあ、親父がこの会社を作ってくれたことで、オレは透子に出会えたってことか・・・」
「ホント、だ・・。それ、すごいね」
「なんなんだよ。やっぱオレ親父に頭上がらないじゃん」
そしたらオレの今までの人生すべて意味があったのかもと、今はそんな風にも思える。
「あのネックレスも、私にとってはこの会社の商品と同じくらい力をもらえて勇気もらえたモノ」
「あれ・・。あっ・・そっか。マジか。そんなところも・・・」
透子が何気なく言ったその言葉も、今のオレには運命さえ感じる言葉で。
オレが後ろ向きになっていたその時の時間が、今のこの透子との幸せに繋がっていたのかもしれないと思って、また胸がいっぱいになる。
「ん?」
「いや・・こっちの話」
透子もいつかこのことを知ったらどう思うだろう。
いろんなカタチで実は繋がっていて、ホントにオレたちは運命の相手かもしれないって、透子もそんな風に喜んでくれるだろうか。
「でもさ。樹がそうやってご両親のために尽くして来たことがさ。こうやってどこかに繋がってるんだよね。樹がちゃんと裏切らずにいてくれたから、私は樹と出会えた」
「そっか・・・。違う道をオレが行ってたら、透子には出会えなかったってことか」
確かにオレが逃げずにこの道を歩んで来たことで、透子に出会えた。
もし少しでもオレは違う道を歩んで、この会社に入ることも選んでいなかったら・・・。
きっとオレは透子に出会えていなかった。
「うん。多分ね。年齢も環境もこんなに違う樹と私では、多分この会社でなきゃ交われない関係だったと思う」
修さんの店で、もし出会えていたとしても。
きっと他人のまま、お互い違う時間を過ごして、すれ違ったままでいたかもしれない。
「こわっ・・。透子と出会ってないオレとか想像したくないんだけど」
透子と出会えない自分なんて考えられない。
そんなの考えたくもない。
「だからさ。どんなことでも今そこにいる意味ってあると思うんだよね」
その時は気付かなかったけれど、多分オレは今この状況に導かれた。
だけど、オレの中で、透子と出会わないことはありえないことで。
こんなにも運命を感じる透子とは、きっとどんな形でも出会える気がして。
「でも・・・。多分オレは今みたいな状況じゃなくても絶対透子探し出して出会ってると思う」
「フフッ。それ笑い飛ばしたいとこだけど、偶然。私もそう思う。樹とはなんかどんな形でも出会えるような気がする」
「でしょ? やっぱ気合うじゃん」
「だね」
きっと今はもうオレだけじゃなく、透子もその運命を感じてくれている。
ホラ、やっぱり運命の相手なんだよ、オレたちは。