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「だからさ。とりあえず今度のプロジェクトで、なんとかもっと業績も利益も上げて親父に認めてもらうきっかけにしたかった」
「だからプロジェクトにあんなに意気込んでたんだ」
「そう。オレもこの環境から逃れられないなら、この環境を嫌がるんじゃなくて居心地よくするしかないのかなって。とにかく今はこのプロジェクトでもっと自信をつければ親父の前でも堂々といられると思うし。まず自分を好きでいれることが第一条件だからさ」
「うん。自分に自信を持って自分を好きでいれることが一番」
まず今オレに出来ること。
オレだから出来ること。
オレしか出来ないことを、今はこの会社で見つけたい。
透子がいてくれることで、今はその意味を見出せている。
今以上自信をつけて、親父の前でも透子の前でも堂々とした自分になって、自分を好きでいたい。
「でさ。さっき病室まで案内してくれたのが親父の秘書の神崎さん」
そして神崎さんの存在を改めて透子に伝えておく。
「あの人仕事もすごい出来て昔からずっと親父のそばで支えてくれてさ。オレの兄貴みたいな存在なんだよね」
「そっか。そんな素敵な人近くにいてくれたんだ」
「うん。あの人はずっと昔からオレの事も面倒見て来てくれたからさ。何でも知ってる人」
「頼もしい人にちゃんと支えてもらえてるんだね。会社も樹も」
「あの人に随分オレと親父の関係も取り持ってもらったからね」
「じゃあお父さん同様頭上がらない存在だね」
「確かに」
神崎さんは、唯一オレを見放すこともなく、ずっと見守って力になってくれた人。
バイトしだして、修さんも、兄貴みたいに慕ってる存在だけど、神崎さんはまた違う、本当に昔からいろんなオレの力になってくれて、こまで引き上げてくれた人。
だからこそ、さっき病室で話した神崎さんとの会話は、オレにリアルに響く。
神崎さんから伝えられたその言葉は、これからのオレの人生を大きく動かす言葉だということがわかった。
「でも。多分この先オレ、今のプロジェクトしばらく関われないかもしれない」
「え?」
「親父がこういうことになった以上、社長の代わりを誰かがやらなくちゃいけなくて。これからしばらくオレが出来る範囲でそっちに関わることになった」
「あっ・・そっか・・。そう、だよね。そういうことになるのか」
「神崎さんの話によると、親父ちょっとこうなること予測してたらしくて」
「えっ? もう前にわかってたってこと?」
「うん。親父自身、不調感じてたらしいけど、神崎さんだけはそれ見てて。病院にも行けって言ってたらしいんだけど、忙しくて行かなかったらしい」
「そこまで・・・」
「だからさ。もし自分に何かあった時は、オレに後は任せろって伝えてたみたいで」
まさかの言葉だった。
もしいつか親父に何かあったとしても、きっとオレには頼ることはないだろうと思っていたから。
今の会社でどれだけ業績を上げても、特にそこには触れることもなくて。
親父が興味ないのか、知ることがないのか、それとも認めたくないのか、どう考えてるのかがオレにはずっとわからなくて。
だけど、オレは自分を好きでいる為、いつか認めてもらえる為、そして透子と一緒にいられる為に、がむしゃらにオレは頑張って来た。
当然会社でも甘やかしたくなくて、オレの存在も親子だという関係を、親父は明かすこともなかった。
オレもそれで甘えること、特別扱いされるのも嫌だった。
なのに、今、親父はこういう状況になって、会社を維持する為に復帰出来るまでオレに任せると言った。
それが正直、今の親父にとって、どういう意味なのかはわからない。
ただオレを試したいのか、それともただ近くでそういう存在だから納得出来ないけどさせるのか、それとも認めてくれているからなのか、どれなのかはわからない。
だけど、どんな理由であれ、実際会社は社長の親父が倒れることで、支障が出ることは明らかで。
その立場として、オレが出来ることがあるのか、正直わからないけど。
でも、今のオレでやれるだけやってみたいと思った。
どんな形であれ少しでもオレを認めてもらいたいと思った。
「そうなんだ・・。でもそれ、今までの樹の仕事ぶり見て、樹のこと認めてくれてるってことじゃないの?」
「さぁ・・・どうだか。親父的にはオレを試してみたいのかもね。そんな遊びじゃないのにさ」
「だからこそだよ。こんな大きな会社、樹に任せるって決心、なかなか出来ないと思うよ?」
だけど透子はそうやってオレを前向きにしてくれる。
後ろ向きになろうとするオレを力強く、だけど優しく引っ張ってくれる。
「まぁ・・命には別条あるワケじゃないから、まだ会社継ぐって話ではないし。とりあえず今の社長としての仕事を神崎さんに指示してもらいながら覚えていけっていうことみたい」
「うん。それなら安心じゃん。神崎さんとお父さんに教わりながらその立場の仕事覚えていけるなら、きっとこれからの樹にも役に立っていくと思う」
「そうだね。まぁなんとかやり切るしかないけど」
「うん。応援してる。頑張って」
どうなるかはわからない。
実際オレにそこまで務まるのか、親父の望んだ状態になるのかもわからないけど。
でも、任された以上、不安になっている暇もない。
「ありがとう。・・・でさ。プロジェクト。透子に任せることになって大変になると思うけど・・・」
「あぁ。それは大丈夫。あれから大分進められてるし。大体は把握してるから。チームの皆もいるし、そこは安心して」
「悪い。もしまたなんかあったら聞いて。そこはちゃんと答えられるようにするから」
「了解。とりあえずこっちのことは気にせず社長代理頑張って」
「ありがと。助かる。・・・でも。これから透子と会う時間減るかも」
「あっ、そうだね。それはちょっと寂しいけど、仕方ないよね」
「そっかー。そうだよなー。絶対会える時間減るよなー。くそー」
ホントはそれが一番気がかり。
ようやく透子と同じプロジェクトで仕事出来て、付き合うことも出来て、いつでもずっと一緒にいられると思ったのに。
確実に仕事では会う機会が少なるのは目に見えていて、仕事以外の時間もきっとオレは余裕がなくて会えることも少なくなる。
それが今のオレに耐えられるかどうか。
ずっと透子と一緒にいられることをモチベーションに頑張って来たのに。
ようやくそれが叶う状況になったのに。
ホントに離れてオレは頑張れるのか?
透子と今以上会えなくなってもオレは平気でいられるのか?
ようやく本当の愛を手に出来たのに、これがきっかけで、また透子がオレから離れてしまったら?
どうやったら透子の気持ちを今と変わらず引き止めていられる?
会社に対しては、前向きな力が出てくるのに、透子に関してはやっぱりまだ不安が拭えなくて。
頑張りたいと思う気持ちと、透子と離れたくないという気持ちと、どちらもが同じだけ襲って来る。
「大丈夫。どんな時も樹のこと想ってるから」
すると、そんなオレの様子を透子が感じ取ったのか、透子がそっと隣りからギュッと優しく抱き締めてくれる。
透子のその優しさが、愛しさが、温もりが・・・温かくて愛しくて嬉しくて。
少しずつ気持ちが穏やかになってくる。
「透子・・・うん。オレも」
「大丈夫。絶対乗り越えられる」
そう言ってくれた透子の手にオレも、そっと優しく重ねて、透子のその優しさを、温もりを確かめる。
ずっと変わらないモノなんてないと思ってた。
いつかは人の気持ちは変わる。
どんなに愛しても、いつかはその気持ちが薄れる。
幸せだと思っていた時間は、あっという間に崩れ去る。
永遠だと信じていたモノは、ずっと存在しないのだと、透子に会うまではずっとそう思っていた。
だけど、今は。
透子へのこの気持ちを信じたい。
間違いなく何があっても透子へのこの気持ちだけは変わらないと、自信を持ってそう言える。
だから、透子もそうであってほしいと、今はただそう願うしかなくて。
オレと離れていても、ずっとオレのことを好きでい続けてほしいと、そう願う。
「いつか透子の元に戻れるの待ってて」
だから、今はこのオレの言葉だけを信じて。
必ずちゃんと戻って来るから。
オレの気持ちは何があってもずっと変わらないから。
ずっと透子を想ってるから、何があっても。
「うん。待ってる」
優しく微笑んで、そう言ってくれた透子。
オレはその言葉を胸に頑張るから。
戻れる場所へ、いつかちゃんと戻れるように。
愛する透子の元へ、またいつか戻れるように。
透子が待っていてくれれば、それできっとオレは頑張れるから。
必ず頑張れるから。