テラーノベル
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放心状態の若井を無視するように、藤澤が隠し部屋に踏み込んできた。
「若井、そいつに騙されるな!」
藤澤の目は狂気じみ、左手の傷痕が光っていた。
「お前は俺のものだ。10年前のあいつと同じだ。覚えてるか、思い出したか!?俺はお前を失わない!」
若井は藤澤を見た。先日明らかになった生き残りの証、10年前の恋人喪失。
「藤澤……… 俺にはもう、お前を愛しているという感情は無い。俺は……大森が、元貴が好きだ。」
「ふざけるな!!! !」
藤澤は叫び、ナイフを手に若井に飛びかかった。大森が素早く割り込み、藤澤の手を押さえた。
「もう終わりだよ、藤澤。君の呪いはここで断ち切る」
大森の声に鏡が震え、光が溢れた。
藤澤は膝をつき、呟いた。
「俺は….ただ、若井を取り戻したかった…」
これまでの執着、そして「俺はお前を守るために去った」という告白。
藤澤は10年前鏡館で若井を失った。その魂の代わりとして現在の若井を求めていた。
大森は若井を抱きしめ、唇を重ねる。
深いキスは魂を揺さぶる力を持っていた。
「俺は霊的な存在だ、若井。君を解放するために10年間この館で待っていた。君の愛が、この館の呪いを破る鍵だ」
鏡が割れ、眩い光が部屋を包んだ。若井の記憶が蘇る 。
10年前、平和だった家族との日常。遊びで来た鏡館で仲間と共に失踪し、魂が閉じ込められた瞬間。藤澤の恋人だった自分。大森がその魂を救うために現れた存在。
「元貴……愛してる。でも、俺は….」
「愛は永遠だ」
大森の声は消えゆく。
「だが、現実は鏡花水月だ。君は自由だよ。若井」
光が消え、若井は目を覚ました。鏡館は静寂に包まれ、鏡は全て砕けていた。藤澤と高野は倒れ、綾華は涙を流しながら若井の手を握っている。
「滉斗……戻ってきて」
高野は意識を取り戻し、呆然としていた。
大森の姿は、どこにもなかった 。
藤澤は倒れたまま、砕けた鏡の破片を見つめる。
「若井…俺は…」
彼の声は途切れ、左手の傷痕はただの古い傷に過ぎなくなっていた。
呪いが解け、10年間の執着が崩れ落ちた瞬間、藤澤の目は光を失った。
若井が綾香の手を引いて去る中、藤澤は動かず、闇に取り残されたままだった。現実に戻っても、彼を待つのはこの罠を仕込んだことに対する裁きだけだ。
遠くで倒れていた高野は砕けた鏡の破片を見つめながら呟く。
「終わった..全て…」
派手なシャツは血と埃で汚れ、かつての自信は消えていた。10年前の隠蔽と藤澤の罠に加担した罪が彼の心を蝕む。高野はよろめきながら若井達の後に続いた。
藤澤とともに現実での裁きを待つ虚ろな目だった。
若井と綾香は館を出た。現実に戻れたのか、幻の続きなのか、確信はなかった。
「帰ろう、家に……」
「うん、、……元貴、」
もういない者の名を呼び、振り返る。
そこには古びた洋館が立っていた。
「本当に、消えたのか……」
意中の人との突然の別れに、若井の心は虚しさが宿る。短い間だった。本当に短かった。でも、それでも、
大森の愛は、若井の心に永遠に刻まれていた。
コメント
1件
すごいお話だった、、、面白かったです!!!!