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二宮が自身への爆破により倒れ、煙が晴れると、少年は目を丸くしたままゆっくりと近付いた。
「なんだ……? お前、自滅したのか……?」
その問いに、二宮はゆっくりと起き上がる。
「そうよ。アンタを傷付けるくらいなら、自分を爆破させて吹き飛ばしたの……。まったく……とんだ一日よ……」
そんな二宮に対し、少年は怒りを露わにする。
「お前……そんな強いのになんで俺に異能を向けない! なんで俺と戦わないんだよ!! なあ!!」
その言葉に対し、二宮は少年を睨んだ。
「私の異能は人を傷付ける力じゃないからよ!!」
「よく言った、二宮」
その瞬間、行方は少年の背後を捉えていた。
「お前は……? 気配を感じなかった……なんでだ!?」
困惑する少年に、行方は毅然とした態度を示した。
「僕の名前は行方行秋。異能探偵局の者だ」
そして、少年を横切り、座り込む二宮に手を伸ばした。
「お、お前が……異能探偵局……!! 気配を消せる異能か!? でも、透明化の神崎は気配が分かる……なんで……」
二宮を立たせると、全くの臨戦態勢を見せず、悠長に少年に近付いた。
「僕が無能力者だからだ。君の話は睦月隊長から聞いている。君の異能の話もだ。僕の気配が感じられないのは、その “異能を探る悪魔の力” に寄るもの。だから、無能力者の僕は何もしなくても君に気取られない」
しかし、その言葉に少年は更に困惑する。
「は……? 無能力者……?」
そのままヨロヨロと後退。
「なんでお前が……無能力者が探偵局にいるんだ!!」
そして、急に勢い良く行方に襲い掛かった。
ゴン!!
行方は咄嗟に少年の動きを見切り、少年の向かってくる前方にボックスから鋼鉄の壁を出現させた。
「いってぇ……なんだ……なんなんだ!!」
そのまま、行方は少年の腕を掴み、拘束した。
「こんなもの……すぐ解いて……!」
しかし、少年は唖然とした顔を浮かべる。
「あれ……? 異能が……発動しない……? なんで力が出ない……!?」
「君の異能力は、憑依した悪霊に依存する。憑依した悪霊を身体から引っ剥がせば、君の力は人並みだ」
行方は、捉えると同時に少年の憑依していた悪霊を同時に封印させていた。
しかし、少年は話も聞かずに必死に抵抗。
それでも、行方の手を振り解くことはできなかった。
ゆっくりと二宮も近付く。
「言っておくけど、本気で戦っても、私よりこの行方くんの方が強いわよ」
「は……? 無能力者だろ……? なんでそんなに強いんだよ……!! なんでそんな強くなれるんだ!!」
行方はそっと手を離し、少年の頭に手を乗せた。
「守りたいと言う想いが、人を強くするんだ」
一瞬の間の後、少年は行方の手をブンブンと振り払った。
「守りたいとか……よく分かんねぇ……」
「例えば、先程君に向けていれば危険だった二宮の爆発。それを君を守る為に自身に放った。君を守る為だ。それが本物の強さだ」
そうこう問答している間に、ボックスカーが停まった。
中からは慌ててガタイのいい男が駆け寄って来た。
「おいこら! 何やってるんだ、楽!!」
「げ……隊長……」
そして、楽と呼ばれた少年の前に出ると、行方に相対し、綺麗なお辞儀を示した。
「行方くん……本当にすみませんでした……!!」
「睦月隊長であれば言う必要もないと思いますが、私欲の為の異能行使は犯罪、他人に危害を加えようとしたことも立派な犯罪です」
「ぐうの音も出ない……本当に申し訳ない……!」
睦月隊長と呼ばれた男は、行方に対し、斜め45度の綺麗なお辞儀を只管向けていた。
「な、なんで隊長が謝るんだよ!! コイツは自分で負傷したし、俺はただ……」
しかし、睦月隊長は黙って頭を下げ続けていた。
「それと、睦月隊長。タイムリーな話ですが、多分、異能祓魔院にとっては少し嫌な話があるかも知れません。不吉なことは連続するものです。お気を付けて」
そう言うと、行方は二宮に合図し、そのまま、三嶋たちのいた橋の下まで戻って行った。
「ねえ、異能祓魔院って言ってたけど、あの……?」
二宮は、行方の背に問う。
「そうだ。異能祓魔院、この異能が発達した根源の力、霊魂を相手にする祓魔師。その中でも、未だ祓えていない悪霊を相手にしているのが、彼ら異能祓魔院の異能祓魔隊。先程の睦月隊長は、隊長と呼ばれているが厳密には副隊長だ。そして、先程の楽と言う少年は、最近入った新人だと聞いている」
「さっきのいきなり襲い掛かって来た子よ!? 仕事なんて出来るの……!?」
「それが、彼の異能は見て分かる通り、“霊を自らに憑依させて扱う異能力” だ。とても祓魔師に向いている……が、彼は異能教徒が秘密裏に育てていた子供の暗殺部隊の出だ。昔、探偵局で救い出したことがあるが……孤児院に居させるのも危険だと判断し、異能祓魔院で保護、及び監視することになったらしい」
「なるほどね……。あの動揺の仕方……まだ何も分からないんだ……あの子……」
夕焼け空を眺めながら、二宮は少し目を細めた。
「二宮」
「何よ」
「奉仕課題は、無事にまとめられそうだな」
そう言うと、行方は珍しく二宮に微笑んだ。
「そうね……。私、声掛けて助けたもんね!」
そんな中で、三嶋は駆け寄って来た。
「行方先生、拘束してた奴ら、全員警察に保護してもらいました!」
「ああ、途中から任せてしまってすまなかったな」
三嶋の方には、行方に向けて敬礼を示す警官の姿があり、行方もお辞儀をして対応した。
そんな姿を横目に、三嶋は二宮に囁く。
「ホント、行方先生は凄い人だよな……。あの人数を怪我なく全員拘束させちまったんだ」
「行方くんなら、まあ、それくらいすると思うけど……。それより、なんであの場面であの人たちが来ることが分かったのかが私には分からないです……」
「それは俺にも分からない。きっと、探偵の仕事をしてきた勘みたいな部分もあるんだろうな。予見みたいなさ」
「と言うか、三嶋先輩たちは何をしてたんですか?」
すると、三嶋はニヤッと頬を緩ます。
そして、行方と二宮を再び橋の下に案内した。
「え!? 猫!? しかも……こんなたくさん……」
「ああ、この場所、赤ちゃん猫がよく捨てられてたんだ。俺たちが交代で面倒見てたら、こんな感じ……。保健所に渡すのも、なんか怖いだろ?」
「しかし、ここは私有地だ。猫を飼うには許可が必要だし、外でこの数を飼うなら病気になる可能性もある。十分に考えることだ」
「そうっスよね……アハハ……すみません……」
そうして、三嶋たちに忠告すると、行方は背を向けた。
「行方くん、帰るの?」
「いや、探偵局に寄る。僕が教育実習期間は、夏目さんと春木さんで別件の捜査をしていたんだ。その報告がさっき来た」
「分かった……私も何かあったら駆け付ける……! これでも探偵局員なんだから!」
「そうだな。お前は、まず課題をクリアして来い」
「は、はい……」
そうして、行方はその場を去って行った。