凛が見つかった。でも、見つかった時の凛はボロボロだったと、冴に聞いた。
レイプされただけではなく、酷く殴られたようで、身体中に痛々しい痣が残っている。凛が大切にしていた足も折れていたらしい。
俺は凛の恋人とはいっても、結局は赤の他人。冴と凛の両親が目を覚ました凛の面会へ行ったのを、待合室で眺めていた。
時計の針が1周ぐるりと回ったところでおかしいと思い始め、2週目を回り終えたところで不安が膨らむ。
結局、冴達が帰ってきたのは2時間半後で、表情に影を落とした3人を見て、嫌な予感がした。
「⋯⋯凛が、記憶喪失だ。」
そう紡がれた言葉に、目を瞬く。一拍遅れて目を見開いた。背中を冷や汗が伝う。
「先程まで混乱してて⋯睡眠薬で眠ってる。多分、誰にも会えない状態だ」
悔しげに目を伏せる冴を見て、コイツもこんな顔出来るんだ。と思った。まぁ、当たり前か。喧嘩していたとはいえ、大切な弟なんだから。
そうか、と零して立ち上がる。
「なぁ冴。凛をこんなにしたやつ、どう思う?」
「殺してやりたい。今すぐにでも」
「だよな。俺も」
そう物騒な会話を繰り広げる俺たちを気にする人はいない。凛の両親は気落ちしていて俺らの話を聞いていない様子だし、日本語で話しているから周りの人達は分からないからだ。
冴も、俺も怒ってる。こんなことしたって、凛は喜ばないだろうが。
「ちょっと絞めに行かない?」
『それでな、彼氏くんに電話した途端に泣き出すんだよ。あの顔めっちゃそそった』
『お前性格悪すぎだろ。まぁ、俺もだけど』
『あのべっぴんさん、もう1回くらいヤれねぇかなあぁ』
所謂ゲイバーで、下品な会話を繰り広げる男たち。サングラスをかけて俺が近づくと、男たちはこちらを見て鼻の下を伸ばした。
『ねぇ、お兄さんたち。俺と遊ばない?』
この1週間、死ぬ気で覚えたフランス語。耳にはブルーロック時代、大変お世話になった御影コーポレーションのイヤホンを付けていて、ネイティブなフランス語も聞き取れるように。
『かわいーじゃん。いいぜ』
『おー、可愛がってやるか』
男たちをトイレに誘う。童顔で、よく可愛いと褒められる俺だから出来ること。
やや広めの個室へ入ると、そこでは仁王立ちした冴が待っている。
俺たちが考えた計画はこうだ。
1週間、冴が凛をレイプしたやつを探し出す。見つけたら、そいつを1週間の間で必死に勉強したフランス語で誘ってトイレへ連れ込む。トイレの中でボコボコにしてやろうというものだ。
『よぉ、レイプ魔。俺の弟と随分楽しんでくれたみたいだな』
ちなみに冴はフランス語を話せるらしい。流暢な自国の言葉を聞いて、男たちが逃げ出そうとするが、既に俺が扉の前に陣取っている。
『逃がさねぇよ』
低めの声で呟くと、男たちが震え上がった。レスバが超強いサッカー選手に数えられる俺たちは、絶対にこいつらを許さない。
「冴知ってる?アイツら反省して自首したんだってー!」
「あぁ、知ってる。」
スマホ越しに聞こえる冴の声。復讐を終えた俺たちは、凛の精神が落ち着いて面会が許可される日を待っていた。
家族は面会が許可されているらしく、多分もうそろそろ潔の面会も解禁されるだろう。と冴は言っていた。
「でもさ、刑務所入ってもずっと『殺される。死にたくない』って呟いてるんだって。やっぱり悪いことすると罰当たるんだね」
「そうだな。⋯⋯⋯潔世一。明日から、凛の面会に来てもいいと、医者が言っていた」
「⋯⋯えっ!?ほんと!?」
突然報告された嬉しすぎる話に、飛び上がりたくなった。マンションで、下の階に響くから本当に飛ぶことはしなかったけれど。
「ただし、条件がある」
「はぁ!?恋人であることを隠す!?」
冴が提示した条件というのは、俺と凛が恋人であることを隠すというものだった。意味が分からなくて首を傾げていると、冴が低く呟く。
「恐らく、レイプされた時に何か言われたんだろう。お前に恋人がいると告げたら、過呼吸を起こした。幸い、凛はそのことを覚えていないから、隠せ」
そうだ。アイツらが捕まったからって、凛の傷は何一つ癒えてはいない。記憶は未だに戻らないし、冴の言う通り、頻繁に過呼吸を起こしていると聞いた。
「⋯分かった。アイツら本当にムカつくな」
「同感だ」
それから二言、三言言葉を交わして電話を切った。ため息を吐く。
勿論、凛に会えるのは楽しみだが、それ以上に不安だ。
(⋯⋯でも、1番不安なのは凛のはず。ぜってぇ折れねぇ!!)
そう決意して、固く拳を握った。
コメント
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#潔凜のランキングから来ました!!初コメ失礼します!表現の仕方が大好きです!続き待ってます!頑張ってください!