テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
みり(プロフ必読)
1,194
凛 #リムった人ブロックします
1,577
コメント
1件
うわ、これ、めちゃくちゃ好きなやつだ……! 最初の波の音と朝の陽射し、あたたかい日常の描写から一転、最後の「異能の相談に乗ってくれる『Snow Man』」の一言で世界の色が変わった感じがした。伏線の置き方が本当に上手い。それぞれのキャラの個性もさりげなく散りばめられてて、特に康二の写真の腕前、阿部ちゃんのSNS運用、岩本のスイーツへの情熱とか、後でちゃんと生きてきそうでワクワクする。表の顔と裏の顔――これからどう展開するんだろう。続きが待ちきれないです。素敵なエピソードをありがとうございます!
ザザーン、と規則正しい波の音が、開け放たれた窓から滑り込んでくる。
海沿いにひっそりと佇む『カフェ・ネージュ』の朝は、いつも潮の香りと、挽きたての珈琲の香りで始まる。
「はい、みんな。朝ごはん出来たよ」
厨房から出てきた宮舘が持っていたのは、朝ごはんとは思えないほど豪華なオムライスだった。
「うぉっ、相変わらずスゲー!」
さっきまで寝起きでポヤポヤしていた佐久間は、オムライスを見た瞬間、スタッ、と立ち上がった。
そのまま厨房へ走り、残りの皿を運ぶのを手伝いに行く。
「相変わらず、元気いいなー佐久間は」
「ほんと、そうだね」
深澤と岩本は、そんな佐久間を見ながら笑っている。
「んー! 今日も眺めがええなぁ!」
向井は窓の外を眺めながら、スマホを構えていた。
「どんな写真撮れた?」
覗き込んだ目黒が、向井のスマホを見て声を上げる。
「え、これほんとに康二が撮ったの?」
「当たり前やん! 撮ったとこすぐ横で見とったやろ?」
二人の声を聞きながら、宮舘も少しだけスマホの画面を覗き込んだ。
まだ顔を出したばかりの太陽と、どこまでも続く水平線。
朝の海を切り取ったその写真は、息を呑むほど綺麗だった。
「阿部ちゃん、これ見てみてよ」
声をかけられた阿部は、カウンターの隅でパソコンを立ち上げていた。
カタカタとキーボードを打つ音が、静かな店内に響いている。
「ん?」
阿部が手を止め、写真を受け取る。
「康二が撮ったの?! すご……」
阿部の顔に、ぱあっといつもの優しい笑顔が浮かんだ。
その時。
ドタドタドタッ、と。
上の階から騒がしい足音が響いてきた。
「……座っとこうか」
深澤が苦笑いを浮かべる。
「やべ! 朝ごはん食べれなくなるっ!」
「ちょっと、しょっぴー早く!」
階段から勢いよく降りてきたのは、渡辺とラウールだった。
朝起きたばかりだというのに、渡辺は既に汗を浮かべている。
「遅いよー? もう食べ始めるところだったじゃん」
「うるせぇ、ふっか!」
「まあ、座りなよ。せっかく作りたてなのに冷めちゃうよ?」
「うっ……」
宮舘がそう言うと、渡辺は素直に椅子へ腰掛けた。
ラウールもその隣に座る。
「それじゃあ……いただきます!」
「いただきます!」
深澤の声に、全員の声が重なる。
打ち寄せる波の音。
食器が触れ合う音。
朝の笑い声。
それらが混ざり合って、『カフェ・ネージュ』の一日が始まった。
「いらっしゃいませ!!」
『カフェ・ネージュ』の看板がOPENに変わる。
それと同時に、店の中へ次々とお客さんが入ってきた。
(今日も、お客さんたくさんだな……)
宮舘は皿を磨きながら、店内を見渡す。
窓から見える海を目当てに来る観光客も多い。
最近では常連のお客さんも増えてきた。
その理由の一つは、阿部の宣伝だろう。
「……また増えたな」
店の端にあるパソコンへ視線を向ける。
阿部は今日も、忙しそうにキーボードを叩いていた。
「佐久間、3番卓にオムライス持っていって」
「あいよー!」
宮舘が料理を乗せた皿を渡すと、佐久間は元気よく受け取った。
「いってきまーす!」
そのまま勢いよくホールへ駆けていく。
「いつもありがとうございます。お会計が1220円ですね」
レジのほうから、渡辺の声が聞こえてきた。
「こちらこそ、こんな賑やかなカフェなんて……ここしか思い浮かばないもの」
渡辺は営業スマイルを浮かべながら、客を見送る。
「ありがとうございました」
よく通る、綺麗な声だった。
その声を聞いて、宮舘は小さく笑う。
渡辺は接客が上手い。
本人は面倒くさそうな顔をすることもあるけれど、任せてしまえばしっかり仕事をこなしてくれる。
「舘さん! こっちカフェラテ一つ!」
「わかった。康二、入れれる?」
「任せとき!」
深澤が注文を通してくる。
向井は慣れた手つきでカフェラテを作り始めた。
「ねー聞いてよ、ふっかさん!」
「んー? どーしたのお姉さん」
「それがさー……」
深澤はカウンターの客と話し込んでいる。
また相談でもされているのだろう。
深澤が話を聞いている時は、店内の空気が少しだけ柔らかくなる。
宮舘も何度か見てきた。
「舘さん、これどう?」
向井が差し出したカフェラテには、綺麗な薔薇のラテアートが描かれていた。
「やっぱり、康二はラテアート上手いね。任せてよかった」
「やろやろ?! 今日はめっちゃ調子ええねん!」
「じゃあ、佐久間。これお願い」
「にゃす!!」
佐久間がラテを受け取り、深澤のいるテーブルへ向かっていく。
向井はラテアートだけじゃない。
阿部が店の宣伝に使う写真も、よく向井に頼んでいる。
今朝撮っていた海の写真も、きっとまた使われるのだろう。
「舘さん! デラックスサンドウィッチ二つ入ったよ〜」
「わかった」
ラウールの声が聞こえる。
宮舘はすぐにサンドウィッチを作り始めた。
「康二、パン少しだけ焼いといてくれない?」
「わかった!」
焼き上がったパンに具材を挟んでいく。
最後に形を整え、ラウールへ渡す。
「わ、すご! やっぱいつ見ても美味しそう!」
「そう? よかった」
ラウールは嬉しそうに笑い、サンドウィッチを運んでいく。
「ラウちゃん! この前は掃除手伝ってくれてありがとうね!」
「いえいえ、掃除くらいお安い御用です!」
ラウールはよく周りを見ている。
誰かが忙しそうにしていれば自然と手を貸すし、常連客の顔もよく覚えている。
「舘さん、ちょっと休んだら?」
そう遠くから声をかけてきたのは岩本だった。
「ありがとう。でも、もうじきピークも過ぎるし、康二もいてくれるから大丈夫」
「そっか……無理すんなよ」
岩本はそう言い残すと、またホールへ戻っていった。
店長になってから、岩本は以前よりも周りを見るようになった気がする。
注文を受ける時も、誰かが困っていないかさりげなく確認している。
ただ、宮舘には知っていることが一つあった。
岩本は、スイーツのことになると人一倍真剣になる。
新作を作るたびに、宮舘に試食を頼んでくる。
そして、宮舘が少しでも「美味しい」と言えば、ほんの少しだけ嬉しそうにする。
『カフェ・ネージュ』のスイーツには、岩本のこだわりが詰まっている。
そんなことを考えながら、宮舘は再び料理へ向き直った。
「ありがとうございました〜!」
ラウールの声が聞こえる。
最後のお客さんを見送ったようだ。
「よし! 今日も黒字!」
「ちょっ、まだ決めんの早いだろ……」
阿部がガッツポーズをしている横で、渡辺は腕を組み直す。
「まあまあ。今日は結構入ったし、いけるんじゃない?」
深澤はそんな2人を見守るように、席についた。
「……あれ? めめは?」
深澤の声に、宮舘も店内を見渡す。
目黒がいない。
「多分テラス席でしょ! 俺、蓮呼んでくる!」
佐久間が駆け出していった。
少しして。
「ふふっ、可愛い……ミルク飲む?」
「にゃあ!」
テラス席から、目黒の声が聞こえてきた。
「やっぱりいたか……」
宮舘がテラスへ目を向けると、目黒は黒猫に囲まれていた。
「蓮? これからご飯食べるけど……」
「あ、佐久間くん。今行く」
目黒が黒猫たちを名残惜しそうに撫でている。
「……ちょっと猫さん撫でていい?」
その様子を間近で見ていた佐久間は、思わず目黒にそう言ってしまった。
「もちろん」
佐久間はそれを聞くと、顔を輝かせた。
(……まあ、昼休みくらいいいか)
「いやー、今日も大盛況! お客さんたち、みんな笑顔で帰っていくからうれしいな〜!」
休憩時間。
ラウールが楽しそうに話している。
「こんなに忙しくさせてもらっているのも、阿部のおかげだね。いつもありがとう」
宮舘は、まだパソコンを打つ手を止めない阿部へ、まかないを差し出した。
「うわ、美味しそう……これ見たらもっとやる気出ちゃう」
「ちょっとは休みなさい!」
「えー?」
「ずっと働くのも、体に悪いよ?」
宮舘が困ったように眉を下げて笑う。
阿部は少しだけ考えたあと、まかないへ箸を伸ばした。
(……今日は、これで少しは休んでくれるかな)
そう思った、その時だった。
カランコロン、と。
お店は閉めているはずなのに、誰かが扉を開ける音がした。
宮舘は反射的に顔を上げる。
入ってきたのは、背の小さな、小学生くらいの女の子だった。
「あの……ここって」
女の子はもじもじしながら、それでもはっきりと言葉を発する。
「ごめんね。今、休憩時間で、お店閉まってるんだ」
ラウールが優しく声をかける。
「そうじゃなくて……」
ラウールはかがみ込み、女の子と目線を合わせた。
そして。
「ここって、異能の相談に乗ってくれる……『Snow Man』で合ってますか」
──その瞬間。
宮舘は、箸を置いた。
隣にいた岩本の表情が変わる。
深澤も、渡辺も。
さっきまで笑っていた佐久間の顔からも、笑みが消えた。
店内の空気が、一瞬で変わった。
『カフェ・ネージュ』は、9人の男たちが営業しているカフェ。
──表の顔では、ね。