翌日の夜、折西とお姉さんは俊の部屋の
ドア前に立っていた。
「…行きますよ。」
そう言ってドアの鍵を開けようと鍵を差し込む。
「貴様、心鍵師だな。」
「…へ?」
折西が後ろを振り返ると白蛇がいた。
しかし怒った口ぶりではなくどこか
腰が低いような感じがした。
「…もし俊の心の鍵を開けようとしているのなら
辞めていただきたい。」
「けれど…鍵を開けないとトラウマを
ずっと抱えることになります…どうして…?」
「…俊は左目を代償に体力と足の速さに
能力を付与している。貴様は何か違和感を
覚えないか?」
「違和感…そういえば、一回切りの代償の
割には複数の能力を使えているような…?」
「正解だ。」
イズは頷く。
「でもどうして…?」
「私が俊を気に入ったことが一つ、
もう一つの理由が普通のファージと
違って私は元神であるからだ。」
「元神?今は神様ではないのですか?
確かアモ族の方は現在も白蛇の神様を
祀っていたような…」
「俊の故郷で神と呼ばれたのはただの偶然だ。
白蛇が珍しい、きっと神様なのだろうと
言われ偶然祀られただけだ。」
「…遠い昔は本物の神だったが…
正直自分を神と呼びたくないな。
人間どころか大切な人さえも救えなかった
ただの愚か者だよ。」
「いえ、貴方は俊さんを救った
大切な神様です。」
折西はその場にしゃがみこみ、
イズに目線を合わせた。
「あれは救ったのではなくて、過去の
罪滅ぼしだよ。」
イズは折西から目をそらす。
「…あまり俊に負担をかけたくなくて、
契約時は小さな代償にしたんだ。
けれど真契約してしまうと代償は
その分大きなものになる。だから
心の鍵を開けて欲しくないんだ。」
「…真契約後の代償と能力って…」
「身体の1部を代償に時を巻き戻せる。」
「…!」
「嫌な予感がするだろう?
もしお前や組長が死んだ時、
俊は必ず時を巻き戻す。
そうすれば俊は時を巻き戻す度に体の一部を
失い、最後には何も残らなくなる。」
「私はそれが怖い!せっかく、せっかく…
大切な人と出会えたのに…」
イズは涙をポロポロと地面に落とす。
「…俊さんが真契約で暴走してしまったら、
僕が止めます。」
「得意げだな。貴様のような軟弱な者には
到底止められるとは思わん。」
イズは折西を睨む。
しかし折西は怖がるどころか
イズの顔に両手で優しく包み込み、
自分に視線を合わせた。
「僕がファージと契約してでも、止めます。」
「…!」
「…それと。イズ様が可能であれば、
真契約を拒否してもいいと思います。」
「何を言っているんだ!?心鍵師は
心の鍵を開けた後の真契約が目的では
無いのか!?」
「心鍵師としての目的はよく分かりません。
…だからトラウマから解放することだけが
今の僕の目的です。」
「…そうか、そうか。真契約が
目的ではなくて…」
イズは安心したのかまた涙が溢れ始めた。
折西はそっとその涙を着物の袖で
そっと拭った。
「一緒に俊さんを救いましょう、
今より俊さんが過ごしやすくなるように!」
イズは扉の前から離れると
「俊を助けてあげてくれ。」と頭を下げた。
折西は俊の部屋の鍵を開ける。
折西とお姉さん、そしてイズは部屋に入る。
ぐっすりと子供のように寝ている俊。
そして折西は俊の手をそっと握り、
俊の中に入るのだった…
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