コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
折西は目を覚ます。
どうやらここは藁で作られた家のようだ。
そこには俊はおらず、地面の上には
ござが敷かれており周囲には壺が数個ある
質素な家だった。
「あれ…俊さんは?」
折西は部屋の外かと思い外の方に
行こうとするも出口の前になにやら
透明な膜が張っており、出ることは
出来なかった。
「…もしかして…」
折西は家の中の壺の中を探す。
すると手前から3つ目の壺の中に
1人の少年がいた。
なにかに脅えているような様子で
こちらを見ている。
「大丈夫だよ、僕は折西。
君は…イムールタ君?」
折西が優しく問いかけると少年は静かに頷いた。
「僕はイムールタくんの未来の仕事仲間だよ。
君を助けに来た。」
「…あ、ありがとう…?」
いまいち状況を理解していない様子の
イムールタは首を傾げる。
「急に言われてもわからないよね…ごめんね。
でも君が幸せになれるように頑張るね。」
折西がそう言うと先程出口に張っていた
膜は溶け、出れるようになっていた。
折西は行ってきます、と言い外へと向かうと
視界は白い光に覆われたのだった…
・・・
視界が白から鮮やかな景色に移り変わる。
草木は朝露をポタリポタリと落とし、
地面にじんわりと広がった。
広い平地に藁の家が点々とある中、
どこかイムールタと似ているような
小さい子を見つけた。
その子はボールを蹴りながら
ものすごいスピードで駆け巡る。
「相変わらずすげぇよな、ユガはさ〜!」
イムールタとよく似た少年、ユガに
隣の少年は羨望の眼差しを向けた。
「だろ!?俺の足は強いからな!」
ユガは隣の少年にVサインをした。
「そーいえばさ、お前んとこの兄ちゃん
大丈夫か?」
「イム兄ちゃんか?最近体調悪化して
ずっと家の中なんだよなぁ…」
「マジか、心配だな…」
「だなぁ…あ、そうだ!それなら一緒に
昼にお見舞いに行こうぜ!!!」
「おお!いいな!折角だし家の中でも
遊べるもの持ってくるわ!」
「おっ!サンキュー!!!助かる!」
「まあな!前に読み聞かせしてくれた
お礼も兼ねてるけど!」
少年は
「大変な時こそ支えんのが友達だろ?」
と言ってユガの脇腹を突き、じゃあな!と
早足で走り去る。
その光景を見た折西の視界は暗転するのだった…
・・・
次は一番最初に見た藁の家の中だった。
今回はござの上で横になっている
イムールタがいた。
どこか寂しいのか手に持っていたお手製の
ぬいぐるみをギュッと抱きしめている。
「イム兄ちゃん!遊びに来たぜ!」
「ユガ!!」
ユガを見るとイムールタの表情は
パッと明るくなり、起き上がる。
そしてぬいぐるみをそっとござに置いて
ユガと話せるとワクワクしていた。
「俺も忘れてもらっちゃ困るぜ兄ちゃん!」
「レコも!」
どうやら先程羨望の眼差しを向けていた
少年はレコと言うらしい。
「兄ちゃん、体調は大丈夫?」
「えへへ…いつもよりかはだいぶ軽いよ!」
「か、軽くなさそうだな…」
レコはイムールタの真っ青な顔と
発言のギャップに軽く引いていた。
「それでもみんなが来てくれたから
すごく元気になったよ!」
「ほんとか〜??とりあえず今日
家でも遊べるやつ持ってきたぞ!!」
そう言ってレコが取りだしたのはコマだった。
「すごい!このコマめちゃくちゃカッコイイ!」
イムールタは黒地に赤い模様の描かれた
コマを手に取り目を輝かせていた。
「だろ〜!?それ、俺が塗ったんだぜ!」
「レコは本当に塗りが上手いね!」
「イム兄ちゃん!俺のコマも見て!」
ユガは自分のコマをイムールタに見せる。
白い長いふにゃふにゃの線に青い点が1個
描かれていた。
「えっと…このモチーフって…?」
「神様!!!」
「あっ、なるほどそういうことか!」
レコが俺にも見せろと言い、ユガのコマを
手に取るといきなり吹き出した。
「ギャハハ!!!!!なんだよコレ!?」
「オイ!!!笑うんじゃねぇよ!!!」
レコがコマをバカにした事にユガは
ムッとしたのレコの前髪をグッと掴んだ。
「わわっ!ここで喧嘩しないでよ!!!
色んな意味で危ないって!!!」
イムールタの注意など聞こえる訳もなく
喧嘩はエスカレートし始めた。
するといきなり家の外から怒鳴り声が聞こえ、
段々と声の主は近づいてきた。
「コラァ!何やっとんじゃ!!!」
「げっ、ユガの父ちゃんだ!!!」
「…やっべぇ、出口が1箇所しかない…
逃げらんねぇ…!」
「もう…だから言ったのに…」
その後何故かイムールタも含めて3人は
父親の説教を1時間くらい
受けることになったのだった…
・・・
イムールタ達は説教が終わると各自
家に戻って行った。
そしてイムールタとユガ、父親と母親の
4人で食卓を囲んでいた。
「あら、ユガは喧嘩したの?」
イムールタの母親であろう人物は
芋をすりつぶしたものを手で丸めながら
ユガに聞いた。
「…うん…」
目を逸らし静かに頷いた。
「まあまあ、そんな日もあるわよ。
ね!イムールタちゃん!」
「うん、そんな日もある!けどもう
家の中じゃなくて外で喧嘩するんだよ!」
「逃げられない恐怖を感じたから
家での喧嘩は二度とごめんだよ…」
「コラ!少しは家の中の心配をしなさい!」
父親はユガのほっぺたをムニムニした。
「まあそれは置いといて、どうだイムールタ?
体調悪くなったりしてないか?」
「僕は大丈夫だよ!
みんなから元気もらったから!」
イムールタの笑顔を見て父親の
厳つい顔が緩む。
「そうかそうか!もっと元気になって
もらうには食べないとな!」
父親は先程母親がこねていた芋を1個取り、
イムールタに渡した。
「ありがとうパパ、ママ!」
イムールタはそれを食べると、
美味しい!と顔をほころばせていた。
そして、その温かい光景をみながら
再び折西の視界は暗転していくのだった…
・・・
暗転した景色から、イムールタの
家の中に移り変わる。
先程見た時よりかなり体調が悪いのか
イムールタは高熱に唸っていた。
その隣にはユガがぐっすりと眠っている。
「イムールタちゃん、大丈夫かしら…」
水で濡らし、絞った冷たいタオルを
イムールタの額に乗せ、母親は心配していた。
すると、「出てこい」と声が聞こえてきた。
「あら、訪問者かしら?」
母親は家から出るとそこには
見慣れない服装の人が3人いた。
「もしかして子供たちを引き取りに
来られてますか?」
外部から人手を求めて訪問してくることが
あると長老が話していたのを折西は思い出す。
しかしこの3人は引き取りに来たにしては
態度があまりにも悪かった。
「君ん所の子供、身体が弱いのが
1人いるんだって?」
「…そ、そうですが…」
何かを察した母親は俯いた。
すると突然、三人衆の1人が母親を
蹴り始めた。
「っざけんじゃねぇぞ!!!こっちは
強い人材に投資してんだ!!!!!!
使えねぇやつを産みやがって!!!
ただでさえ老いぼれと女どもは
使えねぇってのに!!!!!」
他のよそ者2人も母親を蹴り始める。
その怒鳴り声はイムールタを起こしてしまい、
外に出ようとしていた。
しかし下がってなさい、と母親に
手で合図され、その様子を見ることしか
出来なかった。
母親はずっとその後も蹴られ続ける。
あれから1時間くらい経って、ようやく
三人衆は帰って行った。
イムールタは急いで駆け寄る。
「ごめんなさい…ごめんなさい…
僕のせいでママが…」
「大丈夫、イムールタちゃんのせいじゃないわ。
イムールタちゃんは本当にすごい子なのよ。
だから大丈夫。」
だから、泣かなくていいのよ。
と母親はイムールタの涙を拭った。
もうこの話は終わり、と母親は
イムールタを家に入れた。
・・・
それから数時間後、母親とユガが寝静まったのを
確認し、イムールタは家の外に出た。
「…僕やママには幸せになる権利がない
っていうの?」
「よそ者が勝手に幸せになる権利を
取り上げるなら、僕は…」
「全力でよそ者からみんなを守る。
よそ者はみんな悪いやつ、殺してしまえ。」
星のひとつもない夜空にイムールタは
村の人を守ることを心に誓ったのだった…
・・・
翌日、一睡も出来なかったイムールタの
体調は悪化していた。
ユガは母親の代わりに食料を取りに行き、
母親はイムールタに付きっきりだった。
けれどイムールタは今度こそは自分が
家族を守るんだと、そう決めていた。
すると、また外から声が聞こえた。
イムールタは起き上がり、朦朧とする意識の中
出口まで歩み寄る。
「…アモ族の人じゃない。殺さなきゃ…」
家の入口から外の様子を睨むようにして伺うと
どこか威圧感のある紫髪の男性が立っていた。
殺される、守らなきゃ。
「…ママに何もしないで!」
イムールタはいきなり槍を手に取り、
男に矛先を向ける。
そんなイムールタの姿に母親は驚いていた。
「こ、こら!出てきちゃダメって!」
「だってコイツよそ者だよ!?
殺される前に殺さなきゃ!!!」
「ママは気にしてないって言ったでしょう?」
母親は槍の柄を持ち、返しなさい。と
言った。
しかしイムールタはその手を
離そうとはしなかった。
すると紫髪の男は膝を地面に着けて
イムールタと目線を合わせ、頭を下げた。
「…母親に手を出すつもりはない。
ただ君を1日見させて欲しいと頼んだだけだ。」
そう言って紫髪の人が手を差し出したのは
近くにいたユガやレコでもなく、
イムールタだった。
「…えっ、イムールタちゃんですか!?
で、でもイムールタちゃんは身体が弱くて
…と、とても優しい子ではあるんですけど…」
「問題ない。そちらのお子さんとお母様は
普通通りに過ごしていただいて結構ですので。」
「わ、分かりました…!」
そう言って母親はイムールタといることを
許可したのだった…
・・・
気を紛らわそうとイムールタは本を読む。
しかし、ずっと自分の事を見てくるよそ者に
嫌悪感を感じ、気が散って本を閉じた。
家の中によそ者が入り込み、何もせず
見てくるという地獄の空気に頭痛が酷くなり、
そのままござに横たわった。
それでも紫髪の男性はじっと見てくる
ばかりだった。
「あのさ、おじさんはなんて名前なの…?」
痺れを切らしたイムールタは紫髪の男性を
睨みつけ、話しかけた。
「名乗り遅れて申し訳ない。
垓(がい)…だ。君は?」
「イムールタ…」
「そうか…イムールタは本が好きなのか?」
「好きと言えば好きだけど…僕の体力的に
外で遊べないから読んでるだけというか…」
「…なるほどな。」
そう言うと垓は手に持っていた
分厚い本の適当なページを開き、指さした。
「それならこの本のここのページは読めるか?」
しかしそのページは他言語であり、
イムールタは読めなかった。
「えっと…言葉が分からない…」
「それなら。」
垓はイムールタに見えないように
本を立てページを隠す。
そして紙とペンを渡した。
「言葉は分からなくていい。
さっきのページを再現して書いてみてくれ。」
「…やれるだけやってみる。」
そう言うとイムールタは紙にサラサラと
先程のページを再現して書いていく。
3分経って「できたよ。」と言い、
垓に渡した。
垓は紙と本のページを見比べる。
「…予想通りだ。」
そう言うと本のページと紙を
イムールタに見せる。
書き順はともかく、本と全く同じ
文字列が書かれていた。
「記憶力のある人間を先に雇いたかったんだ。
どうだ、俺の所で仕事をしないか?」
「…え?」
きょとんとするイムールタに垓は話を続けた。
「もし嫌なら断ってもらっても構わない。」
家の中で布を織っていた母親が驚きのあまり、
布を床に落としてしまった。
「い、いいんですか…?」
「ええ、1ヶ月後にこちらにまた
来ますので。もし体調が悪ければ
体調の良い時に呼んでいただけたら。」
「う、嘘だよ!!!!!どうせ1ヶ月経っても
来ないんだ!!!!!!!よそ者なんか
大嫌いだ!!!!!」
「こ、こら!そんな事言わないの!
す、すみません…イムールタちゃんは
昨日色々あってよその方に良いイメージを
持っていないので…」
「なるほど、まだ幼いというのに
嫌な思いをされたのですね。」
「…ここの村の人は老人や女性、
身体や心の弱い者は迫害の対象なんです。」
「投資してくださる方は私たちに資材が
まわるのを嫌がる人が多いんです…
仕方がない話なんですけどね。」
「…そうでしょうか?ここの女性が
子を産み育て、老人は知恵で皆を支え、
病気を患う者は自身に立ち向かう勇敢な者に
私は見えますが。」
垓は目を閉じ、しばらくして
ゆっくりと目を開けた。
「来られた方はきっと、目を持つにも
関わらず何も見えていないのでしょうね。」
垓の瞳の中から感じられる青い炎は
静かにゆらゆらと揺れていた。
「…!」
母親とイムールタはその炎に静かに
押されながらも、炎の温もりに
どこか安心感を覚えた。
「…人間に価値をつけるのではなく、価値ある
人間に成長させるのが上司の役目です。」
垓はそう言うとイムールタの方を向く。
「そしてイムールタ。1ヶ月後にまたここに
来るから、それまでの間に返事を
決めておいてくれ。」
「う、うん…」
それでは、とお辞儀をし、村から出る垓に
2人は唖然とし、顔を見合せる。
「…イムールタちゃん。」
「…僕、あの人の所で働くよ。」
垓の去っていった方向を見て
イムールタは決心したのだった…
・・・
垓に出会ったからなのか、朝起きると
イムールタの体調が少し回復していた。
イムールタはその事が嬉しくて家の外に出る。
思いっきり深呼吸をし、日差しを浴びた。
「兄ちゃん仕事決まったって本当!?」
ユガは外に出た兄の元へと駆け寄ると
やったじゃん!とイムールタの
肩をバシバシと叩いた。
「えへへ…ありがとうね!」
「兄ちゃんの凄いところ、わかってくれる
人がいて良かった。」
ユガは今にも泣きそうな潤んだ目で微笑む。
「ゆ、ユガが泣くなよ!!!…ママも
聞いてたし、夢じゃっ…ないよね…?」
つられてイムールタも涙で視界が
ゆらゆらと揺れた。
「夢じゃないっ、夢じゃないよ…!」
「ぼ、僕夢があってさっ、仕事頑張って、
そのお金でお医者さん呼んだりっ!
みんなに美味しいものを食べさせたいんだ!」
「…すごいよ!やっぱり、
俺の自慢の兄ちゃんだ…!」
2人が泣いている所に、レコが2人の肩を
抱き寄せる。
「イム兄ちゃん仕事決まったんだろ?
そんな面してちゃ父ちゃんと母ちゃんに
笑われんぞ!」
イムールタとユガは顔を見合わせると、
お互いこぐしゃぐしゃの顔を見て
ぷっ、と堪えられない笑いが溢れ出た。
「…やっぱりお前ら2人は、笑ってる顔が
似合うな。」
レコは安心したような笑みを浮かべ、
ぽつりと呟いたのだった…
・・・
「イムールタ…」
父親の声と共に
各自持っていた飲み物の入った容器を
天井に向かって掲げる
「就職おめでとう!!!!!!!」
そう言うと皆は飲み物を飲み、
食事に手をつける。
「ねえ、パパの飲んでいるのってなぁに?」
イムールタが聞く。
「これは酒だな。まだお前ら2人には
早いがな!」
にやりと笑い、取られるまいと
父親は酒をぐいっと飲む。
「へぇ…!僕も大人になったら
お酒飲もうかな…」
「やめとけよ兄ちゃん!!!
酔った父ちゃんよく泣くじゃんか!!!
面倒くさくなっちゃうよ!」
「なっ…!面倒臭いとはなんだ!!!」
「ま、まあまあ2人とも…ママの作った
ご飯美味しいから!冷めないうちに食べよ!」
「あら、そう言ってくれて嬉しいわ〜!
今日は張り切って作っちゃった!」
そう言って大きな鍋を開けると
鶏肉と野菜、卵がグツグツと煮込まれており、
辺りにいい香りが漂った。
「…相変わらず美味そうな飯だな…!」
「母ちゃんの飯だぞ、美味いに
決まってんだろ!」
ユガは取られるまいと鶏肉を
素早く取り皿に盛り付けた。
「あっ、ユガずるい!!!」
そう言うとイムールタも負けじと
煮込み料理に手をつける。
「コラ!!!2人とも焦るな!!!
お、俺もいただきます…」
父親もお酒そっちのけで料理を口にした。
母親はそんな家族を幸せそうに眺めていた。
・・・
「ふぅ、食った飲んだ!!!」
何故か涙を流す父親は幸せそうに
横たわる。
「父ちゃんまた泣いてるぜ…?」
父親の様子を見たユガはイムールタに
耳打ちした。
「そ、そっとしておこう…」
そんな3人の様子を見て
母親がなにやら楽しそうに話し始めた。
「あのね、あなた達2人が生まれた時、
普段泣かないパパが今みたいに顔を
くしゃくしゃにして泣いてたの。」
母親はクスクスと笑いながら父親を見る。
「お酒飲んでたの?」
「それがね、お酒飲んでないの。」
母親はびっくりでしょう?と言い、
いつの間にか寝てしまった父親の頭を撫でる。
「それくらいあなた達のことが
大好きなんでしょうね。」
「パパ…」
ユガもイムールタも泣きそうになる。
「…あのさ、僕がお金もらったらパパに
いいお酒を買っ」
イムールタが提案をしようとしたその時、
何かバキバキッ、と壊れる音がした。
「な、なんだ!?」
ユガは外を見てみよう、とイムールタの
手を引くのだった…
・・・
2人は外に出て、音のする方向へ向かうと
神様を祀っていた祠が壊れていた。
「長老!!!これは何なの!?」
祠の近くに立っていた長老の服に
ユガはしがみついた。
「…祠をよそ者が壊してイズ様が
お怒りになり、贄を寄越せと仰ったんじゃ…」
「…よそ者はどこなの?」
イムールタの顔は険しくなる。
「よそ者はイズ様に驚きどこかに
逃げてしまったようじゃな…」
「な、なあ!ニエ…って何だ!?」
「この人間の誰かじゃ。」
「ねぇ、長老。その贄は誰なの…?」
イムールタが聞くと長老は少し答えづらそうに
頭を抱え、しばらくしてから
ゆっくりと顔を上げた。
「どうやら子どもを欲しているようじゃな…」
「そんな…!」
「イズ神様曰く、1人子どもを森の奥に
贄として連れてこい、そうしなければ
アモ族の村ごと滅ぼすと…」
「長老!何とかならないんですか!?」
イムールタが長老にしがみつく。
しかし為す術もないと長老は俯くばかりだ。
そんな中、ユガはぽつりと呟いた。
「…なあ、長老。俺を贄にするのはどうかな?」
「ユガ…?何を言っているの?」
「だって、兄ちゃんせっかく仕事
決まったんだぞ!それならまだ仕事の
決まってない俺を贄にするのが
いいんじゃないか?」
「それにレコは職人としてのスキルが
すげぇ高いし、贄にするには勿体なくね?
他の子どもも贄にするには持ったいねーと
思うんだよ、俺は。」
「ユガ、やめてよ!!!ユガは足が早くて…」
「俺はいーの!足が早くて健康体の
人間の方が神様喜ぶって!」
ユガはニッとした顔をイムールタに
見せると森のある方角を真剣な顔で見つめ、
駆け出して行った。
イムールタの待っての声は聞こえないふりを
してユガは森の奥へと向かったのだった…
・・・
ユガは森の奥にたどり着く。
そこには白い大蛇が佇んでいた。
「…イズ様。」
「…来たか。お前が贄だな?」
「…うん。」
「…もう私は弱っている。だから苗床が
欲しくてな。少し村人を脅す形になって
しまい申し訳ない。」
「な、苗床…?」
「苗床は例え話だ。私と契約をすると
代償として左目を失う。」
「左目…」
ユガは気持ちが揺らいでいるのか
どこか落ち着かない様子だった。
「それに、簡単に死ぬ事は出来ない。
最終的には身体の1部をひとつ、ひとつと
失い、最後には存在ごと消える。
死ぬより苦しい時間が長く続く。」
イズがそう言うとユガは
みるみるうちに青ざめていった。
「…左目。父ちゃん譲りの…
それと…死ぬより苦しい…」
「…パパがみんなに自慢していた
目をあげちゃうの?」
近くの木の後ろに隠れていた
イムールタはイズとユガの前に出てきた。
「兄ちゃん!?なんで来たんだよ!!!」
「左目…ゆくゆくは身体ごと消滅しちゃうん
でしょ?イズ様。」
「ユガの目はパパ譲りでさ。
視力が高くて素早い動きも目で追えるんだよ。
…大人になっても活かせる能力になるはずだ。」
「…やめてよ兄ちゃん。」
「僕の目は片方失ったとて支障はない。
…ユガの目みたいな能力は無いけど、
綺麗でしょう?ママ譲りなんだ。
それに、ママ譲りの目だから物を見る目は
いいんだ。」
「けれど、左目をあげる代わりに
約束して欲しいんだ。僕の体調を良くして。」
「…本当に体調を良くするだけで
いいんだな?」
イズがそう言うとイムールタは静かに頷いた。
「…ふふっ、あはははは!!!
1歩でも間違えば消えちまうってのに!
そんなちっぽけな約束でいいのか!?
気に入った!仕方ない、左目を貰う代わりに
もう1つ能力をつけよう!」
イズは変わったやつだ、と大笑いした。
「兄ちゃん!やめて!
俺…兄ちゃんに消えて欲しくないよ!!!」
しゃっくりが止まらないユガを
イムールタはそっと抱きしめた。
「大丈夫、絶対おじいちゃんになるまで
生きるよ僕は。だから…」
ユガもおじいちゃんになるまで
笑顔で生きていて。
そう言うとイムールタはイズの頭に触れた。
「ねえ、イズ様、もうひとつの約束。
ママを蹴った3人のよそ者を殺すのを
手伝って。」
「…承知した。」
イズとイムールタは次第に白い光に
包まれるのだった…
・・・
白で埋め尽くされた景色は溶け、
黒に移り変わる。
目の前には鍵が現れた。
「…今のままだと、俊さんが
あの時のよそ者みたいに…」
折西は鍵を手に取り、ギュッと握りしめた。