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#完全オリジナルストーリー
𝐀𝐘𝐀_

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𝐀𝐘𝐀_

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特別編
第二章 忘れていたもの
午後十時過ぎ。
千弥はようやく眠りについた。
「……すぅ……。」
くぅちゃんを胸に抱きしめ、安心したような寝息を立てている。
千景は布団をそっと掛け直し、前髪を優しく整えた。
「おやすみ、ちーちゃん。」
小さな声でそう呟くと、部屋の明かりを落とし、静かにドアを閉めた。
一階のリビング。
遥は温かい紅茶を二人分用意して待っていた。
「眠った?」
「うん。」
千景はソファへ腰を下ろす。
いつもなら仕事の話や、千弥の大学での出来事を話しながら笑い合う時間。
しかし今夜は違った。
二人とも自然と口数が少ない。
「……。」
「……。」
時計の針だけが静かに時を刻む。
しばらくして、遥がゆっくり口を開いた。
「ちか。」
「ん?」
「ちーちゃん、あんな様子になるの初めてじゃないよね。」
千景はカップを見つめたまま、小さく頷く。
「……うん。」
「僕も、どこかで見たことがある気がしてた。」
その言葉に、千景は目を閉じる。
記憶をたどるように。
「高校生の頃だったかな。」
遥がぽつりと話し始める。
「ちーちゃん、小学生だった。」
「うん。」
「元気だったのに、急に笑わなくなった時期があった。」
千景の表情が少しだけ変わる。
「そうだ……。」
「学校でもぼーっとして。」
「好きだったテディベアにも、あまり興味を示さなくなって。」
「ご飯も少ししか食べなくなった。」
「……。」
二人は顔を見合わせた。
その瞬間。
忘れていた記憶が、一気によみがえった。
「……そうだ。」
千景が小さく息をのむ。
「忘れてた。」
「僕も。」
遥の声も少し震えていた。
「ちーちゃんには……。」
「心の病気があった。」
その言葉が、静かなリビングに落ちる。
当時のことを思い返す。
まだ幼かった千弥。
大好きだった遊びにも興味を示さず、理由も分からないまま涙を流す日が続いた。
「どうしたの?」
そう聞いても。
『わかんない。』
としか答えられなかった。
何が悲しいのか。
何が苦しいのか。
本人にも分からない。
だから余計につらかった。
病院へ通い、少しずつ回復し、医師からはこう言われた。
『無理をしなければ、普段どおり生活できます。ですが、強い疲れや環境の変化などをきっかけに、再び症状が出ることもあります。』
それから何年も。
症状はまったく現れなかった。
中学生になっても。
高校生になっても。
大学生になっても。
笑顔で毎日を過ごしていた。
だから――。
二人とも、その存在を忘れてしまっていた。
「……僕。」
千景は両手をぎゅっと握る。
「社長になってからも。」
「ちーちゃんの体調ばかり気にして。」
「熱とか。」
「風邪とか。」
「食事とか。」
「全部見てたつもりだった。」
声が少し震える。
「なのに、一番大事なことを忘れてた。」
「ちか。」
遥は静かに千景の肩へ手を置く。
「自分を責めないで。」
「でも。」
「ちーちゃんも何年も元気だった。」
「僕だって忘れてた。」
「……。」
「二人とも忘れてしまうくらい、元気に過ごせてたってことだよ。」
その言葉に、千景はゆっくり息を吐いた。
「そう……だね。」
しばらく沈黙が続いたあと、遥が静かに言った。
「明日。」
「うん。」
「大学は休ませよう。」
千景は迷うことなく頷く。
「そうする。」
「会社も。」
「僕も休む。」
「僕も一緒にいる。」
「ありがとう。」
二人は予定表を開き、翌日の予定を確認する。
重要な会議は役員へ任せる。
急ぎの案件はオンラインで対応できるよう手配する。
「これで大丈夫。」
「うん。」
「明日はちーちゃんだけを見よう。」
「そうだね。」
「それと。」
遥が真剣な表情になる。
「もし。」
「うん。」
「明日になっても。」
「明後日になっても。」
「今日みたいな様子が続くなら。」
千景は静かに頷いた。
「病院へ行こう。」
「うん。」
「もう一度、先生に診てもらおう。」
「早い方がいい。」
「ちーちゃん自身も理由が分からなくて苦しんでる。」
「だから、一人で抱えさせちゃ駄目だ。」
二人の考えは同じだった。
その時。
二階から、小さな物音が聞こえた。
カタン。
千景はすぐに立ち上がる。
「ちーちゃん。」
「見てくる。」
「僕も行く。」
二人は顔を見合わせ、小さく頷いた。
今夜だけは。
何があっても、一人にはしない。
そう心に決めながら、静かに階段を上っていった。
特別編 第二章おわり。
特別編 第三章へ続く。
コメント
1件
わあ……読み終えて、胸がぎゅっとなりました。千弥ちゃんの心の病気、家族の大切な人が「忘れてた」って気づく瞬間の描き方が本当に繊細で。遥くんが「元気に過ごせてたってことだよ」って言うところ、ああ、この家族はちゃんと寄り添ってきたんだなってほっとしました。二人で「一人にしない」と決めて階段を上がっていくラスト、続きがすごく気になります。第二章、素敵な時間をありがとうございました🌷