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「じゅり」攻×『こーち』受
「……で、今日は何しに来たの」
都会の喧騒から少し外れた、薄暗いバーのカウンター。
田中樹は、隣に座った髙地優吾を、一瞥もせずにグラスを揺らした。
髙地は俯き、自分の膝の上で拳を握りしめている。
『……樹に、会いたくて』
「へぇ。北斗にはなんて言ってきたわけ?」
その名が出た瞬間、髙地の肩がぴくりと跳ねた。
松村北斗。
髙地の恋人であり、誰もが認める一途な男。
優しくて、穏やかで、髙地を心から大切にしている。
そんな男がいながら、髙地はある日、街中で偶然目を合わせただけの樹に、理屈ではない何かを奪われてしまった。
鋭い眼差し、気だるげな色気。
自分とは違う世界の住人のような彼に、どうしても惹かれずにはいられなかったのだ。
『北斗には……友達に会うって、言ってきた』
「ふーん。嘘つきなんだね、こーちは」
樹がようやく顔を向けた。
だが、そこに温度はない。
期待していた熱い視線ではなく、まるで道端に落ちている石ころでも見るような、ひどく冷めた目。
「俺、言ったよね。北斗と別れる気がないなら、もう来るなって」
『それは……っ、でも、北斗のことは嫌いになれないし……』
「欲張りだね」
樹はふっと鼻で笑い、飲み干したグラスをカウンターに置いた。
カラン、という氷の音が、静まり返った店内に冷たく響く。
「中途半端な気持ちで俺のところに来られても、迷惑なんだけど。北斗に悪いとか、そういう罪悪感に酔ってるだけじゃないの?」
『違う!俺は、樹のことが……』
言いかけた言葉を、樹の冷徹な視線が遮った。
樹はゆっくりと身を乗り出し、髙地の耳元で、凍りつくような低い声を落とした。
「……じゃあ、今ここで北斗に『別れよう』って電話して。できないなら、二度と俺の前に現れないで」
『そ、れは……』
絶句する髙地を見て、樹の瞳がいっそう深く、冷たく沈んでいく。
「なんだ、やっぱりその程度。……ねぇ、俺の言うこと聞けないの?」
突き放すような言葉。
見下ろすような瞳。
髙地は自分が最低だと分かっていながら、その拒絶にさえ歪んだ快感を覚えてしまう自分に絶望した。
樹の手が、拒絶するように髙地の肩を軽く押し戻す。
「帰れば?優しい北斗が、家で待ってるよ」
一度も振り返ることなく、樹は再び店員に酒を注文した。
取り残された髙地は、止まらない震えを隠すように、夜の街へと逃げ出した。
次に彼に会うときは、すべてを捨てた時か。
それとも、このまま壊れてしまうのか。
冷めた瞳の残像が、瞼の裏に焼き付いて離れなかった。