テラーノベル
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クッキーを、焼いてきてしまった…。
三谷瀬の願いを叶えるために、三谷瀬に親衛隊の人が焼いたものよりも会長のクッキーの方が美味しいって言ってもらうために。そしてあわよくば三谷瀬に、すごいね、ありがとう会長。って褒めてもらいたいためだけに。
そんな下心が込められているとはいえ、改めてこの俺が手作りクッキーって…。
仮にも学園内総選挙で、中学3年生から3年連続抱かれたい男ランキング1位に選ばれている、何様俺様生徒会長様と名高いこの俺が!
好きな人に喜んでほしくてクッキーを焼いてくるなんて、絵面がやばくないか…?ていうか普通にキモいだろ。やっぱりこんな乙女みてえなことは俺のキャラではない。あいつには悪いが、渡すのはやめだやめ。
我に返り、改めて机の上にちょん、と置かれた水色のリボンがかけられた包装紙を見つめる。中には星や丸の型をしたクッキーが入っていて、形はどれも歪で不揃いだしところどころ焦げてる部分もあって、見るからに料理初心者が初めてお菓子を作りましたってかんじだけど。初めて尽くしの工程の中苦戦しながらも、三谷瀬のことを考えながら何度も何度も失敗して、焼きなおして、そしてようやく人に渡せるレベルのものが完成したときは感動しておもわず泣きそうになってしまった。
キャラじゃねぇのはわかってるが……
——『あんたの焼いたやつが食べたい。それがお願い。』
——『楽しみにしてマス』
包装紙とリボンで綺麗にラッピングされたクッキーを手の平に乗せて、ツン……とつつく。
「渡したら、喜ぶのかな……」
こんな不格好なクッキーでも、三谷瀬が少しでも喜んでくれるなら。
それなら抱かれたい男ランキング1位の変なプライドだとか、柄じゃないとかは、なんだかもうどうだっていいのかもしれない。
それにせっかく機材とか材料とか集めて、何度も焼き直したことなんだし。
あげるくらいはしてもいいかな。うん、やっぱり渡そう。
そうと決まれば少しでも早い内に……よし、さっそく三谷瀬の教室に行こう!と立ち上がろうとして、冷静になる。
——そうだ、落ち着け俺。
これから委員長総会が始まる。
ならそっちが優先に決まってる。
渡しに行くのはそのあとだ。
あわや大事な会議よりも色恋を優先させてしまうところだった。
どうやら俺の頭の中は、俺が想像してたよりもずっと花畑になってるらしい。
会長としての活を入れ直すため、ぱんッと頬を叩く。
よしっ!
ズボンのポケットにラッピングしたクッキーを入れ、今度こそ立ち上がった。
まずは資料の準備だ!
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