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【俺はもう、大丈夫、だヨ】
Episode.5 今日も元気
《🎼🍍side》
父さんは、今日も元気だ。
少なくとも、俺の前では。
朝、目を覚ますと、父さんはもう起きていた。
台所から、包丁とまな板の音がする。
🎼🍵「ひまちゃん、起きてる?」
🎼🍍「起きてるー」
そう返すと、すぐに声が返ってきた。
🎼🍵「もうすぐご飯できるから、顔洗っておいで」
いつも通りの声。
少し低くて、柔らかい。
布団から出て、台所を覗く。
父さんはエプロンをつけて、フライパンを振っていた。
🎼🍍「今日はなに?」
🎼🍵「オムレツ。ひまちゃんが好きなやつね」
🎼🍍「やった!」
本当に、いつもと同じだ。
咳もしない。
顔色も、昨日よりいい気がする。
──だから俺は、安心したふりをする。
*
朝ごはんを食べながら、父さんが言った。
🎼🍵「今日はどうする?お友達と遊んでもいいんだよ」
🎼🍍「ううん。家でいいや」
🎼🍍「俺、外より家がいい」
🎼🍵「…ひまちゃん、前は外の方が好きって」
🎼🍍「あー、気分かも」
🎼🍵「そう?」
父さんは少しだけ眉を下げたけど、すぐに笑った。
テレビをつけて、ニュースを見る父さんの横顔。
その肩が、ほんの少しだけ落ちている気がした。
でも、俺は言わない。
「疲れてる?」なんて。
「大丈夫?」なんて。
代わりに、いつも通りのことを言う。
🎼🍍「父さん、あとで一緒にゲームしよ」
🎼🍵「いいよ。負けないからね」
🎼🍍「俺に勝てるのはこさめだけ!」
二人で笑う。
それで、この時間は完成する。
*
昼前、父さんは洗濯物を取り込もうとして、
一瞬だけ動きを止めた。
……ほんの一瞬。
俺は気づいたけど、
わざと目を逸らした。
父さんも、すぐに何事もなかったみたいに動き出す。
🎼🍵「風、強かったね」
🎼🍍「すげー強かった」
それ以上、何も起きなかった。
《🎼🍵side》
今日は、うまくいっている。
咳も出ていない。
立ちくらみもない。
ひまちゃんの前では、完璧だ。
胸の奥に、重たいものはある。
息を深く吸うと、少し痛む。
でも、そんなのは慣れている。
ひまちゃんは、俺の顔をよく見るようになった。
前からこんなに見られていただろうか。
……いや、考えすぎだ。
*
洗濯物を取り込む時、
一瞬、視界が揺れた。
──まずい。
すぐに壁に手をついて、呼吸を整える。
ひまちゃんの視線を感じる前に、
何でもないふりをする。
🎼🍵「風、強かったね」
声は、ちゃんと出た。
大丈夫。
ひまちゃんは、何も言わなかった。
いつも通りに、返事をした。
……ほら、気づいてない。
そう思うことで、
俺は今日も立っていられる。
《🎼🍍side》
昼ごはんの後、父さんはソファで横になった。
🎼🍵「ちょっとだけ寝るね」
🎼🍍「はーい」
俺はテレビの音量を下げて、
父さんの毛布を直す。
寝顔は、穏やかだ。
呼吸も、ちゃんとしてる。
……大丈夫。
その言葉を、心の中で何度も繰り返す。
*
父さんが目を覚ました時、
俺は何もしていなかったみたいに座っていた。
🎼🍍「起きた?」
🎼🍵「うん。ありがとう」
父さんは、俺の頭を撫でる。
🎼🍵「ひまちゃんはいい子だねぇ」
その言葉が、少しだけ胸に刺さる。
いい子でいれば、
この時間は続く気がして。
だから俺は、今日も上手に笑う。
父さんが普通の父親でいられるように。
俺が、普通の息子でいられるように。
この静かな嘘の上に、
今日という一日を、そっと重ねる。
next.♡500
コメント
7件
こんなに暖かい日常ほどもろくてなくなるのがこわいな・・・こころがぎゅっとするよ・・・
お互いに気づいていて気付かないふりをしているから、 ぎこちなくても、それはお互い演技をしているからもちろん普通なんだよね…… まっじでこの作品好き! 続き、楽しみにしてるねん🫶🏻💕︎︎🙂🎐
🍵くんほんとに大丈夫...?? それはそれで🍍くんも心配だよぉ😭😭