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#年の差
水無月 京
836
鷹槻れん

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鷹槻れん

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#強引
「……兄が、言ってくれたんです、『大丈夫、俺が付いてるから怖くないよ』って……」
羽衣子はぽつりぽつりと言葉を紡いだ。
「手を繋いでくれて……それでだんだん安心できて、降りた時には、『また乗りたい』って笑顔になっていました」
「そうか。それなら良かった」
昴はそう答えるとゆっくりと立ち上がり、羽衣子の隣へ腰を下ろす。
「昴、さん……?」
そして戸惑う羽衣子の肩をそっと抱き寄せた。
「無理に忘れる必要はないし、良い思い出まで記憶から消す必要もない。寧ろ楽しかった記憶や嬉しかった記憶は消すな。大切な思い出としてしまっておけばいい」
羽衣子は何も言わず昴の言葉に耳を傾けていく。
「それに、話したくなった時は、いつでも話していいんだ」
「……っ、昴さん……」
昴には分かっていた。
羽衣子が大切だった存在を無かったことになど出来ないことを。
それに、楽しかった時間や嬉しかった記憶まで否定する必要がないことも。
どんな人間にも大切な人がいる。
そして、その人と過ごした大切な思い出がある。
それは昴自身も同じだった。
「……人は、そう簡単に記憶を消せない」
昴は少しだけ視線を落としつつ静かに続けた。
「忘れたいと願っても、どうしても忘れられないことだってある」
「……昴さんにも、そういう人がいるんですか?」
羽衣子の問いに昴は一瞬だけ黙るも、ゆっくりと頷いた。
「……ああ。いる」
その声にはどこか懐かしさと寂しさが滲んでいた。
「それは……俺の母親だ」
「昴さんの、お母様が……」
「俺の両親はな俺が生まれてすぐの頃に、もう夫婦仲が破綻していたんだ。特に父親が酷い人間でな。酒に酔うと暴れて手がつけられなくなった。暴言も酷かったし……暴力を振るうこともあった」
羽衣子は息を呑みながらも黙って昴の横顔を見つめる。
「ただ……母親が、いつも俺を守ってくれた。お陰で俺が父親から直接危害を加えられることはほとんどなかったんだ」
そこまでの話を聞けばとても良い母親だったのでは無いかと羽衣子は思ったのだが、その後の話を聞けば聞く程、羽衣子の中に辛く悲しい感情が溢れてきた。
「そんな両親も俺が小学校低学年の頃に離婚した。まあ、父親が女作って一方的に出て行った形だったがな。俺としては居なくなってせいせいした。だけど、母親は違ったんだ」
「…………」
「あんなクズな男でも好きだったみたいでな、優しかった母親は徐々に変わった。俺が小学校高学年に上がる頃には金だけ置いて家に帰らなくなった。帰って来る時は付き合ってた男と駄目になった時。帰って来るなり酒浸りで顔を合わせれば暴言の嵐。中学の頃にはもう顔すら合わせなくなった。それがお互いの為だった。まあ、そんな母親でも高校までは出してくれたから、そこだけは感謝してるがな」
「…………っ」
悲しそうに過去を語る昴を前にした羽衣子の瞳からは大粒の涙が溢れ出ていた。
「おいおい、何で羽衣子が泣くんだよ?」
「……っ、だって…………っ」
「別に悲しくなんかないさ。もう過去の話だ」
「……だったら、どうしてそんなに悲しそうな顔で話すんですか……」
「……そんな顔、してたか?」
「してます……今も……」
「……そんなつもりは、無かったんだがな……」
指摘された昴は困ったように笑みを浮かべると、羽衣子の身体を抱き締めた。
「だけど本当に今はもう吹っ切れてる。家を出た時に誓ったんだ、忘れようって。それからは話した通りだ。慶太さんや組長に出逢って、七鳳組という新たな居場所を見つけた。今は希海も居るし、羽衣子も居る。悲しくも寂しくもない。だから、泣くな、羽衣子」
「……っ、昴さん……、私も、……昴さんや、希海くんや、皆さんが居てくれるから……淋しくないです……っ、これからも、傍に、居させてください……っ」
「勿論だ。ずっと傍に居てくれ、羽衣子……」
泣きじゃくる羽衣子の背を優しく撫でながら、昴は改めて決意する。
誰よりも大切な存在の羽衣子や希海を自らの手で幸せにしようと。
コメント
1件
うわ、すごく泣けた……昴が自分の過去を話すシーン、胸にくるものがあった……。母親を「不幸な女」として客観的に語る昴の淡々とした口調の裏に、小さな頃に必死に守ってもらった記憶が透けて見えて、切なかった。羽衣子が泣き出して「そんな顔してますって言うシーンで、もうふたりの距離が紙一重縮まった感じがリアルで好き。いつの間にかお互いの傷を支え合ってる関係性、とてもあったかいと思った。おやすみ、今日読めて良かった。