テラーノベル
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遊園地で昴の過去を知ったことをきっかけに、羽衣子は少しずつ想汰について自分なりに整理し受け入れられるようになっていた。
それから数日が過ぎて二人きりの旅行を明日に控えた羽衣子は自室のベッドの上に並べた物を前にして、落ち着かない時間を過ごしていた。
視線の先にあるのは今回の旅行の為に新しく用意した服と下着。
「……やっぱり、ちょっと、張り切り過ぎたかな……」
旅行だからと、いつもより少しだけ気合を入れてみたものの、改めて目にすると急に恥ずかしくなってきたようで、今更ながら別のものにすれば良かったのではないかとさえ思えてくる。
「……でも、せっかくの旅行だもん……これくらい、いいよね……」
自分に言い聞かせるように呟いてみるけれど、胸の高鳴りは一向に収まらなかった。
荷物をしまい終えてベッドに横になった羽衣子は天井を見つめながら、
「……明日は、昴さんと二人きり……」
ポツリと呟いた。
これまでにも昴と二人で出掛けたことはあるし夜を共に過ごしたことだってあるけれど、『旅行』という形で二人きりになるのは今回が初めてだったこと、普段とは違う場所に二人だけでずっと一緒にいる――そう考えるだけでどうしても意識してしまうのだ。
「……どうしよう。ドキドキする……」
結局その夜、羽衣子はなかなか寝付くことが出来なかった。
翌朝、羽衣子たちが出掛けるより一足先に乙哉や皐月と共に亮治の屋敷へ一泊することになっている希海を見送ったあと、昴と羽衣子も出発の準備を整える。
「それじゃあ、留守を頼む」
「はい、任せてください」
そして準備を終えると残った数人の組員たちに留守を託して二人は自宅を後にした。
「よし。それじゃあ、出発するぞ」
「……はい。お願いします」
荷物をトランクへ積んだ後で運転席に乗り込んだ昴はエンジンを掛けながら羽衣子に視線を向ける。
「……緊張してるのか?」
「えっ……」
ふいに言い当てられた羽衣子の肩はぴくりと跳ねた。
「……は、はい。その……旅行って意識すると、いつもと違う感じがして……」
「そうか。でも、そんなに硬くなってたら楽しめないぞ。少しは肩の力を抜け」
「……そ、そうですよね」
指摘された羽衣子は苦笑しながら、ゆっくりと息を吐いた。
「すみません……」
「謝ることじゃないだろ」
羽衣子を気遣いつつ、昴は車をゆっくりと走らせ始めた。
それから暫くすると羽衣子も落ち着いてきたのか徐々に肩の力が抜けていく。
そんな中、昴が何かを思い出したように口を開いた。
「……そうだ」
「はい?」
「宿に向かう前に行きたい場所があるんだが……そこへ寄ってからでもいいか?」
「行きたい場所……?」
思いがけない言葉に羽衣子は目を瞬かせる。
「ああ」
どこへ行くのかは何も言わないけれど、それを今は聞くべきじゃない気がした羽衣子は特に行先については触れない。
「はい。もちろんです」
「ありがとう」
その言葉と共に車は更に速度を上げていく。
(寄るところって、どこだろう?)
そんな疑問を胸に抱きながら羽衣子は再び窓の外へ視線を向け、昴は真っ直ぐ前を見て運転に集中する。
こうして――二人きりの旅行が幕を開けたのだった。
暫くして、向かっているのが海岸方面だということが羽衣子にも分かる。
途中、飲み物を買う為にカフェに寄った程度で、車は海岸沿いの道をひたすら走っていく。
てっきり海へ向かうのだと思っていた羽衣子だったのだが、車は何故か海岸を通り過ぎてそのまま先へと進んでいった。
(何処に向かってるんだろう……)
疑問には思ったもののそこでも羽衣子はあえて口にしなかった。
やがて車は海岸沿いの道を離れ、緩やかな坂道を上り始める。
そして、坂を上り切って高台へ出たところで羽衣子は窓の外に広がる景色に気づいた。
(ここって……)
そこにあったのは、静かな墓地だった。
「……お墓、ですか?」
驚いたように呟くと、隣で運転していた昴が少し申し訳なさそうな表情を浮かべて謝った。
「悪いな。せっかくの旅行なのに、こんなところに連れてきて」
「いえ……その、ここって、もしかして……」
羽衣子が言葉を濁すと昴は静かに頷いた。
「ああ。ここには慶太さんと香恵さんの墓がある。今日は少し報告したいことがあってな……どうしても立ち寄りたかったんだ」
「そう、だったんですね」
「悪いな。すぐ済むから」
「謝らないでください」
申し訳なさそうに謝る昴に羽衣子は小さく首を横に振った。
「その……私も希海くんのご両親である慶太さんと香恵さんにご挨拶したいと思っていたので……」
そこで区切った羽衣子は昴の顔を見上げ、
「だから、連れてきてもらえて嬉しいです」
連れて来て貰えて嬉しいことを伝えると、
「……そうか」
昴の表情がほんの少しだけ和らいだ。
「そう言ってもらえて安心した。それじゃあ行くか」
「はい」
二人は車を降りると昴が先に立って歩き出して羽衣子がその隣に並ぶ。
静かな墓地の中をゆっくりと歩き、いくつもの墓が並ぶ中で一つだけ眼下の景色を遮るもののない場所に立っている墓があり、昴はその墓の前で足を止めた。
#年の差
水無月 京
836
鷹槻れん

34,723
鷹槻れん

60,493
#強引
コメント
1件
わあ、92話まで来てたんですね!🌸 羽衣子さんが新しい下着を前に「張り切り過ぎたかな…」ってドキドキしてるの、すごく可愛くて微笑ましかったです。それでいて昴さんが連れて行った先がお墓だったという…「せっかくの旅行なのに」って謝る昴さんに「連れてきてもらえて嬉しいです」って言える羽衣子さんの優しさにじんとしました。希海くんのご両親へのご挨拶、昴さんの報告したいこと…この二人の関係の深まりが感じられる大切なエピソードでしたね🤍