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nmmn,fwakになります!
※この作品はモブ視点のfwakです。(二人の登場少ないです)
※地雷の方はご注意ください。
※ご本人様とは一切関係ありません。
※fw(高校生)×ak(大学生)の世界線で書いています。
akn→『』
fw→「」
モブ→()
です。
どーぞ!
私と同じクラスの、学年一…いや学校一モテる不破湊君には、どうやら恋人がいるらしい。
そうは言っても、別にそれは特に珍しいものではなくて…。文字通り、不破君はモテるから。
不破君に恋人が居ることは当たり前で、告白されている場面も何度も見てきた。今は誰々と付き合っているらしい…などそういう話もよく聞いていた。
それなのに、どうしてそんな当たり前の噂がこの学校中に広まっているのかと言うと、
……今の恋人はこの学校には居ないんだとか。
つまり、誰か分からないらしい。というかそもそも、恋人がいるのかも怪しいらしい。
(え、じゃあやっぱり別の学校の人?)
(いや、今は年上の人って聞いたよ)
(年上?)
(うん。しかもモデル系らしいよ。めっちゃ綺麗な人なんだって)
まるで人気アイドルの熱愛報道かのように、噂が勝手に脚色されていく。
…まだ、それが本当かどうかも居るか居ないかも分からないのに。
まぁ、居るには居ると思う。ついこの間、女子生徒からの告白を「好きな人いるから」と言って断っていたし。
あと、その噂を完全に否定できない理由として1つ。きっとこれにはみんな気づいてる。
不破君が女子生徒と校内を歩いている姿を一切見かけなくなったこと。前は散々見かけていたのに。
それがあるから、みんな否定できないんだと私は思ってる。
不破君は、うちの高校で一番と言っていい程有名な人。
理由は簡単。何回も言ってるけどモテるから。
顔は言うまでもなく整っていて、成績は…まぁ…あれだけど、そんなとこもいいとか可愛いとか。
男女関係なく誰からも好かれる優しい性格を持っていて、そしてなんと言っても、彼は軽音部の部長。最近行われた部活動紹介では、ステージでギターを弾く姿が誰かの手によって隠し撮りされ、学校中に拡散されていた。
どこをとっても完璧と言える不破君が、学校一モテる男だなんだと言われるのに、そう時間はかからなかった。
誰もが振り返るその背中を、沢山の人が見つめる…そんな光景を私は何度も見てきた。
だから、みんなの憧れの存在に新しい恋人がいる、しかもそれがこの学校の人じゃないって聞いた時、勝手に“お似合いな相手”を思い浮かべてしまうのも分かる気がした。
違う学校の超絶可愛い子、実は居た幼馴染、もしくは年上の綺麗な人。
みんな自分じゃ到底適わなそうな人を”お似合いな相手”にすることで、納得しているかのもしれない。
あの不破湊君の隣に並ぶのが自分じゃないのなら、きっとこんな人。じゃなきゃ私が許さないって。
なんともまぁ、怖い生き物だ。
私は噂を聞くだけの人間。それ以上を追求することは無い。
だから、今後も不破君の恋人を見ることはないって、
…そう思ってた。
その日は、委員会の仕事があって帰りが遅くなった日だった。
昇降口で靴を履き替え、校門を出たところで、不破君が誰かと並んで歩いているのを偶然見かけた。夕方だったし暗くなり始めてはいたけど、なんとなく不破君だなって思った。
歩いている二人の髪が風に揺れる。
不破君より背が少しだけ小さいその人は、大きめの白いTシャツにリュックを背負っていた。
噂では年上と聞いていたけれど、どこか若々しく本当に年上なのかと疑ってしまうくらい、飾り気のない幼い顔で笑っていた。
噂は所詮噂なのかもしれない。
『てかふわっち、勉強は大丈夫そう?』
「んー?ぜーんぜん大丈夫じゃないよぉ」
『いやいやダメやろ』
「アキナー、教えてぇ」
『いや、ふわっち途中で飽きるからやだ』
不破君が見たことない優しい顔で笑う。
その人の頭をぽんぽんと撫でた後、手を差し出した。
その瞬間、本当にたまたま、不破君と目が合ってしまった。
ほんの一秒。
驚きが滲んだ瞳が、すぐにやわらかく細まる。
そして、不破君は静かに笑いながら、その人にもバレないように控えめに唇に人差し指をあてて、”秘密”って。
慌てて目をそらしたけれど、何故か頬が熱くなっていくのが分かった。
あの一瞬で、すべてを悟った気がした。
不破君の噂の“お似合いな相手”は、派手でも理想的でもなく、ただ普通に純粋に、不破湊という人間に何にも変え難い幸せを与えられる人だったのだ。
そばに居るだけで安心できて、私という部外者が居てもなお、顔が綻んでしまうほどの幸せを。
後日、学校中でまた不破くんの噂が流れた。
(前の土曜日さ、湊君があそこの大学の前で誰か待ってたらしい)
(じゃあやっぱり大学生なんだ)
(でもなんか見た人から聞いたんだけど、地味な人だったって。釣り合ってないというか…?)
(えー?それってほんとに湊くんの彼女なの?)
私は何も言わなかった。もちろん先日のことも誰にも何も言ってない。
だって、あの時不破君に”秘密”って言われた。いや、もしあの時にそう言われなかったとしても、私は何も言わない。
地味なんて嘘だ。釣り合ってない筈がない。嘘を流している誰かがいる。
恋人の隣にいる時の不破君は、学校にいる時の美人という言葉がよく似合う仮面を被った彼ではなくて、他の誰にも見せない…見ることが出来ない気を抜いた様な表情をしていた。ありのままだった。
それを見ても、不破君とその恋人が釣り合ってないと言うのなら、それは見間違いなのだろう。
そうに違いないのだ。
だって、彼はあんなにも幸せそうだったのだから。
付け入る隙なんてない。
梅雨が明け、夏がもうすぐ目の前という頃。
少し汗が気になるくらいの気温の中、外のゴミ捨て場まで歩いていた時、本当にまたもや偶然、不破君の話し声が耳に入ってきてしまった。
校舎裏で誰かと電話をしているらしい。不破君の声はいつもより低く、そして優しかった。
「うん……うん。…ううん、大丈夫。そんなん気にせんでええよ。アキナは?…うん、うん、そっか。よかった」
一拍置いて、小さな笑い声が混じった。
夏の木々を揺らすそよ風が運んできたその言葉たちは、とても優しく柔らかかった。
「…うん、ありがとねアキナ。アキナの声聞けてよかった。…うん。またね。終わったら連絡する」
本当に彼が大切なんだろう。何からも守ってあげたいんだろうな…。
私まで心が穏やかになった気がした。
電話が終わったであろう不破君とバッと目が合う。
(…あ、)
「えっと〜…もしかして、盗み聞き?」
(えっあ、え…っと!私そんなつもりなくて…ごめん…)
「はは、冗談冗談」
そう言って笑う不破君の顔は、いつもの仮面をつけている。
「秘密にしててくれてありがとう」
(え?)
「あの時の約束」
(あ…、そんなの当たり前だよ)
あれ私だったってこと不破君も気づいてたんだ。
「…ありがとね。あの時見られちゃったのが君で本当によかった」
またね、と言って不破君がその場から去って行った。
何かを質問させる気はないみたいだ。
(……私でよかった…かぁ、、。)
夏休み前、夕焼けに染まるグラウンドから不破君とその大学生が並んで歩いているのを再び見かけた。
一見、友達同士のようにも見える彼ら。
不破君が笑う。
あの時と同じ、優しく愛おしい人にだけ向ける笑顔。
きっと誰も知らない。
不破君の恋人が、どんな人でどんな空気を纏っているのか。彼にどんな表情をさせるのか。
そして、どれほど不破君に大切にされているのかを。
このまま誰も知らないままでいれたら、いいのに。
噂のその先を知る人はこの先も居ないままでいい。
2人が望むまでは。それがいい。
―完―