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それからは目まぐるしく忙しい日々が続き、紫苑とお腹の子の足取りは掴めずにいた。
その歳の夏には星漿体の護衛を俺と傑に言い渡された。
その際傑から一人称を変えろと言われ、キレかけたが、「パパになるんだろ。」という言葉に黙るしかなかった。
Qだの盤星教だのと言った天元との同化を拒否する輩から天内を守るのには相当手が折れた。
初っ端に爆破に巻き込まれて助けてやった天内に引っぱたかれた俺はイラつきを隠せなかったが、傑も前髪をいじられ久々に意見が噛み合ったので少し痛い目を見せてやった。
その後天内の学校に呪詛師が侵入したり、メイドの黒井が沖縄まで拉致られたりしたがお互いが協力し合ってなんとか高専まで連れて来れた。
しかし、その際に呪力を持たないフィジカルギフテッドの男に奇襲をかけられ俺は死にかけた。
傑に2人を任せ、薄れゆく意識の中俺は反転術式に意識を全振りした。
「帰ろう、理子ちゃん。」
私は理子ちゃんの要望を聞き入れ、戻ろうと彼女に手を差し伸べると後ろからあの男の声が聞こえた。
「はいはい、そんじゃ行くぞガキ共。茶番は終わりだぜ。」
「お前…なぜここにいる。」
「なんでって…あーそういう事ね。あいつなら今くたばってっけど、運が良けりゃ生きてんだろ。」
「そうか、死ね。」
そう言って理子ちゃんを避難させ、激闘を繰り広げていた。
「はいはいストーップ!!」
そう言って割って入って来たのはあの時自販機の前で屯っていた時に現れた女性だった。
「ちょっと甚爾くん!危ないじゃないか。星漿体の子が死んだらどうしてくれるんだ。」
「別にこれくらい良いじゃねえか。せっかく報酬のついでに楽しませて貰おうと思ったのによ。」
「えっと…これはどういう?」
「すまないね、彼には天内を逃がす為に一芝居打って貰ったんだ。」
「は!?え!?この人敵じゃないんですか?というかあなたは一体?」
「ああごめんね紹介がまだだった。私は特級呪術師の九十九由基。彼は高専でスパイとして雇っている伏黒甚爾くんだよ。」
「そういうこった。五条のぼんくらボコせて俺は満足だったぜ。多分今頃反転覚えてハイになってんだろ。盤星教の本部は俺がもう潰して来たから心配いらねえよ。」
そう言って解散解散と全員を引き連れ結界の出口に向かう伏黒甚爾。
「お嬢様!」
「っ!黒井!!」
涙を流しながら別れることのなかった嬉しさに2人は喜んだ。
その後ハイになった五条に茈をぶち込まれ、皆死にかけたが夏油の呪霊でどうにか回避したのだった。
その翌年、今度は悟の単独での任務が入った。
何でも、本来は2級換算の呪霊だったようで元々は2年の七海と灰原が行く予定だったが、等級が見直され悟が単独で行くことになったらしい。
無事悟は帰還し見直された通り一級案件だったと私に告げた。
悟は最強になり最近ではお互い単独の任務が増えた。
それが私にとっての悩みになった。
しかし3年に上がってから頻繁に夜蛾先生と九十九さんが気にかけてくれるようになっていた。
最初は自分が悟よりも弱いからだと思い込んでいたが、どうやら違うらしい。
純粋にここ最近悩んでいる所を見抜かれメンタルケアをしてくれているようだった。
「確かに悟は最強になった。しかし、あいつの隣に居てやれるのはお前しかいない傑。」
「五条くんは無理矢理最強になって貰ったっていうのもあるからね。夏油くんも彼に負けず劣らずの才能がある。君はゆっくり自分を伸ばして行けばいいんだよ。」
そうは言ってもだ。
自分でも分かっている。
悟の罪と罰を一緒に償うと約束をした。
けれど最強になった彼を見て、私の助けなど必要ないのではという思いが芽生えていた。
更には私の中で悟に説いていた弱者生存に対して気のゆらぎがあった。
非術師達は弱さを盾にして、私ら呪術師に命を賭けさせ自分達は生温い安息地でぬくぬくと暮らしている。
私には同じ人間に見えなくなっていた。
そんな私が悟の隣に居ていいのか、ひたすらに葛藤した。
そんな中で私と悟が久しぶりにペアで任務に駆り出された。
3年に上がってから恐らく初なのでは無いか。
補助監督の車で向かっている時は少し懐かしさを感じ、二人でかなりハメを外しすぎた。
悟と2人で最強だった頃に戻ったみたいだ。
ああこんな日常がずっと続いたら、そう思った。
しかしいざ任務に出向いてみると現状は悲惨なものだった。
原因はもう既に取り除いたというのに私はとある場所に連れて行かれた。
そしてその光景に目を疑った。
そこには座敷牢の様な檻の中に2人の少女が閉じ込められていた。
私らと同じ、持っている側の人間。
非術師によって搾取され続ける側の人間。
呪術で己の身も守れない猿どものせいで、命を賭ける側の人間。
目の前がどす黒く染まっていく感覚であった。
鼓動が早くなる。
悟、ごめん。
私はそいつらを外に連れて行き殺そうとした。
「なにやってんだよ傑!」
その声で我に返る。
振り返ると息を荒らげて目を見開く私の親友。
「こいつらが呪術を扱える子どもを虐待していたから殺そうとした。」
そういうと悟が私の顔を殴った。
「ふざけんなよ!そんなんしちまったらお前もこいつらと同じになっちまうぞ!…なあ傑、頼む。一緒に罪償ってくれるんだろ?お前が俺のこと置いて行っちまったら俺もうどうすればいいか分かんねえよ。」
必死な親友の顔に私の中のどす黒い渦巻きが浄化されて行く。
私は親友に置いて行かれるとばかり思っていたが、親友もまた同じ気持ちだったようだ。
ああ、なんだか自分が馬鹿馬鹿しい。
そう思い呪霊をしまった。
「そうだったね…すまない。この子達を連れて帰ってもいいかい。」
「あたりめえだろ。帰んぞ傑。」
2人の手を引いて車に戻る。
すると悟が道中手を伸ばしてきた。
「なあ俺ももう一人と手繋いでやるよ。」
「いや大丈夫だ。この子達は私に懐いているし、何よりも、君には一番最初に手を握って欲しい子がいるからね。」
私が悟にその言葉を投げかけると悟は驚いた様にその六眼を揺らした。
「お前が親友でいてくれて良かった。」
「こちらこそ。私を止めてくれてありがとう悟。」
ありがとう悟。私を置いて行かないでくれて。
だから私も悟の大切な存在へ共に贖罪をするよ。
私達は最強であり、親友なのだから。
それから数ヶ月後、五条、夏油、家入の3人は夜蛾に話があると教室に集められた。
「まずは天内理子の護衛、土地神案件、集落の双子の保護の件ご苦労だった。お前らの担任でいられることが私は誇らしい。」
「夜蛾センなに急に。明日死ぬの?」
「次期学長だからねえナイーブになってるんだよ悟。」
「あんまはしゃがないてくださいよ先生。」
相変わらずの3人に夜蛾は安心する。
「お前らにこれだけは伝えようと思ったんだ。昨年退学した信太紫苑のことだ。」
茶化していた五条が目を見開いた。
それは2人も同じようだった。
「この三つの重大な案件は全て彼女が術式で未来を見据えていたんだ。彼女が見えた未来だと天内理子は殺され、灰原も等級違いの呪霊に寄って殉死し、傑が集落の人間を皆殺しにして呪詛師になるはずだったんだ。そして11年後に両面宿儺の完全復活が予期されていた。それによって悟を含めた大多数の死者が予見された。それらを阻止するために彼女の指示の元こちらで色々と計画を立てていた。彼女のその後はどうなっているか言えんが、これだけはお前らに伝えようと思ってな。」
紫苑の術式は千里眼。
未来を予知する能力であるが彼女の呪力量だと数ヶ月後か、多く見積っても1年程度先の未来しか見えないはずだ。
もしかしたら何かしらの縛りを使って自分達に降り注ぐ未来を見据えていたのかも知れない。
知らないところで彼女に守られていたようだ。
感謝はもう伝えられないが、彼女がいてくれたおかげでこうして全員が変わらず青い春を紡ぐことが出来ている。
「なあ先生。」
「なんだ悟。」
「腹の子は無事生まれた?」
「なんの事だかさっぱりだな。」
「とぼけんなよ。」
そう言ってポケットから妊娠検査薬を出した。
「お前…はあ…女性の部屋に勝手に入るもんじゃないぞ。」
夜蛾は観念したように口を開いた。
「無事生まれたようだ。」
「そっか。男?女?」
「女の子だそうだが私も九十九伝いにしか聞いておらんから詳しくは認識していない。住んでいる場所も九十九しか知らないようでな。」
「ふーんなるほどね。了解。」
「それ持ち歩いてるのめっちゃキモイよ五条。」
「お守りだよお守り。」
「さすがに再会出来た時それ見せちゃダメだからね。女の子なら尚更。」
「いいじゃんかよ別に。何がだめなんだよ?」
「悟、デリカシー持たないとパパになるどころか夫にもなれないよ。」
「うぐ…」
じゃあ見せねえよと内ポケットにしまったそれに手を当てる五条。
「まあでも、宝物には変わりねえよ。」
ありがとう紫苑。
俺…いや、僕の子どもを産んでくれて、大切にしてくれて。
どんな名前を付けたのかな。
いつか、あの赤い瞳を細めた笑顔で紹介して貰えるのだろうか。
それから6年後。
僕と傑は任務のために新潟を訪れていた。
お腹にいた子はもう小学生くらいだろうか。
あれからも紫苑の居場所は分からず九十九にも会えていない。
そんな中での二人での出張だった。
場所は田舎町にある遊園地。
そこは山を保有しており、その山を切り開いて増設する予定なのだという。
しかしそこに入ると神隠しに逢うと噂が広まってしまい、客足が遠のくことを防ぐ為、二人が指名された。
「新潟って、そういえば滅多に来たことなかったけど政令指令都市のクセにすごい田舎じゃん。」
「そりゃあ東京に比べたらねぇ。私はへぎ蕎麦と日本酒が楽しめたら満足だし。君も下戸じゃなかったら美味しいお酒が飲めたのにね。」
「そんなのの何が美味いんだか。スイーツも笹団子とぽっぽ焼?みたいなやつくらいって終わってるよね新潟。」
「悟、そんなこと言ってると稲刈り機で轢かれるよ。」
「傑もまあまあ皮肉だぞそれ。」
駅からタクシーに乗り込み目的地を伝える。
運転手の老人が話しかけてくるが訛りすぎていて全然聞き取れず、傑と顔を合わせて笑ってしまった。
目的地の遊園地は大層寂れていて、土曜日だと言うのにお客も子ども連れがちらほらいるだけだった。
アトラクションもコストの関係なのか稼働していないものが幾つかあった。
「よくこんな所に子ども連れて遊び来ようと思うよね。」
「こういう田舎はね、娯楽がイオンかパチンコかラブホくらいだから子どもを遊ばせるとなるとこういう所しかないんだろうね。」
私と悟は遊園地の責任者だと言う人物に連れられ、例の山に案内された。
そこは確かに噂が折り重なって出来たのであろう殺伐とした空気が漂っていた。
地方でここまで強い呪いが発生するのも珍しい。
一応立ち入り禁止エリアにはしてあるが、利益のために営業を続けていること自体かなり危険だ。
中に入り帳を下ろす。
見た所によると2体以上はいるようだ。
大分範囲が広いので悟と二手に分かれて捜索する事にした。
山中は本当にここを開拓できるのかと言うほどに荒れ果てていた。
神隠し以前にまずこの山に子どもが入ってしまったら自力で出ることは難しそうである。
所々にある呪霊の残穢を辿ると15分程で私はその呪霊を見つけた。
そして神隠しに会いそうになっている一人の女の子がいた。
少女は持っている側の人間の様で術式を展開していた様だが、あの呪霊にはほとんどダメージがないようだった。
私はは急いで少女を保護し、呪霊を取り込んだ。
「大丈夫かい?」
少女に怪我がないか確認するが鼻血を出している以外に目立った外傷はない。
この鼻血も恐らく術式の反動によるものだろう。
しかし、少女の鼻を拭くとふと違和感を覚えた。
少女は透き通る様な白髪でその顔はどこか、親友の面影を感じる見た目であった。
瞳も紫という、まるで赤と青を掛け合わせたせたかのような…。
彼女の赤い瞳が脳裏に浮かんだ。
少女は未だ状況が読み込めないといった様子でポカンと私の顔を見つめている。
私は考える事を一旦辞め、少女が安心する様声を掛けた。
「驚いたよ。君も持ってる側なんだね。」
「そ、そうです。」
「すごいじゃないか。でもさすがに1人では危ないよ。もし何かあったら君の親御さんが悲しむ。」
「ごめんなさい…。」
「私に謝罪なんていらないよ。さあ、親御さんの所に帰ろう。」
そういうとその小さな手が私の手を握る。
私の手が大きいのかこの子の手が小さいのか小指しか握れていないが、子ども特有の温かい体温を感じた。
私は悟にLINEに巻き込まれた子どもを親に送り届けるとだけ伝えた。
本当は今にでも悟をこの場に呼びたかったが、まだ確証が持てたわけではない。
少女は自分に心を開いてくれたのかこちらに笑顔を向けて色々話をしてくれた。
名前は唯愛というらしい。
母親と二人でこの遊園地に遊びに来たが、例の噂を聞き最近自覚したばかりの術式を使って自身の実力を試そうとしていたようだった。
「ねえ傑くん、九十九さんっていう人知ってる?」
少女の口から出た名前に驚き、夜蛾学長の言っていたことを思い出す。
「もちろん知っているよ。呪術を扱える中ではトップクラスに強いからね。」
「やっぱりそうなんだ!その人にね、呪術を教えて貰うんだ!」
「九十九さん直々に教えて貰えるなんて凄いじゃないか。」
「へへ!おっきくなったら呪術師になるの!」
そう言って紫に染める瞳をキラキラと輝かせていた。
無事に唯愛の母親を見つけると、推測はどうやら当たっていたようだ。
数年振りに見た彼女は少し濃い目の化粧をしており、高専時代とは大分印象が変わっていた。しかし、赤い瞳は記憶の通りに綺麗だった。
女性は私を見るや否や血相を変え、顔を俯かせたまま唯愛の手を引いて行った。
去り際にお礼を言われたがその声は震えていた。
唯愛は強引に手を引かれてよろめきながらこちらにまたねと見えなくなるまで手を振っていた。
私は2人が見えなくなったところで悟に電話をかけた。
「もしもし?ああ、巻き込まれていた子どもは無事送り届けたよ。それで、後で話がある。悟。」
ようやく見つけたよ、君の宝物。
悟は二つ返事で答えると5分程して山から降りてきた。
圧勝だったのだろう。
どこも乱れておらず来た時と変わらぬ風貌で戻ってきた。
「そんで、話って?」
「そうだね、ここだとあれだし丁度昼時だから場所移動しようか。」
「何?そんなに改まる系?まあいいや、そのへぎ蕎麦ってやつでいいよね?」
「そうしよう。タクシーならもう呼んでいるよ。」
帰りは比較的無口な運転手のタクシーに乗り移動する事30分。
昼時に入った蕎麦屋は大層混みあっており、190cmはあろうかという黒ずくめの男二人の姿に周りもザワついていた。
二人は何処吹く風と言ったようで気にすること無くズルズルとへぎ蕎麦を啜っている。
無言で蕎麦を啜っていると傑が先程電話で僕に言っていた事を話し始めた。
「悟、例の巻き込まれた子どもなんだけどね。」
「傑が保護した子でしょ。その子どもがどうかしたの?」
「あの子ね、持ってる側の人間だったんだ。」
「まじか、ひょっとして自分の力過信してあの山に入っちゃった感じ?」
「そのようだよ。そしてここからが本題だけど、あの子の母親が信太さんだった。」
傑の口から出た言葉に思わず箸を止めた。
「雰囲気は大分変わっていたけどね、あの紅炎の様な赤い瞳は間違いなく信太さんだった。私を見るなり血相を変えて強引に子どもの手を引っ張って行ったよ。」
「そっか…。」
「すまない、君が来るまで呼び止められれば良かったんだけどさすがにそれはあの感じだと難しかったんだ。」
「別にお前が謝ることじゃないよ。でも、元気そうならよかった。」
「子どもはやっぱり女の子だったよ。髪は君と同じ色だし顔も君にそっくりだったけど、瞳は紫色だった。悟の青と信太さんの赤が混ざりあった色なのかもね。」
「…子どもの名前は?」
「唯愛だってさ。唯一の愛と書いて唯愛なんだよって嬉しそうに言っていたよ。」
「唯愛か…。あーもうだめだめ、そんな漢字使われちゃあ僕期待しちゃうじゃん。」
「ひょっとしたら、期待していいのかもしれないね。」
「どうだかね。」
都心からは離れているだろうと推測はしていたが、まさか、新潟に身を置いていたなんて2人にとって青天の霹靂である。
新潟は日本で一番神社の数が多いため他県に比べると呪霊被害が少ない。
発生したとしても3、4級程度の呪霊ばかりだったので、2人が任務で出向くことはなかった。
しかし、今回2人が派遣されたのは先程の呪霊も含めた1級から特級相当の案件が3件。
おそらく廃村になった所にある神社が原因だ。
神社は人々が崇め、祀りあげれば加護を与える存在であるが、誰からも信仰されず放置されると逆におぞましい呪いへと転ずる。
例の遊園地の近くにも廃村になった社のある集落があったようなので、そこから発生した呪力が溜まったものだった。
土地神の類いは一級術師以上でなければ務まらない。
それはあの一件で思い知らされている。
「あの2人をここに置いて行きたくはないな。」
「悟、気持ちは分かるが2人を今すぐ引き取るのは得策ではないよ。上層部や君の親戚達があの2人にどんな危害を加えるかも分からないからね。」
「それは僕も分かってるよ。」
2人を引き取るのは、その腐ったミカン共を綺麗さっぱり浄化させてからだ。
「九十九さんみーっけ!!」
特級呪術師九十九由基は油断していた。
ここ最近唯愛が小学校に上がり、術式を自覚し始めた頃合いで少女の師匠として顔を出していた。
新潟に2人を連れてきたのは正しく九十九である。
新潟には数多くの神社があり、呪霊の発生頻度が平均よりも少ないため、安心して2人が日常を送れると思ったからだ。
しかしここ最近、一級以上の呪霊が今までに無いほどに湧き出ていた。
九十九はその呪霊を祓いながら2人の面倒を見ていた。
だが発生頻度に九十九の祓除頻度が追いつかず、こうして特級呪術師2人が駆り出されることになったのだ。
九十九は2人が新潟に来る事を知らされていなかった。
夜蛾にすら住所を教えていなかったのが仇となった。
九十九は平常心を装い、目線を上に向けた。
「久しぶりだね。夏油くん、五条くん。あの自販機の前で屯していたとは思えないくらい大人になっていて驚いたよ。」
「そりゃあ7年も経ってますからね。九十九さんはなぜ新潟に?」
「たまたまさ、私も色々忙しいんでね。それじゃあ名残惜しいけどお暇させて貰うよ。」
踵を返し、その場を立ち去ろうとするが、巨大な壁の様な2人が九十九の行く手を阻んだ。
「そんな事言わずに特級同士仲良くやろうよ。僕もあなたに聞きたいこと山程あるんだ。」
「申し訳ないが、私には君たちにとって有益なものは何一つ持ち合わせていないよ。」
「ふーん、白を切るつもり?仕方ないな傑あれ貸して。」
そう言って傑から唯愛の鼻血が付着しているハンカチを借り、彼女の前に掲げた。
「それは…」
「名前、唯愛って言うんだね。僕にそっくりなんでしょ?これはね、唯愛の鼻血。DNA鑑定に出しちゃったらどうなんのかなあ。」
「…君たちには完敗だよ。」
僕の脅しに九十九さんはこれ以上逃げられないと悟った様だ。
彼女言うには紫苑は妊娠が発覚した時にはもう中退を決めていたらしい。
彼女の術式はあの重大案件を未来視した際の縛りでほとんど力を失っていたことも起因だ。
そのまま九十九さんの援助で自身の出生地である新潟に身を置き、今日まで暮らしていたのだという。
呪術界の本拠地である東京と京都にもあれから一度も近づかず、ひっそりと唯愛を産んだ。
今は繁華街の高級クラブでホステスをしており、唯愛を養っているようだ。
住居は職場から少し離れたファミリーマンションだという。
紫苑と唯愛の写真も見せて貰った。
記憶よりも大分大人びているもう姿を見るとこが出来ないと思っていた彼女と、明らかに自分との繋がりを感じる少女。
もしあの時素直に慣れていたら、彼女に酷い扱いをしなければ、自分も今頃この画面の中で一緒に笑って写れていたのだろうか。
無言でその写真を自分のスマホに送信した。
「ちょっ!何勝手に!」
「DNA鑑定。」
それを言うと彼女は黙った。
僕は半ば強引に約束を取り決めた。
紫苑に今までの分も含めた養育費を毎月払わせて貰うこと、二人の近況を週一で伝えること、欲しいものがあれば全部自分が買い与えること、二人の誕生日に九十九さん伝いでプレゼントを渡すこと、僕が根回しをして紫苑にホステスを辞めさせることだ。
これは縛りになる。
まあ断られたとしてもこの血を鑑定しちゃえば認知できるけどね。
でもその方が紫苑にとっても得策ではない。
九十九さんは渋々その縛りを受け入れた。
やっと見つけたんだ。
ありがたく罪を償わせてもらうよ。