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人は、生まれながらにして罪を持つのだろうか。
それとも――
罪を選ばされた瞬間に、人は“そうなる”のだろうか。
答えは、ずっと目の前にあった。
俺が、目を逸らし続けていただけで。
*
その夜、屋敷は異様な静けさに包まれていた。
警備の人数が、通常の倍。
無線は沈黙を守り、廊下に足音はない。
嵐の前だ。
俺は直感的にそう理解した。
「りうら」
呼ばれ、振り返る。
ないこが立っていた。
コートは羽織らず、銃も持っていない。
まるで――
武装を解いた“人間”だった。
「来い」
短い言葉。
だが、拒否できる響きではなかった。
*
向かったのは、地下のさらに奥。
存在すら知らされていなかった、最深部の部屋。
扉が開くと、白い光が溢れた。
「……ここは」
「記録室だ」
壁一面の棚。
古い紙の匂い。
血と銃で築かれた組織の、
“過去”が、ここに眠っていた。
ないこは、一冊のファイルを取り出す。
その表紙に記された文字を見て、
俺は息を止めた。
――“実験記録”。
「……これは」
「お前の、始まりだ」
ないこは、静かに言った。
*
二十数年前。
この街には、裏で進められていた計画があった。
“理想的な後継者”を作る計画。
恐怖を知らず、
命を軽く扱え、
忠誠心を、人工的に植え付けられる存在。
それは、人ではなく――
“道具”を作る試みだった。
その計画に、
ないこも、関わっていた。
「……俺は、金とルートを用意した」
ないこの声は、淡々としている。
「だが、途中で気づいた。
あれは、作っちゃいけないものだった」
実験は、赤ん坊を使って行われた。
環境操作。
薬物。
洗脳。
だが、多くは耐えられず、死んだ。
「……生き残ったのは」
俺は、震える声で言った。
「……一人だ」
ないこは、肯定も否定もせず、続けた。
「だが、そいつは完成前だった。
“壊れる”前に、俺が――」
言葉が、途切れる。
「……盗み出した」
沈黙。
すべてが、繋がった。
*
「……俺は」
喉が、痛い。
「俺は、その実験の……」
「被験体だ」
ないこは、はっきりと言った。
「お前は、人為的に作られた存在だ。
親はいない。
“人之子”であり、同時に――」
彼は、ゆっくりと告げる。
「罪之子だ」
空白が、埋まった。
「人之子。罪之子。」
それが、俺の正体。
*
頭が、真っ白になる。
怒りも、悲しみも、
すぐには湧いてこなかった。
ただ――
納得してしまった自分が、いた。
だから、
感情が薄いのか。
だから、
躊躇なく引き金を引けたのか。
全部、
“作られた”ものだったのか。
「……どうして、俺を育てた」
震えた声で、問いかける。
「殺すことも、できたはずだ」
ないこは、少しだけ目を伏せた。
「できなかった」
その答えは、
驚くほど、人間的だった。
「お前は、
俺たちが犯した罪の、証拠だ」
「……」
「だが同時に、
償いの、可能性だった」
ないこは、俺を見る。
「お前が、
自分で選び、
自分で生きられるなら――」
「俺たちの罪は、
“意味のない悪”じゃなくなる」
*
その瞬間。
警報が鳴った。
短く、鋭く。
「……来たか」
ないこは、ため息をつく。
「実験の残党だ。
お前を回収しに来た」
「俺を……?」
「“完成品”としてな」
扉の向こうで、銃声が響く。
部下たちの叫び。
血の匂い。
俺は、反射的に銃を構えた。
「りうら」
ないこが、俺の腕を掴む。
「選べ」
「……何を」
「逃げろ。
ここを出て、普通に生きろ」
「それとも――」
彼は、静かに続けた。
「ここに残り、
俺と一緒に、全部終わらせるか」
*
――選択。
初めて、
“用意された答え”じゃない問い。
俺は、銃を下ろさなかった。
「俺は……」
一歩、前に出る。
「人之子です」
そして、息を吸う。
「でも、
罪を選んだ覚えはない」
ないこが、目を見開く。
「なら――」
俺は、はっきりと言った。
「これからの罪は、
俺が選びます」
*
戦いは、短く、激しかった。
だが、終わりは来た。
残党は全滅し、
記録室は炎に包まれた。
過去は、灰になった。
*
夜明け。
屋敷の屋上。
朝日が、街を照らす。
「……後悔してるか」
ないこが聞いた。
「いいえ」
俺は、即答した。
「初めて、自分で選びました」
ないこは、静かに笑った。
ほんの一瞬。
「なら、もういい」
「?」
「お前は、
俺の罪じゃない」
その言葉は、
俺を、縛っていた鎖を断ち切った。
*
俺は、人之子だ。
だが同時に、
罪から生まれた存在。
それでも――
これからの生き方は、
俺が決める。
血でも、
計画でも、
誰かの期待でもない。
拾われた命は、
選び直すことができる。
それを、
俺は、証明する。
――ここから先は、
俺の人生だ。
此処二終。