テラーノベル
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sha誕記念
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□キャプション必読□
こちらはとある戦/争.屋実況者様及びとあるヤバ/い.町系実況者様のキャラをお借りした二次創作です。
ご本人様とは全く関係はありません。
・こちらに登場する男性キャラ達の関係は全て友情です。(NOT腐向け、BL作品ではありません。)
・誤字及び脱字は日常茶飯事。
※誤字、脱字を見つけた際はコメント欄にてこっそり教えて貰えるとありがたいです。
・キャラ崩壊注意。
・設定がガバガバであったり、矛盾したりしている所があるかもしれません。(その場合は目を瞑って頂けると幸いです。)
・今作品は作者の捏造、妄想を詰め込んだものです。
・今作品には関西弁が多数出現致します。作者は関西出身ですが、地域によっては関西弁が変に感じるかもしれません。
・流血、暴力、殺人、放火の表現があります。
・さらっと秘密結社パロ(裏稼業パロ)です。
・作者はホストに行ったこともないしあまり知らないのでホストの役職が解釈が低いかもしれません。
・作品内に登場するすべては誹謗中傷/政治的プロパガンダの目的で作られたものではありません。
・公共機関では読まないようにご配慮下さい。
・あくまで一つの読み物としての世界観をお楽しみください。
・作品/注意書きを読んだ上での内容や解釈違いなどといった誹謗中傷は受け付けません。
・問題があれば非公開又は削除致します。
※cnさん、shaさんが元・ホスト設定。
これらの注意事項が許容できる方のみ閲覧ください。
ワンクッション
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元・ホストのcnさんとshaさんがとある事件を解決する話。
旧wrwrdにある動画『絶望ホスクラ』とはなんの関係もありません。あるのはビジュだけです。
※そしてサラッと秘密結社パロ(裏稼業パロ)
割とシリアスよりですけど結構ギャグ要素多めです。
途中で流血表現と暴力の表現、自殺表現(作中で登場する詩の表現に)があります。
主にshaさんが怪我します、もちろんさらっとcnさんも怪我します。(主に後半)
無茶しちゃいます。
視点は交代交代で変わっていきます。
正直作者は最後のセリフを言わせたくて書いただけの作品。(※それだけの為にこんなに書いたのヤバい気もする。多分、魔女狩り以来。)
この時代に文明機器(スマホ)がある事は目を瞑ってくださいな…
shaちゃん誕生日おめでと〜〜〜!!!!
私は今年もshaちゃんを推したよ…!!!!
元気で楽しく生きてくれれば、私が言うことはなにもありません!!!!
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s h a 視点
黒いなにか模様が描かれた絨毯の上に置かれた、黒に近い焦げ茶色のソファが鎮座している。
お偉いさん方の部屋によくありそうな机に、趣味の悪い絵画が飾られた壁。
斜めに傾いた刃と太い材木との間に、首に切断面が現れていて、よく見ると骨までもが繊細に描かれた頭のない胴体が蠢く姿が描かれている。
世間で言う、ギロチンで処刑された罪人と言うべき人間の絵かなにかだろう。
その隣には、火がごうごうと燃え盛り、こちらまでもが燃やされてしまいそうなほどリアルに描写された家。
その奥のほうに、小さな女なのか男なのかよく分からない生物が眼光を鋭く輝かせてこちらを向いている。
更にその隣には、とても華やかな空間で、可愛らしい小さな花が点々とあり、その隣に可憐な女性が背の高い男の手を握って歩いていた。
先程まで物騒というより、グロテスクな絵が飾ってあったのに、ここまできて急に、こんなにも平和な絵画が飾られていて、情緒不安定か?、とツッコミそうになってしまう。
しかも、この絵画全て、同じ作者が描いたものらしい。
作者はもちろん、この絵画を飾る人間の正気の沙汰を疑う。
この絵画には話があり、確か、一時期美術にハマっていたトントンが、五徹明け翌日に深夜テンションならぬ昼間テンションとやらで通販で買ったものらしい。
それも真顔で、すんとした表情で買うものだから、気付くのが遅れたらしい。
ちなみにこの美術品たちは、七つのゼロと一つの八の値段とのこと。
左後方に視線を上げ少しだけ向けてみると、薄く水色に染められたふわふわとした質感のくせっ毛が、空気に触れて動いていた。
空色に近い、水色のようなサスペンダーに、白色のワイシャツを着た、脚の長いスタイルのいい男。
瓶底の丸メガネを掛けた、鼻より上が隠されたとしても尚わかる端正な顔立ちをした細身な男が、まっすぐ前に視界を広げていた。
釣られて俺も視界を広げると、子供のように目を煌めかせ、ルビーを埋め込まれたのかと思うほど力強く活力のある赤い瞳に、睨まれていた。
光にあたって乱反射する金色の髪もまた、隣にいる男と同じように揺らいでいた。
後ろの窓から日が差してきたようで、逆光でルビーの瞳が隠れてしまったことは、少しの気がかりである。
「で?ここまで来させといてなんの用や?」
「グルッペン」
この総統室は敵に侵入された時のために基地の奥に建てられている為、俺たちのいる幹部棟から中々に遠いのである。
総統室に侵入されないよう、必然的に階層も上がるので、エレベーターなんてもんがないこの棟は階段で上がるしかないのである。
手を組み、その上に顎を乗せ上目遣いで(された方は恐らく身震いするだろう。)窺っていた。
その手を解き、ゆっくりと顔を上げる。
案の定、ろくでもないことを考えている時の顔で、ニマニマと悪どい微笑を浮かべていた。
「ふっふっふ…」
「お前たちには、一週間後に潜入捜査に行ってもらうことになった」
「またなんかの依頼?」
「つか潜入捜査てどこにや」
「ホストだ」
「はいこの話は終わりやな帰るぞチーノ」
「待て待て待て」
「一応言っておくが、お前たちに拒否権はないぞ?」
「はあ?俺らもうとっくにホスト辞めてんねんけど」
「きもい女達喜ばすんが嫌なったから辞めてんけど」
「それは重々承知している」
「だが、今回は無理だ」
「ちょい待ってやグルッペンさん」
「断れへんってどういう事ですか?」
秘密結社、wirwar。
どんな依頼でも必ず成功させ、頼まれれば武力だって貸し、頼まれれば機密情報だって闇に葬る。
その代わり法外的な値段で、である。
構成は幹部が十二人で一人につき一部隊ずつ持ち、部隊の隊員数は約百人程度。
トントンも幹部ではあるが、書記長兼グルッペンの護衛役でもあり、その上に部隊の隊長まで引き受けてしまったらトントンの仕事量が増えすぎてしまうということで幹部の中ではトントンのみ部隊を持っていない。
依頼内容は主に暗殺や紛争、戦争地域への参戦、機密情報などの破壊、もしくは情報の奪取ともはや裏社会の何でも屋と言うべきことをしている。
基本的には、小さな依頼や結社全体を動かすような大きな依頼でなければ俺たちの自由に依頼を選び受けるが、今回は大きな依頼で、それもグルッペンが断りきれなかった依頼ということ。
つまり、相当に権力の高い者からの依頼か、俺たち以上に大きな社からの依頼ということでもあった。
「…国家から依頼があった」
「…、…なるほど」
国家からとなれば断れるはずがない。
俺たち秘密結社はごく稀に国家から秘密裏に依頼を受けることがある。
それも国家でも手に負えないような問題ばかりなので、絶対に面倒くさい依頼なことだけはわかる。
「とりあえず以来の概要を話す」
「トントン、頼んだ」
「はいはい、頼まれました」
メガネを掛けた、七三分けの黒髪に、年中身につけている赤いマフラー。
グルッペンの煌びやかな雰囲気とは打って代わり、荘厳な雰囲気が漂う男だった。
赤い瞳は血液の色にも似ていて、奥には猛々しい炎を燃やしているようにも見えた。
「ほな話すで」
「ここ最近、歓楽街でホストが行方不明になる事件が相次いでんねん」
「行方不明?」
「そう」
「しかもタチの悪い奴でな、行方不明になったホスト達が一ヶ月置きに一人、惨殺死体となって返ってきた」
「四肢が全部切り落とされて、特に顔とか酷いで」
「鑑定の結果、生きたまま顔を焼かれてん」
「それも、眼球が火で溶けるくらい長時間で焼かれて」
「それは…」
「惨いな」
「色んな店からバラバラにホストが行方不明になってるから次にどこが行方不明になるんか検討がつかへん」
「そこで、お前らにホストとなって潜入してもらおう、ってことや」
カタカタ、カタ、とキーボードを指で叩く音が空気を伝い振動に変換される。
数瞬、パソコンを弄ったかと思ったら、パソコンの液晶画面に写真が映った。
とても華やかで、明るい青色を基調とした黒と白の大理石出できた店だった。
看板にはPuissanceと書かれている。
フォントは明朝体である。
「お前らにはここ、Puisanceに行ってもらうわ」
「なんか…」
「店自体はしっかりしてんな」
「ホスト特有の胡散臭さとかない」
「表向きは信用のできる店やな」
「中身とかシフトとか見てみなわからんけど」
「その通り」
「国家から既に調べはついとるみたいで、唯一まだ被害を受けてないとこや」
「限りなく白に近い」
「まだ被害を受けてないってことはこれから被害を受ける可能性が高いってこと…」
「つまりそこに潜入すれば犯人たちにもしかすると出会えるかもしれんってことてわもある」
「せや」
「そんでその道のことはその道の人に聞く、つまり、ホストに関する事件ならホストで情報を集める、そういう役割もあるわ」
うーん、実に合理的。流石トントン略してさすトン。
「ホストのお偉いさんだけ知ってるわ」
「はぁ…」
「わかった……行ったるわ…」
「まあまあ、シャオさん、久しぶりに楽しみましょうよ!」
「ホストでどう楽しめと???」
「それは…んまあなんとか!」
「どうゆう事やねん…」
「チーノ、シャオロン」
聞きなれたバリトンボイスが、鼓膜に伝わる。
声の持ち主に視線を向け、我らが総統の声を聞き逃さまいと耳をすませている。
「必ず、生きて帰ってこい」
「「ハイル・グルッペン」」
いつもそうだ。
グルッペンは俺たちが任務に就くとき、いつもこうやって言ってくる。
グルッペンから直に与えられる任務は、基本的に難易度の高い任務ばかりなので、必然的に命の危険が伴う。
グルッペンは俺たち幹部のことをとても信頼(というよりは執着と言った方が正しいかもしれない。)している。
そして、グルッペンが現場で任務を行うことは無い。
総統だから、リーダーだから、組織のトップだから。
グルッペンは現場でも働きたいとは言っているが、そんなことを俺たち幹部がさせない。
俺たちの心臓がグルッペンで、グルッペンを支える俺たちは身体の手足。
心臓を守るのが俺たちの役目。
そんなことをグルッペンも承知しているから、任務に出たいと言うことはあまりない。
だからせめて、俺たちが無事に帰ってくるように、居場所に戻ってこれるように、こうやって験担ぎをしてくれるのだ。
こんなにも重い言葉を、俺たちは承知する他ないのだ。
彼の言葉を、しっかりと噛み締めるように応えると、グルッペンは少し頬を緩まし、厄介払いでもするように手でしっしっ、と払った。
いや俺らは虫か。
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c n 視点
「あら〜あんた達が派遣された人ねぇ〜?」
ふくよかな体型をした、独特な容姿の男が俺たちを迎え入れた。
髪は長く黒くパーマになっていて、髪を後ろでひとつにまとめ、オールバックでとても大きい装飾があるピアスを耳にしていた。
お腹を出しており、へそにもピアスを開けていて、ネイルをしている。
その爪はとても長く、エメラルド色のマグネットネイルだ。
長く細い足を短パンの下からスラリと覗かせ、中々端正な顔立ちをしている。
その顔には青色の濃いアイシャドウに、緑のリップ、長いまつ毛が付いていた。
店内は外装通り綺麗で整っており、ブルーのライトアップに、白い壁、黒色の床で出来ていた。
ブルーの光が床を照らし、黒色の大理石が、藍色に近い宝石のような輝きを放っていた。
事務室は白いライトになっていて、パソコンが置かれており、コンビニにある事務室にも近いかもしれない。
コンビニほど部屋は狭くないが。
「あぁ、はい」
「俺の名前はシャロンです」
「俺はぺぺって申します」
「あんた達中々…まぁ、とっても綺麗なお顔をしているわねぇ」
「こりゃ売れるわね」
「それはどうも」
「ってそんな事はどうでもいいのよ」
「ホストの業務はさっき説明した通りよ」
「で、源氏名はどうするの?」
「あなた達はウィルワーの一員、どうせ名前も偽名なんでしょう?」
「ならその名前をそのまま使ってもいいとは思うけど」
コイツ食えないやつだな、そう思う。
先程から一分の隙も乱れず、姿勢を正し、男にしては可憐な雰囲気を演出しておきながら、その中にはどこか強かさまである。
何より、国家から派遣されることは知っていれど、俺たちがウィルワーの一員である事は知らされていないはずだ。
なのに知っている。
これは手強い相手になりそうである。
そう身構えていたところ、彼から先に沈黙を破った。
「あんた達に敵対なんてする訳ないでしょ」
「なんなら、あんた達には知りたいことはなんだって教えてあげる」
「昔、アタシはあんた達に助けられたのよ」
「助けられた?」
「そうよ?あんた達のトップにね」
「だから、その恩を返そうと思って」
「そうなんですか」
「そうなのよ」
「また話がそれちゃったわね、そんな話はどうでもいいわ」
「なんの話をしてたっけ…ああ、そうそう、源氏名、どうするの?」
「えーと…」
「なんだったら私が付けてあげてもいいわよ?」
「参考までに聞かせて頂いても?」
「クソガキ悪魔野郎と、全身脱毛野郎かしら」
「ちょっと待ってくださいなんで俺が脱毛やってるの知ってるんですか!!??」
「ふふ、何年この業界に浸かってると思ってるのよ」
「そのくらいお見通しよん」
そう言うと、彼は人差し指と親指をくっつけ、チーノの額まで持ってくると、ピン、と弾いた。
というかチーノ、お前脱毛やってたんか。
「えっと、俺はシュウジでお願いします」
「俺はミナトで」
「はいはい、わかったわ」
「衣装は持ってるわよね?」
「はい」
「なら着替えて来て」
「もうすぐ開店時間だから、早くしてちょうだいね」
* * *
「初めまして、俺はミナト」
「今日はよろしくね、姫」
円形のテーブルを黒のソファで囲んでいる。
高級感の漂うソファの上に、俺は今存在していた。
左隣を見てみると、茶髪にロングの髪をストレートに下ろした、化粧の濃い女が構えていた。
黒のタートルネックに、赤く短いプリッツスカート、その足からは太く醜い足を生やしている。
安っぽい色気で俺たちとあわよくば、という魂胆が丸見えで気色が悪かった。
その更に左隣には、化粧を施されたシャオさんがいた。
できるだけ自然に見えるようにメイクは薄めで、童顔らしく可愛らしい雰囲気をさらけ出している。
その可愛らしさの奥にあるどこか不気味なそれとのアンバランスさがいい塩梅で、吸い込まれそうな魅力に落とされていくのだろう。
男の俺でさえ惹き込まれそうになるのだから、つくづくホストが天職なのではないか、と思う。
当の張本人は、甘ったるい顔で甘い声で女に接しているが、目が死んでいることが隠せていない。
いや一般人にはバレないのだろうが、何年も近くで見てきた俺の目は誤魔化せない。
「あれ、もしかして緊張してる?」
「んふふ、バレちゃいましたか?姫」
「バレバレよぉ〜!!」
「私、こう見えてもこの店の常連客なの〜!初めて見る子だから、そうなのかなって!」
テカテカした唇から砂糖を蜂蜜で溶かしたのかと思うほどに甘い声で、汚い手を使ってシャオさんに触れる。
長い爪にマニキュアでも塗ったのだろう、鮮やかな色で儚い雰囲気に拍車を掛けている。
最も、先程まで話していたオーナーのネイルの方がよほど綺麗だとは思ったが。
「こぉら、姫、ダメでしょう?」
「そんなに無防備で…照れちゃって、更に緊張しちゃうじゃないですか……」
「んも〜!!ミナトくん可愛い!!」
「もういっその事私と付き合っちゃう〜?」
「ごめんなさい…そうしたいのも山々なのですが、お店の規定でだめなんです」
「なので、また俺のところに来てくれれば、嬉しいな…?」
うわ、シャオさんの顔引き攣ってる。
これも俺しか気付かないくらいのレベルだが、明らかに引き攣っている。
内心、なんだこの女馬鹿だな気色悪いその安っぽい色気をどうにかしてから出直してこい、と言っていそうである。
やんわりと肩に置かれた手を払い、その代わりに絶対零度の氷を溶かす業火を感じるくらいに熱くて堪らない、こちらが火傷してしまいそうな程熱烈な言葉を投げかけられては、もう一度この男に会いに行くに決まっているだろう。
まだ会って初対面なのに、簡単に心の高い壁を乗り換えて、土足で踏み荒らさず、寧ろ、丁寧に靴を揃えて上がってくるほどの優しさで包み込む。
こんな事をされてしまえば、女は堕ちるに決まっていた。
そう、人が子宮の中にいた頃から決められているこの世の摂理でもあると思う。
「も、もちろんよ!」
「私、ミナトくんの為ならなんだって出来ちゃいそう…♡」
「それは嬉しいな」
「俺も頑張って姫に尽くすね」
本当にこの男、ホストが天職なんじゃなかろうか。
この姫は簡単に金を落としていきそうだし、俺がいてもお邪魔なだけなので、違うテーブルに着く。
どこか空いているテーブルがいないか店内を見回してみると、ひとつ、不自然に空いている席があった。
そこを見てみると、ボブヘアの化粧の薄い、痩せている女の子が座っていた。
ロングのスカートに、白い長袖のシャツを着た、とても華奢な子だ。
その子のテーブルに近づき、それとなく席に座ると、中身がほんの少ししか減っていないグラスに、お酒を注いだ。
俺に気付いていなかったのか、少し目を見開くと、小声で礼を言い、首をぺこりと下に下げた。
「初めまして、俺、シュウジ!」
「姫、なにかあったの?なんだか凄く落ち込んでるみたいだけど…」
「えっと…、」
「もしかして、こういうお店来るの、初めて?」
「そうなんです…」
「何かあったんだったら、話聞くよ?」
「俺で良ければね」
「なら、聞いて貰ってもいいですかね…?」
「もっちろん!」
こういう人がくるのは少なくない。
大体ホストに来る人種は、二パターンある。
ひとつは単純に男探し。
ふたつ目は、こうやって場違いながらも落ち込んだ心を癒して貰おうとする目的。
ホストと言う職業は、世間ではあまり良いイメージを持たれない職業である。
少し話すだけでもお金がかかるし、入ったならなにか頼まない限り家へ帰ることが出来ない。
そういう所から良いイメージを持つことは難しいと思う。
でも、実際にホストという職業に就いてみればわかると思うが、ホストは一部の人達にとっては心の拠り所で、大切な職業だと俺は思う。
普通、精神的にはしんどくて辛い時、病院に行くだろう。
ではそこで、ああ大丈夫だね、このくらいで来ないでよ、そう言って、追い返される。
そう、辛くてしんどくて、だけど病院に行くほどでは無い心の疲れは、一体、どこで癒されるのだろうか。
そうやって辛くてしんどい疲れは溜まって溜まって、溜まりきった末にやっと病名がつく。
病院では、限界まで疲れ切った人しか、癒してはくれないのだ。
限界ではないけれど、とても辛くて苦しい思いをした人たちを癒すのが、俺たちの仕事なのだ。
病名がつく前にその心の傷を治していくホストは、そういう人達にとって救いになるのではないか、そう思う。
そうやってぽっかりと穴が空いた器の傷を塞ぎ、優しい味のするホットミルクをそそいであげるその感覚が、俺は好きだった。
「実は私、彼氏に浮気されたんです」
俯き気味だった顔が、更に俯いていく。
よく見ると隈が出来ていて、目元には泣いたような跡があった。
瞼は辛うじて開いているが、腫れぼったく、それだけ泣いたのだと簡単によくわかる。
「私は彼のことを愛していました」
「誕生日は自分の事のように祝ったし、彼の好きな食べ物も、よく作ったものです」
「お互いに働いていましたが、彼のためを想って、私が家事を全て行っていました」
「彼は私のことをこう言ったんです」
「『こんな地味でブスな女、誰が本気になるんだよ』」
「そう言って私のことを殴りました」
「何度も何度も」
殴られた事を証明するように、白い袖を捲ると、血の滲んだ包帯が表に顔を出した。
青あざも出来ているし、よく見てみると、薄い化粧の下には、口の端が切れていた。
「今日ここに来たのは、友人が私に紹介したんです」
「『そんな男忘れて他の男でも探せばいいのよ!』と」
「そうだったんですか」
「正直、こんなにも誠実な人を、よく浮気する気になれましたよね、彼氏さんは」
「私は…誠実なんかじゃありませんよ」
「そうですかね?」
「僕にはそう見えましたけど」
「誠実じゃなければ、こんなに彼氏さんの為に頑張るなんてこと、出来ないでしょう?」
「…、…ふふ、そうかもしれませんね」
表情は変わらないし、相変わらず目に光は無いが、なんだかおかしいものを見るようにして、手を口に当てて笑いを零していた。
もうひとつあった、なにも注がれていないグラスを引き寄せ、お酒を注ぐ。
そのグラスを俺は手に持ち、彼女が持っているグラスにぶつけて、カチン、と軽やかな音を奏でると、一口飲んで、二酸化炭素を吐き出した。
「そんな嫌なこと忘れて俺と飲みましょう!」
「君の彼氏くんとは違って、優しくするからさ」
「……そうですね」
「せっかくここまで来たんですから、飲まなきゃですよね」
「はい!」
「俺たちの新しい出会いに〜?もっかい乾杯!!」
二度目の音を奏でると、味のしなかった酒を再び口にすると、今度は味がした。
アルコール特有のくらりとした感覚に、甘いフルーツの香り、ぴりっと辛味のあるお酒。
美味しい。
「美味しいですね」
「あ、姫もそう思う?!」
「俺も美味しいと思ってたんだよね〜」
「前まであんまり味が感じなくて、ご飯とか食べれなかったんですけど、なんででしょうか」
「美味しいって、味が私に言ってきます」
「味が言ってくるんだ」
と少し笑い、もう一口、と酒を口に含み胃に収める。
ほう、と息をつくと、俺しか奏でられない音を紡いだ。
「でも実際、しんどかったら味がしないよね」
「しんどい時って余裕とかないじゃん?」
「だから、味を感じる余裕もないんと思うんだよ」
「今は前と違って余裕があるって事じゃん」
「そうかもしれませんね」
「そう言えば、最近なんかあるらしいね」
「ある?」
「なんかこの辺でゴミ箱を漁る不審者がいるー、って」
適当に話を作りあげ、それとなくこの辺で起こった事件について聞いてみる。
ウィルワーで鍛えた詐欺師の実力を見せてやるぜ、と言わんばかりに意気揚々と話を振る。
もちろん、鉄壁の笑顔を忘れずに。
笑顔は大切だ。
仏頂面で強面の男と、強面だが優しい穏やかな微笑みを浮かべる男、皆はどちらの方が話しかけやすいだろうか。
無論後者、つまりは強面だが優しい笑みを浮かべた男の方が話しかけやすいと答えるだろう。
それほどまでに笑顔というものは効果があるのだ。
「大変ですよね」
「ゴミ箱を漁るなんて、よっぽとお腹が空いていたんでしょうか…」
「あはは!ありそうですね!」
「最近私もそういう話、よく聞きます」
「そういう話?」
「俺、ここに来たのもホントに最近のことだからよくわからないんだよね」
「良ければ教えてくれるかな?」
「あ、そうなんですか」
「確か、ついこの間の話なんですけど、家やお店が火事になる事件があったんですよね」
「火事?」
この辺りで火事が起きたという話は聞いたことがない。
火事が起こったのなら政府がこの街を調べた時にわかっていたはず。
なぜわかっていないのか。
政府がその事実を隠したのか、それとも、政府ではない他の第三者が火事なんて出来事がなかったことにしたのか、だな。
「はい、建物だけが燃やされていて…」
「怪我人は数人しかいなかったみたいですが」
「そうなんだ」
「なんだか物騒だね」
「私も詳しくは知りませんが、そういう話は聞いたことがありますね」
「最近は治安が悪いですもんね!」
火事、か。一言で言えばその言葉に尽きる。
物騒ではあるが、その程度のことである。
正直、事件の事について話題が出なかったのだから、その事件について知っていることはほぼ無いと見ていいだろう。
引きが悪かったか。
その後は適当に話を合わせ、その場を解散したと思う。
──────────────────
s h a 視点
「───ってことがあってね?」
「そうなんだ、それは大変だったね」
「そうなの!大変だったのよぉ〜」
ぽんぽんと弾む会話と、トントン拍子に進む酒。
気付けば、丸々一瓶が無くなっていた。
飲み過ぎたとは思うが、俺が現役のホスト時代に比べたらそんなに飲んでいないと思った。
かつての現役時代、ホストに丸々身を投じていたようなものだったので、酒なんて浴びるほど飲んでいた。
少なくとも、今の倍は飲んでいたのではないかな。
本当にそんな生活を送ってよく身体を壊さなかったな、ともつくづく思う。
身体だけは一丁前に頑丈だったから、無事だったのかもしれないが。
同期たちは酒の飲みすぎで死ぬやつが多かったから、俺もそうならないようにしていた。
酒を文字通り浴びるほど飲んだあと、中毒で死なないよう、アルコールの分解が始まる前にトイレで無理やり吐き出してたっけ。
懐かしいなあ。
アルコールの分解を遅くするために漢方とかも飲んでたしな。
あと、ホストは暗黙の了解ではあったが、絶対に酔ってはいけない、みたいな雰囲気があった。
その理由はみんなの想像にお任せするけど。
元々俺は酒には弱かったから、強くなろうとして頑張った。
酒は飲んでいるうちに身体が慣れてあんまり酔わなくなっていく。
だから沢山飲んだ。
仕事で浴びるほど飲んでいたと言えど、結局トイレで吐き出していたのだから、それは飲んだ内には入らないだろう。
オフの日に馬鹿になるほど飲みまくって強くしたのである。
それでも幹部たちの間で開かれる(非公式)チキチキ、誰が一番酒を飲めるでしょう!では真ん中ほどの順位ではあったが。
まあそんな経緯があり、今はそんなに酔ってはいない。
漢方も飲んでいたからだが。
「ミナトくん…?♡」
「ん、なぁに?姫」
「最近この辺りで放火される事件があるって知ってるぅ?」
「え、なにそれ」
「気になるから教えてくれない?」
俺とは違い既にベロッベロに出来上がっている彼女。
そこら辺にいる男たちなら、この上目遣いでころっと堕ちている頃だろう。
もっとも、ウィルワーには、この女以上の顔面を持つ男で見慣れているので、堕ちたりはしないが。
「怖いよね〜」
「れも、怪我人はいないことが、幸いねぇ」
「もしかしたら、国の偉い方たちが、この事件に関わってるかも、っていう噂もあるらひいわよ?」
「えっ、そうなの?」
「だとしたら、大変だねぇ」
「そうよねぇ」
放火…?
この辺りで火事が起きたという話を聞いたことがない。
怪我人がいないという点から、あまり大きい火事ではなかったことが予測される。
大きくない火事だったから、事件にもならなかったということだろうか。
それにしても、この女はいつ帰ってくれるんだろうか。
かれこれ二時間くらいはこの場にいる気がする。
この二時間で金を大量に落としていってくれたことは幸いではあるが、そろそろ帰って欲しいと思う。
この女の対応はもう飽きた。
だがシフトが終わるまではあと数時間はある。
それまでは耐えきらねばならない。
「ミナトくん…私、……」
「あ、ごめんね姫!」
「もう俺休憩に入るから!」
「また今度その話を聞くね!!!!」
「じゃあね!!!!」
この女が変なことを言い出す前に切り上げてしまった。
嘘は言っていない。そう、嘘は。
休憩に入ると言ってもあと数十分はある。
俺は途中でいなくなったチーノを探し、辺りを見回す。
ふわふわとした特徴的な水色の髪が目に入る。
それを見て、俺は酒をもってテーブルに近づく。
あの女とは違い、素朴な雰囲気を持つ、小柄な女と話していた。
子の季節には少し暑い白い長袖のシャツを着た、可愛らしい女性だった。
先程の女とは違い、ケバケバしい感じではない分、余程好感が持てた。
「こんばんは、姫」
「お酒持ってきました」
「ここ、置いておきますね」
「えっ…?私、そんなの頼んでない……」
「ふふ、姫さ、このお店に来たとき、なんだか落ち込んでるみたいだったでしょ?」
「だから元気になるように…俺からのサービス、かな」
「えっと、それなら、ありがとうございます…」
「いえいえ」
そう女性と会話を終えると、俺はチーノに近付き、耳元に顔を寄せる。
「あとでお酒の補充したいから、一緒に来てくれる?」
そう言うと、チーノは女性に気付かれないように首を縦にふると、いつもの胡散臭い笑みを浮かべて送り出した。
先瞬の言葉は、”あとで情報を交換しよう”と言う意味である。
チーノは頭が良いから、その意味にもすぐに気づくだろうと思ったからである。
後は適当に時間を潰して、休憩中に話せたら良い感じだな。
そう思うと、足が羽のように軽くなった気がした。
* * *
「来ました」
休憩室にて、相対した。
休憩室には、小さなこじんまりとした一人用ソファが幾つもあり、大きな、二人か三人用のソファが二つ置かれている。
ソファに囲まれ、俺が王だぞと言いたげに、どっしり構えたちゃぶ台の上には、小さなお菓子が幾つも置いてあった。
そのソファの上にいた俺はエミさん直伝の紅茶を美味しく淹れる淹れ方で紅茶をカップに注いでいた。
注ぎ終わったカップを対面になるように目の前に置くと、手でそこに座るよう催促した。
す…と音も立てずに「失礼します」とだけ言って座る。
カップをもって口につけた瞬間、俺はこれから起こることに笑いを必死に我慢していた。
すると、案の定チーノは口から紅茶を吹き出した。
「なにこれすっっっっっぱ!!!???!」
「あっはははははは!!!!やーい引っかかった!!!!!」
「つかシュウジお前簡単にひっかかり過ぎやろ!!」
「アカンバカおもろい!!!」
ひぃ、ひぃ、と引き攣った呼吸になりながら、俺は腹を抱えて爆笑した。
あの紅茶にはお酢をドバドバ入れていておいたのだ。
それも特注品である。
通常のお酢の三、四倍は濃いお酢を大量に入れていおいたのだ。
匂いとかでもわかりそうな気はするが、バレないよう香りが強いものを使ったのが良かったのかもしれない。
「なんてことしてくれるんすか!!!」
「なんかめっちゃ花食べた後に梅干し食べて納豆飲み込んだ後にレモン直飲みした感じの味する…」
「それどういう味なん???」
「そんでなんでお前はその味知ってんの???」
ソファを立ち上がり、コンロの近くに置いてあるカップをもって、今度こそなにも入れていない紅茶を注いだ。
チーノは、俺がなにかしないように目を凝らして紅茶を淹れるところを見ている。
そんなに見られたら穴あきそうやねんけど。
「はい、おまち」
「それ掛け声ちゃうんちゃいます?」
「まあ気にしたら負けやで」
「それよりも飲んでみ?今度は何も入っとらんから」
「エミさん直伝の紅茶やで」
「なんも入ってないんは見てたんでわかってますよ…」
「エミさん直伝のやつやったら絶対美味いやないですか」
「なんでんざわざお酢を入れたんだか…」
「あ、何入れたんかわかってたんや」
「何となくですけど…ってうまっ」
「せやろ?」
「今日上手く淹れれてん!やから飲んで欲しくてな」
「なら尚更お酢とか余計なもん入れんといてくださいよ」
「つい我慢出来んくて」
てへぺろごめんちょ、という風な顔を作れば、チーノは青筋を立てて目が陰った。
器小さいなあと思い紅茶を一口。
ほんのりとした甘さと、花のいい香りが鼻を駆け抜け、優しく舌を包み込んだ。
唇を紅茶で潤しながら、チーノの目を正面から見据え、カップを少し、音を立てて置く。
行儀は悪いが、これでこれから真面目な話をする事が、チーノにはわかるだろう。
コイツ、頭良いから。
「んで、本題やけど」
「はい」
「そう言えば、さっき小さいネズミがおったんですよ」
「もうおらんのやったらええんですけど」
「ああ、ネズミか、それなら大丈夫やで」
「来んように一応、追い払っといたから」
盗聴器はないか、カメラはないか、部屋の周りに人はいないか、そういう事をチーノは知りたかったのだろう。
チーノがこの部屋に来る数刻前、お菓子の下やテーブルの裏、その他の隠しやすい場所を探し、何もないことは確認した。
外に繋がる扉の前に立てかけてあるドアプレートの裏に盗聴器を仕込み、人が来そうになったら直ぐにわかるようにもしてある。
もっとも、俺たちは気配だけでもわかるではあろうが。
その事をチーノにもわかるように小さなイヤモニを何も言わずに手渡した。
いつもの胡散臭い笑みを貼り付け、イヤモニを耳に着ける。
ここでようやっと、本題に入れそうである。
「んで、そっちは?」
「特になんも…」
「ですが、事件には関係ない事なんですけど、少し気になったものがあったので、その話でもいいですか?」
「ん、大丈夫」
礼を言うように首を縦に振ると、紅茶を一口飲み込み、話を続けた。
「最近、火事になる事件…というよりは事故が起きてるらしいんですよ」
「怪我人も何人かおるみたいで」
「同じやな」
「俺もそんくらいしか出てこんかったわ」
「でも、お前の情報とは違うくて、怪我人はおらんってことやったけど」
「やけど、大体は合ってるから、火事自体は起こったんやろうな」
「そうですね…」
何にも情報は掴めていない。
この店に勤めてまだ初日である。
なら、これくらいの情報が集まっただけでも十分とするか。
そう思い、チーノに新しいお茶菓子を渡す。
茶色いカゴの中に宝石みたいな包装紙に包まれたお茶菓子を一つ手に取り、びりっ、と良い音を鳴らすと、口の中へと放り込んだ。
甘さが控えめな紅茶とよく合う、風味はあまりない、中々に甘いお菓子だった。
「あ、これ美味いですね」
「紅茶とよく合うなあ」
コンコン、と軽い振動が空気を伝い、鼓膜に届く。
寂しげな音を立てて扉が開いた。
可愛らしい靴音で床をノックすると、長い足にネイルと色を揃えたエメラルド色のヒールのある靴がよく映た。
「ちょっと失礼しちゃうわよ」
「オーナー、数時間ぶりですね」
「数時間ぶりね〜」
「このお店のこと、どう思ったか聞きたくってね」
「すっごくいいお店だと思いますよ!」
「外装も綺麗にされてるし、内装の方も、あのホスト特有の胡散臭さとケバケバしさもあんまりないですし!!」
「あら〜!良くわかってるじゃないの!!」
「そこ、私の店の中で特に拘った部分なの!」
「気付いてくれて嬉しいわ〜!!!」
そう言うと、オーナーはチーノに抱きつき、抱き上げて何回も回ると、俺の方に視線を切り替えて口を開いた。
「で?そっちのアンタは?」
「俺ですか?」
「俺もコイツと同じ感想しか出てこないんですけど…」
「強いていえば、良いお店だといいお客さんが来てくれるんだなあ、と」
「それは?」
「変な店やったら変なお客さんしか来ないように、このお店は良いお店なので、いいお客さんが来てくれるなあ、と」
「俺も今の職業の前はホストやったんでわかるんですよ」
「少なくとも前と比べたら良質な姫さんたちが来てくれる」
「前はグラスに睡眠薬を盛る客やったり、ストーカーしてくるやつおったりと…」
「この店はそういうのあんまりなさそうやないですか」
「…ふふ、あんたら最高ね!!!」
「もう!!食べちゃいたいわ〜!!!!」
次は二人まとめて抱きしめられ、腰の骨が折れかける。
ミシミシと音が鳴って、軽々と持ち上げられた。
身長の高いチーノでさえ持ち上げられ、ふくよかな体型に見合った力を遺憾無く発揮している。
やっと離されたかと思ったら、頭を撫でられた。
一撫で、二撫でとした所で、ゆっくりとその温もりが離れていく。
左目を瞑り、手を振る。
とても様になっていて、体型はゴツイしがっしりしてるし、男っぽいのに、何故かその時だけは可愛らしいと思った。
撫でられた頭に手を当て、同じ格好をしたチーノと目が合うと、なんだかおかしくなって、二人で笑った。
* * *
あれから約二ヶ月。
相変わらず情報も無く過ごしている。
聞き込みをしていると言っているのに、事件に関連するような話は入ってこない。
ああ、暇だ。
暇と言うに等しい。
そう思いながら、休憩スペースの一角で堂々と休んでいた。
「あ、シャロンさんやん」
「そんなにだらけてどしたんですか?」
「いや、あまりにも暇で暇で…」
「ああ…なるほど」
「そんなシャロンさんに俺からニュースあるんですよ!」
「なんか新しい情報入ったんか!?」
「いやちゃうんですけど」
「今の流れやったら絶対そういう感じやったやん!!!」
がっくりと項垂れて背の高い彼の目を見ると、底の見えない瞳をしていた。
胡散臭さはいつも通りだが、やはりそれが胡散臭さに拍車をかけている気がする。
「最近ね、話題になっている詩があるんですって」
「今日話してた姫は詩が結構好きみたいで」
「それで流れで話したんですけど…」
「ちょっと気になって見てみたんですよ」
「もうね、すごく良い詩で!!」
「やからシャロンさんにも詠ませたろうと思いまして」
「はあ…」
「ほら、これです!」
ずいっ、と画期的文明機器を目の前に置かれる。
いや、、そんなに近すぎても見れないんだが。
置かれたスマホを手に取り、ざっと目を通してみた。
* * *
そらにうく
ねえねえダーリン
貴方は私を愛してると言ったわよね
今でもそれを覚えているわ
昔から生きているこの瞬間まで
信じていたわ
けれどそんなことなかったの
ねえねえダーリン
まだ幸せだった頃の記憶
貴方は空を飛んでみたいと
いつかの夢を見ていたね
小さな世界に浮くスズメのように
指を差して話したわね
ちっぽけな光を放ったその星だけは
本物だと思ってしまうの
信じてしまうの
ねえねえダーリン
貴方に
私から
最後のプレゼント
人間でも空を飛べると
証明してみせたその軌跡をね
貴方が叶えられなかったその夢を
私が叶えてやるわ
貴方では絶対に手に入れられないその星を
ねえねえダーリン
さよならよ
貴方が私から奪った世界
今度は私が奪ってあげる
じゃあねダーリン
可愛くて愛した人よ
空虚に広がる星に手を出して
足を一歩踏み出す
下から上へと風が吹く
スカートが風の流れに沿って靡く
私は
そらにうく
せめて
貴方よりも良い人が
私の隣にいてくれたら
結果は違っていたのかもね
* * *
「何言うてるんかわからんねんけど」
「実はね、今の時代に珍しくこの詩を作った人はわかってないんです」
「やから、この詩の解釈は色々あるみたいで」
渡された文明機器を返し、ソファに座る俺の隣を手で示す。
チーノの目の前にエミさん直伝の紅茶を目の前に鎮座した。
眉を寄せて顔を歪めると、じとっという効果音が付きそうな目で俺を見た。
お酢なんか入っとらんわ、と俺もその目でカウンターをした。
ようやく手を付けると、何も入っていないのだとわかったのだろう、一息付き、話し始めた。
「夫に突き落とされて死んだ女とか、女の妄想とか、とにかく色々あるんですけど…」
「今のところ一番の有力な説はこれですね」
「『夫に浮気された女が、まだ夫が女を愛していた幸せな時の記憶にある、空を飛びたいと言っていた夫の夢を叶え、夢を奪うつもりで高いところから飛び降りた。そうする事で夫(自分)のせいで死んだという罪悪感を植え付けて縛り付けることで復讐したのではないか。』」
「でも結局女が死んだのか生きているのかわかってないんですよね」
「ふーん……」
「なんや深いな」
「ですよね!」
「それアタシも読んだことあるわね」
隣に座ったチーノも目を丸くしている。
いつのまにそこに居たのか、全く気づかなかったから驚いたのである。
後ろからオーナーが覗き込むようにして文明機器を見つめている。
いつも通りピカピカと輝くエメラルド色のマグネットネイルが文明機器を指さす。
爽やかの中に混沌と紛れ込んだ甘い香水の匂いが鼻を通り抜ける。
「その詩、良いわよねぇ」
「アタシの中の乙女心というか、胸がぎゅーっと苦しくなるのよ」
「全く、浮気するなんて酷い人よね」
「オーナーはそうやって解釈するんですか?」
「解釈というか…まあそんな感じね」
「なんか煮え切らないですね」
「でもね、相手のことを相当好きじゃないとこんなこと出来ないわよね」
「?」
「だって、人を苦しめる為だけに自分の命投げ出せる?」
「…出せないわよね、少なくともアタシはそうじゃない」
「この女の子の、一種の愛情表現なんじゃないかとアタシは思ったけどね」
「この詩を読んだ時、よ」
遠いどこかを懐かしむようにオーナーは瞳を揺らした。
とてもゴツくて体格も良いのに、何故かその時だけは、一人の迷子のような少女にも思えた。
懐からシガレット状の棒を一本取り出すと、ライターを見つけ、スイッチを入れて火をつけた。
「ここ、禁煙ですよ」
「まあまあ、良いじゃない」
「アタシがオーナーなのよ?なら、ここのルールはアタシってわけ」
「だから大丈夫よ」
「はあ……」
「で、オーナーは結局何しに来たんですか?」
「オーナーが何の用も無しに俺らに会いに来ぉへんでしょ?」
「んもう、ツれないわね〜ミナトちゃん?」
「その呼び方やめてくださーい」
煙草を手に持ったまま、一口含むと、味わうようにして息を吐き出す。
一体どこから取り出したのかわからない灰皿に煙草を押し付けると、おもむろに口を開いた。
「最近、行き詰まってる見たいじゃない」
「んまあ、そうですね」
「そこでちょっとしたニュースよ」
「なんか事件に関連する質問話があったんですか?」
「んー、関係するかもしれないし、そうじゃないかも知れないわね」
「また煮え切らない回答を…」
「でね?続けるけど、ホストに肩入れする女っているでしょ?」
「実は、火事事件の犯人はホストで、ホストに肩入れした女がその事件を揉み消したっていう噂があるのよ〜」
「しかもその女、物凄い太客でね、あのね、一夜で…」
タバコ臭い口を開き、チーノの耳に口を寄せる。
口を開いて何かを喋ると、チーノの目が零れそうなほど開かれ、驚いている。
ちょいちょい、と手で俺を呼ぶと、今度は俺がチーノの口許に耳を寄せ、話す声を耳に渡す。
すると、とんでもない額で俺も驚いた。
だいたい八桁を超えるのはいつもの事で、ごく稀にその桁が一桁増えることもあるんだそう。
「それは何とも…」
「ヤバいな」
「ヤバい?」
「そう、ヤバい」
「オーナー、その噂、ホンマなんですか?」
「さあ?わからないわ」
曖昧な微笑みで誤魔化す彼。
とても柔らかく笑っているのに、顔が笑っていない。
いつもの笑顔でなのに、いつもの笑顔ではない顔。
胡散臭いな。
「それ、ホンマの事なんですね」
直ぐにわかった。
オーナーは恐らく、元裏社会の人間だ。
それもかなりの。
じゃないと俺たちの所属もわかるはずがないし、偽名だとあの一瞬わかるはずもない。
そんなオーナーが持ってきた情報である、本当の事ではない可能性は、低い。
それに、オーナーがわざわざここまで足を運んで俺たちに伝えている時点でほぼ確定している。
「ふふ、やっぱりそこの子はわかっちゃうかしら」
「早くしてちょうだいね?ウチにまでまた被害がきたら嫌だもの」
タバコを吹かしてオーナーは立ち去って言った。
最近、ホスト達が行方不明になる頻度が上がっている。
この前までは一ヶ月に一度、置かれていた惨殺死体は、今では二週間に一度、置かれるようになった。
それに加え、この前、遂にこの店からも被害が出た。
この店で二番目に売上を叩き出しているホストだった。
どこぞの脱糞野郎思い出させる金髪に、つり目の猫のように大きい瞳を持った男だった。
そいつと一度喋ったことがあったのだが、話すことは面白いし、何より、気遣いが出来た。
性格もホスト特有の悪さも無いし、惜しい奴を亡くしたなと思っていたのだった。
他にもホストを雇い経営している店に客として色々赴き、行方不明になるホストたちの傾向を調べたりもした。
ホストたちの経歴や年齢、戸籍までは調べられても、ホストたちが店の中でどういう立ち位置でどれだけ売れていたのかはホストにしかわからない。
行方不明になった者たちを一人一人丁寧に調べあげれば、面白い結果が出てきた。
全員、漏れなく店の中でも人気の高い者たちが連れ去られていた。
この店からは二番目に人気の男が、他の店からは一番人気の男だったり、三番目に人気だったり、とにかく売り上げ、人気と共に高い者たちが連れ去られていく。
遂にこの店からも被害が出て、恐らく、次は一番人気の男がターゲットになる可能性が高い。
だから、俺たちは交代でその男を監視していた。
潜入してから二ヶ月が経ったとはいえ、俺たちはまだ下っ端で新人の域を抜けてはいない。
なので、せいぜいこの店の四番目、五番目くらいの立ち位置であるのだ。
狙われなくも無いが、生憎とこの店には二番目が消えたところで、まだ一番上が残っている。
俺たちが狙われる可能性はあるとはいえ五分五分だろう。
なら、確実に狙われているとわかっているNo.1をマークし続ける方が得策だ。
「で?アイツは今どうなってんの?」
「ああ、今は店ん中のはず」
「ちょい待ってくださいね」
小型の黒い箱にも似た形の機械を取り出し、何やら操作している。
あのホストに付けた発信機の位置を調べているのだろう。
確認した瞬間、チーノは青い顔をしていた。
「しゃo…、シャロンさん」
「なに」
「発信機、潰れました」
「やられたか…」
「最後に確認したのは?」
「店ん中、です」
「クッソ最悪や」
発信機がイカれたと言うことは、もうその男は無事ではないということ。
お敵さんも警戒してやがる。
もう連続でこの店からホストが連れて行かれたのだ、次の標的がどの店の奴になるのかわからない。
また待つしかない、のである。
「はー、マジか……」
項垂れた所で、何か情報が掴める訳ではない。
振り出しに戻ってしまった。
情報収集を続ける他ない、である。
そう思っていたところ、唐突にヒールの音が鳴り響く。
ドアノブを回されると、扉が開いた。
つい先刻帰ったはずのオーナーがいた。
怒気を必死に抑えたような、般若の顔で、苦々しく一言だけ、呟いた。
「死体、出たわよ」
──────────────────
c n 視点
「はいはーい、ちょっと退いてくださいねー」
自警団の何人かが人混みの中を掻き分けて進む。
雑に押しのけて行くと、そこには確かに、死体があった。
金髪に、つり目で、猫のような目をした男だった。
ご冥福を祈りつつ、前との違和感に気付く。
前まで、誘拐されてから死体が見つかるまでに一ヶ月はかかったはずだ。
なのに、今回はこの前拉致されてからまだ一週間しか経っていない。
「犯行頻度が、上がっている…?」
隣にいるシャオさんも気付いていたみたいだ。
犯行頻度が上がっている、そこに、確かに何か関係は有りそうなものだが、現状では検討も付かない。
死体はいつも通り酷い有り様で、四肢はバラバラに切断されているし、顔はトンカチで幾度となく殴ったのだろう、顔の骨が変形していた。
もう誰が誰かわからない状態だった。
あの特徴的な髪色に、ホスト特有の服装で辛うじてわかるくらいだ。
最近は二週間に頻度が上がっていたが、まだ一週間しか経っていない。
と言うことは、これからは一週間の頻度で死体が増えるかも知れないということ。
早く何とかしなければ、とんでもない数の犠牲が出る。
「どうしようか…」
「いつも通り顔はぐっちゃぐちゃ、腕や足が捥がれてる死体を調べても今更何も出なさそうですもんね」
死体を取り巻く人が多すぎて死体がよく見えないので、ビルの屋上に立って上から死体を見ていた。
双眼鏡を使えば細かいことはわからないが大体はわかるのである。
俺と同じようにして双眼鏡で死体を眺めていたシャオさんは、ふと、何かに気付いたようで、食い入る用に見ていた。
「おいチーノ、あの二つ目の角、A28の3見ろ」
「?はい」
指定された場所を見てみると、けばけばしい衣装に身を包んだ、双眼鏡越しでもわかる顔の良さをした男が居た。
その男がパーカーにマスク、サングラスをした不審者と取っ組み合いをしていた。
不審者の方が背は小さく、華奢なため恐らく女だろう。
その女に男は拳を奮われ、それでも何とかやり返そうと藻掻いている。
「あの男、ホストやんな?」
「そうっすね」
「ホスト特有の女とのトラブルやろか」
「いや、ちゃう気がする…」
軍で作られた特殊な双眼鏡。
双眼鏡の接眼レンズの横にある小さなレバーとでも言うべき物体を弄れば、あら不思議。
レンズの倍率が変わって見やすくなるのだ。
ちなみに、そのレバーは押す回数によって倍率も変わるので、何回押せばいいのか覚えなければいけない。
その双眼鏡を使って何回かレバーを押した後、目に当ててもう一度見た。
女が男の首を絞めており、男は必死に首から手を離そうとしているが、全く離れる気配がない。
結局意識を失ったのだろうか、手がダラリと下がると、ワゴンに男を押し込み、路地裏を進んで行った。
これは一体どういう事なのだろうか、と思うも、もしかするともしかしなくてもだが、ホスト行方不明事件の現場を目にしてしまったのでは、という思考に至り、隣にいる男に視線を向ける。
シャオさんの方もそう思っていたようで、こくりと首を縦に振った。
双眼鏡を床に置き、煙草に火をつけて吹かす。
ニコチンが不足していたようで、ニコチンを摂取した瞬間、とてもだらけ切った顔をしていた。
「なんかだらしないですね…」
「ふー、そう?」
「それよりも情報整理やな」
「今見たのも踏まえて整理して言ったらなんかわかるかもしれんし」
「そっすね」
持っていた双眼鏡を着ていたジャケットの内ポケットに突っ込み、シャオさんが置いた双眼鏡を手渡す。
ちゃんと持っとけよ、と伝えるように。
渋々と言った様子で受け取り、同じように内ポケットへ雑に入れる。
この双眼鏡は高い物だし、万が一にでも踏んで壊してしまったら大変だ。
なんだか目の前にいる男に腹が立ったのでゲシゲシと足で蹴る。
むっとした表情で黙認すると、二酸化炭素を吐き始めた。
「まず、犯人は一人で恐らく女…」
「で見てた限りあれは武術を齧ってんな」
「そうですね」
「拳や蹴りも全部的確に急所へ当ててましたし」
「んで、ホストという職業の男たちを攫ってる…」
「って事は、恨みを持ってるって事やんな」
「そういうのよくありますもんね」
「女とのトラブル」
「俺もそう思ってたんやけど…そうなったらちょっと違和感あらん?」
「違和感…、…確かに考えてみればありますね」
女とのトラブル。
仮にそうであると過程した場合、複数人の、それも、皆別々の所から犯行を行うのは不可解がすぎる。
女は大体、一人のホストに貢ぐ傾向があり、ホストに私は愛されているのだ、恋人に近い存在なのだと勘違いした挙げ句そうでないとわかった瞬間、弄ばれていたのだと気付き犯行に及ぶことが多い。
その犯行は今回の事件のように複数人ではなく自分を弄んだホスト一人にのみ、犯行を行うのだ。
なのに、今回は複数人、しかも全員所属がバラバラと言うのはとても違和感がある。
それをシャオさんは言いたかったのだろう。
「やろ?」
「考えられるんは二つ、やな」
「一つは複数のホストに貢いでその結果勘違いした、とか」
「可能性は低いですけど」
「んでもう一つは…」
「昔ホストになんかされて恨みを持ったが、そのホストが誰かわからんから複数に拉致して探し当てようとした、とかか?」
「正直、後者の方が可能性は高いですよね」
後者の方が可能性は高いと言えど、そんな状況に陥る事がそうそうあるのか、という疑問はある。
その状況が一体どんな状況だったのかさえわかればこの事件が解決しそうな気がする。
勘だけど。
情報をもう一度整理してみてもよくわからない。
特に関係性はなさそうであるが。
「んー、出えへんな…」
「取り敢えず置いといて犯人の方考えます?」
「多分そっちの方がわかるん早いと思うんですけど」
「せやな」
「犯人は多分一人…やんな?」
「そうですよね」
口に出すことで脳内の情報を一つ一つ整理していく。
「クッソあの女の写真撮れば良かった…」
「いやカメラ持ってないんで撮れないですよ」
カメラを持っていたところでこんなにも離れたところから撮れるとは到底思わないけども。
写真さえあれば指名手配をして終わりだが、写真がなくても似顔絵を書いてもらえばある程度わかるとは思うが。
「次は手口の方やけど、普通に一人になるよう誘導してボコしただけの話しやしな」
「あの女、なんか齧ってますよね」
「ああ…でも俺らの敵では無い、やろ?」
「そうっすね」
あの動きを見る限り東洋にある武術に似たものだろう。
女でも使えるあまり力を使わずに叩きのめすことができ、決まった型を模倣していることから、そう予測することが出来る。
念の為補足しておくと、戦争屋の一員であるということは、無論戦闘のプロフェッショナルということである。
そんな戦闘の専門家でもある俺たちからすれば、大したことは無いという意味だ。
それに、今回は戦闘員であるシャオさんもいるのだ、どうということはない。
そう思いシャオさんの方へ事前を向けると、どこから出したのかわからない飲むゼリーを貪っていた。
ハムスターのように口に含み、置いていた双眼鏡を手に持ってどこかを見つめている。
ちなみに、吸っていたタバコの火はきちんと消されて床に捨てられていた。
「んー…」
「……、?あ」
「なんか見つけたんですか?」
「さっきの女おった!!!」
「二人目今そこでやっとる!!」
「はあ!!??!」
シャオさんは食べていた(飲んでいた)ゼリーを全て食べ終わると、床に投げ捨て、ついでに双眼鏡も床に置いた。
ポキ、と関節の音を鳴らしながら屈伸をすると、勢いよく外へ飛び出し、巻き付けておいたロープを伝って下へ降りていく。
地面に着地したところでインカムを取り出し、こちらに手を振ってから駆け出した。
あの人、現地まで行ってとっ捕まえる気だな。
そう思い、俺はシャオさんのGPS位置を確認しながら、本部へと連絡を入れるため、インカムのスイッチを入れた。
──────────────────
s h a 視点
誘拐されてから死体が見つかるまでに一ヶ月かかっていたが、今回は一週間で発見されたことから、犯行頻度が上がっているということに気付くのは簡単だったと思う。
更にそこから考えるに、誘拐する人数や回数も上がるのではないか、と俺は思った。
今までの約四倍の速度でこれから犯行が行われるのだとしたら、いつも通りの速度で誘拐するなんておかしな話。
それだったら死体になる予定の人間の数が早くに尽きる。
だから死体が増える速さが早くなるほど、犯行頻度も上がり、誘拐する回数も人数も増えると考えられるのだ。
犯行を行う上で効率よくするにはどうすればいいか。
簡単だ、この街にはホスト店が集まって建っているのだ、近場をぐるぐると回るだけでいい。
時間がくればすぐにまた現れると思った。
案の定現れてくれた。
しかも俺たちのいるところの近くに。
これで後はとっ捕まえさえすればこの事件は解決する。
地面に着地したところで、建物と建物の間を縫って走る。
無論、足音は奏でずに。
つい先程行われた犯行現場と似た路地裏で女はいた。
赤く派手なジャケットに、赤色のスラックス、黒色のワイシャツを着た男が女に腹を蹴られていた。
頭からは血を流しており、あまり良い状態とは言えない。
「あー、テステス、こちらシャロン」
「アイツ見つけたわ」
『聞こえてます。こちらはぺぺです』
『もう本部には連絡入れといたんでとっ捕まえてくれれば』
「ja.」
インカムに連絡を入れると、俺の思った通りに行動してくれていて、やっぱアイツ優秀やな、と見直していたところで、顔横に風圧。
女が蹴りを放ってきていた。
耳に当てていたインカムが吹き飛び、血が少し吹き出る。
軽快な音を立ててインカムが転がると、そこら辺にあった石を投げて完全に壊した。
今度は俺を的に石を投げようとすると、お返しだと言わんばかりに上段蹴りをかまし、石を手から離れさせる。
懐からお折り畳み式ナイフを取り出し、ナイフの刃を出すと、女の顔面目掛けて腕を奮った。
難なく避けられると、蹴りを放ち、右に飛び回避する。
追ってきたところを撃退すべく、平手で女の顔を叩くと、腹に足を伸ばして柔らかい肉を踏んだ。
数メートル吹き飛び、風圧が頬を撫でると、すぐさま体勢を立て直し、負傷した腹を庇いながら後ろに下がり距離をとる。
裾に隠していたサイレント付きの拳銃を取り出し手に馴染ませると、何発か撃った。
手に持っていたナイフをぶん投げ囮にし足に力を込め地面を思い切り蹴る。
サングラス越しに見開かれた瞳に俺が映る。
酷くスローモーションに動く世界の中で数秒数分と感じてしまうほど遅く揺らぐ視界。恐らくだが、実際は一秒にも満たない短い時間ではあっただろう。
その中で俺は気付いたらナイフで女の肩と足を刺し動けなくしていた。
女の両腕を後ろに回し持ち上げ動きを制圧した。
女に蹴り飛ばされたインカムを拾いまだ生きていることを確認し耳に当てて通信を繋げる。
ザーザー、というテレビでよくある砂嵐の音を耳を通り抜けると、最近で一番聞いているであろう声が音として耳を突き抜ける。
「あー、テステス制圧完了」
『ガチっすか』
「おう」
「やっぱ犯人は一人やった」
『もうこれでこの事件は解決したも当然ですね!』
『あー、はよ基地に帰ってでっかい風呂入りたいわ』
ホスト側は潜入捜査について知っているとはいえそれもごく一部の上の立場の人間だけ、名義上俺たちは他のホストたちと同じ立場である。
一個人のただのホストに良い寮を用意する訳にはいかず、俺たちは他のホストと同じような寮に寝泊まりしていた。
そこでは浴槽がなく風呂を溜められない。シャワーだけである。
その点、基地には浴槽もあるし、共有の大浴場まである。
ゆっくり広い風呂に浸かりたいというのもわかる。
女の身柄を引渡したらこの任務は終了だ。
意外と長かったな。なんだかんだで二ヶ月ほどいた。
「ほなお前今からこっち来てや」
「この状態でそっち行ったら通報されてまうわ」
『はいはい』
「ほな切っ…」
「っ…!!!?!?!」
インカムのスイッチを切ろうとしたところで、どこかから殺気を感じる。
刹那、銃弾が飛んできた。
身体に衝撃。どこかで地響きが起きたのかと思うほどに身体を揺さぶられ、地面に倒れ込みそうになるが、足をぐっと踏み込んで耐える。
銃弾が飛んできた方向にすぐさま目を向けると、他にも銃弾が飛んできた。
内一発は女を掴んでいた方の腕に当たり、女を離してしまう。
インカムを銃弾から守りながら、チーノへと連絡をする。
「ぺぺ!!敵は二人や!!」
「女ひとりやなかった!!!」
『はい!!?』
「もう一人の方は姿が見えへん!」
「多分どっかに伏せて狙っとるんや!」
銃弾を潜らせた左肩が火傷をしたのかと思うほど熱を帯び酷い鈍痛を訴えている。
弾が貫通したお陰か出血量は少なめで済んだみたいだ。
出血量が少ないとはいえ馬鹿にしてはいけない、はやく止血した方が良い。
その為にも相手の居場所を探りたいが、銃弾に邪魔をされて中々特定出来ない。
そう言えば、あの女はどこへ行った?
鳴り響く銃声に気を取られていて忘れてしまっていたが、一体どこへ行っしまったのだろうか。
あの怪我ならそう遠くへ行けるとは到底思わないが。
数瞬、ほんの数瞬、身体の奥の、奥の方からコングがカンカンと音を紡ぐ。
耳鳴りがしてしまうほど大きい音で、俺に何かを囁き呟く。
そのコングの音は、心做しか心地よいような気もしたが、気のせいかもしれない。
そんなに良いものではないと思う。
言葉では言い表せないが、処刑台を前にして立つ犯罪者の、何もかもを諦めてしまった凪いだ水のような感じに近いかもしれない。
我ながら何を言いたいのか、何を言っているのかすらわからない。
「ッぐ…!!ぇほっ、…!」
ただわかるのは、今、俺の腹部には刃物が突き刺さっていたことだけだ。
またスローモーションの世界へと入ったのか知らないが、時が止まったような気がした。
生憎と、刺された腹にはなにも感覚は残っていなかった。
刺された箇所がとても熱くて、どうにかなってしまいそうだとは思ったが。
傷をほじくるようにしてナイフを抜かれると、もう一度刺そうとしたのだろう、ナイフをもう一度構え、手首のスナップを効かせる。
そのナイフは、先程俺が囮にして投げたナイフだった。
しまった、戦闘が終わったところで回収しておくべきだった。
その女の攻撃を避けるべく後ろに飛ぶと、背中にひやりとした感覚。
後ろを振り向きそうになった時、頭にゴツイ金属質の物が当てられた。
──────後頭部に銃を突き付けられている。
そう結論づけることは簡単で、いたって普通に思考した。
後ろに逃げ場はなく、前にはナイフを構える女。
これはもしかしてもしかしなくとも詰んだな、と悟った。
なんとなく少し上を見てみると、空に暗雲が立ち込めていて、なんだかそれがこれから良くないことが起こるような予兆めいたものな気がして、心がザワつく。
これから俺は無事に帰れるのだろうか、とここにはいない胡散臭い後輩のことに思いを馳せながら、短く鋭い刃物が振ってくることをただ、無機質に見つめていた。
──────────────────
c n 視点
時は数刻、遡る。
犯人を捕まえたとの報告を受け、本部に身柄を引き渡そうと連絡する準備をしていたら、突如として何かが爆ぜたような音が鼓膜を伝う。
ぶしゅ、と液体が吹き出るような音が鳴ったかと思うと、今度は高い金属音が鼓膜を襲った。
靴が地面を擦るようなサウンドが継続的に続いたあと、聞きなれたテノール声がやってきた。
『ぺぺ!!敵は二人や!!』
『女ひとりやなかった!!!』
「はい!!?」
『もう一人の方は姿が見えへん!』
『多分どっかに伏せて狙っとるんや!』
敵は二人で、突如鼓膜を劈いた銃声、”狙っている”という単語から、もう一人の敵の方は遠距離から銃でシャオさんの事を狙って撃っている。
そして、その後に聞こえた水音と高い金属音が鳴った事から、シャオさんはどこか撃たれたのだろう。
幸いなことに弾は貫通しているみたいだったが。
大急ぎでシャオさんのいる現場へと駆けつけようとしたところで、苦しそうな声がインカムから聞こえてきた。
小さな声だったが、その後に咳き込むようなものも聞こえてきた。
『ッぐ…!!ぇほっ、…!』
更に負傷してしまったのか、これはヤバイと地面を蹴る足をなおのこと早く動かした。
インカムを耳に当て、今から応援に行きます等の連絡をしようとしたところで、ぷちっ、とインカムが切れた。
もう一度インカムを繋げようとしても、繋がらない。
何回かスイッチを押してみて、ようやく繋がったかと思えば、聞こえるのはテレビでよく流れる砂嵐の音だった。
インカムを破壊されたか。
向こうには聞こえていないだろうに、俺は咄嗟に、「シャオさん!!!」と声に出して走っていた。
早く、早く駆けつけようとするのに、中々辿り着かない。
俺自身が平静じゃないから、上手く力が入っていないのかもしれない、そう思い俺は空を見あげた。
見上げた空は、なんだか不安そうにしていて、余計に平静を失っていく。
暗雲がもくもくと立ち込めていて、それがいっそう、シャオさんが無事では無いように見えて、心を騒がせる。
やっとの思いで現場に着くと、そこには何も無く、もぬけの殻だった。
辺り一辺を見回してみると、多くもなく、少なくもない程度の血痕が見つかった。
ゆっくり歩を進め、指で皮膚に触れさせ、親指と擦り合わせてから離してみると、糸のように伸び切れ、粘着力を帯びていた。
シャオさんが負傷してからまだ時間が経っていないことがわかる。
なら、まず死ぬことはないだろう。
シャオさんならきっと急所は避けているだろうから。
壁や床も目に通すと、色が少し変色しているところを何ヶ所も見つけ、やはり銃で襲われたことが手に取るようにわかる。
微かに火薬の匂いが鼻につくことも根拠の一つである。
そうして、銃痕を辿っていくと、穴の空いたインカムが落ちていた。
そのインカムを手に取り、じっくりと舐め回すようにして観察してみると、わかったことがあった。
刃物かなにか鋭いもので突き刺して壊されたということだ。
生きているかどうか確認すべく、インカムのスイッチを指で何回か押してみる。
青白い光を放ち、お?、となったところで、ピー、という耳鳴りにも似た音が爆音で流れたかと思ったら、不快な音に変わり、事切れた。
完璧に破壊されていることが分かり、鉄くずに成り下がったところで、腐敗臭のするゴミ箱に投げ捨てる。
反対の手に持っていた己のインカムを耳に当て、スイッチを入れたら、本部に連絡をする。
何回かのコールが空いたあと、心地よいボイスが優しく鼓膜を撫でた。
『はい〜ロボロですぅ』
「あ、ロボロさんですか?ちょっとマズイ事が起きまして…」
『…ちょっと待ってな』
キーボードを叩く音が何秒か続き、カチカチッ、とマウスのボタンに似た部分をクリックするようなサウンドが連なる。
機械専用のペンがタブレットを擦り、資料を探す。
『んーと……あったあった』
『えっと、お前今シャオロンと潜入捜査に行ってたんやったっけ?』
「はい、そうです」
『なんやっけ…ホストが行方不明になっとるやつか?』
「合ってます」
「そこで犯人まで突き止めて捕まえようとしたんですが…」
「シャオさんが誘拐されました」
『飛躍しすぎやろなにがあってそうなったんか順序立てて話せ』
そうして、俺は何が起こったのかを一通り話した。
これまでの捜査で得た情報も全て話し、事細かく説明した。
重苦しい沈黙が空間中を漂う。先に沈黙を破ったのはロボロさんの方だった。
『…お前との話は全部グルッペンにも話しといた』
『んで、シャオロンのGPSを辿ればええんか?』
「お願いします」
その間に、俺は情報を頭の中に整理していた。
犯人は二人、その内の一人は女で、もう一人はわからない、だが武器として銃もしくはそれに近い遠距離武器を使う。
とあるホストにとても肩入れする権力のある太客の女。
意味の分からない詩に、怪我人がいるんだかいないんだか不明な火事あるいは放火事件。
犯行頻度が高くなり、死体の数が増えるこの頃。
上記の事をクルクルと頭の中で回転させて、丸い球体を観察する者のように、色んな角度からその情報を眺める。
眺め飽きたところで、その四つある球体を回して遊ぶ。
その瞬間、最後のピースがハマるようにしてカチッ、と頭の中で何かが光った。
「そうか…!だから…、だからそうなったんや…!」
『チーノ?』
「ロボロさん、多分ですけど俺、事件の全貌がわかったかもしれません!!」
『それホンマか!?』
『ほんなら後はシャオロン連れ戻して犯人とっ捕まえるだけで解決やん!』
『あと一分…や、三十秒待ってな…すぐに特定できる!』
タンッという力強いエンターキーを押す音が鳴り、ピリオドを打つ。
マイクの部分にガサガサとした音が入ったかと思えば、紙が重なる音がした。
『おっけ、特定出来たで…!』
『えっとなぁ、エクラタン街南三番地区10-7-25のマンションに近い建物や!!そこの地下二階におるわ!!』
「了解です…!ではこれから向かいますね」
『応援は?』
「何言うてるんですかロボロさん」
「そんなの要らんに決まっとるやろ」
『…ふっ、それもそうか』
『ほな、頑張りや』
「言われんでも」
俺は一度店に戻り、持ってきていた縦長のケースを開ける。
長ったらしい数字の並ぶパスワード打ち込み、蓋を開ける。
そこには、きらきらと銀色に鈍く輝く、レイピアがあった。
とても細く、先が針のようになっている刃に手を少し触れさせる。
錆びていない事を確認し、レイピアの隣にある鞘に刃を収める。
鞘には紐が付いており、リュックサックのようにして背負えるようになっていた。
そう言えば、潜入捜査の準備の時、シャオさんの愛用武器しゃおしゃおシャベルは基地に置いてきたんだっけ。
俺のレイピアはギターを入れるギターケース(ギグバック)のような形をしたケースにレイピアを入れて持ってこられた。
無論、武器であることがバレないようカモフラージュするためにギターケース(ギグバッグ)状の物に入れたのである。
だが、シャベルはそうともいかなかったから持って来れなかったのだ。
通常のシャベルならギグバッグ状のケースなら入れて持ってくることが出来たのだが、生憎、通常のシャベルではないし、人を殺すことに特化した特殊な形状のシャベルだったため、携帯することを断念したのだった。
そんな事を思い出しながら、白く大きめのスーツケースを開ける。
爛々とヒカリを放つその中身は、爆弾の宝石箱で。
ロボロさんが作ってくれた、どんな鍵でも開けられる箱型の、手よりはちょっと大きめの機械をベルトにあるフックに掛けてぶら下げる。
小さなポシェットにもなっているそこに手榴弾やナイフ、もしもの時の自決用手榴弾、ピッキング用の針金を納入し、拳銃は裾の中に仕込む。
拳銃はコンパクトで小さめだが、構造を魔改造しているため威力は申し分ない。
反対の手にはロープを仕込んでおいた。
このロープは少し工夫をしており、先の方にフックが付けられており、結ぶ手間も無しに引っ掛けることが出来る優れものだ。
一通り準備が終わったところで、足音が鳴らない靴に踵をぐっと押し込み、出発しようとしたところで、見慣れた姿が視界に映る。
横を通り過ぎようとしたところで、声を投げられ、キャッチした。
「行くの?」
「ええ」
「帰ってきた時には…全て解決していると思いますよ」
「…そう」
「気を付けてね、ってわざわざ言うことでもないでしょうけど」
「ありがとうございます」
長く巻かれた髪が見送りながら、俺をみつめている。
返事をしながら、俺は気合いを切れて地面を蹴った。
無音の廊下を駆けながら、頬を撫でる風の心地を感じつつ、レイピアを背負う紐をぎゅっと握りしめた。
──────────────────
s h a 視点
壁にナイフが突き刺さる。
とても甲高い金属感の溢れる鮮やかな音色を耳に轟かせ、俺は刺されたインカムに視線を向けていた。
インカムのど真ん中をぶっ刺したようで、痛々しくインカムがナイフに壁ドンされる。
こんなにもキュンとこない壁ドンなんて中々ないな、と思いながら。
そんな馬鹿らしい事を考えていると、ふと、唇に布が押し当てられていた。
なんだこれ、と一瞬思ったが、すぐに睡眠薬を染み込ませたハンカチなのだと気が付く。
絶対に落ちてやるものか、と気を引き締めたところで、呼吸をしないなんてこと出来るわけがない。
ほんの少し酸素を取り込んだところで、目の前がクルクルと回るような感じがして、視界が寿命が切れかけた電球のように点滅する。
やがてそれは長くは続かずに、筋肉を固めて気張って立つ脚の力が抜けていき、後ろにある身体にもたれかかる。
ガクン、と膝が折れたと同時に、闇へと葬られたのだ。
そこまでは覚えている。
目を覚ました先には、薄暗い部屋の中で、起き上がろうと身体に力を居れると、唐突に後ろへと引っ張られる。
首に紐状のものが着けられているらしく、何とか後ろに頭を回して見ると、後ろに水道管か何かパイプに結ばれているのがわかる。
そこに腕を回されて薄茶色のロープで縛られていた。
俺以外には誰もいないこの無音空間で、こひゅー、こひゅー、と風音にも似た音が自身から漏れ出ていることに気付く。
口に布を当てられ、後ろで結われている。
このせいで呼吸がしずらいのか。
無理に首を回して動いたせいか、後になってから腹が熱いことに気付く。
そこに目を向けて見ると、馬鹿にできない量の血液が俺から流れ出ていた。
どうにか急所は避けられていると言っても、止血されている訳ではない。
不幸中の幸いだが、腹にも結ばれているロープが患部を圧迫しているようで、それが辛うじて止血していた。
どうにか抜け出そうと腕を動かして藻掻いていた所で、足音がふたつ、近づいて来ていることがわかる。
なんだ、と思い身を固めると、火傷のあとのある二人の男女が姿を現した。
「どう?目覚めは」
「ハッ、最っ悪やわ」
「こんなホコリ臭いとこで全然寝れんわ」
「そんなことを聞きに来たんじゃないわ」
お前から話題振ったんやろが情緒不安定か、というツッコミをかましそうになったところをなんとか押し留める。
ジトッ、とした目を抑えることは出来なかったみたいだが。
「あなた、国家の人かしら」
「この前連れてきた男にGPSがくっついていたから、遂に国家の人が潜り込んできたのかと思ったのだけれど」
なるほど、俺たちが目をつけていた男にGPSを付いていた事から警察やら何やら、捜査官がこの事件に踏み込まれたのだと察したのか。
だから犯行頻度を上げた。
この事件の犯人としてバレるのは嫌だったから。
「ひとつ聞かせてくれよ」
「なに?」
「なんでお前らはこんなことしてんねや?」
「アンタ、わかってて聞いてるの?」
「性格悪いわね」
「まあ良いわ」
「もうこれで最後なのだし、教えてあげる」
「いいのか、教えても」
ここに来てやっと、男の方が口を開いた。
女よりも数寸高い男は、力同士での勝負ならば俺が負けてしまうだろうな、とわかるほど体格が良く、足も長いしスタイルが良かった。
マスク越しでもわかるほど端正な顔立ちをしており、ホストをやっていた方が天職なのではないかと思った。
「いいわよ」
「簡単に言えば、復讐よ」
「復讐?」
「ええ。私から愛する人を奪ったアイツらから…」
「アイツら、あの人があまりにも売れて、人気があるからって、それだけであの人を殺した…!」
「ちょっとしたストレスの発散程度で…!!」
「許せる訳がない、許せない…!!!」
「ここにいる男もあの人の大の親友だった…」
女は、目の上にある男のマスクを外し、顔の半分を覆う火傷跡を労わるようにして頬に触れる。
男の目線に合わせるために上を向いたせいか、被っていたパーカーが外れる。
その下には、男と似た酷い火傷のあとが浮かび上がっていた。
「もういいでしょ」
「行きましょ」
「…ああ」
一体何を話したくてここに来たのかわからないが、だいぶ有益な情報が手に入った。
そこから簡単に事件の全貌が見えてきた。
確かに、そのように復讐をしても仕方がないほど、虚しく、それでいて心に冷たい雨が降ったような動機だと思った。
ここにはいないあの女と男の事を頭に置きながら、なんだか目がパシパシとして、何度も瞬きをする。
全身の力が抜けてきて、周囲が歪んで世界が回る。
血を流しすぎたな、こりゃ典型的な貧血だ、と思い目を閉じた。
目を閉じている内に血の気が引いてきて、決して心地は良くないであろう流れに、身を任せた。
雲に頭を包まれたような感触は、あまり経験したくはない感触だった。
* * *
ゴウン、と地面が揺れた気がした。
ほんの僅かな衝撃だったと思う。
その僅かな衝撃だけで俺は目を開ける。
閉ざされた視界が急に開けたようで、なんだか酔ってしまいそうだった。
目を覚ましたのは好都合だ、さっさとここから脱出しようと、縄抜けを開始し、手際よく縄を抜ける。
自由になった両手を見てみると、キツく縛られたせいか、鬱血していて、監禁されていたのだと見せつけてくるようだった。
後頭部で結ばれていたタオルに近い口枷を外すと、裾に隠していた普通のサイズよりも小さいナイフを取り出し、首を締め付ける紐状のものを切る。
ほとんど隙間もなしに結ばれていたせいで、少しだけ皮膚を切ってしまったようで、肩を伝う血液が気持ち悪かった。
足を結ぶロープもナイフでノコギリのようにして引いて押してを繰り返して切ると、全身が軽いように感じる。
ああ、これが鳥かごに捕まった鳥が、自由に飛べるようになった感覚なんだと思った。
またの名を、開放感とも言う。
つかの間の自由を味わいながら、そこら辺にあった扉に歩を進め、おもむろにドアノブへと手を伸ばし、引いてみた。
鍵はかかっていないようで、簡単に脱出できた。
おいおい、不用心だな、こんなんじゃ監禁とは言わねぇじゃねえか、と心の中でツッコミをしていたところで、こちらへ向かってくる気配がした。
もしやあの女か男が戻ってきたのだろうか。
男の方は知らないが、今の女を相手に制圧できるか、全くの未知数だ。
現在の出血量なら大丈夫だろうが、これ以上動くと更に血が出て無事では済まなくなるだろう。
それに、万が一の為に持ってきた用のナイフではとても心もとない。
しかしやるしかない、そう思いナイフを手に持ち、すぐに動けるよう構えながら、物陰に隠れる。
最初から鍵がかかっていなかった扉が、音も立てずに開かれる。
少し近づいてきたところで、相手の首を刈り取ろうとナイフを振るおうとしたところで、手首をがっしりと掴まれる。
クソ、と悪態を着きたくなるが、途中である事に気付く。
暗闇でよくわからなかった水色のふわふわ綿あめ髪が視界を覆った。
「シャオさん、遅かったですか?」
「いや、思ったよりも早かったわ」
「早速やねんけど止血頼めるか?あとなんでもええ、武器くれ」
良かった、チーのだったと安心する。
コンバットナイフを手に渡され、小さなポシェットから清潔な白い包帯を取り出す。
一旦しゃがんで処置をしやすくする。
「服、脱いでください」
「ん」
ホストから出てきたまんまの衣装を手早く脱いでいく。
黄土色のジャケットの、左肩部分が血に染まっていて、タートルネックの黒色上からでもわかるほど中々に血が出ていた。
目にしてみると余計に痛みを感じる気がして、見ていることが出来ずに目を逸らした。
その代わりにナイフに視線を向け、手に馴染ませるようにクルクルと回したり、投げてはつかみ投げては掴みを繰り返した。
その間、チーノは消毒液を患部にぶっかけ、包帯と同じく清潔にされたガーゼを当てて強く包帯で結ぶ。
一番酷い腹部を先に終えると、左肩の傷も消毒液をぶっかけてガーゼを当てる。
時間がないためか、手つきは早く雑だが、的確に手を動かしているのが単純に凄いなと思った。
全ての応急処置が終わったところで、タートルネックを再び着て、ジャケットを腰に結んで落ちないようにする。
ジャケットなんてものを着ていたら動きにくいったらありゃしない。
「ありがとな、ぺぺ」
「ほな行くで」
「はい」
足音が鳴るのなんて気にせずに走り出し、チーノと状況の把握と整理をした。
話を聞いたところ、今いる場所は地下二階で、あの二人がいるのは恐らく屋上ということ。
「多分やねんけど、俺が今地下二階におるってことは、まだ殺されてない誘拐されたばかりのホスト達は同じ地下二階におるんとちゃうか?」
「それか地下一階やな」
あの二人の元へ行く前に寄り道として地下二階にいるであろうホスト達の確認をする。
色々なところを走り回った結果、生きているホストもいたが、ほとんどは死んでいた。
いつも通り、酷い拷問を受けてから、一番惨い死に方で。
生きているホスト達を逃がし、俺たちは階段から屋上まで登っていく。
このビルは地下を除くと十階建てで、そこに屋上を含めると十一階建てになるんだそう。
そこまで全力疾走で足を動かすと、疾走感特有の風圧が身体を襲って、心地よかった。
「ぺぺ、お前どこまでわかった?」
「全部です」
「さすが」
この事件の全貌をどこまでわかっているのか確認し、長い階段を上がると、鉄の重い扉が俺たちを向かい打ち、それを打破すべく、髪のセットで使っていたヘアピンを用いて鍵に刺し込む。
突っかかりに引っかかると、そのつっかえを上げ、他にも鍵穴を弄ると、ガチャっ、と重く鈍い音が耳の中に入ってきた。
ゲームのラスボス感漂う扉のノブの部分に手を置き、チーノの方へ視線を向けると、こくり、と首を振りノブを引きドアを開けた。
空を切る風の音が耳に入り、少し冷たく感じる空間が宙に浮いていた。
コンバットナイフを取り出し手に持ち、後ろを向く男女を反射させる。
隣には宝石のように輝くレイピアを持参し相対する男。
「あら、あなたどうやってあそこから出たの?」
「鍵もしてないあんなザルな檻で出えへん方がおかしいやろ」
「ふふ、言ってくれるわね」
女の腰を抱き、支えるようにして立っている男が、俺たちを目に捉える。
目には鈍く鋭い光が灯っていて、その光がとても薄暗く、アングラな印象を持たせているように見える。
「アンタら、この街で起きた火事事故───、放火事件の被害者やねんな」
「その火傷跡も、放火事件のやつやろ」
「……」
「愛する人って言うてたな」
「その放火事件で亡くなったんやな」
サングラスと白のマスクを取り、顎から首にかけ走る火傷跡が顕になった。
その火傷跡に手を当て、目を伏せる。
思ったよりも端正な顔立ちで、火傷の跡が残る首とのアンバランスさが不気味さを演出していた。
「そんでオーナーが言うてた、…」
「一夜で何億と落とす権力ある女の噂……ですよね」
「せや、一夜で何億も落とせるってことはそれだけ権力を持っとるってこと」
「そんでその女が惚れてたホストが、放火犯やったんやろ」
「こっからは推測になるけど、その放火犯はホストの中でも人気のあるやつやった…ちゃうか?」
「ええ、そうよ」
「その人は万年二位の座に付いていたわ」
「そんでそのNo.1ホストが…」
「あの人よ」
女の腰を抱く手を肩に置き、前に出る男。
人形のような美しさを持つ顔に、火傷跡が包み込むように浮かんでいる。
無表情で淡々と機械のように喋り出す様は本物のドールのようにも見えた。
「俺はそいつの親友で、幼なじみだった。」
「とても良い奴だったとは言えないけど、親友だった」
「万年二位の男がNo.1になれない僻みと嫉妬から女に相談を持ちかけた」
「仲間を連れて放火した」
「女は権力を持っているのだから、当然その程度の事件、揉み消すことは簡単だったはずです」
「そのせいで怪我人はいるとかいないだとか情報にズレが出たということでは?」
伏せていた瞼を持ち上げ、エメラルドみたいに輝く瞳がひょっこりと顔を覗かせた。
肯定するように口を開き、音を紡ぎ、二酸化炭素を吐く。
「…あの人はね、私のことを名前で呼ぶことが恥ずかしかったのかいつも姫って呼んでたわ」
「可愛いわよね」
しみじみと噛み締めるように自身が吐き出した言葉を噛み締める女。
そんな様子とは打って変わって、拳を作り武道で言う構えを取ると、悪どい笑みを浮かべた。
女に気付き一歩遅れて男も左手に拳銃、右手にナイフを見参させ相手に向ける。
「もう答え合わせはいいわよね」
その言葉が言い終わると同時に女は動き出し、俺に襲いかかる。
チーノはあの屈強な男が相手だ。
チーノの武器はリーチが長いが、敵は拳銃を持っているので有利とも不利とも言えない。
そんな事を考えている内に、右側に風圧。
女の拳を避け、ナイフで刺そうとするも、難なく受け止められいなされる。
急に動いたことが悪かったのか、腹に鈍い痛みが迸る。
じわぁ、と身体から中身が抜けていくあの気色悪い感覚がする。
応急処置として塞いだ傷が開いたな、そう気付くのに時間はかからなかった。
早く決着を付けないとコチラが殺られる。
だが、敵もそこまで馬鹿では無いようで、その隙を見逃さず的確に腹に蹴りを入れられる。
内蔵が泣いて、口から温かい液体が込み上げてくる。
負傷した腹を蹴られたことで更に傷が悪化し吐血、からの痛みで呼吸が一瞬止まる。
「シャオさん!」
「よそ見をしている余裕、お前にあるのか?」
俺に気を取られたせいでチーノまで敵の攻撃を受けてしまう。
急所は上手く避けたようだが、避けきれなかったのか脇腹にざっくりと深い傷が浮かんでいた。
「俺んことはええ!今は自分のことをせえ!」
とどめを刺そうとして追ってきた敵を迎撃すべく、腹を庇い睨む。
そうすることで敵は今動けないのだと女に勘違いさせる。
案の定そう思った敵は拳で心臓を撃ち抜こうとしたところに、手で受け止めチーノから授かったコンバットナイフで女の鳩尾を狙って撃ち抜く。
すぐに抜いて二回目というところで逃げられ、何歩か距離を取られる。
お互いに近づいて拳を撃ち合う。
顔面目掛けて降ってくる拳を避け俺と同じく負傷した腹を蹴り飛ばそうと足を振るった所を避けられる。
蹴った足を掴まれ投げ飛ばされる。
すぐさま起き上がり上段蹴りからの二連撃。
女の頬に一辺の赤い線が入れると、足を高く上げ勢いよく振り下ろす。
それも避けられると、今度は女の方から向かってきて、ヒールの効いた蹴りを何発も突き、足払いをされ転んでしまう。
俺に向かって拳を振るおうとした時、くるりと回って横に移動し目一杯力を込めて脇腹に蹴りを吐く。
こふっ、という風音が聞こえると、女は数メートル吹っ飛んでいく。
「っっぐぁっ”っ!!」
野太い声が飛んだ方に顔を向けると、チーノの鳩尾の右の辺りをナイフで刺されていた。
よく見てみると肩からは弾が掠ったのか傷が出来ているし、足にも似たような傷が幾つもある。
ボロボロじゃねえか、と思うも、敵もチーノよりかはマシだが、似たような形相だったので、何とも言えなかった。
刹那、高いヒール特有の音が鳴り、間一髪、女の蹴りを避けることに成功する。
お返しだと言わんばかりに蹴りを放ち、俺が負傷させた肩にヒットした。
「っはぁっ…!!!!」
空咳にも似た咳を吐き一瞬、息が詰まる。
蹴られた肩を手で庇い悶え苦しんでいる。
ナイフで刺されたとこに蹴り入れられると痛いやろ、と教える教師に成り代わったようにも感じた。
「……!!」
チーノと相対する男が女に目を向け、助けに行こうとしたほんの一瞬の隙を見逃さず、レイピアで急所を貫き、素早く抜いて足と肩に一つずつ丁寧に撃ち抜く。
瞬きする間に終わった程、素早い動きだった。
レイピアはリーチが長い分、動きが早くないと成り立たない技だ。
動きが遅いと自分の方が先に攻撃を受けてレイピアのリーチの長さを活かせなくなるから。
「アンタってアホやねんな」
「っ、はぁ?」
女に拳銃を突きつけながら、音を並べる。
「知ってたか?ホストが”姫”って呼ぶ時は客に対して呼ぶ時の人称や」
「アンタが愛してたっていうんも、向こうはそうとちゃうかったんやろ」
「……っ、意味がわからないわ」
「可哀想やな、そんなことの為だけに自分を捧げるなんて、正しくアホのすることや」
「それも、これで終わりやけどな」
話しながら横目にチーノを見ると、ポシェットから捕獲用のロープで敵の手と足を結んで動きを封じ、手錠で更にガッチガチに固めていた。
コチラへ向かってくるチーノにこく、と頷いて終わらせようとした。
その瞬間、女が足払いで俺の足を蹴って転ばされていた。
二回も転がされちった、と思考する間に、火事場の馬鹿力とても言うべき力で、俺の胸ぐらを掴み突き飛ばす。
腰に衝撃がきて、高い音が鳴る。
思ったよりも低い柵の前に俺は立っていて、女が拳を振り上げて俺の顔面に入れる。
顔面に入れられた時に目を瞑ってしまったのが良くなかったのだろう、俺は地面から足が離れてしまっていた。
え、と思った瞬間、急な浮遊感に、重力がない空間、つまりは宇宙空間に投げ出されたように重力を感じない。
どういうことだ、何が起こったのか、なにもわからない──────
──────私は、そらにうく。
ふと、どこかで読んだ詩の一文が頭に浮かんでいた。
絶対に今か考えるにしては場違いなことを、頭の空へと浮かばせていた。
そんな思考に囚われるなかで、俺の目に映る光は、モノクロに、スローモーションで、自分だけ時が止まってしまったのではないかと錯覚するほど、遅い世界でただ、ぽつんと一人取り残されている。
とてもゆっくり映る世界、感情を全て失ってしまったように無表情の女、己の名を呼ぶ声、ヒラヒラと舞うジャケットの裾に、泳ぐ血液。
光の渦巻く真ん中で、俺の考えていることと言えば、至極単純だった。
そうか、俺今──────
──────そらにういてる。
──────────────────
c n 視点
男を拘束してシャオさんの方に目を向けると、一つ首を上下させる。
女を抑制しようとした瞬間、シャオさんは転ばされていて、女に胸ぐらを掴まれて投げ飛ばされる。
そこに柵があってくれてよかった、なんとか落ちずに済んだシャオさんの顔面に何発か拳を入れ、その勢いでシャオさんを屋上から突き落とした。
「シャオさん!!!!」
呆然と女の顔を見つめながら、腹からとび出た血液が嬉々として空中で泳ぐ。
レイピアで女の腹を貫いて意識を一撃で刈り取ると、愛用武器を放り投げ、裾に仕込んだロープを柵に結ぶ。
柵に足をかけて柵の外側に立つと、水泳選手がクイックターンをする時、壁を蹴るようにして灰色のコンクリートを蹴り上げ空中にて潜る。
落ちていくシャオさんよりも早く下に落ち、その上から降ってくるシャオさんの腰を掴んで膝を立てる。
立てた膝にシャオさんを乗せる。
キョトン、と瞳を丸くして純粋無垢な子供のように不思議そうな顔をする。
ゆるゆると表情が変わっていき、はっ、と何かに気付いたような顔をして、俺に話しかけた。
「チーノ」
「なんですか」
「俺わかったわ」
「何がですか」
「チーノが見せてきた詩の結末」
くすくすと楽しそうに笑うシャオさんを見つめながら、話の続きを待った。
「あの飛び降りた女の人も、俺と同じで誰かに助けられたんちゃう?」
「浮気した男とは違う人に」
「なんでそう思うんですか?」
「やって、最後に” せめて貴方よりも良い人が私の隣にいてくれたら、結果は違っていたのかもね”ってあったやん?」
「なるほど」
「それはそれは、ええ解釈なんちゃいます?」
「やろ?」
とても嬉しそうに話すシャオさん。
笑う度に少し長めの髪がふわりと揺れ、甘く爽やかな香水の匂いが鼻を擽る。
月明かりに黄色い瞳が当たって、黄金色の瞳にも見えた。
空中にて、そらをうきながら、そういう解釈は嫌いじゃないですよ、と思う。
「まあでも、今話すことではないですね」
その一言に、二人分の笑い声が夜の街に広がった。
──────────────────
s h a 視点
午後、ウィルワー本拠地、第二医療病棟(幹部専用医療病棟)にて。
真っ白い壁に真っ白な床、ふかふかの柔らかな布団、二つ並ぶベッドに二人、話をしていた。
つい先日、あまりにもやる事が無さすぎる暇な入院生活にうんざりしたどこかの男たちが脱走した。
その時、こってりと我が社が誇る神の手を持つことで有名なホモ医師によって処女()を失い掛けた。
そのことに怯えこうして大人しくベッドについているというわけである。
あの空中散歩のあと、俺たちは無事地面へと足を付かせることができ、本部から来た応援により女と男は国家に捕まえられたようで、今頃は牢獄の中だろう。
連行される際、全ての感情をどこかへ落としてしまったのかのような無表情で女は淡々と事実を受け止めて歩いていた。
そんな女を気にしながら、男は女に話しかけていた。
おろおろとして、頼りない感じにも見えたが、それでも女の傍を離れることはしなかった。
「ねぇ、シャオさん」
「なに?」
病室で見舞い品にあったリンゴを一口齧りながら、チーノは言葉を発する。
俺はと言うと、推している野球チームが勝ったという新聞の記事を読んでいた。
「あの女の人、ちょっと可哀想でしたね」
「そうか?」
「やって、相思相愛ならまだしも、犯罪まで犯して復讐をしたのに、ただの金ヅルにしか見られていなかったなんて、なんか悲しいというか、報われないというか…」
「俺はそうは思わんけどな」
せんべいをツマミに新聞を読み終えた俺は、緑茶を飲んで唇を濡らす。
「ほら、お前が見せてきた詩あるやん」
「ああ…それがなにか?」
「” せめて貴方よりも良い人が私の隣にいてくれたら、結果は違っていたのかもね”」
「あの女の隣には、男がおったやん」
「殺されたホストの親友の…?」
「おん」
「あの女には違う男がおるやろ?」
「詩と同じでさ」
「なんでシャオさんはそういう解釈をするんですか?」
「普通やったらそう言う解釈、せんやないですか」
「んー?」
チーノの見舞い品からこっそり盗ん、訂正、頂いたフルーツを食べる。
甘いずっぱい風味が広がって、鼻をすぅー、っと吹き抜ける。
ふと、窓の外を見てみると、木の葉に風が吹き抜けて、その気流に乗って小鳥が飛んで歌っていた。
囀りに耳を傾かせながら、詩を思い出す。
『せめて貴方よりも良い人が私の隣にいてくれたら、結果は違っていたのかもね』
世間では浮気された夫に復讐する失恋の詩、裏切られ終わった悲恋の詩だと言われている。
その女の行動に、心を打たれたと言って賞賛された詩。
なのに何故、俺はその詩を”そういう風”に解釈するのか───
───その方がハッピーエンドでええやん?
立ち込めていた暗雲が波が引くように身を捩らせ空に大きな穴が空く。
世界の中心で照る太陽が、爛々と煌めいていた。
その光が窓の隙間から入り、見舞い品に当たって反射する。
淡く暖かい光は、優しく瞳を包み込んだ。
その温もりに瞼を下ろし、もう一眠りしようと布団の海に沈む。
柔らかな布団に沈む感覚は、奇しくもそらにうく感覚と近い気がした。
『了』
制作期間:6月〜8月(約2ヶ月)
文字数:42077文字数(約4万2000文字程度)
製作者:きゅうり
完成日:2026/8/18
ちなみに、言わせたかったセリフは『その方がハッピーエンドでええやん?』です。
あとちょっとした解説で、事件の犯人である男は女のことを好きでした。
詩の中にある浮気した男が事件の犯人の女が愛した男、浮気された女(詩の中の)が犯人の女、『せめて貴方よりも良い人が(略)』の男が犯人の男として描いてます。
それを踏まえてもう一度お読みして貰えるとより面白さが増すかと思います。
これでは失礼します。
お読み頂きありがとうございました。
またどこかのお話でお会いできれば幸いです。
明日に投稿する方➞らりるれろさん
18〜19時頃投稿
こ―↘ひ―↗
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こ―↘ひ―↗
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コメント
5件
4万2000文字って凄いですね、!! 最後の言わせたいセリフにまでちゃんと繋げれるストーリーを作れることに尊敬します!! そして戦闘シーンの感じがもう凄すぎます。ちゃんと戦ってるところが想像出来るんですよね…もうほんとに凄い。凄すぎて毎度の事ながら語彙力が消失してしまいます 解説踏まえてもう一度読み直して来ますね!!
うわあ……第1話だけでこんなに読ませるの、すごすぎます……! ホスト潜入捜査っていう設定もそうなんですけど、それ以上に『そらにうく』って詩が物語全体を包んでて、最後の「そらにういてる」で全部がつながった時の衝撃がやばかったです。 事件の真実に触れるたびに詩の意味が変わっていく感じがたまらなくて……特にオーナーの「愛情表現」って解釈、すごく好きです。 チーノとシャオロンの関係性もいいですよね。お酢紅茶のいたずらとか戦闘中のテンポの良さとか、2人の会話が生き生きしてて、シリアスの中にちゃんと息抜きがあって読みやすかったです。 4万文字を1話で通してくる熱量、めっちゃ伝わりました……! きゅうりさん、お誕生日作品としてこれ書いたの、愛が重すぎて尊いです🥀🤍