「……蓮水さんって、いつも大人の男性って感じなんですけど、今みたいに時々、ちょっと子供っぽく見えるようなこともありますよね」
微笑ましいような思いで、じーっと彼のことを見つめていたら、そんな言葉が口をついた。
「うん? 子供っぽいだろうか?」
と、彼があんず飴を口にくわえたまま応えたものだから、
「かっ、かわいい……!」
ぽぅーっと、ますます見惚れてしまうことになった。
「かわいいって、私がか?」
あんず飴を手に不思議そうな顔で首を傾げる彼が、どうにも愛おしすぎて……。そういう計算のないあなたの仕草に、よけいに惹かれちゃうんですってば……。
「……そんなあなたが、大好き」
草履を履いた足で少しだけつま先立って、長身の彼の耳元に囁きかけると、
「君は、今年も私を翻弄するつもりだな」
彼が、ふっといたずらっぽく笑って見せた。
「甘いものを食べたら、なんだかしょっぱいものが食べたくなりましたね」
「ああ、そうだな……」頷いて、お店を見渡した彼が、「だったら、あれを食べようか?」と、指を差した。
指の先を見ると、そこには『炒り銀杏』と、のれんを出した屋台があった。
「いいですね、銀杏」
「じゃあ、一つもらおうか」
お店の人が炒り立てのあったかい銀杏を袋に詰めると、塩をまぶし手渡してくれた。
「そこに座って食べよう」
空いていたベンチに座ろうとすると、「ちょっと待ってくれるか」と、彼が胸元からハンカチを出して敷いてくれた。
「あっ、ありがとうございます。じゃあ、お礼に……」
と、袋の中の一粒を摘まむと、彼の口元に差し出した。
「食べさせてくれるのか? でもちょっと恥ずかしいな……」
照れ笑いを浮かべる彼に、「はい、あーん」と、笑って言う。
「あー……うん」と、彼がやや頬を染めて口を開けたところへ、銀杏をぽいっと放り込んだ。
「うまいな」彼が口にして、たった今銀杏を摘まんだばかりの私の手を引き寄せると、塩が付いていた指先をふっと舐めた。
「……きゃっ」
一瞬で頬が紅潮する私を見つめ、
「私と同じで、君も赤くなっただろう?」
拳を口に当ててくくっと笑って言う彼に、「もう……」と、拗ねたようなふりでちょっとだけ口を尖らせたけれど、内心では、(こんなのってズルいなぁー。さっきの彼の言葉じゃないけど、ほんと翻弄されてるのは私の方だってば……)と、思わないではいられなかった。
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