7
ジュリアは、掌より二回り大きいパンデイロを左手に持った。中央や端を繊細な動きで、リズミカルに叩き始める。
やがて澄み切った表情で、女の子らしくも朗々とした声で歌い始めた。
ズンズンズンズン、カポエイラ遣いが村を練り歩く
誰一人として彼を止められないんだぜ
音移動の少ない無骨な歌は、カポエィラを生んだとされる民族のものとされていた。
今では民族の詳細は失われており、カポエィラを盛り上げる歌と意味だけが代々伝えられていた。
シルバとトウゴは、ジュリアの目の前で向かい合ってしゃがんだ。
歌に合わせて数回、手拍子をしてから、伸ばした両手をそっと触れ合わせる。二人は鏡写しの遅い側転で、ジュリアから離れた。
一瞬のジンガの後に、トウゴは膝を曲げて右半身を引いた。右足後ろにスライドさせて捻りを開放。内から外に左足を回し、ケイシャーダ(半円の軌道の顎攻撃)を放つ。
左前姿勢のシルバは、左上腕を額の前に遣った。背中を丸めて時計回りにくるりと一回転する。
ケイシャーダをやり過ごして、シルバはもう半回転した。左手を地面に着けて、右、左。緩やかにのびやかに足を振り上げる。倒立しながら回転する魅せ技、アウー・ジラトーリオである。
ズンズンズンズン、カポエイラ遣いがビリンバウを弾く
陽気な愛の調べに皆も釣られて踊り出す
揺らぎも迷いも感じさせない調子で、ジュリアは高らかに歌う。二人はリズムに乗りながら、滑らかにカポエィラを続けた。
カポエィラの創始者は、地球時代の奴隷たちである。格闘技を踊りに見せかけるためのものであるため、カポエィラは明確なジャンル分けができない。
舞踊、格闘技、演劇。どれでもあってどれでもない、被征服民族の哲学そのものである。
二分近くが経過した。トウゴから遠ざかったシルバは、左に側転。開いた両足を頂点で百八十度旋回し、エリコーピテロを披露した。
トウゴがジンガで、ぬるぬると接近してくる。互いに蹴りと回避を交わしてから、姿勢を戻した。右手同士をぱんっとぶつけて、ジュリアに歩いて近づいていく。
演奏を止めたジュリアは、面映ゆい、輝くような顔を正面に向けていた。
(ああ、やっぱり良いよな)
体中にじんわりと汗を掻くシルバは、謎の赤服との交戦では望めない、大きな充足感を得ていた。