「おや、かけらさんはこの服装を見たことがあるんですか」
男性は、わざわざマントを外して披露してくれた。
白いワイシャツと黒いズボン。
まさにサラリーマンの格好だった。
「はい。よく見かけてました!
あなたも仕事中にこの世界に来たんですか?」
期待の眼差しを向けると、男性は目を閉じて首を横に振った。
「残念ながら、わたしはこの世界の人間です」
「そうだったんですか……。
変なことを聞いてしまってすみません」
「いいえ。変だと思っていませんよ」
男性はそう言って、天使のような優しい笑みを向けてくれた。優しい人だ。
「ありがとうございます。
私になにか用があるから声を掛けてきたんですよね。えーっと……」
「わたしはルーンデゼルトの第一王子。
コウヤと申します」
ゆっくりと穏やかに話してから深くお辞儀をして、爽やかな笑みを向けてくる。
その時になぜか不思議なオーラを感じた。
あたたかくて包容力を感じるようなものだけど、普通の人間とはなにか違うものだ。
今まで生きてきて、そういったものを感じ取ったことは一度もないけれど……。
「かけらさんたちのことは知っていますよ。
トオル王子の臣下が来て、話をしてくれましたからね。
こう見えても占いができるので、皆さんがルーンデゼルトに到着する日時も予想できていました」
「占いでそこまで当てられるんですか?」
「かけらさんは、わたしの占いがそんなに信じられませんか?
例えば、セツナ王子の頭の上に皿が落ちてくるとか」
コウヤさんがにっこりと笑って上の方を指すと、急に白い皿が飛んできた。
それを見たセツナは素早く横に避ける。
皿は地面に落ちて、パリンッと大きな音を立てて割れた。
「危なかったぜ……」
見上げたると、家の二階の窓が開いていた。
そして、夫婦喧嘩をする声が聞こえる。
恐らく、激しい喧嘩をしていて、どちらかが外に皿を投げ捨てたのだろう。
「夫婦喧嘩をするなら、せめて窓を閉めて欲しいぜ……」
「僕はそのくらいで信じないね。
占いは、必ず当たるものじゃない。
未来は自分の行動によって決まるのだから……。
誰かが僕の未来を予想できるわけないよ」
「否定されるのは悲しいですね。
……レト王子のマントのボタンが取れるというのに」
コウヤさんが言ってからすぐにレトのマントのボタンがブチッと取れる。
そのボタンは地面に落ちて転がり、虚しく倒れる。
「ああっ! 僕のマントが……!
占いが当たるなんて嘘だよね……」
「そういえば、コウヤ王子の噂を聞いたことがあったな……。
戦場では予想をして動くのが上手くて、攻撃がなかなか当たらないってな」
「褒めていただけて光栄です」
さっき感じたオーラは、コウヤさんが予言をできるからなんだろうか。
まだ疑問が残るけど、不思議な力を持っていることが分かった。
「かけらさんは、三つの国に行かれたそうですね。
この国で最後ですか……。
不利なので、一番最初に来て欲しかったですよ」
「そんなことはないです。
どの順番で行っても、私の目的は変わらないんですから。
あと、王子であるコウヤさんに話したいことが――」
「大事な話ですよね。
きちんとした場所で話をしましょうか。
わたしの住んでいる城に行きましょう」
コウヤさんについて行き、ルーンデゼルト城に向かう。
近くにオアシスがあって、大きな月もよく見える。
神秘的で美しい景色が見えるから、パワースポットになってもおかしくない場所だった。
城の中に入ってから広い部屋に案内された。
その部屋の真ん中には、大きな大理石のテーブルがあった。
ざっと見て、二十人くらいの席がある。
「皆さま。どうぞ、お座りください」
私の隣にシエルさんが座り、レトとセツナは対面の席に腰を下ろした。
そして、コウヤさんが真ん中の席に座ってから話の続きをする。
「さて、かけらさんのお話を聞きましょうか」
「私は、この世界の平和にするために旅をしてきました。
王子たちの協力により、グリーンホライズンとクレヴェン、スノーアッシュは和平を結ぶことを約束してくれています。
残っているのは、ルーンデゼルトのみ。
無理なお願いだと思いますけど、四つの国の人たちが幸せになれるように和平を結んで欲しいんです。
コウヤさんはどうお考えですか?」
「どうと言われましても……。
まだ王ではないので、今ここで期待させるようなことは言えません」
「そうですよね……。困らせてしまってすみません。
もうすぐ戦争を止められるかもしれないと思うと、つい焦ってしまって……」
前にいた世界では大人しくて消極的だと言われていた。
でも、味方になってくれた王子たちのおかげで、率先して話すことができるようになった。
前よりも自信を持ってるようになった気がする。
コウヤさんは私を見て微笑み、少し考えるような素振りを見せてから口を開く。
「ルーンデゼルトはスノーアッシュの支配下に置かれていますから、賛成するしかないのでしょう。
この件は、我が国の王にすぐに伝えておきます」
「本当ですか!
レト、セツナ! やっとここまでこれたんだね」
上手くいきそうで嬉しくて、対面の席に座っているふたりを見る。
しかし、セツナは腕を組んで真剣な顔をしていた。
「あっさりしてるな。
なぜ、スノーアッシュに従うことを決めたんだ?」
「この世界で一番文明が発達している国に頼った方が楽だからです。
支援物資を送ってもらえたら、食料が尽きることはありませんからね。
それに、戦争が終われば戦い以外のことを考える余裕ができます。
砂漠で暮らしていくのは、とても大変なんです。
頭を抱える問題がたくさんあるんですよ」
「つまり、終戦して四つの国が手を取り合い、平和を築いていくってことですよね……?」
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