「まだはっきりと決まったわけではないですが、かけらさんの言ったとおりになるでしょう」
やっと、私と王子たちの願いが叶う時がきた。
レトとセツナと目を合わせてみると、口角を上げて喜んでいるみたいだった。
「ついに僕たちの目的が達成されるんだね」
長年争っていた四つの国を平和にすること。
この世界にとっては歴史を変えるほど大きな出来事だ。
皆と笑い合って心から喜びたいのに、寂しい気持ちのほうが勝ってしまう。
「これで私の旅は……終わりなのかな……」
「なに悲しい顔をしてるんだよ。
まだ正式に話し合ってないんだから、やることがいっぱいあるぞ。なぁ、レト」
「そうだね。かけらの言うとおり、僕らの旅は終わるけど」
短い間だったけど、楽しい旅だった。
何が起こるか分からなくて不安になることもあったけど、仲間がいたおかげで乗り越えられた。
レト、セツナ、トオル、シエルさん……。
素敵な王子様たちのおかげで私は成長できた。
旅が終わっても皆と一緒にいたいけど難しいだろう。それぞれ役割がある。
頭で分かっていても、胸がいっぱいになって目に涙が浮かんでくる。
皆に泣きそうな顔を見せないために、リュックからハンカチを取り出して涙を拭く。
「かけら様、そんなに泣いて大丈夫〜?」
鼻をすすっていると、メイド服を着た薄緑色の髪の大人の女性が近づいてきた。
ほうきと塵取りを持っているから城の掃除をしているのだろうか。
「上着のフードに砂が入っているじゃない。
泣きながら落とすのは大変よね。
だから、あたしがやるわ。そのまま動かないでいて」
「えっ!? いつの間に砂だらけに……。
教えてくれてありがとうございます。
あと、お城の床を汚してしまってすみません」
「いえいえ、気にしないで」
メイド服を着た女性にフードをバサバサと振られている間、正面を向いてじっとしていた。
「……これでオッケー!
いっぱい砂が入っていて大変だったわよね。可哀想に〜」
「はあ……」
社交的な人だな……。
「初対面から馴れ馴れしくするのはよくないですよ。
大切なお客様ですから、敬語を使ってください」
「いいじゃん。同性で同じ歳くらいなんだから。
まったく。コウヤ様ったら、細かいところ気にしすぎ」
コウヤさんは困った顔をして、ふぅっと小さな溜め息を吐いた。
そして、私の方を向いて頭を下げる。
「失礼なことをしてすみません。
彼女は、わたしの臣下のリウです。
綺麗好きなので、気になったのでしょう。
かけらさんは何も気にしないでくださいね」
「はい……。リウさんには申し訳ないですけど、今は大事な話に集中しますね」
「そうしてください。……さて、話の続きです。
和平の話をするために、四つの国の王が集まる機会を作った方がよさそうですね。
王の説得は王子であるわたしたちがするとして。
日時と場所は――」
話に集中すると言ったけど、足元が気になる。
なぜなら、リウさんが私のすぐ側で床を拭いているからだ。
念入りに掃除をしているみたいでなかなか終わらない。
気にしない、気にしない……。
大事なことを聞き逃さないように、集中してコウヤさんの話を聞こう。
背筋を伸ばして、気を引き締める。
すると、隣に座っていたシエルさんが肩を寄せてきて、私だけに何かを伝えたそうな素振りをする。
「おい、かけら」
「なんですか?」
「さっきの女が、かけらのリュックからダイヤモンドを取って逃げたぞ」
周囲を見ると、いつの間にかリウさんがいなくなっている。
私がリウさんから目を離していたのはたった数秒。
こんなに短い時間でダイヤモンドを奪えるはずがない。
嘘だといいなと思いながら、床に置いていたリュックを開けて確かめる。
すると、入れたはずのダイヤモンドがなかった。
「ない……! どうしよう……。
見ていたなら早く教えてくださいよ」
「今の俺の役割は、かけらを見守ることだけだからな」
「うっ……。そうでしたよね。
今から探してきます」
「ああ。遠くに逃げられると厄介だから急いだ方がいい」
勢いよく席から立つと、シエルさん以外の三人の王子が一斉に私を見る。
「どうしたんだい?
シエルとこそこそ話していたみたいだけど……」
「なっ、なんでもない。
急に落とし物をしたことに気づいたの。だから、ちょっと探してくるね。
レトとセツナは、コウヤさんと話を進めていて」
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